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搭載モデルベースの誘導制御の適用例

本章では搭載モデルベースの誘導制御の適用例について記述する.最初に小型の固定翼 無人機を用いて小規模飛行実験[18][19]に適用した事例を記述し,次に有翼ロケット実験機 [20]に適用した事例を記述する.

3.1 小規模飛行実験への適用

3.1.1 小規模飛行実験の概要

小規模飛行実験(Small Scale Research Vehicle, SSRV)は将来の再使用宇宙輸送システム の誘導制御系において必要となる技術の基本コンセプトを検証する目的で小規模な無人実 験機を用いて誘導制御則を試作/搭載して飛行実験を実施したものである.

図3.1.1-1に実験の概要,図3.1.1-2に機体の諸元を示す.

図3.1.1-1 実験概要

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図3.1.1-2 小規模飛行実験機(SSRV)実験機概要

3.1.2 小規模飛行実験の誘導制御

小規模飛行実験(SSRV)においては搭載モデルを活用する誘導制御としてダイナミックイ ンバージョン制御とモデル予測制御を適用した. また,これらを補完し,外乱やモデル誤 差に対する耐性をもたせるため,カルマンフィルタによる風成分推定機能および外乱オブ ザーバ補償を併用している.

適用した技術は以下のようなものである.

(1)ダイナミックインバージョン

ダイナミックインバージョン制御は誘導制御則に組み込んだ機体運動の逆ダイナミクス を用いて飛行条件による特性の変動をキャンセルして所望の応答を得るものである.

(2)外乱オブザーバによる誤差補償

搭載モデルを活用する制御は飛行条件の変化に対応できる反面,モデルに含まれる誤差 の影響の補償が重要となるが,ここでは外乱オブザーバを用いた誤差補償を適用した.こ れは制御入力に対するノミナルモデルの応答と実際の応答の差から誤差の影響を含む外乱 入力を推定し,これを入力から差し引くことで,誤差や外乱の影響を補償するものである.

(3)モデル予測制御

モデル予測制御は予測モデルを用いてオンラインで(非線形)最適制御を行う手法であ り,搭載運動モデルを用いて現在から有限な時間区間の運動を予測して得られる評価関数 を最適化する制御入力を求め,得られた入力の最初の値を現在の入力値にするというステ ップを時々刻々繰り返すことにより連続的に最適な制御を行うことができる.

2.6m

4.2m

機体主要諸元 全長

全幅 重量 飛行速度 エンジン

プロペラ 常用回転数

操舵面

2.6m 4.2m 約35kg 100-120km/h ガソリンエンジン

直径24in×ピッチ12 1100~9000rpm エルロン×4 フラップ×2 ラダー×2 エレベ‐タ×3

28 (4)慣性データを用いた風成分推定

搭載モデルを活用して誘導制御を行う際,機体に作用する力は動圧や対気姿勢に依存す るため,なんらかの方法で対気情報を知る必要がある.対気情報はエアデータセンサを用 いて取得するのが通常であるが,再使用宇宙輸送システムの誘導制御を考える場合,再突 入時に厳しい空力加熱にさらされるため,特に迎角,横滑り角の計測に困難があること,

また広い飛行領域に対応してのセンサの較正にコストがかかること,慣性センサに比して 応答に遅れが大きいことなどの問題がある.そこで慣性センサ出力と空力モデルを利用し て風速成分を推定することを検討した.

(5)誤差を考慮したパラメータ調整

ダイナミックインバージョンのような搭載モデルを用いた制御則は制御対象の非線形性 を補償し,制御構造を単純化できる一方で,制御ゲイン等のパラメータ調整をどのように 実施するかが一つの課題である.時間スケールごとに階層構造化した制御構造では,階層 間の時間スケールの差をどの程度とればよい結果が得られるかについては半経験的な指針 があり,これによって初期ゲインを設定することができるが,所望の応答性を得,かつ現 実的な不確定性に対処するためにはさらにゲインをチューニングして安定性,応答性を改 善する必要がある.このような非線形性を含む制御則でのパラメータの調整を行う方法と して,誤差を考慮した多数回のシミュレーションを行って誘導制御ゲインのチューニング を行う手法を検討している.

(6)モデルベース設計

制御用ソフトウェアの開発は Matlab/Simulinkを用いてブロック図ベースで開発を行い,

誘導制御ゲインは誤差を考慮したシミュレーションを多数回行って評価関数を最適化する ことにより調整した.さらにMaltab/xPCtargetのコード生成機能を用いてブロック図から搭 載用の実行コードを自動生成した.これにより短期間のコード開発が可能となった.

以下の項では,ダイナミックインバージョン制御と,これに関連して外乱や誤差に対す る処置として適用した外乱推定やパラメータ調整の内容を説明したのち,飛行試験結果に ついて記述する.モデル予測制御および関連する試験結果については文献[19][21]に詳しく 記述されておりここでは割愛する.

3.1.3 ダイナミックインバージョン制御

第 2 章に記述したように,ダイナミックインバージョン制御は誘導制御則に組み込んだ 機体運動の逆ダイナミクスを用いて飛行条件による特性の変動をキャンセルして所望の応 答を得るものである.モデルの使用により,ゲインスケジュールを排除することができる ため,飛行経路の変更等に対しても飛行領域全体にわたる多数のゲインの再設計/解析/調整

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作業を要せずに対応することができ,設計作業の効率化を図ることができる.小規模飛行 実験では飛行条件の大きな変化はないものの,アルゴリズムを実飛行に適用することで,

実用上の課題について評価することができる.

図3.1.3-1 ダイナミックインバージョン制御

ここでは,階層構造化されたダイナミックインバージョン制御[7]を適用した.これは運 動方程式の状態量を時間スケールで分割し(階層構造化),階層ごとの低次元のシステムにつ いてダイナミックインバージョンの手法を適用して制御則を導くものである.図3.1.3-1の ような構造を採用した.

3.1.4 外乱オブザーバ補償

外乱オブザーバ補償は外乱やモデル誤差が存在する場合に入力 u をシステムに対して行 ったとき,その応答と入力により,モデル誤差と外乱からなる誤差項を推定し,その項を 新たな入力 u にフィードバック補償することで,モデル誤差,外乱の影響を抑えようとす るものである.外乱,誤差を含む制御対象からの出力をノミナルモデル(の逆)を通したもの と,入力の差をとり,ローパスフィルタを通すことにより,誤差項の推定を行うことがで きる.ダイナミックインバージョン制御では,ノミナル条件では制御対象と逆ダイナミク スをあわせたものは等価的に単純な積分要素とみなすことができるので制御対象とするシ ステムのノミナルモデルは単純な積分系(従って逆モデルは微分系)となる.図 3.1.4-1 は外 乱オブザーバを付加した制御則の構造を示したものである.

小規模飛行実験では誘導制御の各階層に外乱オブザーバによる補償を行うラインを準備 したが,階層化した誘導制御の各時定数とオブザーバの時定数の調整は容易でないため,

主に姿勢制御系に対して補償を適用した.

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図3.1.4-1 外乱オブザーバ補償+ダイナミックインバージョン

3.1.5 誤差を陽に考慮したパラメータ調整

時間スケール分離を余裕をもって行おうとすれば階層間の時間スケールを数倍離すこと が望ましいが,ややもすると応答特性はかなり緩慢なものになってしまう.時間スケール の間隔をどの程度に選ぶかについては馬場ら[11]は経験的な値として時定数で 2~3 倍程度 (ゲイン比で0.33~0.5倍),また,宮沢[22]は単純な積分系を用いた準理論的な考察を試みて おりゲイン比で0.4倍程度を推奨しているが,実際には遅れなどの不確定性や固有モードの 安定性の影響などがあり,個々の問題に応じて調整する必要がある.また,同じ階層のな かでも例えばロールとピッチの運動の適切な時定数は異なっており,3軸に同一のゲインを 適用することは必ずしも適当でない.

SSRVでは階層間のゲイン比を0.3として初期のゲインを設定し,姿勢制御に対応する第 3,4階層,および誘導に対応する1,2階層をひとまとめにしてゲインを調整した. なお,こ のゲインのチューニングは第一回の飛行試験後に実施したもので,初回の飛行では,初期 のゲイン比0.3をそのまま採用した.後述するように,初回の飛行試験で採用した制御則の 安定性が十分でなかったことから対策としてゲイン調整を実施したものである.

(1)姿勢制御ゲインのチューニング

姿勢制御系については適切な安定余裕,誤差耐性を持たせるため,誤差を陽に考慮した 非線形のシミュレーションによりパラメータを最適化した.計算負荷を削減するため,以 下の順でゲインを最適化した.

① ノミナル+遅れ(4ケース)での最適化

② ①+ゲイン増加(7ケース)での最適化

③ ランダムケース(10ケース)での最適化

適用誤差は一様分布として安全側の評価になるよう配慮した.また,安定性の弱いモー

Az Ay φ

pc qc rc

Lc Mc Nc

δec δrc δac 航空機

ダイナミクス K4 回転運動の逆システム

制御 アロケーション 姿勢

コマンド

角速度 コマンド

p

角速度q r

モーメント

コマンド 舵角

コマンド

+

+

1 1+τ4 s ローパスQ(s)= フィルタ

Azc + Ayc φc

姿勢運動の 逆システム 制御ゲイン

K3

Q(s)

Q(s)s

3 Az

Ay

K

K K

Kφ

= 

4 p

q r

K

K K

K

= 

制御ゲイン

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