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感情調節尺度に関する考察

ドキュメント内 感情 調節のプロセスモデルと感情 抑制 (ページ 36-43)

第 2 章 感情調節のプロセスモデル

第2節 感情調節尺度に関する考察

1.感情調節尺度(

Emotion Regulation Questionnaire:

ERQ

とは

( 1 )ERQ の 理 論 的 背 景

ERQとは,感情調節のプロセスモデルで定義された先行焦点型感情調節のなかから,

代表的な方略として再評価方略が取り上げられ,反応焦点型感情調節のなかから,抑制 方略が取り上げられ,それぞれの日常的使用の個人差の測定と,使用にともなう長期的 な結果を検討するために,Gross & John(2003)によって作成された尺度である。

Gross & John(2003)の定義によると,先行焦点型感情調節は,感情生起および,

感情反応傾向が十分に生成される以前の初期段階に介在する方略である。従って,再評 価方略はその後,引き続き生じると考えられる感情の軌道を変更するのに効果的である。

特に,ネガティブな感情を降下させるのに有効である。一方,抑制方略は反応焦点型感 情調節であり,感情生成プロセスの後期段階で,感情反応傾向の行動的側面を主に修正 する。従って,抑制方略は,ネガティブな感情の行動的表出を減退するのに効果的であ り,続々引き起こる感情反応に対処するには有効で,社会的文脈のなかでは最善の方略 となり得るが,ネガティブな感情の経験自体は軽減することはなく,実際の感情経験と 表出との解離を感じることになる(Gross & John, 2003)。

再評価方略はポジティブ感情を増加させるが,抑制方略はポジティブ感情を減少させ ること(Gross & Levenson, 1997)や,抑制方略が当該エピソード記憶の定着を阻害 させること(Richards & Gross, 1999, 2000)などの実験結果を踏まえ,ERQにおけ る再評価方略と適応的な要因,抑制方略と不適応的な要因に関連がみられると述べてい る(Gross & John, 2003)。

( 2 )ERQ 質 問 項 目 の 構 成

それぞれの方略による効果の違いを明示したうえで,ERQ は再評価方略と抑制方略 を下位尺度として作成された。これら2つの方略を下位尺度として選択した理由として,

a)日常的に使用する方略であること,b)研究上の実験的な操作が可能で個人差がある

こと,c)感情調節のプロセスモデルにおいて,先行焦点と反応焦点の差異は理論の中 心であるため,それぞれの方略を含めたと(Gross & John, 2003)述べている。

質問項目の具体的な文章の作成については,a)それぞれの感情調節プロセスの意図 を明確に表す項目を論理的基準に従い作成した,b)それぞれの方略に肯定感情と否定 感情についての調節を少なくともひとつは含めた,c)感情調節の方略であると意図で

きるような表現は控えた,d)結果としてポジティブ感情やネガティブ感情が生じたり,

社会的機能やwell-beingに影響を及ぼしたりすると言及するような文章は避けた,の4 点について注意をして作成した(Gross & John, 2003)。

質問項目数は,再評価方略としての6項目,抑制方略としての4項目の合計10項目 である。再評価方略の質問内容は,ポジティブな感情を感じたい時に考え方や,状況へ の考え方を変えるという内容の質問項目が2項目,ネガティブな感情を感じたくない時 に考え方や,状況への考え方を変えるという内容の質問項目が2項目,状況に対する考 え方を変えることで感情をコントロールするという内容の質問項目が1項目,ストレス を感じる状況で考え方を変えるという内容の質問項目が1項目である。すべて認知的な 再評価によって感情を調節する方略である。対して,抑制方略の質問内容は,ポジティ ブな感情を感じた時は表出しないという内容の質問項目が1項目,ネガティブな感情を 感じた時は表出しないという内容の質問項目が1項目,感情を表出しないという内容の 質問項目が2項目である。すべて抑制することによって感情を調節する方略である。質 問紙の回答形式は7段階評定(1: strongly disagree~7: strongly agree)である。ERQ の質問項目をTable2-2に示す。

( 3 )ERQ の 因 子 構 造

再評価方略としての6項目,抑制方略としての4項目の合計10項目について,4つ の参加者グループそれぞれに探索的因子分析(バリマックス回転)を施した結果,すべ てのグループにおいて,2因子が抽出された。第1因子には再評価方略の6項目が含ま れ,第2因子には抑制方略の4項目が含まれた。2因子による累積寄与率は,すべての グループにおいて50%以上であった。因子間相関はそれぞれ,r=.06, .01, -.04, -.06で あり3,4グループの平均は,r=-.01であったため,2因子間の相関は独立であるとして いる。また,確認的因子分析の結果からも,2因子独立モデルの適合度がもっとよいと 結論している。Table2-2にGross & John(2003)による探索的因子分析の結果を示す。

( 4 )ERQ の 信 頼 性

ERQ の内的整合性に関しては,4グループそれぞれにおいて,再評価方略が,α

=.80, .77, .75, .82であり,抑制方略が,α=.73, .68, .75, .76である。内的整合性の4 グループの平均は,再評価方略がα=.79,抑制方略が,α=.73 であり,どちらも十分 である。3ヶ月後の再検査信頼性に関しても再評価方略,抑制方略ともにα=.69であり,

3 Gross & John(2003)において,有意確率の掲載はなし。

どちらも十分である(Gross & John, 2003)と述べている。

( 5 )ERQ の 妥 当 性

ERQ の収束的妥当性に関して,再評価方略は感情調節の成功感,出来事に対する認 知的な再評価,自己の気分の修正,否定気分の調節と正の関係にあり,抑鬱的な反芻思 考とは負の関係にあることが示されている。一方,抑制方略は感情調節の成功感,本来 的自己感の喪失,抑鬱的な反芻思考とは正の関係にあり,出来事に対する認知的な再評 価,発散,自己の気分に対する注意・明確化・修正,否定気分の調節と負の関係にある ことが示されている。Table2-3にGross & John(2003)による重回帰分析の結果を示 す。

ERQの弁別的妥当性に関しては,Big Five 性格特性との関連を示している。再評価 方略は外向性,開放性,協調性,誠実性と正の関係にあり,情緒不安定性とは負の関係 にあることを示している。一方,抑制方略は外向性,開放性,協調性,誠実性と負の関 係にあることを示している。Table2-4にGross & John(2003)による重回帰分析の結 果を示す。

また,感情経験と表出,社会対人関係,well-being の指標との関連を検討している。

その結果,再評価方略はポジティブな感情と関連があり,対人関係,well-beingに対し て良い影響を及ぼすが,抑制方略はネガティブな感情と関連があり,対人関係,

well-beingに対して良くない影響を及ぼすと主張している(Gross & John, 2003)4。 Table2-5,Table2-6,Table2-7にGross & John(2003)による重回帰分析の結果を 示す。

( 6 ) 性 差 と 民 族 差

使用方略の性差に関しては,抑制方略では男性(3.64, SD=1.11)の方が女性(3.14,

SD=1.18)よりも多く使用することが,再評価方略では男性(4.60, SD=0.94)と女性

(4.61, SD=1.02)で使用頻度に差のみられないことが示されている。

使用方略の民族差に関しては,少数派(ラテン系,アジア系,アフリカ系)アメリカ 人は,ヨーロッパ系アメリカ人に比べて抑制方略を多く使用することが示されている5

4 この主張はERQを使用した他の研究(John & Gross, 2004; Mauss, Evers, Wilhelm, & Gross, 2006)によっても裏付けされている。

5 Gross & John2003)において,各民族の再評価方略,抑制方略の平均値,SDの具体的数値

の掲載はなし。

Table2-2. Sample Characteristics, Varimax Rotated Factor loadings for the 10 Items on the Emotion Regulation Questionnaire (ERQ), Alpha Reliability, and Scale

Intercorrelations in Four Samples by Gross & John (2003).

Table2-3. Convergent Validity on the Emotion Regulation Questionnaire (ERQ) to Other Constructs by Gross & John (2003).

Table2-4. Discriminant Validity on the Emotion Regulation Questionnaire (ERQ) to Big Five Personality Dimensions by Gross & John (2003).

Table2-5. Affect Implications of Reappraisal and Suppression for Emotion Experience and Expression by Gross & John (2003).

Table2-6. Long Term Implications of Reappraisal and Suppression for Interpersonal Functioning by Gross & John (2003).

Table2-7. Long Term Implications of Reappraisal and Suppression for Well-Being by Gross & John (2003).

第3節 感情調節尺度を使用した研究

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