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第 2 章 研究 I 薬物―標的タンパク質相互作用ネットワークからの副作用の機序

2.4 まとめと今後の展望

2.4.1 手法に関する展望

一方、このような解析法の弱点は、直接の因果関係を明らかにすることが難しい点に ある。Kuhnらは、本研究も含め、副作用に関する既存の研究を比較評価している(表7 [37])。そこでは、本研究は、標的タンパク質と副作用の間での因果関係を明らかにすると ころへは至っていないと批判している。

Kuhnらは、SIDER2データベース[38]とSTITCH3データベース[39]から取得した 副作用情報と標的分子情報を元に、統計的に有意に多くの薬物に現れる標的タンパク質と 副作用のペアを抽出している[37]。Kuhnらの方法では、フィッシャーの正確確率検定を 用いているため、標的タンパク質と副作用の一対一の予測が可能である。さらに、予測結 果を検証実験で裏付けることにより、標的タンパク質と副作用の因果関係を明らかにして

いる。Benderらが用いたマルチカテゴリベイズモデル[8]も一対一の関係を予測するこ

とに着目している。しかしながら、Kuhnの解析では分子経路の視点に立った副作用発現 機序の検証はしておらず、この意味においては、本研究はKuhnらの研究と目指すところ を異にする。また、生体をシステムと捉え、薬物の作用機序をタンパク質ネットワークへ の介入と捉える見方においては、本研究で得られた情報が有効であるといえるだろう。

Kuhnらは、計算機科学的に予測した標的タンパク質と副作用のペアに対して、文献検 索とマウスを使ったin vivo実験により検証を行っている。本研究で提案した解析法に関 しては、外部リソースに対するベンチマークテストがされていないと批判している。本研 究では、データソースは1つで、予測精度の検証はデータを学習データと検証データに分 割して、交差検定を行った。外部データソースを用いて予測精度を検証することにより、

予測器の汎用性が高まるため、このことは今後の課題である。また、文献検索による網羅 的な検証を行っていないとの批判もある。文献の網羅的な検索は手作業では不可能であ

り、PubMedに蓄積された文献を計算機手法を用いて網羅的に検索するなどの方法の構

築が必要である。例えば、PubMedデータベースはAPIを使って論文のタイトルや要旨 に対してキーワード検索をかけることができるため、薬物と副作用キーワードのペアをク エリとした網羅的な検索が可能である。しかしながら、単純な検索では精度が低いため、

要旨中の文脈を考慮したより高度な検索や手作業による検証が必要である。

7 副作用の研究の比較(Kuhn[37]より改変)

Mizutanietal.,2012[45](本研究) Khunetal.,2012[37] AtiasandSharan,2010[4] Benderetal.,2007[8] Flirietal.,2005,2007[19,20] Scheiberetal.,2009[56] Xieetal.,2007,2009[71,72]

Experimental validation + – – – – –

Validation from literature + – + – + –

Use protein structures – – – – – +

Use drug–target databases + + – + + + –

Use drug–target text–mining – – – – – – Prediction: proteins–side effects + + – (+) – – (+) Prediction: pathway–side effects + – – – – + –

Prediction: drug–side effects + – + + – – – Complete set of side effects + + + + + + – Use only post–marketing side effects – – – – – – Complete set of targets + + (+) – + + –

Complete set of drugs + + + + + + –