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第 2 章 研究 I 薬物―標的タンパク質相互作用ネットワークからの副作用の機序

2.3 結果と考察

2.3.3 抽出された相関成分の例

に結合する抗不安薬や麻酔補助剤であったが、バクロフェン(Baclofen)(図9d)のよう

なGPCR型のGABAB 受容体(GBRA1,2)にも結合する筋弛緩薬も含まれていた(補

足資料のSoftwares and Data(http://web.kuicr.kyoto-u.ac.jp/supp/smizutan/

target-effect/bio2mat.txt)を参照)。興味深いことに、ガバペンチン(Gabapenin)

(図9e)はGABA受容体ではなく、電位依存型カルシウムチャネルへの阻害作用を持つ。

この薬物はシナプスでのGABA濃度を高めることが知られており[53]、GABA受容体へ 間接的に働くことで抗不安の効果を持つと考えられる。

CC5 の標的タンパク質には、プロスタグランジン G/H シンターゼ(prostaglandin G/H synthase 1,2; PGH1,2)(cyclooxegenase; COXに同じ)やアラキドン酸-5-リポキ シゲナーゼ(arachidonate 5-lipoxygenase; LOX5)など炎症性の生理活性脂質の合成経 路で働く酵素が抽出された。CC5で高い正準相関スコアを示した薬物のうち、ジクロ フェナク(Diclofenac)とインドメタシン(Indomethacin)(図9f)はプロスタグランジ ンG/H シンターゼを阻害し、レフルノミド(Leflunomide)はアラキドン酸-5-リポキシ ゲナーゼに結合する。これらの薬物は、異なるタンパク質を標的とするが、生理活性脂質 合成経路を阻害することで同等の抗炎症作用を発揮するため、類似した副作用をもたらす のではないかと考えることができる。

CC15 では、グルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor; GCR)(核内受容 体)やコルチコステロイド結合グロブリン(corticosteroid-binding globulin; CBG)など のグルココルチコイドシグナル伝達経路に関与する標的タンパク質が抽出された。グルコ コルチコイドはステロイドホルモンの一種であり、抗炎症性のフィードバック機構の一部 を通じて免疫システムを下方制御する。この経路では、グルココルチコイドの結合によっ て活性化された細胞質グルココルチコイド受容体は核内移行し、アネキシン1(annexin

A1; ANXA1) などの抗炎症タンパク質の上方制御を担う。CC15で高い正準相関スコア

を示した薬物は、トリアムシノロン(Triamcinolone)、アムシノニド(Amcinonide)(図 9h)などのグルココルチコイド受容体に作用するステロイド分子があり、これらの薬物の 共通の副作用発現の機序として、グルココルチコイドシグナル伝達経路が関わっている事 が推定される。

CC5とCC15 はどちらも炎症作用に関わるタンパク質とそれを制御する薬剤によって 構成されているが、この二つは作用機序を異にするためCC5とCC15では抽出された副 作用が異なる。

Bupropion (DB01156)

    Midazolam

(DB00683)

Baclofen (DB00181)

Gabapen n (DB00996)

   

Indomethacin (DB00328)

Triamcinolone (DB00620)

Leflunomide (DB01097)

Amcinonide (DB00288)

a

b

c

d e

f g

h

Diclofenac (DB00586)

Flecainide (DB01195) Venlafaxine (DB00285)

Lamotrigine (DB00555)

noradrenaline dopamine

Venlafaxine (DB00285)

9 高い正準相関スコアを示した薬物の例(Mizutani[45]より引用)

(a-c. CC1) ベンラファキシン(Venlafaxine)およびブプロピオン(Bupropion は神経伝達物質輸送体に結合する。フレカイニド(Flecainide)およびラモトリジン

Lamotrigine)はナトリウムチャネルに結合する。ノルアドレナリン(noradrenaline はノルアドレナリントランスポーターの内在性リガンドである。ドパミン(dopamine はドパミン受容体の内在性リガンドである。ベンラファキシンはノルアドレナリン輸 送体およびドパミン受容体に結合する。

(d-e. CC2)ミダゾラム(Midazolam)はGABAA受容体に、バクロフェン(Baclofen GABAAおよびGABAB 受容体に作用する。ガバペンチン(Gabapenin)は、シ ナプスでのGABA濃度を増加させることによって間接的にGABA受容体の活性を制 御する。

(f-g. CC5) 性抗炎症薬(NSAID)であるジクロフェナク(Diclofenac)とインドメタ シン(Indomethacin)はプロスタグランジンG/ Hシンターゼ(prostaglandin G/H synthase 1,2; PGH1,2cyclooxegenase; COXに同じ)に結合し、レフルノミド

Leflunomide)はアラキドン酸5-リポキシゲナーゼ(arachidonate 5-lipoxygenase;

LOX5)に結合する。

(h; CC15)トリアムシノロン(Triamcinolone)とアムシノニド(Amcinonide)は、

グルココルチコイドシグナル伝達経路のタンパク質に結合する非ステロイド性抗炎症 薬である。

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