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今日の教育現場において,「造形遊び」はもちろん,図画工作科の状況を楽観的に語 ることはできない。平成 10 年改訂学習指導要領から図画工作科・美術科の年間授業時 数が大幅に削減され,毎週 2 時間が確保されるのは小学校低学年のみとなった。時数 が減り,日常業務の多忙化も進む中,図画工作科においては,題材研究を進めたり事 後研究を行ったりするなどの時間を十分にもてずにいる。図画工作科がそのような状 況にある以上,「造形遊び」は十分に取り組まれているとは考えにくい。本章では,教 育現場における図画工作科と「造形遊び」の現状と課題について論じる。

第1節 「図工・美術実態把握アンケート」から見る教育現場の現状

本節では,平成 25 年に実施した「図工・美術実態把握アンケート」1)の結果をもと に,教育現場で図画工作科および「造形遊び」がどのようにとらえられ実践されてい るのかを示す。「図工・美術実態把握アンケート」は兵庫県宍粟市小中学校教師 181 名(配布 333 名,回収 181 名,回収率 54%),市外小中学校教師 22 名(65 名に配布,回 収 22 名,回収率 34%)と兵庫教育大学学生・大学院生(以下「学生」と示す)49 名(80 名に配布,回収 49 名,回収率 61%)を対象に,平成 25 年 10 月から平成 26 年 2 月に 行った。「図工・美術実態把握アンケート」の内容は表 1 のようになっている。

88 表1 実態把握アンケート内容

1 図工・美術の捉え方

1-(1) 普段から力を入れている順番 1-(2) 力を入れている内容

1-(3) 力を入れているテーマ 1-(4) 授業を行う場所 1-(5) 教科書の使用頻度 1-(6) 年間時数

1-(7) 指導する上で,

心掛けている事 2 実践内容

2-(1) 課題・単元設定 2-(2) 印象的な実践内容 2-(2)-①造形遊び ②絵(小学校)

③立体

④工作 ⑤鑑賞(小学校)

⑥その他の実践(小学校)

⑦絵(中学校) ⑧彫刻

⑨デザイン

⑩工芸 ⑪鑑賞(中学校)

⑫その他の実践(中学校) 2-(3) 事前の取り組み

3 基礎・基本 4 研修方法

5 参観日の図工・美術授業 6 評価

6-(1) 困った事や不安な事 6-(2) 評定―数値化への手順 6-(3) 評定の意義

7 展覧会・コンクールについて

7-(1) 参加する展覧会・コンクールの 決定方法

7-(2) 参加している展覧会・コンクール 7-(3) 展覧会・コンクールの

メリット・デメリット 8 造形遊び

8-(1) 「造形遊び」という言葉 8-(2) 「造形遊び」の授業時数 8-(3) 「造形遊び」を大学で学んだか 9 水彩画(透明水彩・不透明水彩)の指導

9-(1) 水彩画指導

9-(1)-①水彩画道具の設置場所 ②パレットの 使い方③筆洗の使い方 ④混色 ⑤片付け 方

9-(2) 絵の具のチューブから出したそのまま の色を使わせない指導

9-(3) マニュアル的指導

10 指導するポイントと話題になる内容 10-(1) 指導するポイント

10-(2) 話題になる内容 11 行事と図工・美術

11-(1) 行事の準備物や発表物を 製作する時数

11-(2) 行事の準備物や発表物を製作する事 12 図工・美術に感じる負担と不安

12-(1) 負担に感じる内容 12-(2) 不安に思っている事 12-(3) その他

89 第1項 図画工作科の現状

平成 20 年学習指導要領は平成 10 年で大幅に削減された年間授業時数をそのまま引き継 いでいる。低学年以外は毎週 2 時間の図画工作科の授業数が確保できないままである。教 育現場では学習指導要領の示す時数で,指導内容はバランスよく扱われているのだろうか。

(ア) 教育現場における図画工作科の重要度

図工をどのような教科ととらえ指導するか,教師ごとに考え方は様々である。教育現場 において,図工は他教科他領域と比較して,どの程度重要視されているのであろうか。教 科同士を比較すること自体に違和感をもつという意見もあるだろうが,参観日に掲示する 絵を描かせたり,発表会の準備物を作業的に作らせたり,コンクールに提出する絵を描か せるなど,子どもが描きたいという思いから始める活動が少なかったことや,教師の都合 で子どもを動かしているという現状からは,図工が軽視されていると言わざるを得ない。

磯部洋司,浅野皆子は次のように述べる2)

図画工作・美術科の軽視は(さらに無用視も),今に始まったことではない。明治期に 図画教育が始まって以来美術教育の歴史は,一面では軽視・無用視の歴史と言い換えて よいのではないかと思えるほど,これを嘆く声が頻出する。

両氏が指摘するように,図工を軽視する教育現場の雰囲気は全国的な傾向としてこれま でも指摘されてきた。

表 2 図工・美術教育の重要度(小学校教師)

主たる理由 かなり

重要

7 7 %

・全教科一番。・芸術文化は人を育てる。・専門外なのでもったときは 2 番。

どちらか というと重要

11 11%

・時数が少ない。・テストが難しい。・図,体,道,同じ。・気分転換でき楽しい。

中間くらい 54 52%

・授業数が少ないので。・学級経営に結びつけにくい。・5 教科がまず大切。・

最低限必要な知識の次に感性。・勉強が苦手な児童でも力を発揮できる。・自 己表現活動として大切。・国算社理体の次。・敬遠した結果。・つける力が把握 できていない。・楽しめながら個性も出せる。・毎日ある科目が優先。・生きて いく上で重要ではない。・指導方法が分からない。・教材研究ができない。・

自分自身が苦手。・主要教科(回答のまま)が受験で必要性が高い。

それほど 重要ではない

24 23%

・入試もあり5教科を優先。・指導方法が分からない。・どんな作品でも OK?・

生きていく上で必要でない。・自分が得意でない。・時数も少なく遅れてもま き返しがきく。・テストや入試優先。・生きていくのに困らない。・現実的に中 学校ではまず 5 教科,道体,部活の次。・明確な理由はない。・授業時数関係。

重要で はない

7 7 %

・4 教科中心。・毎日は授業がない。・差はないが,時数と影響力から。・芸術 も素晴らしいが,順位は後回し。

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図工・美術実態把握アンケートでは,全教科・領域の中で図画工作科にどの程度力を入 れて取り組んでいるかをたずね,他教科・他領域との比較から教育現場における図工の重 要度を明らかにした。普段から準備や片づけの時間,教材研究など,自身が優先している 順位づけを行ってもらい,その理由についても記述してもらった。普段から力を入れてい る順番をたずねると,図画工作科は主要な国語,算数,理科,社会の後に来ることが多い ことがこのアンケートでわかっている。表 1 は,回答をまとめたものである。

表 2 では,国語,算数(数学),理科,社会,英語など,受験に関わる教科を基礎的な学力 として重要視し,図工などの教科はその後に回すという回答が多い。また,「ねらいがはっ きりしない」「指導法がわからない」「自分が苦手」の回答からは,教師が図工・美術教育 に対して不安や疑問を抱いていることがわかる。

「実態把握アンケート」は,兵庫教育大学大学生・大学院生(以下:「学生」と記述)も 対象に実施している。学生は,数年前まで小・中学生であったことから,その回答には,

いわば子どもの視点の延長としての意味があると考えた。アンケート全般を通した記述内 容を見ると,小中学生の時には言えなかった率直な思いも多く見られた。学生にも,図工・

美術教育の重要度についてたずねた。回答をまとめたものが表 3 である。

表 3 どのくらい重要な教科か(学生) 重要度 回答数 代表的な理由

かなり重要 11 ・楽しい・感性を養う・他教科とは別物・国算も芸術に帰着する・

心の豊かさ・自己表現・発想力・楽しく人生を過ごす力・言語外 の活動である

どちらかと いうと重要

13 ・自己表現・感性・想像力(創造力)・表現力・学習意欲がわく・

楽しい・他者との関わり方が変化・ものの見方が広がる

・過程や結果で得られるものがある・発想・集中力 中間くらい 18 ・つくり出す力・デザイン力・賞狙いでは学びはない

・下手でも困る事はない・感性が磨かれる・人による

・今のままで十分・どの教科も重要・比較できない それほど

重要ではない

5 ・大人になり下手でも味があると思えた

・個性に価値を感じ指導の必要を感じない

・専門的でないと必要とされない教科。

全く重要では ない

1 ・図音は選択制にすべき。

表 3 を見ると,「かなり重要」「どちらかというと重要」「中間くらい」の項目に回答が多 く集まった。記述内容も「自由」「感性」「自分なりの表現」といった文言が使われ,図工・

美術教育に対して肯定的なものが多い。「それほど重要ではない」からは,「受験に必要な い」など,教師の「主要教科(回答のまま)を優先」と重なる回答も見られる。また,「下手

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でも困らない」からは,図画工作科に対する価値・評価の低さが確認できる。学生の回答 は,教師よりも重要度が若干高くなっていることから,学生の方が,図工を重要視してい る傾向が見られ,自由記述の欄では図工の意義をより豊かに語っている。

(イ) 年間授業時数

表 4 は,平成元年と平成 10 年の図工科の年間授業時数を比較したものである。現行の平 成 20 年・29 年改訂学習指導要領では,授業時数の変動はなかった。

年間授業時数の削減が行われるまで毎週 2 時間は図工科の授業が行えていたが,現在は 毎週 2 時間を確保できるのは低学年のみとなっている。図工科の年間授業時数は,他教科・

領域と比較しても少なく,大幅な削減によりさらに取り組みの幅が制限される厳しい状況 にあると言える。

表 4 図工科年間授業時数の比較表(平成元年と平成 10 年)

第 1 学年 第 2 学年 第 3 学年 第 4 学年 第 5 学年 第 6 学年 平成元年 68(週 1.94) 70(週 2) 70(週 2) 70(週 2) 70(週 2) 70(週 2) 平成 10 年 68(週 1.94) 70(週 2) 60(週 1.71) 60(週 1.71) 50(週 1.43) 50(週 1.43)

では,この状況を教育現場はどのようにとらえているのか。アンケートの調査結果から 考えたい。表 5 は「図工の年間時数についての考えを教えてください。」の問について小学 校教師の回答をまとめたものである。

表 5 図工の年間授業時数について(小学校教師)

多い 少し多い ちょうど良い 少し少ない 少ない 0 2(2%) 83(72%) 27(23%) 4(3%)

毎週 2 時間を確保できない現状であっても,「ちょうど良い」の回答が 72%を占めてい る。平成 10 年小学校学習指導要領は平成 14 年実施であるから,今回のアンケートを行っ た平成 25 年まで 11 年間,年間時数が削減されてから経過していることになる。宍粟市で は,教師の年代別の人数を考えると長年勤めている教師の方が多いため,11 年以上指導に あたっている教師の数も多い。その教師は毎週 2 時間,図工科の時間が確保できた頃を経 験されているはずであるが,時数が削減された現状であっても,「ちょうど良い」に多くの 回答が集まっている。

結果は 7 割強の小学校教師が毎週 2 時間を確保できない現状を「ちょうど良い」ととら えているとわかった。年間授業時数の多くが,学校行事や展覧会・コンクールに関わる活

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