学校管理職としての課題と対応
川 崎 知 己
1 新学習指導要領(平成 29 年 3 月公示)の理念を実現するために必要な一方策としての カリキュラム・マネジメント
カリキュラム・マネジメントという文言が文部科学省の文書に最初に登場したのは,中 央教育審議会答申(2003)であった。この中で「校長や教員等が学習指導要領や教育課程 についての理解を深め,教育課程の開発や経営(カリキュラム・マネジメント)に関する 能力を養うことが極めて重要である」と述べられている。次に,この文言が挙げられてい るのは,中央教育審議会答申(2008)である。ここでは,学習指導要領(平成 20 年告示)の 改訂において,「ゆとり」か「詰め込み」かの二元論をどう乗り越えるかが最大のテーマで あった。その結果,高等学校の指導内容になっていた「二次方程式の解の公式」や「遺伝の 規則性」などを中学校に戻し,教科の内容の体系性を回復した。また,同時に,各教科等で
「言語活動」に取り組み,発達の段階に応じて思考力等を一歩一歩着実に育成する体系をつ くっていく方向性が打ち出された。その際,各教科等の内容項目と,言語活動を通じて資 質・能力を育むこととの間を,これまで以上に意識的に関連づけることが重要な課題とな り,同答申では,教員が児童生徒と向きあう時間の確保などの条件整備の文脈で,カリキュ ラム・マネジメントという文言を挙げ,次のように述べている。
「各学校においては,このような諸条件を適切に活用して,教育課程や指導方法等を不断 に見直すことにより効果的な教育活動を充実させるといったカリキュラム・マネジメント を確立することが求められる」
これについて,文部科学省初等中等教育局教育課程課長合田(2015)は,まず教職員定 数の改善の重要性が指摘されているが,教員定数を増やすだけではなく,効果的・効率的 な指導のために,教育課程における PDCA サイクルの確立が必要で,そのための位置付け としてのカリキュラム・マネジメントであったと述べている。
新学習指導要領(平成 29 年 3 月公示)において,教え方や学び方の質をどう転換するか が問われる中,基本的な理念の一つに学習意欲の向上・学習習慣の確立が明確に示された。
国立教育政策研究所及びPISA調査などの国際的な学力等調査結果を踏まえ,日本の児 童生徒について,思考力・判断力・表現力を問う読解力・記述式問題に課題があることと ともに,その背景として家庭での学習時間,学習意欲,学習習慣に課題があることが考察 されてきた。このような課題に関して,①家庭学習も含めた学習習慣の確立,②児童生徒 がつまずきやすい学習内容,基礎的・基本的な内容の確実な定着,③児童生徒の意欲を喚 起する学習活動の展開,④学習意欲・学習習慣を含めた,学力に課題を抱える児童生徒へ
〔研究ノート〕
のきめ細かな指導,などが今後の学校教育における重要な課題として,下記のように明文 化されている。
主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならな い。その際,生徒の発達の段階を考慮して,生徒の言語活動を充実するとともに,家庭 との連携を図りながら,生徒の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。
(第 1 章 総則 第 1 教育課程編成の一般方針 1)
各教科等の指導に当たっては,体験的な学習や基礎的・基本的な知識及び技能を活用し た問題解決的な学習を重視するとともに,生徒の興味・関心を生かし,自主的,自発的 な学習が促されるよう工夫すること。
(第 1 章 総則 第 4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項2(2))
学校教育の目的や目標を達成するために,教育の内容を児童生徒の心身の発達に応じ,
授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画である教育課程について,各 学校は,学習指導要領等に基づき,児童生徒の姿や地域の実情等を踏まえて,どのような 編成・実施・評価をしていくかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が,学習指導 要領改訂にむけた中央教育審議会教育課程企画特別部会の論点整理において求められた。
本論点整理において,児童生徒にどういった力が身に付いたかという学習の成果を的確 に捉え,教員が指導の改善を図るとともに,児童生徒一人一人が,前の学びからどのよう に成長しているか,より深い学びに向かっているかどうかを捉えていくことや児童生徒自 身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには,学習評 価の在り方が極めて重要であり,教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性を持った形で 改善を進めることが求められると述べられている。そして,学習評価については,児童生 徒の学びの評価に留まらず,「カリキュラム・マネジメント」の中で,学習・指導方法や教 育課程の評価と結び付け,児童生徒の学びに関わる学習評価の改善を,教育課程や学習・
指導方法の改善に発展・展開させ,授業改善及び組織運営の改善に向けた学校教育全体の サイクルに位置付けていくことが必要であると述べ,カリキュラム・マネジメントの重要 性を強調している。特に,今回の改訂が目指す理念を実現するためには,教育課程全体を 通した取組を通じて,教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくことや,学校全 体としての取組を通じて,教科等や学年を越えた組織運営の改善を行っていくことが求め られている。このことから,各学校が編成する教育課程を核に,どのように教育活動や組 織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのかが重要な鍵となると述べ,これま で,教育課程の在り方を不断に見直すという側面から重視されてきたが,「社会に開かれた 教育課程」の実現を通じて児童生徒に必要な資質・能力を育成するという新しい学習指導 要領等の理念を踏まえたときには,以下の三つの側面からカリキュラム・マネジメントを 捉えられることが重要であると論じている。
① 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え,学校の教育目標を踏まえた教科横断的な 視点で,その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
② 教育内容の質の向上に向けて,子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種 データ等に基づき,教育課程を編成し,実施し,評価して改善を図る一連の PDCA サ
イクルを確立すること。
③ 教育内容と,教育活動に必要な人的・物的資源等を,地域等の外部の資源も含めて 活用しながら効果的に組み合わせること。
本論点整理において「カリキュラム・マネジメント」の確立の重要性を指摘されるまで もなく,学校経営を担う校長としては,カリキュラム・マネジメントは本来行わなければ ならないものである。
なぜならば,学校教育を実際に担っているのは,学校,教職員であることから,学習指導 要領がどう変わろうと日々の授業が変わらなければ,それぞれの時代の各学習指導要領が 目指す理念の実現は困難だからである。このことについて,田村(2011)は「ひとたび教室 に入れば教師の裁量が大きい。だからこそ学校では,一人ひとりの教師が,学校としての 目標やカリキュラムを十分に理解し納得することが必要である。その上で,主体的自律的 に取り組むようにマネジメントしなければならない」と述べている。
しかしながら,例えば,総合的な学習の時間が創設され 15 年あまりが経過するが,取り 組みにおける学校間・教員間の格差が大きい実態は否定できない事実であろう。
2 カリキュラム・マネジメントの意味
中央教育審議会教育課程部会教育課程企画特別部会(2015)は,カリキュラム・マネジ メントの重要性について,平成 29 年 3 月告示の改正学習指導要領が目指す理念を実現する ためには,教育課程全体を通した取組を通じて,教科横断的な視点から教育活動の改善を 行っていくことや,学校全体としての取組を通じて,教科等や学年を越えた組織運営の改 善を行っていくことが求められており,各学校が設定する教育目標を実現するために,各 学校が編成する教育課程を核に,その編成の在り方や,実施・評価,改善の在り方が重要 な鍵となると述べ,「カリキュラム・マネジメント」の確立の意義を論じている。
中留・曽我(2015)は,「カリキュラム・マネジメントとは,学校の裁量権の拡大を前提 として『学校の教育目標を実現するために,教育活動(カリキュラム)と条件整備活動(マ ネジメント)との対応関係を,組織体制と組織文化を媒介として,PDS(PDCA)サイクル によって,組織的,戦略的に動態化させる営み』のことである。」としている。このことを 換言するならば,カリキュラム・マネジメントとは,学校の教育目標の実現に向けて,児 童生徒や地域の実態を踏まえ,教育課程の編成・実施・評価・改善といった一連のサイク ルを計画的・組織的に推進していくことであり,また,そのための条件づくり・整備を意 味するとも言える。つまり,学校経営の営みにおいてまさに中枢ともいえる部分に位置付 くものである。
教育目標を設定し,その目標の達成のために教育課程を編成し,その実施,組織運営に 必要な,経営の三要素「人,物,金」等をどのように整備するか,また,学校組織として,学 校組織の一員である個々の教職員が,このようなものの見方や考え方,課題意識について,
どれほど当事者意識をもって共有することができるか。この点にカリキュラム・マネジメ ントの成否の基盤があると考える。