第 5 章 政策提言
第 4 節 政策提言のまとめ
第 2、3 節において、国民の健康増進を目指す新たな2つの政策について論じた。第一 の政策である「特定健康診査の見直しと義務化」は、国民に対して健康増進への取り組み を促すものであり、第二の政策である「都道府県による健康増進の取り組みの効率化」
は、都道府県に対して、地域住民向けの健康増進の取り組みの積極化を促すものである。
これら2つの政策が同時に実施されることで、さらなる健康増進効果が得られると期待さ れる。義務化された健康診断を通して医療機関に足を運び、定期的に自身の健康を見直す 国民が増えることで、健康に関する国全体の意識は高まる。そこで都道府県が掲げる健康 増進目標や市町村による健康増進のための施策を認知する機会が増え、健康維持のための
生活習慣の見直しなどが進むことで、自治体の取り組みによる住民の健康増進への効果が 高まる。健康診断受診の義務化と基準財政需要額の制限は国民の健康増進に対する政策と して相乗効果を発揮する。
おわりに
本稿では、高齢者人口の増加に伴う要介護認定者数の増加がもたらす不健康な期間の推 移および社会保障財政への影響と、現行の健康増進制度の課題、それに対する国民の意識 の低さについて焦点を当て議論を展開した。
そこで本稿では、まず現状の年齢階級別要介護認定率が将来も一定と仮定した場合の健 康寿命及び、高齢者医療費・介護費用の 2030 年までの将来推計を行った。その結果、健 康寿命の安定的な延びは望めず、平均寿命の延びに伴い不健康な期間は広がり、高齢者医 療費・介護費用はともに増加してゆくことが明らかになった。
そこで、要介護認定率が 2014 年から 2030 年までに現状の 85%まで毎年比例的に減少し てゆく場合の政策シミュレーションを行うことで健康増進を図り、要介護認定率を低下さ せることによりもたらされる経済効果について推計した。その結果、要介護認定率の低下 に伴い健康寿命の延伸がもたらされ、不健康な期間の縮小および高齢者医療費・介護費用 の比例的な減少が望めることが明らかとなった。
さらに、特定健康診査受診の無料化と義務化、各都道府県の健康増進の取り組みを強化 することで健康増進のための政策提言を行った。提言した政策は、国民という個人単位と 都道府県という地域単位のそれぞれに対する動機づけを行うことで、両者の行動による相 乗効果を狙っている。健康診査の義務化で掛かる費用は分析の推計結果における削減可能 額から賄える。さらに、国民全員が健診受診をし、健康を維持していれば保険料の減額が 見込まれる。
最後に、本稿では社会保障問題に対する様々な分析や政策提言を行ったが、健康増進は 国民 1 人ひとりの意識次第である。今回提言した政策が実行され、インセンティブの効果 による結果を期待する。
先行研究・参考文献・データ出典
≪主要参考文献≫
橋本他(2012)「健康日本 21(第 2 次)の目標を考慮した健康寿命の将来予測」第 60 巻 日本公衛者誌第 12 号、738-744 貢
遠又他(2014)「健康日本 21(第 2 次)の健康寿命の目標を達成した場合における介護・
医療費の節減額に関する研究」第 61 巻日本公衛誌第 11 号、679-685 貢 近藤克則(2012)「健康格差問題と社会政策」社会政策 4(2)、41-52 貢 森永他(2005)「健康寿命アップ食生活研究班の結果報告」
青森県立保健大学雑誌 6(3)、444-445 貢
≪データ出典≫
厚生労働省『完全生命表』『簡易生命表』
厚生労働省『医療保険に関する基礎資料』(平成 24 年)
厚生労働省『介護保険事業状況報告(9 月分)』(平成 22,24,25,26 年)
厚生労働省『介護給付費実態調査月報(9 月審査分)』(平成 25 年)
厚生労働省『介護給付費実態調査月報(10 月審査分)』(平成 22,24,26 年)
厚生労働省『日本の将来推計人口』の仮定値表「将来生命表」(平成 24 年 1 月推計)
厚生労働省『医療給付実態調査』(平成 25 年)
厚生労働省『国民健康保険実態調査』(平成 25 年)
厚生労働省『後記高齢者医療事業状況報告』(平成 25 年)
厚生労働省『人口動態調査』(平成 22,24 年)
厚生労働省『国民健康・栄養調査』(平成 18-22,24,25 年)
厚生労働省『特定健康診査・特定保健健指導の実施状況』(平成 24,25 年)
厚生労働省『医療保険に関する基礎資料』(平成 24 年)
厚生労働省『国民生活基礎調査』(平成 22 年)
総務省『人口推計(10 月 1 日現在)』(平成 22,24,26 年)
総務省『患者調査』(平成 22 年)
国立社会保障・人口問題研究所 『日本の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計)』仮定値表
「将来生命表(出生中位・死亡中位推計)」