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3. 個別政策

3.2 教育・研究関連イニシアティブ

産業競争力の抜本的な向上と、グローバル競争を勝ち抜くために、特にITやナノ テクノロジー、バイオテクノロジーなどの分野で最先端の技術を生み出し続ける研 究開発体制の構築が不可欠という意識を背景に、2006年以降、いくつか重要な教育、

研究支援のイニシアティブが発表された。ドイツでは教育は州政府が担う政策分野 であり、連邦政府は原則として直接的な権限を有していない。また、これまで等質 的に大学のクオリティを高める政策が取られてきたが、2004年ごろから当時の政権 与党SPDを中心に、“エリート大学”創設を巡る議論が熱を帯びてきた33。さらに将 来予想される科学技術人材の不足に対応すべく、教育機関および研究機関の底力強 化のために策定された政策が次の通り。

3.2.1

エクセレンス・イニシアティブ

連邦政府のエクセレンス・イニシアティブ34は、ドイツの大学における研究開発の 取り組みを強化し、国際的に認知度の高い中核的研究機関35を構築することを目的と したものである。エリート大学創設といっても大学を新設するのではなく、既存の 大学の中からトップクラスの大学を公募し、選定された大学に補助金を集中的につ ぎ込むことによって国際的に通用するエリート大学に仕立て上げようというもので

32 出典:BMBF http://www.bmbf.de/pub/u_region_sp06.pdf

33 Weimarer Leitlinien Innovation2004

34 Exzellenzinitiative

35 Exzellenzclustern

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28

ある。対象の高等教育機関は、独立の審査委員会によって決定され、合計

43

億ユー ロが

2017

年までの期間に配分される。なお、助成額の

20

%が間接費として各大学 に一括付与される。本プログラムはドイツ研究振興協会(

DFG

)と学術評議会(

WR

) が中心となり進められ、対象となる高等教育機関は、独立の審査委員会によって決 定された。総額の

75%

を連邦政府が、残りを州政府が負担する。

以下の

3

つを対象としてプロジェクト志向のファンディングを実施する。

Cluster of Excellence

国際的に競争力のある研究を行う中核的研究機関にすべく特定の分野のネッ トワーク化や連携を支援。大学の研究所と主に大学外研究機関が協力する「クラ スター」構築に対する助成プログラム:

420

万 ~

1,880

万ユーロ

/1

件年

Graduate Schools

若手研究者向けの大学院に対する助成。博士課程に在籍する大学院生に良質な 環境を用意し、イノベーションを生む素地を作るために設立される大学院を支援 することを目的にしている。:

120

万 ~

180

万ユーロ

/1

件年

Institutional Strategies

将来構想を持つトップクラス研究を行い国際的に認められることを目指す大 学への助成。ドイツ語では、文字通り「将来構想(

Zukunft Konzept

)」プログ ラムといい、クラスターおよび大学院の両プログラムの助成金を獲得した大学 のうちから選定される:

960

万 ~

1,340

万ユーロ

/1

件年

2006

10

月に発表された第一次選考、

2007

10

月の第二次選考および

2012

11

月に発表された最終の第三次選考の結果、延べクラスター

81

大学、大学院

85

大学、将来構想

20

大学が選定された。既に

2014

年には第一次、第二次選考の助成 期間が終了している。

iFQ36

の中間評価によると、同イニシアティブがドイツの大学 に与えた活力は大きく、中でも博士課程大学院生の支援という側面において複数の 研究所や学部が分野を超えて協力したという実績は大きい。実際にエクセレンス・

イニシアティブに選定された大学は、産業界を始めとした外部資金の獲得額が増え ている。また、大学外研究機関との連携が強化されたということも非常に高く評価 できるとしている。一方で、

5

年という助成期間は実績を評価するには短く、アウト プットの増減についても長期的にモニターしなければならない。ゆえに、現状の制 度のまま継続するのは問題も多いとしている。プログラム期間満了後、このために 雇用した教授や購入した機器の維持管理への財政負担をどうするかという問題も残 る。

36 Institut für Forschungsinformation und Qualitätssicherung http://www.forschungsinfo.de/

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29

3.2.2

研究・イノベーション協定

エクセレンス・イニシアティブに加え、連邦政府と州政府は大学外研究機関の研 究能力強化を目的とした研究イノベーション協定

37

2005

年、合意した。対象とな るのは、フラウンホーファー応用研究促進協会(

FhG

)、ヘルムホルツ協会ドイツ 研究センター(

HGF

)、マックス・プランク学術振興協会(

MPG

)、ライプニッツ 学術連合(

WGL

)およびエクセレンス・イニシアティブの資金配分を統括するドイ ツ研究振興協会(

DFG

)である。

2007

年から

2010

年まで(

PaktI

)では、各機関 に少なくとも年

3%

ずつ運営費交付金を増加、また

2011

年から

2015

年まで (

PaktII

) では年

5%

に増額された。エクセレンス・イニシアティブ同様、ドイツの科学技術拠 点としてのプレゼンスを持続的に強化し、国際的な競争力を引き続き維持するため イノベーションの環境を整備することが明言されている。研究成果の量的質的な増 加の他にも、雇用の確保、若手人材の育成、産学連携の強化、女性登用率の増加な どが目標として掲げられている。年に

1

度、連邦と州の合同組織、合同科学会議

GWK

、議長:連邦教育研究相)への報告書提出が義務付けられ、

GWK

はこの報 告書と各機関の年次報告書および

DFG

のファンディング報告書

38

に基づいて評価報 告書を作成している。同協定は、第三次メルケル政権でも延長が決まり、

2015

年以 降も

PaktIII

として継続される。ただし

2014

年時点では具体的な助成金額や条件の 変更などについては具体的に発表されていない。

3.2.3

高等教育協定

2020

2006

年に、連邦政府および州政府の担当大臣らは、「高等教育協定

202039

」につ いて合意した。このイニシアティブでは、連邦政府による大学の授業への助成を行 うとし、追加支出の

50%

(約

10

億ユーロ)を連邦政府が助成することにより、大学 の定員の増加などが可能となる。

この協定の研究に係わる内容として「間接経費」がある。ドイツ研究振興協会は、

ファンディングを受けている各プロジェクトに経費の

20%

を追加配分し、経費の全 額助成(研究にのみ関連する費用および間接経費)を開始する予定である。この追 加配分は、

2007

年から

2010

年に連邦政府から資金が提供される。

教育に係わる法の改正やエクセレンス・イニシアティブの導入により、総合大学 は設備や研究投資などの自由を与えられ、教授はその業績に合った給与を受けるよ うになった。そのため、大学の質や人気に関する様々なランキングが発表されるよ うになり、競争が促進されている。

37 Pakt für Forschung und Innovation

38 Funding AtlasDFG

39 Hochschulpakt 2020

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