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改革のネクスト・ステップ

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1. 「大綱」路線の問題点

4. 改革のネクスト・ステップ

さて、イメージの先行した前節の議論をいか に確実な改革に翻訳していくか。それが残され た検討課題であり、まさに「政策能力」、つま り政策型思考に立ちつつ制度型思考を凝らす力 が問われることになる。ただし、地方公務員法 は基本的な枠組み法といってよく、各自治体で の条例制定や運用上の工夫によって相当の人事 管理上の実験は可能である15)。しかも2000年以 降は国からの助言も希薄になり、構造改革特区 制度の活用も可能となった。そこで以下、すで に言及したポイントも含まれるが、自治体レベ ルでの人事制度改革の ネクスト・ステップ

(次の一手)を段階的に示してみたい。

まず、改革の起点となるのは政治のリーダー シップ、何よりも首長の指導性である。首長が 職員に何を求めるか、どんな資質・能力・タイ プを要求するか、その言葉とアイデアが改革の 出発点である。2003年に独立行政法人となった 国際協力機構(JICA)の緒方貞子初代理事 長 は 、 就 任 早 々 か ら 「 現 場 主 義 」( f i e l d -oriented  approach)を掲げ、東京の本部から途 上国の現場への職員の大量異動を提案した。そ れと並行して新たな能力評価のシステムも導入 されている。自治体でこれに相当する言葉とし て、「まちに飛び込む職員」、「カウンターを越 える職員」、「協働型職員」などがあろう16)。い ずれにしても、まずは首長が新しい職員イメー

ジを政治的シンボルとして具体的に掲げること が出発点である。

第2に、その自治体でどんな事業を展開する のかという「政策」との関連づけが必要となる。

「制度」改革はそれ自体が自己目的化すると、

抽象的で労多くして成果の見えない退屈な仕事 となる。そこで、少子化対策に本腰を入れる、

都市景観の改善に取り組む、エコ・ミュージア ムを構想する、といった具体的な政策課題との 接点をもたせることによって、人事制度の見直 しははじめて生きた改革となる。ちょうど静止 状態では自転車の変速機を動かせないように、

政策的にダイナミックな状態にない自治体では 人事制度を変えることは不可能であり、無意味 でもある。そうした意味でも、人事制度を担当 する総務部門の職員には、 野戦 を強いられ る現場における政策開発の経験が必要となる。

第3に、このこととも関連するが、計画的な 人材育成と人事制度の改変が重要なポイントに なる。例えば、IT政策の展開にはその領域で の専門家が必要となる。自治基本条例を制定し ようとすれば、法務職員の育成が急務であろう。

逼迫する財政事情の下で保育所の待機児童を減 らそうとするならば、PFIか、公設民営か、

幼保一元化か、といった選択肢について制度と 経理に明るいアイデアマンが中心にいなければ ならない。先手を打って職員の能力開発を進め ていればよいが、手元に政策能力のある職員が いなければ、民間人の中途採用を考えるしかな い。奨励はしないが、国から力と意欲のある職 員を呼ぶことも選択肢の一つであり、他の自治 体との交流人事や派遣研修は組織文化の変容に 役立ちうる。自治体の基本計画は、その意味で 10年先までの事業予定、財政見通しと同時に、

﹁ 公務 員 制 度改 革 と 自治 体 職 員イ メ ー ジの 転 換

﹂ その実行体制としての独自の人材育成プラン、

そして人事制度の改革プランを含んでいなけれ ばならない。

第4に、個々の具体的な人事が改革にとって 重要な意味をもつ。ひと口に中途採用といって も、民間企業で消耗気味の30歳前後の職員を採 用するのと、40代半ばの民間のやり手を幹部に 抜擢するのではインパクトが異なる。人事政策 や制度の重みは、個々の人事で決まるといって もよい。制度自体に何の変更がなくても、一人 の若手職員の抜擢人事が組織に激震を及ぼすこ とは想像に難くない。秩序の混乱といったリス クはありうるが、首長が責任を負うことで、個 別の人事が人事行政の開放化・弾力化・政策志 向化といった変化を自治体全体に印象づけるこ とが可能なのである。逆から言えば、新しい評 価・任用制度の下で旧態依然たる人事を行い、

冴えない職員を採用するようでは、ネガティブ なシンボル効果をもってしまうであろう。

第5に、個別自治体の人事行政上の工夫や実 験を日本全体の公務員制度改革につなぐために は、自治体での実験を大胆果敢に 発信 する ことが必要である。それは、先に触れた志木市 の行政パートナー制度でも、枚方市の希望降任 制度でも、滝沢村の課長選挙でもよい17)。ある いは単純に、抜擢や中途採用のような既存制度 の運用でも、それが大胆なものであればニュー スになりうる。制度は、「大綱」が試みたよう な能力等級制の新規開発によってではなく、む しろ個別実験の「模倣」・「転用」・「一部修正」

という形で成長・進化していく。とくに民間企 業の手法の模倣・転用・一部修正は、行政特有 の組織文化の変革に有効に作用しよう。

以上のような段階を踏み、海外事例も含めて

広範な経験が共有されることにより、道具とし ての人事管理制度の選択肢が明瞭になろう。国 家公務員法・地方公務員法の本格的な改正は、

その多様な選択肢をどこまで許容しながら、何 をリスクとして回避すべきかを厳しく検証した 上で、実行するのが筋だと考えられる。

おわりに

筆者は本稿執筆の最後の段階で、『都市問題』

誌の特集「自治体職員の『やわらかい』任用制 度」の諸論考に接した。本稿ではその豊かな内 容に言及できなかったが、編集者の言によれば、

先進的自治体の人事政策は「やわらかい任用制 度」と呼ぶことができるという18)

考えてみると、われわれは官治・集権体制の 下で(旧)自治官僚や行政法学者による解説を 窮屈に読み、地方公務員制度を過度に硬くとら えていたのかもしれない。先進自治体がしなや かに人事政策を展開してきたことによって、公 務員制度自体も意外に弾力性をもち、他の諸改 革とあいまって効率性と透明度の高い制度とし て使いうることを示したとも考えられる。

「大綱」を策定した公務員制度改革推進室が 変えようとしたものは、「霞が関文化」の温存 にとって障害となっている人事院やその級別定 数制、天下り規制であって、公務員制度が疲労 している部分ではない(制度疲労の部分は、改 革というよりも改善によって対応可能である)。

むしろ戦後公務員制度の本来の精神は、メリッ トシステム(能力主義)の実現と市民性(全体 の奉仕者性)の回復にあり、そのことは地方に おいてようやく進みつつあり、国の方がやや遅 れている。だとすれば、公務員法の改正として 検討すべきポイントは労働基本権の付与問題に

﹁ 公務 員 制 度改 革 と 自治 体 職 員イ メ ー ジの 転 換

尽きるのではないか。そして、国のキャリア制 度など、公務員法の精神から逸脱した制度運用 にこそ、改革のメスが入れられるべきではない か。

公務員制度調査会の設置から数えると、7年 を要してこれらの古くて新しいテーマに行き着

いたとすると、映画「猿の惑星」(1968年)の 最後に出てくる自由の女神を見るように、いさ さか呆然とせざるを得ないが、それでも一歩真 実に近づいたのであれば、決して無駄な道程で はなかったと考えたい。

【注】

1)『日本経済新聞』2004年9月30日付朝刊。

2)このテーマに関する議論と資料については、日本ILO協会『欧米の公務員制度と日本の公務員制度』同協 会、2003年参照。

3)この制度は国家公務員法が先行したが、能力主義の導入など地方の先導性が見られる分野も多い。地方に関 しては、総務省の地方公務員制度調査研究会による報告書「分権新時代の地方公務員制度」(2003年12月)

に基づき、2004年6月に地方公務員法などの一部改正が行われた。塩野宏「地方公務員制度改革の一局面:

任用・勤務形態の多様化」『地方公務員月報』2004年7月号所収参照。

4)『ジュリスト』1226号(特集:公務員制度改革)2002年7月1日、『都市問題研究』(特集:これからの公務 員制度)2003年1月、日本行政学会編『公務員制度改革の展望』ぎょうせい、2003年所収の諸論考を参照。

5)「『公務員制度』放浪記」『官界』2002年6〜8月号所収参照。

6)拙稿「公務員制度改革と『霞が関文化』」、上掲『公務員制度改革の展望』所収、24−26頁参照。

7)西村美香「公務員制度改革大綱への自治体の視点」『自治フォーラム』524号、2003年5月参照。

8)『朝日新聞』(東京)2004年10月14日付朝刊。

9)福田耕治他編『行政の新展開』法律文化社、2002年(拙稿、第8章「公務員制度と人事」)207頁以下参照。

10)公務員制度調査会「公務員制度改革の基本方向に関する答申」(1999年3月)『ジュリスト』1158号(1999年 6月15日)所収。

11)松下圭一『政策型思考と政治』東京大学出版会、1991年、137頁以下参照。

12)職員の資質に関する議論では、これらに加えて、個人のエネルギー面に注目して、「要するにやる気だ」と 意欲や情熱を強調する議論も根強い。やる気があるから知識やスキルが身につくわけであり、「やる気」は 個別の知識や能力の基礎ともいえる。実際、医学的にも脳幹(やる気中枢)の働きは大脳皮質(知性)の活 動をも支配するといわれるが、ここではその重要性を前提にしつつ、いわば上部構造としての政策能力を問 題にしたい。

13)武藤博巳編『分権社会と協働』ぎょうせい、2001年(拙稿「協働型市民・住民論」65頁以下)参照。

14)リチャード・ニクソン、徳岡孝夫訳『指導者とは』文藝春秋、1986年、373−375頁。

15)稲継裕昭「自治体職員の任用をめぐる制度的環境」『都市問題』95巻12号(2004年12月)所収、10頁参照。

16)武藤編、前掲書(谷本有美子「『透察性』・『誠実性』・『戦術性』: 転職 を迫られる地方公務員」103頁 以下)参照。

17)前掲『都市問題』95巻12号(2004年12月)に紹介されている。

18)同上、「特集のことば」(川手摂)

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