今回,愛知医科大学病院から2012 年3 月12 日から2014 年2 月3日までの9311件の麻酔科管 理手術データの提供を受けた.これは,手術中に麻酔科医によって記録されたデータである.データ には,患者名・ID,患者の年齢・性別,担当する診療科名,術前診断の種類,手術の種類,麻酔の種 類,麻酔科医名・麻酔科助手名,執刀医名・主治医名・執刀医助手名などが記録されている.データ の提供の際には,患者名,麻酔科医名,麻酔科助手名,執刀医名,主治医名,執刀医助手名などの個 人情報については匿名化されていた.このデータの診療科ごとの手術件数の割合は,消化器外科が約 20%,整形外科が約19%,耳鼻咽喉科が約13%となり,これらの診療科が手術件数の上位を占めて いる.各診療科の手術件数の詳細を表 3.1に示す.
手術の所要時間は,患者の入室時刻から患者の退室時刻として定義した.この時間は麻酔科医の1 つの手術に対する労働時間の長さに等しい.1つの手術に対する手術の所要時間の詳細を図 3.3に示 す.図 3.3において,麻酔科医は1つの手術に対して,b, c, d, e, f の時間の労働が必要となる.なぜ ならば,麻酔科医は患者が手術室にいる間,患者の状態を観察し,手術記録を作成しなければならな
い.さらに,患者が手術室を退室した後も手術室の片付けなどの業務を行う必要があるからである.
手術件数の上位13診療科の手術の所要時間のヒストグラムを図3.4に示す.ヒストグラムの横軸
消化器外科 整形外科
形成外科 泌尿器科
産婦人科 耳鼻咽喉科
脳神経外科 眼科
呼吸器外科 歯科
血管外科 乳腺内分泌外科
心臓外科
図3.4: 手術件数の上位13診療科の手術の所要時間のヒストグラム,
横軸:分単位の実際の手術の所要時間
は分単位で手術の所要時間を表す.縦軸は,手術件数を表す.図 3.4より,手術の所要時間のデータ が対数正規分布に従うことが予想できるため,QQプロットを用いて,手術の所要時間の対数の正規 性を確認した.なぜならば,回帰モデルは,データが正規分布に従うことを仮定するため,回帰分析 を行う際に正規性の検定を行う必要がある.この正規性の検定より,もし正規分布を仮定することが 可能ならば,直接,回帰分析を適用することが可能である.一方,データが正規分布と仮定できない 場合には,事前に変数変換する必要がある.手術件数の上位13診療科のQQプロットを図 3.5に示
す.図 3.5では,縦軸は手術の所要時間を表す.横軸は,推定期間を表す.図 3.5より,各診療科の
消化器外科 整形外科
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
5678 5678
形成外科 泌尿器科
産婦人科 耳鼻咽喉科
-3 -2 -1 0 1 2 3
34
-3 -2 -1 0 1 2 3
34
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
Sample Quantiles
脳神経外科 眼科
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
5678 5678
呼吸器外科 歯科
血管外科 乳腺内分泌外科
-3 -2 -1 0 1 2 3
345
-3 -2 -1 0 1 2 3
345
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
心臓外科
-3 -2 -1 0 1 2 3
345678
図3.5: 手術件数の上位13診療科の正規QQプロット
手術の所要時間は,QQプロットを用いた正規性の検定より,対数正規分布に従うことが明らかに なった.よって,全ての手術の所要時間は対数正規分布に従うと仮定し,手術の所要時間の対数で回 帰分析を行った.分析には,統計解析ソフトのRを用いた.
回帰分析の説明変数を選定するために,藤原教授と打ち合わせを重ねた.藤原教授の長年の経験よ り,手術の所要時間に影響を与える説明変数の候補をいくつか挙げた.具体的には,患者の年齢と性 別,術前診断,施行術式,執刀医,麻酔法,麻酔科医が説明変数の候補となった.被説明変数は患者 の入室時刻から退室時刻までの手術の所要時間とした.説明変数の変数選択には,An Information
Criterion(以下AICと称する)を用いた.データは,記録する麻酔科医によって名称が異なるような
統一性のないデータであるため,施行術式の名称を厚生労働省が定める診療報酬点数表によって統一 的に区分けした.
図3.6: 2014年6月2日の一部の手術の推定した手術の所要時間と執刀医によって申告された手術の 所要時間,実際の手術の所要時間の比較
重回帰分析の結果を表 3.2に示す.表 3.2より,AIC を用いた変数選択の結果は診療科によって 異なったが,全診療科において,術前診断と施行術式の変数が選択された.そのため,術前診断と施 行術式は,組み合わせがパターン化し,ダミー変数を削減するために,1 つの変数にまとめた.つま り,表3.2の c.術前診断+術式 は,術前診断と施行術式をペアにした1つの変数である.加え て,分析データから異常値や外れ値を削除する.異常値や外れ値は推定時間との差の絶対値を超える 標準偏差の3倍と定義する.表 3.2の左の列から診療科,異常値や外れ値を除いた手術数,AICに よって選択された変数の数,AICによって選択された説明変数を示す.また,左から5列目には,調 節済み決定係数R2の値を示す.R2の値は,2014年6月2日から2014年6月6日の5日の手術 データを用いて計算した.R2が1に近い程,回帰モデルの精度が高いと考えることができる.ここ では,各診療科ともR2は0.6以上の値をとった[43].
回帰モデルの説明変数の係数と定数項を表 3.3に示す.表3.3より,手術の所要時間に特に影響を 与える説明変数を確認することが可能である.例えば,消化器外科では,同じ手術であった場合を比 較すると,患者の年齢が上がるほど,手術の所要時間が長くなることがわかる.
図 3.6では,回帰モデルによって推定した手術の所要時間と執刀医によって申告した手術の所要時 間と実際の手術の運営時間とを比較する.図 3.6の縦軸は分単位の手術の所要時間を表す.横軸は,
手術の番号を表す.太線は,回帰モデルにより推定された手術の所要時間である.点線は,執刀医に よって申告された手術の所要時間である.実線は,実際の手術の所要時間である.図3.6より,推定 した手術の所要時間は,執刀医による申告された手術の所要時間と実際の手術の所要時間の差よりも 小さくなった.