4. 本件震災・事故の前後での産地・銘柄別の米の卸取引価格を用いた実証分析 1 問題の背景と使用する試料の準備
4.2 新たな対策手法を用いた処置効果評価
以下では処置群と最適合成対照群の単純なDIDから推計された偏差のある処置効果と、
3.3 での実施手順に従い新たな対策手法によって SUTVA の問題に起因した偏差を補正し た偏差補正済処置効果の結果について、これらを比較しながら説明する。
説明を簡素化し処置群の産地・銘柄の間での比較を容易にするため、これらの処置効果 は処置前の結果指標の平均で除した卸取引価格の指数として表示し、結果を説明する。
図には本件震災・事故後の全期間での結果を示すが、推計された結果は膨大である。こ のため、表には上記2つの処置効果の差が最も大きくなり、また欠測の影響が少ない2014 年度産米を取上げることとし、2014 年 9 月から 2015 年 8 月*133 についての結果を示す。
なおこれらの結果*134 においては、3.1.4.5 で説明した αi(t+u)が正確に 1 である場合に該 当する事例は見られなかった。
4.2.1 処置群1:福島県浜通産コシヒカリ
4.2.1.1 福島県浜通産コシヒカリでの処置効果の推計結果
福島県浜通産コシヒカリは、「処置群1: 本件震災と事故の両方の影響を全期間で受けて いた産地・銘柄」に分類され、処置群 1 から 3 の中で最も長期に亘り本件震災・事故の影響 を受けていたと考えられる。
福島県浜通産コシヒカリの卸取引価格は、本件震災・事故直後の 2011 年度から 2013年 度に掛けて大半の月で米の卸取引価格の試料が欠測となっており、この期間での状況は正 確には解らないことに注意する必要がある。
(1)処置効果の推移
図 4.3 に示すとおり、福島県浜通産コシヒカリの偏差のある処置効果と偏差補正済処置 効果はいずれも 2014 年度に大きく負の値となった後、2015 年度から 2017年度に掛けて 回復し、2017年度以降はほぼ0と見なせる状況となっている。
つまり本件震災・事故の米の卸取引価格への影響は、SUTVA の問題を考慮したとしても 2017年度頃には収束していたと推定される。
また偏差のある処置効果と偏差補正済処置効果は 2014 年度に最も大きく乖離している が、乖離は徐々に小さくなり2016年度以降は両者はほぼ一致して推移している。
(2) 2014年度産米での比較
処置効果が最も大きな負の値となった 2014 年度産米(2014 年 9月から 2015年 8 月迄) については、表4.5に示すとおり偏差のある処置効果が15%前後の下落であるのに対し、
偏差補正済処置効果は最大で 30 %前後の下落を示している。この結果は 2.3.2.3の図 2.4 に示す正の二次的影響による処置効果の過小評価の状況に相当する。
2014 年度産米では福島県浜通産コシヒカリに対する合成対照群の合成材料であった産 地・銘柄の卸取引価格が、風評被害などの処置の二次的影響により符号が同じ負の影響を 受けていたため、15から 20%に達する大きな偏差が生じていたものと考えられる。
[図4.3 福島県浜通産コシヒカリでの処置効果の推移]
(図注) 2011年度から2013年度については大半の月で試料が欠測しており、図では0.000と表示している。
[表4.5 福島県浜通産コシヒカリでの処置効果の比較 (2014年度産米)]
処置効果 偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果 偏差##
月次 処置効果 p値# 有意性 処置効果 p値# 有意性 95%信頼区間
a b 下限 上限 b - a
2014年 9月 (欠測) (欠測)
---10月 (欠測) (欠測)
---11月 -0.164 0.000 *** -0.320 0.000 *** -0.319 -0.320 -0.156
12月 (欠測) (欠測)
---2015年 1月 -0.131 0.000 *** -0.289 0.000 *** -0.288 -0.290 -0.158
2月 -0.185 0.000 *** -0.333 0.000 *** -0.332 -0.333 -0.148
3月 -0.152 0.000 *** -0.318 0.000 *** -0.317 -0.319 -0.166
4月 -0.143 0.000 *** -0.307 0.000 *** -0.306 -0.308 -0.163
5月 -0.111 0.000 *** -0.287 0.000 *** -0.286 -0.288 -0.175
6月 -0.131 0.000 *** -0.298 0.000 *** -0.297 -0.299 -0.167
7月 -0.125 0.000 *** -0.298 0.000 *** -0.297 -0.299 -0.173
8月 (欠測) (欠測)
---(表注) #処置効果のp値と有意性は、処置前での標準偏差0.025を用いて検定していることに注意。
有意性欄の" *** "は危険率1%で有意を示す。
##偏差が正の場合は過大評価、偏差が負の場合は過小評価を示す。本文2.3.2.3を参照ありたい。
4.2.2 処置群2:福島県中通産コシヒカリ・福島県会津産コシヒカリ
4.2.2.1 福島県中通産コシヒカリでの処置効果の推計結果
福島県中通産コシヒカリは、「処置群2: 本件震災と事故の両方の影響を一部の期間で受
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
本件震災・事故後の時点 (年度・月次) -0 .400
-0 .350 -0 .300 -0 .250 -0 .200 -0 .150 -0 .100 -0 .050 0.0 00 0.0 50 0.1 00 0.1 50 0.2 00
処置効果 ( 結果指標の処置前平均に対する指数)
偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果
けていた産地・銘柄」に分類される。しかし下記のとおりその処置効果の評価結果は、4.2.1.1 で見た処置群1に属する浜通産コシヒカリと殆ど同じである。
(1)処置効果の推移
図 4.4 に示すとおり、福島県中通産コシヒカリの偏差のある処置効果と偏差補正済処置 効果はいずれも 2011 年度から 2013年度に負の値となり、2014 年度に更に大きな負の値 となった後、2015 年度から 2016 年度に掛けて回復し、2017 年度以降はほぼ 0 と見なせ る状況となっている。
この推移は 4.2.1.1 で説明した浜通産コシヒカリの推移とほぼ同じである。中通産コシ ヒカリについても本件震災・事故の影響は、SUTVA の問題を考慮しても 2017 年度頃に収 束していたと推定される。
2011 年度から 2012 年度では、偏差のある処置効果では 10%に達する有意な負の値が 見られるが、偏差補正済処置効果では一部の月次のみが有意な負の値となっている。この
結果は、2.3.2.3の図 2.5に示す負の二次的影響による処置効果の過大評価の状況に相当す
る。
反対に 2014 年度では、浜通産コシヒカリと同様に偏差のある処置効果よりも偏差補正 済処置効果の方が大きな負の値を示している。この結果は 2.3.2.3 の図 2.4 に示す正の二 次的影響による処置効果の過小評価の状況に相当する。
2016 年度中盤以降については、偏差のある処置効果と偏差補正済処置効果はほぼ一致 して推移し、いずれも徐々に0に収束している。
[図4.4 福島県中通産コシヒカリでの処置効果の推移]
(図注) 2011年度については一部の月で試料が欠測しており、図では0.000と表示している。
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
本件震災・事故後の時点 (年度・月次) -0 .400
-0 .350 -0 .300 -0 .250 -0 .200 -0 .150 -0 .100 -0 .050 0.0 00 0.0 50 0.1 00 0.1 50 0.2 00
処置効果 ( 結果指標の処置前平均に対する指数)
偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果
[表4.6 福島県中通産コシヒカリでの処置効果の比較 (2014年度産米)]
処置効果 偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果 偏差##
月次 処置効果 p値# 有意性 処置効果 p値# 有意性 95%信頼区間
a b 下限 上限 b - a
2014年 9月 (欠測) (欠測)
---10月 -0.164 0.000 *** -0.290 0.000 *** -0.289 -0.290 -0.125
11月 -0.153 0.000 *** -0.288 0.000 *** -0.287 -0.289 -0.134
12月 -0.147 0.000 *** -0.282 0.000 *** -0.281 -0.283 -0.135
2015年 1月 -0.155 0.000 *** -0.283 0.000 *** -0.282 -0.283 -0.128
2月 -0.153 0.000 *** -0.291 0.000 *** -0.290 -0.292 -0.137
3月 -0.145 0.000 *** -0.287 0.000 *** -0.286 -0.288 -0.143
4月 -0.153 0.000 *** -0.292 0.000 *** -0.291 -0.293 -0.139
5月 -0.128 0.000 *** -0.266 0.000 *** -0.265 -0.267 -0.139
6月 -0.139 0.000 *** -0.286 0.000 *** -0.285 -0.287 -0.147
7月 -0.153 0.000 *** -0.300 0.000 *** -0.299 -0.300 -0.147
8月 -0.154 0.000 *** -0.308 0.000 *** -0.307 -0.309 -0.153
(表注) #処置効果のp値と有意性は、処置前での標準偏差0.033を用いて検定していることに注意。
有意性欄の" *** "は危険率1%で有意を示す。
##偏差が正の場合は過大評価、偏差が負の場合は過小評価を示す。本文2.3.2.3を参照ありたい。
(2) 2014年度産米での比較
福島県中通産コシヒカリの 2014 年度産米(2014 年 9 月から 2015 年 8月迄)の卸取引価 格については、表 4.6 に示すとおり偏差のある処置効果が 15 %前後の下落であるのに対 し、偏差補正済処置効果は 30 %前後の下落を示している。この状況は浜通産コシヒカリ とほぼ同様である。
4.2.2.2 福島県会津産コシヒカリでの処置効果の推計結果
福島県会津産コシヒカリは、「処置群2: 本件震災と事故の両方の影響を一部の期間で受 けていた産地・銘柄」に分類される。しかし下記のとおりその処置効果の評価結果は処置群 1に属する浜通産コシヒカリや、同じ処置群 2 に属する中通産コシヒカリのいずれとも異 なっている。
(1)処置効果の推移
図 4.5 に示すとおり、福島県会津産コシヒカリの偏差のある処置効果と偏差補正済処置 効果はいずれも 2011 年度から 2013年度迄は大部分の期間で有意でなく、2014 年度から 2016 年度に掛けて 5 から 10 %程度の有意な下落が間欠的に見られた後、2017 年度以降 は再び有意でない状況となっている。
この推移は1)2014年度から2015年度に掛けての大きな下落が見られないこと、2)偏差 のある処置効果と偏差補正済処置効果がほぼ一致して推移し殆ど偏差が見られないこと、
3)2013 年度から2016 年度に掛けて偏差のある処置効果と偏差補正済処置効果が間欠的に
大きく変動して推移していることなどの点で 4.2.1.1や 4.2.2.1 で説明した他の福島県産の コシヒカリの推移と異なっている。
(2) 2014年度産米での比較
福島県会津産コシヒカリの 2014 年度産米(2014 年 9 月から 2015 年 8月迄)の卸取引価 格については、表 4.7 に示すとおり 2014 年度の大部分で処置効果が有意でない結果とな っている。
[図4.5 福島県会津産コシヒカリでの処置効果の推移]
(図注) 2011年度と2012年度については一部の月で試料が欠測しており、図では0.000と表示している。
[表4.7 福島県会津産コシヒカリでの処置効果の比較 (2014年度産米)]
処置効果 偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果 偏差##
月次 処置効果 p値# 有意性 処置効果 p値# 有意性 95%信頼区間
a b 下限 上限 b - a
2014年 9月 -0.004 0.395 -0.004 0.395 ---
---10月 -0.028 0.280 -0.028 0.280 ---
---11月 -0.034 0.238 -0.034 0.238 ---
---12月 -0.018 0.348 -0.018 0.348 ---
---2015年 1月 -0.016 0.358 -0.016 0.358 ---
---2月 -0.014 0.365 -0.014 0.365 ---
---3月 -0.026 0.296 -0.026 0.296 ---
---4月 -0.095 0.008 *** -0.129 0.000 *** -0.126 -1.210 -0.034
5月 -0.085 0.017 ** -0.085 0.016 ** ---
---6月 -0.017 0.351 -0.017 0.351 ---
---7月 -0.120 0.001 *** -0.102 0.005 *** -0.100 -0.103 +0.019
8月 -0.099 0.006 *** -0.039 0.205 -0.037 -0.040 +0.060
(表注) #処置効果のp値と有意性は、処置前での標準偏差0.033を用いて検定していることに注意。
有意性欄の" *** "は危険率1%で有意、" ** "は危険率5%で有意を示す。
##偏差が正の場合は過大評価、偏差が負の場合は過小評価を示す。本文2.3.2.3を参照ありたい。
福島県浜通産・中通産コシヒカリでは 2014 年度産米では偏差のある処置効果と偏差補 正済処置効果の間で 10 から 20 %の正の二次的影響による偏差が連続的に見られたのに 対し、会津産コシヒカリでは偏差は 3 から 6 %前後と小さくかつ正の二次的影響と負の 二次的影響による偏差の両方が見られ、偏差の傾向が明確でない結果となっている。
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
本件震災・事故後の時点 (年度・月次) -0 .400
-0 .350 -0 .300 -0 .250 -0 .200 -0 .150 -0 .100 -0 .050 0.0 00 0.0 50 0.1 00 0.1 50 0.2 00
処置効果 ( 結果指標の処置前平均に対する指数)
偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果
4.2.3 処置群3:宮城県産ササニシキ
4.2.3.1 宮城県産ササニシキでの処置効果の推計結果
宮城県産ササニシキは、「処置群3: 本件震災の影響を受けていた産地・銘柄」に分類され る。下記のとおりその処置効果の評価結果は他の産地・銘柄のいずれとも異なっている。
(1)処置効果の推移
図 4.6 に示すとおり、宮城県産ササニシキの偏差のある処置効果と偏差補正済処置効果 はいずれも 2011年度以降の大部分の期間で有意でなく、わずかに 2014年度から2015年 度に2ヶ月だけ有意な下落が見られる状況となっている。
2011 年度においては本件震災の影響があったと考えられるが、卸取引価格については 明確な処置効果が観察されない結果となっている。
この推移は 4.2.1.1 から 4.2.2.2 で説明した福島県各産地・銘柄のいずれとも異なってい る。
(2) 2014年度産米での比較
宮城県産ササニシキの 2014 年度産米(2014 年 9 月から 2015年 8 月迄)の卸取引価格に ついては、表4.8に示すとおり大部分で処置効果が有意でない結果となっている。
処置効果が有意である 2015 年 8 月と 2016 年 1 月については、偏差のある処置効果が 10%程度の下落であるのに対し、偏差補正済処置効果は 25 %程度の下落となっている。
時期的に考えて、これらの処置効果は本件震災の影響ではなく、福島県浜通産コシヒカリ や中通産コシヒカリからの風評被害など処置群間での二次的影響の可能性が考えられる。
これらの月については、2.3.2.3の図 2.4に示す正の二次的影響による処置効果の過小評 価の状況に相当すると考えられる。
[図4.6 宮城県産ササニシキでの処置効果の推移]
(図注) 2011年度から2013年度については一部の月で試料が欠測しており、図では0.000と表示している。
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
本件震災・事故後の時点 (年度・月次) -0 .400
-0 .350 -0 .300 -0 .250 -0 .200 -0 .150 -0 .100 -0 .050 0.0 00 0.0 50 0.1 00 0.1 50 0.2 00
処置効果 ( 結果指標の処置前平均に対する指数)
偏差のある処置効果 偏差補正済処置効果