第1節 教育実験の目的
本教育実験の主な目的は本研究の目的❶❸である。
❶国際遠隔協同学習による創造的学習態度の育成の様相を明らかにする。
❸国際遠隔協同学習を恒常的に行うことの有効性を検証する。
本教育実験では,国際遠隔協同授業・ゼミナールにおいて学生同士が直接に交流し,カリ キュラムや教材の研究を行うことで,学生の学力や研究力を向上させることを目指した。この取 り組みは,約 2 年半の間にわたって第Ⅰ期から第Ⅲ期まで行われた。目的❶に対して,それ ぞれの交信授業におけるどの場面において創造的学習態度の育成がみられたのかを確か め,創造的学習態度の育成の様相について明らかにすることを目指した。目的❸に対して は,第Ⅲ期終了後の学生らへのインタビューを中心に,交信授業に対する学習態度や創造的 学習態度に関するアンケートの結果と合わせて総合的に評価し,国際遠隔協同学習を恒常 的に行うことの有効性について検証した。インタビューの対象は,初めて交信授業を参観した 学部生から3期にわたって経験を重ねた大学院生まで経験値は異なる。
第2節 教育実験の実際 5.2.1経緯
表 5-1 のように,第Ⅰ期から第Ⅲ期にかけて行われた国際遠隔協同授業・ゼミナール(以後
ICDL&S と略記)において学生同士が直接に交流し,カリキュラムや教材の研究を行うことで,
学生の学力や研究力を向上させることを目指した。
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表5-1 第Ⅰ期から第Ⅲ期にわたる国際遠隔協同授業・ゼミナールの概要
実施期間 テーマ 接続地点
第Ⅰ期 2010年10月
~2011年2月
「各国の教育システムと数学科の内容・カ リキュラム」
「日時計の教材化」
玉川・京都・ドイツ・
タイの4地点
第Ⅱ期 2011年4月~
2011年7月
「関数教育」
お互いの国の教育内容を知り,それを 比較する
玉川・京都・ドイツ・
タイの4地点
第Ⅲ期 2011年11月
~2012年1月
「幾何教育」
日独の教科書の内容の比較を行い,そ れぞれの国の特徴を明らかにして,教 材研究能力の向上を図る
京都・園田・ドイツ の3地点
5.2.2 機器と環境
日本側は,京都にテレビ会議システムTC-2200HC (NEC製) を設置し,システムセンターと した。この機械は4地点同時接続が可能である。玉川とドイツにはPCS-G50(ソニー製)が常設 されている。また,タイにはView Station(Polycom製)が常設されている。事前に何回も接続テ ストを試みて,接続状況や操作方法を確認し,実行可能であることを確かめた。若干遅延が起 きるが,相互でビデオの視聴も可能である。TV 会議システムの他にパワーポイント等のデータ をシェアできる DropBox を使い,事前に必要なデータを共有した。画面が 4 等分されて各地 の様子が映るため,相手からの発表画面は小さく,また,画質が落ちているので文字は読み 取りにくい。そこで,事前に双方のプレゼンテーションファイルを送信しておき,手元の PC 画 面でも見られるようにした。プロジェクタを利用したが,精細さでは液晶の大型モニタの方が良 いため,両方を併設した。
5.2.3 協同ゼミナールの目標
① お互いの教育システムについて理解する。
② お互いの教育内容を含んだカリキュラムを知る。
③ 交流したことを元に教材化を試みる。
63 5.2.4 参加者
第Ⅰ期: 玉川は,3・4セメスターに数学科指導法Ⅰ・Ⅱを学習した,中学校・高等学校の数 学科教員免許状の取得を目指す工学部3 年生(6 セメスター)5 名で,内 2 名は小学校教員 免許状も取得中である。このゼミナールは数学科指導法Ⅳとして実施された。全員がTV会議 は初めての経験である。英語でのプレゼンテーションも初めて経験する。京都は,大学院教育 学研究科修士課程で数学教育を専攻している1年生4名と1年間ドイツ留学した3年生1名 である。日本人同士のTV 会議の経験は豊富であり,英語でのプレゼンテーションの経験もあ る。ドイツは,グルントシューレ(Grundschule,日本の小学校 1 学年から 4 学年に相当),ハウ プトシューレ(Hauptschule,日本の小学校5 学年から中学校3学年に相当),レアールシュー レ(Realschule,日本の小学校5学年から高等学校1学年に相当)の教員を目指す5~7セメ スター生 11 名である。TV 会議は初めての経験である。タイは,教育学部数学科教員が多数 であった。若い先生が多く,数学科教育法に関心がある先生方である。
第Ⅱ期: 玉川は,3・4セミスターに数学科指導法Ⅰ・Ⅱを受講した,中学校・高等学校の数学 科教員免許状の取得を目指す工学部4年生(7セミスター)6名である。玉川学生は第Ⅰ期 ICDL&Sに続き,2度目の参加となる。ドイツは,ICDL&Sを初めて経験する,基礎学校
(Grundschule,日本の小学校1学年から4学年に相当)と基幹学校(Hauptschule,日本の小学校 5学年から中学校3学年に相当),実科学校(Realschule,日本の小学校5学年から高等学校1学 年に相当)の教員を目指す5~7セミスター生11名程度である。京都は,大学院教育学研究科 修士課程で数学教育を専攻している大学院生および現職教員の6名程度である。日本人同 士のTV会議の経験は豊富であり,英語でのプレゼンテーションの経験もある。
第Ⅲ期: 京都は大学院生(2 名)・学部生(1 名)とカールスルーエ教育大学学生(13 名)によっ て実施された。さらに,園田学園女子大学の小学校教員を目指す3・4 年生10 数名がこのや り取りをTV会議で視聴した。京都の院生1名は,このゼミナールに3 つのセミスターで参加し
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ている。他の院生1名は,実験1の内容を参観している。学部生は,1年間のドイツ留学の経 験を持ち,ドイツ側教員の指導も受けている。
5.2.5 第Ⅰ期から第Ⅲ期における協同ゼミナールの内容
5.2.5.1 第Ⅰ期ICDL&Sの内容と結果
内容: 合計3回の協同ゼミナールが行われた。TV会議システムの使用が初めての地域もあ るため,段階的に接続地点を増やしていった。第 1 回は,日本とドイツの学生は,お互いの国 の教育システムとカリキュラムについて発表した。タイと京都は,それらを視聴した。日本の発 表に関しては,リハーサルを行っていたのでスムーズにいった。また,ドイツからの内容も,図 や写真,ビデオを多用していたので,大まかな内容を理解できたようである。質疑応答では,
ハウリングが起きたり,音声・画像の遅延が長かったりで,英語をうまく聞き取れず,コミュニケ ーションが取りにくかった。音声に関しては,日本側での録画用配線を工夫すること,聞く場合 はマイクミュートを使うことを実施した。さらに,ドイツ側でも機器の配置と音量の調整等を事後 の接続テストで調整して,相当程度に解決できた。第2回は,1回目の続きとして具体的な教 育内容として日時計の数学について発表した。前回と比べて音声は相当に改善されており,
聞きやすくなった。PC 再生による動画がコマ送りになったが,原因がコンピュータにあるのか TV会議システムにあるのか不明はである。この時点で,タイはDropBoxを使っていなかった ために,手元に資料が無く,理解しにくかったと思われる。この後は,データをシェアすることに した。第 3 回は,日本からは授業実践について発表した。ドイツからは赤道型から発展させた 鉛直型日時計についての発表であった。ドイツでは,数日で鉛直型日時計の製作とプレゼン テーションの準備をした。優秀な 2 名が担当したとのことであった。この時期のドイツは,曇天 の日がほとんどで,日光が当たらないので,製作した日時計による時刻確認はできない。実際 に時刻を計り日時計の正確さが確認できると,さらに興味を持つと思われる。日本の授業のビ デオ紹介は,大変興味を持って視聴された。生の授業を視聴することで,授業に対するイメー ジが湧いたようである。ただし今回は,編集作業の時間が短く,音声が日本語のままであった
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ので,十分に日本の様子が伝わらなかったのが残念である。次からは英文のテロップを入れる 等の編集をしたい。
図5-1 第3回の協同ゼミのTV画面(左上京都,左下ドイツ,右上玉川,右下タイ)
図5-2 ドイツの学校システム
図5-3 水平型日時計の時刻線から緯度を推定する作図(中学3年生)
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図5-4 鉛直型日時計の原理の説明(ドイツより)
結果: 意欲,学力,研究力に関して,日本においては,学習指導要領の翻訳でカリキュラム をより理解していた。学生は,数学教育についてさらに継続して研究を深める必要性を感じて おり,協同ゼミは今後の学習意欲の向上に繋がったといえる。また,日時計をテーマにしたが,
日時計の持っている原理の共通性と形態の相違性が,国際交流の中で際立っていた。共通 課題による数学の理解と,各国独自の発展課題への取り組みが図られた。また,数学教育学 の知識が豊富である,京都の院生の教材研究・作成力が,玉川の学部生を上回った。またそ のことが玉川の学生にとって刺激になっており,学ぶ点が多かった。今回行った日本とドイツと の教育システムなどに関する比較調査は,まずは各国の生徒が独自に文献等を利用して行っ たが,さらに協同ゼミで取り上げることで,相手に質問しながら共通点や相違点について理解 を深めることができた。また,実際に相手と顔を合わせて交流できることが理解を深める動機付 けともなった。国際感覚,英語活用力に関しては, TV会議の経験や英語によるプレゼンテー ションの経験がある京都の学生は,普段のゼミのように協同ゼミに違和感なく参加していたこと がインタビューからわかる。このことから,国際協同ゼミの日常化が図れることが示唆された。玉 川の学生は,発表内容をわかりやすく英語に翻訳する段階で,その内容についてさらにしっ かりと理解する機会を持てていた。