第Ⅵ章 掛川市自然環境調査 15 年間のまとめ
3 掛川市の自然(生物多様性)を育むために
「掛川市自然環境調査」では、様々な理由で掛川市の生物多様性が減少していることが 分かりました。
ここでは、これからの掛川市の自然を育むためにはどのようにしたらよいか考えてみま しょう。
(1)自然との共生を目指す開発を。
私たちが毎日の生活をするには、それを支えるための仕事や住居がなくてはなりませ ん。そのためには工業団地や住宅を建てるための土地も必要です。
このような開発事業による環境への影響を防ぐために、事業の内容を決めるにあたっ ては、事業の必要性や採算性だけでなく、環境の保全についてもあらかじめよく考えて 行くことが大切になります。
このような考え方から生まれたのが、環境アセスメント制度です。
環境アセスメントは、事業の内容を決めるにあたって開発業者があらかじめ調査を行 い、その結果に基づいて環境への影響を予測・評価をするとともに、一般の方々や地方 公共団体から意見を聴き、それを参考にしながら環境への影響を少なくする観点から事 業計画を作ってゆく考え方です。
国ではこれを制度として「環境影響評価法」を 1997 年に制定し、その後改正をして 2013 年に現在の「環境影響評価法」が施行されました。
また、国のこのような流れを受け、地方公共団体でも条例や要綱を制定して制度の推 進がされています。
このような制度の対象は、すべての開発事業に適用されるのではなく、事業の種類や 規模により異なり、小規模の事業は対象になりません。
また、その他にも一定規模の森林を開発するのは、「森林法」により一部の森林を残 すことを義務づけたりする制度もあります。
このような制度のもとで行われる事業については、事業の前に区域の自然を調査し、
その結果をもとに自然への影響を避けるために、事業の一部を変更したり、影響のない 場所に移すなどの対策が取られています。
図Ⅵ-14 自然の調査を行う 図Ⅵ-15 影響のない場所に移植する
また、良好な自然環境を残すために掛川市では、全国の自治体に先駆け平成 18 年に
「掛川市自然環境の保全に関する条例」を制定し、捕獲等を禁止する「希少野生動植物 種」(第Ⅰ章参照)を指定するとともに、指定希少野生動植物種の生息・生育が確認さ れている区域及びこれらと一体的にその保護を図る必要がある区域を保護地区として 指定しています。現在東山地区と板沢地区が指定され、保護地区内での開発行為は事前 届出が必要とされています。
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図Ⅵ-16 小笠山(板沢) 図Ⅵ-17 粟ヶ岳(東山)
さらに、農地の整備に当たっては全国的にも自然環境への配慮がされるようになりま した。掛川市内でも、ホトケドジョウの生息地の整備に当たっては、ホトケドジョウの
生息に配慮して隠れ家や上流へ登れるような形をした水路(魚道)を設置しています。
同じ工夫は河川でも行われ、市街地を流れる逆川にも設置されています。
図Ⅵ-18 ホトケドジョウの保護水路 図Ⅵ-19 逆川に設置された魚道 しかし、このような工夫をして保護をしても、それを捕獲して販売する人たちもいま
す。残念ながら市内の農産物直売場などでも、野外から捕獲してきたメダカが販売され ていた事例もあります。
このような行為を減らすには、そのようなものを買わないことが大切です。
そのためには、生きものや植物を飼育したり栽培しないで、自然の中で観察すること の楽しさを多くの人に知ってもらうことや自然の仕組みを知り自然の保護の大切さを 理解する人を増やすことが大切です。
図Ⅵ-20 自然観察の楽しみを知る自然観察会
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(2)自然への人の働きかけを増やす。
掛川市自然環境調査で調べてきた生きものの減少の原因の多くは、農地や山林に人の 手が入らなくなることによる生息・生育環境の悪化でした。
荒廃の理由は、産業構造の変化による農産物価格の低迷、木材需要の低下による材木 価格の低下などによる農林業経営の縮小です。農業や林業は、その目的である農林産物
(食料や木材)の生産のみでなく、農山村で農業や林業が継続して営まれてゆくことに より、私たちの生活に様々な「めぐみ」をもたらしています。この恵みを「農林業の多 面的機能」と呼んでいます。
例えば水田は雨水を一時的にためて、洪水や土砂崩れを防いだり、多様な生きものを 育みます。美しい農村景観は私たちの心を和ませてくれるなど大きな役割を果たしてお り、その恵みは都市に生活する人たちを含めて国民全体に及んでいます。日本学術会議 の試算では、洪水調整機能だけでも年 3 兆 4988 億円にもなると言われています(図Ⅵ -21)。
図Ⅵ-21 農林業の「めぐみ」の例 農水省HPより
このような多面的機能を維持するために、静岡県では平成 18 年度から「森林(もり)
づくり県民税」を導入し、県内の法人や個人に整備のための費用の負担を財源とし、森 林の整備をしています。
掛川市でもこの事業を利用して森林の整備が進んでいます(図Ⅵ-22)。
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図Ⅵ-22 「森林(もり)づくり県民税」による掛川市の森林の整備面積(単位=ha)
また、平成 25 年には掛川市や島田市などの茶草場農法がFAOの「世界農業遺産」
に認定されました。
「世界農業遺産」の目的は、生物多様性を育み、長い伝統の中で培われた持続可能な 農業技術を次の世代に受け継ぐためとされています。
山を崩して谷を埋めた畑や大きな区画に区切った水田で大型の機械で作業をし、農薬 や除草剤を大量に使って生産を行う農業は、効率よく安い農産物が生産できます。しか しその一方で、地表の土が流れたり肥料分の蓄積などが起き、次第に生産力が落ちてき ます。また、周辺の環境にも影響を及ぼし、生物多様性も低下します。
「世界農業遺産」の茶草場には、狭い面積で他の植生にはないほどの種類の植物が生 育していました。しかし、このような茶草場を維持するには、毎年急な斜面で草を刈っ て茶畑に入れなくてはいけません。これにはとても手間がかかりますが、それに見合っ た収入が得られないことから、次第に茶草場農法を行う農家も減って、草刈りをしない 茶草場も出てきています。
図Ⅵ-23 茶草場の草刈り 図Ⅵ-24 草刈りをやめた茶草場
水田や山の草刈りをしなくなるとそこは藪になりイノシシやシカの隠れ家になり、こ こで子供を育てるようになります。こうなると私たちの身の回りにも野生動物が出てく 0
20 40 60 80 100 120 140 160
平成18年平成19年平成20年平成21年平成22年平成23年平成24年平成25年平成26年
280 るようになってきます。
野生動物の増加の影響は、生態系や農作物に被害を与えるだけではありません。私た ちの生活する周りに出てくると、様々な病気や害虫をもたらします。野生動物にはダニ やノミがついており、ペットの猫や犬を介して家庭の庭や床に持ち込まれるようになり ます。また、北海道では人家の周りにキタキツネが住んでいますが、これに寄生してい るエキノコックスという寄生虫は、ペットの犬や水を介して人に感染します。北海道で は毎年 20 名ほどの患者が見つかっています。
このため北海道では、キタキツネを人の周りに寄せ付けないように看板を立てて注意 を呼び掛けています。
図Ⅵ-25 キタキツネ 図Ⅵ-26 注意を呼びかける看板 野生動物が増えすぎないように、自然への人の働きかけを増やすにはするのはどうし たらいいのでしょうか。
ア 地産地消、旬のものを食べるように心がける。
山や畑の手入れができなくなったのは農家の人が減ったからです。農家の人は、野菜 やお茶を作ってそれを売って生活をしています。
草を刈るのはそれを畑に敷いて肥料にしたり、畑や水田に害虫などが来ない様に刈る のです。しかし農産物が売れなかったり安かったりすると農業ができなくなり田んぼや 畑の耕作をやめて次第に草だらけになってしまいます。そのため皆さんが食べるものは 外国やほかの地方で採れたのもではなく、地元で採れたものや環境に配慮した方法で作 られた農産物を買うことにより、皆さんのまわりの山や畑、水田を守り草を刈っている 農家を応援することになります。
図Ⅵ-27 地元で採れた農産物を食べるように心がける。
281 イ 保全活動に参加する。
掛川市内で行われている生育地や生息地の保全活動に参加するのも一つの方法です。
そのような活動に参加することにより作業の大変さや、自然の保護の果たす役割など が分かり、周りの人にも説明できるようになります。
図Ⅵ-28 茶草刈り体験 図Ⅵ-29 保全水田での稲刈り ウ 自然に親しみ自然の仕組みを知り多くの人に伝える。
掛川市の自然を育むためには、市民の多くが身近にある自然を知り、これからも守っ てゆきたいと考える人が増えることが大切です。このような市民が増えれば、掛川市の 事業にも影響を与えることもでき、地産地消に心がける人が増えれば農産物もたくさん 売れます。
そのためには、掛川市の自然のよさに気付き、興味をもってくれる方が増えるように 自然環境調査なども継続していくことが大切です。
(3)外来種は持ち込まない、放さない、拡げない。
本調査では、遊漁のために外国から持ち込まれたオオクチバスやブルーギルが市内の 水辺に広がって、在来の魚の生息に大きな影響を与えていることが分かりました。
外国や国内での物資の移動が盛んにおこなわれる現在では、様々な外来種が持ち込まれ 国内に広がり、その影響も大きくなってきました。そのため日本でも外来種問題に対す る認識も高まり、2002 年には日本生態学会が日本の外来種の中でも特に生態系や人間 活動への影響が大きい生物のリストである「日本の侵略的外来種ワースト 100」を発表 するなど様々な対策や啓蒙も行われています。
外国から持ち込まれる外来種に対しては、
悪影響を及ぼしかねない外来生物をむやみに日本に入れない。
飼っている外来生物を野外に捨てたり放さない。
野外にすでにいる外来生物は他の地域に拡げない。
ことを原則に、「外来生物法」などを制定して問題を引き起こす海外からの外来生物を 特定外来生物として指定し、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった取扱いを規制 し、特定外来生物の防除等を行うこととしています。
しかし残念ながら、このような法律では十分対処できず、日本には毎年約7億8千万 匹の生きた動物が輸入され、その一部は様々な被害を及ぼしていることから、「鳥獣の 保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」にも、アライグマ、タイワンリス、ミ ンク、ハクビシンなどの外来生物が狩猟鳥獣として指定されてきています。
また国内の種を本来の生息・生育域でない地域持ち込む国内外来種による、地域固有 の遺伝子消失も多く、東と西では発光間隔が違うゲンジボタルを持ち込み増殖したため に起きた遺伝子のかく乱や、ペットとしてのメダカの流通と放流に伴う地域遺伝子の消 失などが報告されています。