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教育系短期大学の学習成果

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 33-68)

3.3 学習成果の分析

3.3.1 教育系短期大学の学習成果

短期大学生調査2009年は学生の価値観やキャンパスの満足度等もたずねている。本章

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では能力や知識の変化をたずねた項目について学習成果を分析する。表3-1は,入学時点と 比べた変化について,「大きく増えた」「増えた」と答えた学生の割合を示す。たとえば「専 門分野や学科の知識」は,全体で81%の教育系短大生が「大きく増えた」「増えた」と答え た。年次別には,1年次生76%,2年次生87%であり,1年次生から2年次生にかけて11 ポイント増えている。すべての項目について1年次生よりも2年次生の方が増加しており,

学年があがると能力や知識が増えたと答えた学生も増えている。短期大学教育が順調に進 展しているとみていいだろう。項目別には,「専門分野や学科の知識」の他,「他の人と協力 して物事を遂行する能力」(66%)や「人間関係を構築する能力」(66%),「一般的な教養」(64%) の値が大きい。学生の自己評価から,教育系短期大学では人間関係を重視した教育が実施さ れており,専門分野や学科の知識,そして一般的な教養が密接に関連して学ばれていること が推測される。一方,「グローバルな問題の理解」(21%),「異文化の人々と協力する能力」

(20%),「外国語の運用能力」(17%),そして「数理的な能力」(11%)の値は少ない。1年次 生から2年次生にかけての増加も少なく,グローバルな能力や知識,外国語の運用能力や数 理的な能力の育成には苦戦している。

1年次 2年次 年次差 専門分野や学科の知識 81% 76% 87% 11 他の人と協力して物事を遂行する能力 66% 60% 73% 13 人間関係を構築する能力 66% 60% 71% 11 一般的な教養 64% 60% 67% 7 コミュニケーションの能力 61% 54% 68% 13 卒業するための準備の程度 59% 49% 71% 22 コンピュータの操作能力 49% 46% 53% 7 分析や問題解決能力 49% 42% 57% 15 時間を効果的に利用する能力 49% 45% 53% 7 文章表現の能力 46% 41% 50% 8 批判的に考える能力 42% 39% 46% 7 リーダーシップの能力 39% 33% 45% 12 プレゼンテーションの能力 35% 30% 39% 9 地域社会が直面する問題の理解 34% 26% 43% 16 異文化の人々に関する知識 33% 29% 38% 9 国民が直面する問題の理解 32% 26% 38% 11 グローバルな問題の理解 21% 18% 25% 7 異文化の人々と協力する能力 20% 17% 24% 6 外国語の運用能力 17% 17% 18% 0 数理的な能力 11% 10% 12% 2

教育系短大生

*設問22より。「大きく増えた」「増えた」と答えた学生の割合。変化 は1年次と2年次との差。四捨五入による誤差がある。

表3-1 教育系短期大学の学習成果

―入学時点と比べた能力や知識の変化―

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3.3.2 学習成果の因子分析

表3-2は,学習成果の項目について実施した因子分析の結果である。因子負荷量.400以上

B SE β B SE β

個人属性 性別 . 175 . 081 . 046* . 032 . 070 . 009 中等教育 高校の成績 . 101 . 016 . 131** . 043 . 014 . 056**

志望順位 . 189 . 054 . 075** . 061 . 046 . 024 進学理由:卒業後働きたくなかった -. 036 . 019 -. 041 -. 023 . 016 -. 026

心の支えや励まし . 079 . 024 . 076**

専門的な目標を達成する手助け . 106 . 025 . 099***

他の学生と話をする機会 . 152 . 027 . 145***

学生同士の一体感 . 156 . 026 . 155***

効果的に学習する技能を修得する . 181 . 031 . 134***

時間を効果的に使う . 210 . 029 . 161***

アルバイトなどで授業を欠席した -. 062 . 024 -. 052**

取りたい授業を履修登録できなかった -. 061 . 025 -. 047* 勉強・宿題の時間(一週間) . 024 . 010 . 043*

定数 -. 899 . 193 ** -2. 753 . 195 ***

2

注)* 5%水準で有意,** 1%水準で有意,*** 0.1%水準で有意。変数の説明は本文の注8を参照のこと。

. 028 . 315

自由度調整済みR2 . 026 . 311

学びの実態 学生関与 主体的関与

I-Oモデル I-E-Oモデル

教職員支援 入学前情報

進学行動

学習環境 学友関係

表3-2 学習成果の因子分析

基礎的 専門知

現代的 教養知

古典的 教養知 1 他の人と協力して物事を遂行する能力 . 7 4 5 .176 -.019 2 人間関係を構築する能力 . 7 3 6 .139 .038 3 コミュニケーションの能力 . 6 9 5 .180 .210 4 卒業するための準備の程度 . 5 5 9 .160 .154 5 専門分野や学科の知識 . 5 4 9 .173 -.011 6 分析や問題解決能力 . 5 4 3 .196 .293 7 リーダーシップの能力 . 5 4 2 .155 .225 8 一般的な教養 . 5 2 2 .162 .263 9 時間を効果的に利用する能力 . 5 2 0 .152 .271 10 文章表現の能力 . 4 7 9 .282 .362 11 プレゼンテーションの能力 . 4 7 3 .211 .386 12 国民が直面する問題の理解 .247 . 8 1 8 .138 13 地域社会が直面する問題の理解 .293 . 7 4 7 .152 14 グローバルな問題の理解 .175 . 6 8 3 .347 15 異文化の人々と協力する能力 .223 . 4 0 3 .351 16 外国語の運用能力 .139 .209 . 6 6 7 17 数理的な能力 .089 .144 . 6 5 6   因子負荷量.400以上で項目を取捨選択、累積寄与率=48%(問22より)。

注)因子抽出法: 主因子法、回転法: Kaiser の正規化を伴うバリマックス法、

表3-3 学習成果:基礎的専門知の規定要因分析

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で項目を取捨選択して17項目から3因子を求めた。山田礼子(2009)は,大学生調査2005年 (JCSS2005)についてほぼ同じ項目に因子分析を実施して,古典的教養知,現代的教養知,現 代的実践知,異文化リテラシーの4因子を抽出している。研究の継続性を考慮して,本章で は3つの因子を基礎的専門知・現代的教養知・古典的教養知と名付けた。基礎的専門知には,

山田の分析における古典的教養知の多くの項目と現代的実践的の項目が融合している。教 育系短期大学では人間関係を重視した教育のもとで専門分野や学科の知識,そして一般的 な教養が学ばれている。

3.3.3 学習成果の規定要因分析

表3-3は,学習成果に教育系短期大学の教育で最も中心的な基礎的専門知を目的変数とし て選び,その因子得点について重回帰分析で規定要因を分析した結果である7。説明変数は ステップワイズ法を用いて選択した。ただし,研究上の関心のため説明変数に変数を3つ加 えた。それは,「性別」,「進学理由:卒業後働きたくなかった」,「勉強・宿題の時間」であ る。「性別」はジェンダーの効果をみるためであり,「進学理由:卒業後働きたくなかった」

は不本意就学の効果をみるためである。トロウは,高等教育のユニバーサル段階において,

学生の「不本意就学」がROTC(予備将校訓練コース)や大学教育課程などへ不満を生じさ せると指摘している8。また,「勉強・宿題の時間」は,日本の学生は授業外での勉強や宿 題の時間が少ないという問題が指摘されているからである9。I-OモデルとI-E-Oモデルに ついて次の結果をえた。

①I-Oモデル 入学前情報(性別・高校の成績・志望順位・進学理由:卒業後働きたくなか った)で学習成果を説明するモデルである。決定係数 R2よりモデルは 3%程度しか説明し ないが統計的に有意である。説明変数は,性別が女性であることはわずかに積極的効果があ り(.046),高校の成績(.131)と志望順位(.075)には積極的な効果がある。一方,進学理由が「高 校卒業後働きたくなかった」と不本意就学を疑われる学生には,消極的な効果がみられるが 統計的に有意ではない(-.041)。I-O モデルは,高校での成績がよく,第一志望の大学に入学 した学生ほど学習成果があがることを示す。

②I-E-O モデル 入学前情報と入学後のキャンパスでの学習環境で学習成果を説明するモ デルである。入学後の学習環境の要因は,重回帰分析のステップワイズ法の過程で制度的特 性は除外され,学生関与の「教職員支援」「学友関係」「学生の主体的関与」「学びの実態」

が残された10。決定係数R2よりモデルは31%程度を説明しており統計的に有意である。ま

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た,表中に示していないが,多重共線性の問題はないことをVIF(Variance Inflation Factor)の 値で点検している。さて,入学前情報では高校の成績が統計的に有意であったが,標準回帰 係数βから,高校の成績の効果は入学後の学習環境の効果と比べると小さい。また,性別と 志望順位については統計的に有意ではなくなった。入学後の学習環境の要因についてみる と,第一に,教職員支援の「心の支えや励まし」(.076)や「専門的な目標を達成する手助け」

(.099)には積極的な効果がある。第二に,学友関係の「他の学生と話しをする機会」(.145)と

「学生同士の一体感」(.155),学生の主体的関与の「効果的に学習する技能を習得する」(.134) と「時間を効果的に使う」(.161)にも積極的な効果があり,その効果は教職員支援よりも大 きい。学友関係と学生の主体的関与が学習成果を大きく規定している。最後に,学びの実態 の「アルバイトなどで授業を欠席した」(-.052)と「取りたい授業を履修登録できなかった」

(-.047)は消極的な効果があり,「勉強・学習の時間」(0.43)は積極的効果がある。学びの実態

は,統計的に有意であるが,その規定力は小さい。なお,多くの要因が影響する教育分野に おいて自由度調整済み決定係数R2の値.311 は高く,I-E-O モデルの説明力は大きいといえ る。

以上を要約するなら,入学前情報に関して,高校の成績は短期大学の学習成果に積極的な 効果を及ぼすが,それは限定的である。学習成果に対しては,入学後の学生関与の効果が大 きい。なかでも学生の主体的関与と学友関係が短期大学の学習成果をもっとも大きく規定 する要因であり,教職員支援の効果は2つの要因に比べると小さい。アルバイトなどで授業 を欠席したり,履修登録ができなかったりすることは学業の妨げであり,勉強や宿題に時間 をとることは学業を促すが,学びの実態の効果は小さい。

3.3.4 包括的I-E-Oモデルの構造方程式モデリング

構造方程式モデリングにより包括的I-E-Oモデルを分析する。構造方程式モデリングはデ ータとの適合を吟味することでモデルの改善が容易であり,複数の母集団について因果関 係の比較が容易である。ただし,本章ではモデルとデータとの適合よりも研究上の関心で枠 組に導入した「進学理由:卒業後働きたくなかった」と「勉強・宿題の時間」の効果の分析 を優先する。図3-2のモデルの適合についての指標から,χ乗値とp値は統計的に有意で あるためモデルは棄却される。しかし,標本数(2,426人)が大きく,近似誤差平均平方根

(RMSEA)は0.079と0.08未満だから,このモデルは採用できる。ただし,比較適合指標 (CFI)

は0.873と0.9未満だからモデルの変数選択には改善の余地がある。本研究では第4章と第

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図3-2 構造方程式モデリングによる包括的I-E-Oモデルの分析

(図中の数値は標準化推定値,斜体の数値は重相関係数の平方。誤差項は省略。)

表3-4 学習成果を規定する要因の効果

高校成績 卒業後働き

たくない 教職員支援 学友関係 主体的関与 授業を欠席 授業を履修

できない 勉強時間 総合効果 0.097 -0.044 0.299 0.396 0.338 -0.052 -0.039 0.032 直接効果 0.054 -0.034 0.128 0.304 0.325 -0.052 -0.039 0.032

間接効果 0.043 -0.01 0.171 0.092 0.013 0 0 0

注)学習成果は古典的教養知について。標準化係数の値について。四捨五入による誤差がある。

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5章で評価指標を作成してモデルを改善する。なお,基礎的専門知は因子分析により抽出し た尺度であるが,本章では観測変数として扱う。図中の楕円で示した「主体的関与」「学友 関係」「教職員支援」は潜在変数であり,観測変数は四角で囲んでいる。また,表3-4には 学習成果を規定する要因の効果を総合効果,直接効果,間接効果に分解して示した。総合効 果は,直接効果と間接効果の和である。直接効果は,ある変数が別の変数に直接的に影響を 及ぼすことであり,間接効果は,ある変数が他の変数を経由して影響を及ぼすことである。

直接効果と間接効果に分解すれば,どちらの効果が大きいかがわかる。

第一に学習成果への直接効果は,「主体的関与」(.33)と「学友関係」(.30)が大きい。次い で「教職員支援」(.13)の効果が大きいが,その効果の大きさは「主体的関与」や「学友関係」

の半分に満たない。また,「働きたくなかった」(-.03)と「勉強時間」(.032)の効果が小さく,

実際,この2つの効果は統計的に有意でない。そして,「アルバイトなどで授業を欠席した」

(-.05)と「取りたい授業を履修登録できなかった」(-.04)は,小さいが,消極的な効果である。

第二に変数間の効果に目を向けると「教職員支援」から「主体的関与」への効果が0.51と 大きい。そこで,基礎的専門知への総合効果を算出すると,表に示すように,「教職員支援」

(.299) ,「学友関係」(.396) ,「主体的関与」(.338)である。総合効果では「学友関係」の方が

「主体的関与」より大きい。また,「教職員支援」の効果もかなり大きい。したがって間接 効果も含めて総合効果でみると,短期大学では学生の主体的な関与も重要であるが,学友と の関係や教職員からの支援が勝るとも劣らず学習成果には重要である。一方,「高校の成績」

の総合効果は0.097であり,入学前の効果は大きくない。

第三に,研究上の関心で加えた2つの変数,「進学理由:卒業後働きたくなかった」と「勉 強・宿題の時間」をみるなら,先述のようにどちらも学習成果への直接効果は統計的に有意 でない。ただし,「主体的関与」から「勉強・宿題の時間」への効果は0.16と大きい。主体 的に学ぶ学生はより長い時間,勉強や宿題をしている。

なお,モデルの適合性について,「主体的関与」を設けない I-E-Oモデルの適合性との比 較等は,今後の課題とする。

3.4 結び

本章では,日本の学修行動調査のための包括的な概念枠組,包括的I-E-Oモデルを提示し た。それは,アスティンのI-E-Oモデルをもとにして,テレンジーニらが学生エンゲージメ

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