第 5 章 ISI に依存する奥行き知覚のモデル
5.2 数値シミュレーションによる知覚交替の再現
数値シミュレーションによる知覚交替の再現 71
以上より,不定領域𝛣における最終的なエネルギー関数を次式で記述する
(図5.2c).
𝐹[𝜙] = 𝛽1𝐸1[𝜙] + 𝛽2𝐸2[𝜙] + 𝛽3𝐸3[𝜙] (5.7)
𝛽1, 𝛽2, 𝛽3は正のスカラーとする.これらのパラメータは,𝛽1, 𝛽2は奥行き補 完による面のフラット化の効果,𝛽3は前刺激による順応効果の強さを示す.な お,前刺激が凸面の場合は,式(5.7)の右辺第3項の+𝐸3を−𝐸3に書き換えれば良 い.以上より,前刺激に対する順応効果を奥行き補完モデル(式(3.16))に導入 できた.
𝜙に時間変数𝑡を導入し,𝐹[𝜙]に最急降下法を適用すると,次式の𝐹[𝜙]を減少 させるダイナミクスが得られる.
𝜏𝜕𝜙(𝑥, 𝑦, 𝑡)
𝜕𝑡 = 𝛽1⋅ Δ𝜙 + 𝛽2⋅ 2𝜙(1 − 𝜙2) + 𝛽3⋅3
4(1 − 𝜙2). (5.8)
上式(5.8)はISI中の内部状態𝜙(𝑥, 𝑦, 𝑡)の遷移を表すダイナミクスであった.し
たがって,最終的に式(5.3)と上式(5.8)を式(5.2)に代入すれば,ISI中の脳内にお ける奥行き面の表象𝑍の遷移を記述するダイナミクスとなり,所望のモデルが 得られたといえる.
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𝛽2(𝑡) = 𝛽3(𝑡) = 𝑒− 20𝑡 (5.9) その他のパラメータは𝜏 = 10, 𝛽1 = 0.0001とした.時間変数𝑡はISIの長さを表 し,時刻𝑡 = 0はISIの開始時刻である.領域𝛣は|𝑥| < 1かつ|𝑦| < 1の矩形領域と した.ISI中の領域𝛣の境界条件である𝑍(𝑥, 𝑦) = 0は,𝜙(𝑥, 𝑦) = 0に相当する.
式(5.2)を矩形領域の内部に適応して得られた結果のうち,𝑡 =
0, 100, 300, 500, 700, 900の𝑍を図5.3に示す.結果をまとめると,以下の通りで ある.
ISIが𝑡 = 0ms,もしくは 𝑡 = 100msのとき,𝑍は前刺激と類似した凹形状 である.
t = 100 msにおける𝑍を後刺激の不定領域における初期値として,奥行き
補完モデル(式(3.16))を適用すると凹面に収束する(図5.4).
この結果はISIが短い場合,前刺激と後刺激の間に正の知覚相関があるこ とと矛盾しない.
ISIが𝑡 = 300 ms のとき,𝑍は転じて凸形状となる.すなわち,前刺激(凹
面)と反対の形状である.
先と同様に,𝑡 = 300msにおける𝑍を後刺激の不定領域における初期値と して奥行き補完モデル(式(3.16))を適用すると,t = 100msの場合とは 逆に,凸面が補完される(図5.4).
図5.2c.に示されるように,凹状態と凸状態の間には0ではないエネルギ
ー障壁が存在するが,𝜙 = −1 から 𝜙 = +1への遷移が起こる.
より長いISIでは𝑍 = 0となるため,前刺激と後刺激の形状間に相関はない.
長時間のISIの場合は前刺激の効果が失われ,時間経過と共に面の状態は
𝜙 = 0,すなわち平坦な面(𝑍 = 0)に収束していく(例えば図5.4の𝑡 =
900).
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続いて第 4 章のOdds比と上記のモデル(式(5.8))から得られた結果を,前 刺激と後刺激の面の形状の相関を算出し比較する.この相関は次式𝐶𝜙(𝑡)で算出 する.
𝐶𝜙(𝑡) = ∬ 𝜙prior(𝑥, 𝑦) ⋅ 𝜙(𝑥, 𝑦, 𝑡)
𝛣
𝑑𝑥𝑑𝑦. (5.10)
𝜙prior(𝑥, 𝑦)は前刺激の状態𝜙 (= −1もしくは+1)を表し,𝜙(𝑥, 𝑦, 𝑡)は式(5.8)で 得られ,各ISIの長さ𝑡msにおいて補完された内部状態を表す.
前刺激を凹面(𝜙prior(𝑥, 𝑦) = −1)とし,ISI = 0msから1000msまで5ms毎 に𝐶𝜙(𝑡)を算出した.結果を図5.3gに記す.定性的に図4.5bやdのOdds Ratio と相同であることがわかる.
以上より,前刺激への順応効果をエネルギー関数へ導入すれば,第 4 章の実 験結果を再現できるモデルを導出できることがわかった.したがって,ISIの長 さに依存して現れる正負の知覚相関は,前刺激への順応効果によって説明でき る.なお,C-boundary conditionに対しても定量的に上記と同様の結果が得られ る.
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