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は じ め に

1.本章の目標と構成

前章では、わが国銀行業界における バブル崩壊 後、

生き残りのための経営統合等再編および破綻 を挟ん で、一定の落着きを取り戻すまでの変動を振返った。検 討は 都市銀行 、 信託銀行 、 長期信用銀行 と 地 方銀行 の間での 地位 の変動が中心となり、 信用金 庫 等、 地方銀行 よりもシェアが小さい業態との比較 作業は手薄になったものの、 地方銀行 は不良債権処理 による体力の消耗(実態的バランスシートの悪化)が、

相対的に小さく、その結果 地位 (市場占有率)は相対 的に上がったという結論を得た。

しかしこの結論は、あくまでも銀行業界の慣行という べき 数値 を採用した場合のものであり、さらに重要 なことは、2009年3月時点およびその周辺の時期を静態 的に捉えた結論、ということである。そして今この時期 の静態的状態をいい表せば、 金融業界はリーマン・

ショックの余波に威嚇されながら、世界的に、また、わ が国において特に強い閉塞的状態に陥っている。加えて、

欧米・日本を中心に先進諸国は実体経済の失速長期化懸 念も深まっている。世界の金融業界は、日々世界中で発 生するスポット的な変化に右往左往しているだけであ る。しかしわが国金融業界は、実体経済の活性化ととも に金融業界のグローバル化、そして国内金融システムの ポジティブな改革の必要性を実感しているところであ り、いずれそう遠くない時期に本格的改革は動き出さな ければならないであろう。 ということになる。

このような静態的状態を捉えた結論であるから、上記 した 地方銀行 についての相対的評価は異論ありうべ しといわざるをえない。

2010年5月には 2010年3月期の各銀行の決算発表が 相次いで実施されたが、同時に各メディアやエコノミス トは銀行業界の懸念材料について、具体的な数字を取上 げて語気を強めている。懸念材料の中心は、かつての不 良債権問題や小規模金融機関の個別的経営不安や再編案 の問題から、止まる兆しが見えない預貸率の低下と、そ れに伴う貸出競争の激化と利鞘の低下に移行した。

2010年5月 11日付、日本経済新聞の記事の一部を抜 き出してみよう。見出しは 地域金融、府県超え激戦 、 小見出しには 貸し出し大手銀とも競う ・ 金利最低水 準に ・ 地元の優良企業争奪 が並んでいる。同記事は 次のように書いている。 日銀による2月の地銀( 地方 銀行 を指している)の貸出約定金利は 1.79%で過去最 低を更新した。第2地方銀行は 2.089%、信金は 2.423%

で3業態とも過去最低となった。大手銀の2月の同金利

は、3業態をさらに下回る 1.461%だった。……中略……

預金で調達したお金のうち貸し出しに回す割合を示す預 貸率は、地銀の場合、約 75%と過去最低に近い水準で推 移している。地域金融機関が低い金利で収益を伸ばすに は、貸し出しの量をさらに増やす必要がある。このため、

営業が手薄だった他の地域に進出する動きが目立ってき た。……以下省略 である。

これらマスコミの記事は全国版に限らず、2010年2月 10日の道新では見出しを 道内金融機関 利ざや最低 1.68% 09年9月中間期 融資競争が激化 とし、98年 度以降のピークは 02年度の 2.03%だったが、09年9月 中間期にはさらに低下し、ここから経費や信用コストを 差し引くと、わずか 0.04%となり ほとんどもうけのな い水準 …… 以下省略 と報じている。

上記の状態はもちろん長期にわたる景気低迷と、それ に伴う資金需要の減退があってのことだが、サブプライ ムローン問題以降は中国他一部新興国を除いて、各国と も脱出の方策が見つけ出せず、彷徨する世界同時不況が その根底にあるので、前提としてはこれをファンダメン タルとして認めざるをえない。

つい今しがた 地位 の検討を終えた〝グループ 地 方銀行 "も、早速新しいビジネスモデルを検討し、その 改革に入っていかなければならないのだが、わが国中を 覆う実体経済と金融業界の閉塞感は、予想を越える重さ をともなっており、この改革を後押ししスピードアップ させる圧力とはならない。加えて 地方銀行 は、この 作業を〝グループ 地方銀行 "として行うことができな い時代に入ったことを明確に認識しなければならない。

もはやそれぞれの銀行は、個別に自行を冷静に分析し、

新しいビジネスモデルを構築することが求められている のである。

しかしそれぞれの 地方銀行 は、バブル期に背負い 込んでしまった不良債権処理によって、内部留保の点に おいてハンディキャップを負っている銀行もあれば、経 営の基盤となる地域(都道府県)の経済情勢や金融機関 の伝統的勢力図において恵まれない銀行もある。

新しいビジネスモデルを検討する作業は、おそらく大 方の銀行において苦痛を伴ったものとなり、中には閉塞 感をいっそう強くする銀行も出てくるであろう。また、

いまだに護送船団方式による救済行政に期待感を持っ て、自らの思考を中断している銀行もあるかもしれない。

しかし新しい苦難は現実のものであり、しっかりと検討 する作業を避けることはできない。

このような観点から、本章において、個別の 地方銀 行 64行の現状把握に挑戦しようとするものである。と はいえ冷静に考えれば、 個別 地方銀行 64行の現状把 握への挑戦 は、把握すべき現状が、あまりに広範囲に

渡ることを思い知らされる。まして、財務計数に表れな い各行の内部事情や過去の経緯にまで思いを巡らせなけ ればならないことを考えると、挑戦の厳しさを痛感せざ るをえない。

しかし、この困難に対しては、中心的な切り口をでき るだけ絞ることとし、その結果から見えてくる検証不足 を補っていく作業を通じて、それまでには想定しなかっ た目新しい個々の 地方銀行 の特性や問題を発見する ことや、 地方銀行 全般に関する新しい論点につながる ことを期待し、プラス思考で作業に入ることとしたい。

筆者が考える切り口の絞込みは、1つに 地方銀行 にとって当面最大の課題と考える 貸出金増率 、2つ 目に バブル期の不良債権処理にともなうダメージの実 態 、3つ目に 2つ目の問題を引きずりながら、体力回 復のための数年を経た今日(2009年3月期)の中核的自 己資本比率=Tier1比率 の3つとした。

貸出金増率 と バブル期の不良債権処理にともなう ダメージ と 中核的自己資本比率=Tier1比率 の関係 を考えると、 貸出金増率 とその他2つの間で相関関係 が薄いという問題があって、この3っを切り口とするこ とが、個別 地方銀行 の現状把握を実行する上で最良 の選択だと確信しているわけではない。

しかし、 貸出金増率 を第1に取上げる理由は、銀行 業界全体が、今も圧倒的に大きな収益源である貸出金残 高への下方圧力に苦戦し、これに抗すべく、銀行それぞ れの知恵とエネルギーを注入している現実を 最大の課 題 と評価したことに加え、筆者はもう1つの観点から も 貸出金増率 を 最重要の課題 と位置付けたもの である。

もう1つの観点とは、 個別の銀行が、自行の現在と将 来を見据えて経営指針を検討するとき、検討に必要な各 種 要因 は、時間差を伴いながらもいずれ結果として 貸出金増率 という数字に最も顕著に反映することにな ろう というものである。

具体的に例を挙げれば、 自行の経営環境は、貸出金増 率を高めることができる環境にはないから、フィービジ ネスの方に力を入れる とか、 統合を含めた連携を考慮 できる(または、考慮すべき)他行や他業態があるので、

アライアンスを強化、向上させ、貸出金の増加にも力を 入れる とか、 自行の地盤地域は商圏として期待できな いから、地盤地域にこだわらないで、営業エリアを拡大 し、営業拠点も増強して、貸出金を含めた業容拡大を期 す というように、自行の経営環境(多様な 他律的要 因 )に加えて、自行の実行力(例えば、ガバナンス力、

行員の気力やパワー、伝統的気質、事業拡大のための自 己資本力などの 自律的要因 )といった 要因 を切り 出したうえで、複合的に検討し、かつ総合的に判断する こととなるが、それら 要因 の検討と判断のプロセス には、ほとんどの場合、キーワードとして 貸出金増率 が登場するのである。

そして、検討の判断が正しかったか否かの結果にも、

上記と同様 貸出金増率 が反映する。

とはいうものの、出来上がった 貸出金増率 の結果 から 要因 を切り出す作業は、 要因 同士が、結果に 対して増幅の方向にも縮小の方向にも作用し合うなど、

輻輳しているため、容易に完遂できるものではないが、

要因の輻輳 を解きほぐして 要因 を切り出す努力を 惜しんではならないと考える。

以上が、 貸出金増率 を第1とした理由である。

加えて、その他2つを選んだ理由は、1つ目に、 地方 銀行 が、わが国経済の成熟から低迷への移行と大企業 を中心に進んだ直接金融へのシフトに悩んでいる途上 で、突然の地殻変動 バブル期 を迎え、 地方銀行 各 行の経営を取り巻く事情が大きく変化し、格差が急速に 拡大した点を重視したことであり、2つ目は、本章まで の〝バブル考"の延長線上で、 地方銀行 各行の不良債 権処理が終結に達したといわれる現時点での〝温存され た体力"を見る尺度として、Tier1比率の状態を重視した ものである。

64行について、上記した切り口を中心としながら、作 業の過程で突き当たる個別行の課題や疑問点を、できる だけ広く取上げることとしたい。

しかし内容としては、筆者の力不足の他に、個別行の

〝外には見えない事情" の存在も原因となって、 個別行 についての精査が不十分である。という批判を受ける可 能性は容易に想像できる。筆者としては、このリスクを できるだけ小さくすべく、個別行を個別に取上げること をできるだけ避けて、グループ化しながら論述するよう 努めるとともに、著書やジャーナルを引用するに際して も、できる限りの選択と検証に努めることとする。

尚、64行の検討に際して、例えば貸出金の増加状況で 地方銀行 各行の業容拡大、または縮小のメルクマールと捉え

ることもできる。

Tier1比率

⑴ リスク・アセット(貸出金等の資産)に対するTier1(自己 資本の基本的項目である資本金・資本剰余金・利益剰余金等)

の割合を示したもので銀行の本質的な健全性を示す。(A・B 銀行を中核とするフィナンシャルグループのミニディスク ロージャー誌平成 22年3月期版、p5他を参照した。)

⑵ 尚、2010.9.14日経記事より バーゼル銀行監督委員会は、

国際的に活動する大手銀行に対する新たな自己資本規制案を 発表した。……中略……普通株と内部留保で構成する 狭義の 中核的自己資本 の比率は実質7%で決着。2013年から6年 間かけて基準を満たせばよいことにした。等、自己資本比率 規制は段階的ではあるが、さらに厳しさを増す方向にある。こ の新規制は バーゼル3 とも呼ばれる。

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