エストロゲン製剤は、雌犬の皮膚疾患にしばし ば使用され、避妊後失禁にも有効である。一方、
犬に対するエストロゲン投与は子宮蓄膿症や骨髄 癆の危険因子となる 2)。前者は子宮卵巣摘出術に より対処可能であるが、後者の骨髄癆は時として 不可逆的である。これらの副作用はおそらく犬固 有の問題であり、ヒトでは薬剤の能書に記されて いない。ヒトと動物共通の副作用として耐糖能異 常が挙げられる。エストロゲン製剤を継続使用す るにあたっては、用量の多少に関わらず、白血球、
血小板、血糖値、肝酵素などのモニターが必須で ある。
プロゲステロン製剤は、雌犬の発情抑制、猫の 行動治療などに用いられている。プロゲステロン
製剤の副作用として沈鬱、性格の変化、多食、多 飲、雄の雌性化、乳房下垂、泌乳、皮膚色素沈着、
子宮蓄膿症、糖尿病などが挙げられる。多くの副 作用は休薬により解決するが、糖尿病は時として 不可逆的である。プロゲステロン製剤は猫のアレ ルギー疾患にも用いられているが、あまり推奨で きない。グルココルチコイドとプロゲステロンを 長期投与され、糖尿病を発症する猫は非常に多く、
残念なことである。
まとめ
以上、内分泌疾患について使用する薬剤の副作 用を概説した。しかしながら、これらの薬剤を単 味で使用することはむしろ少なく、他の薬剤と併 用することが多い。薬剤併用にあたっては、それ
らの相互作用も熟知しておく必要がある。本稿で 述べた薬剤に関する相互作用のうち、重要と思わ れるものを別表にまとめた。
参考文献
1) Cerundolo, R. et al. (2004) Treatment of canine Alopecia X with trilostane., Vet Dermatol. 2004 Oct;15(5):
285-93.
2) Weiss DJ, Klausner JS. (1990) Drug-associated aplastic anemia in dogs: eight cases (1984-1988).J Am Vet Med Assoc. 1990 Feb 1;196(3):472-5.
他) Plumb, D. C. Veterinary Drug Handbook (3rd. ed).
1999. Iowa State University Press/Ames.
他)高久史麿、矢崎義雄監修『治療薬マニュアル』医学 書院
表:内分泌疾患に使用する薬剤の相互作用
酢酸デスモプレシン 塩酸クロルプラミン(三環系抗うつ薬はデスモプレシンの作用を増強)
酢酸フルドロコルチゾン(デスモプレシンの作用を増強)
エピネフリン、ヘパリン(デスモプレシンの作用を減弱)
チアマゾール 小動物では報告なし
甲状腺ホルモン製剤共通 エピネフリン、ノルエピネフリン、交感神経作動薬(心血管系への影響)
インスリン(インスリン要求量の増加)
エストロゲン(甲状腺ホルモン要求量の増加)
ジゴキシン、ジギトキシン(これらの薬剤の代謝亢進)
ケタミン(頻脈、高血圧)
カルシウム製剤 テトラサイクリン系抗生剤(テトラサイクリン系抗生剤を吸着)
ジゴキシン、ジギトキシン(不整脈悪化)
※他にも混合注意すべき薬剤多し
ケトコナゾール 制酸剤、抗コリン剤、H2ブロッカー(ケトコナゾールの吸収を阻害)
ミトタン(ミトタンの作用を阻害)
インスリン(インスリン要求量の減少)
メチルプレドニゾロン(メチルプレドニゾロンの作用を増強)
シサプリド(シサプリドの作用を増強)
シクロスポリン(シクロスポリンの作用を増強)
※その他、チトクロームP450系で代謝される薬剤の作用を延長・増強 ミトタン スピロノラクトン(ミトタンの作用を阻害)
ケトコナゾール(ミトタンの作用を阻害)
インスリン(インスリン要求量の減少)
トリロスタン(副腎障害を増強)
※その他、チトクロームP450系で代謝される薬剤の作用を短縮・減弱 トリロスタン ミトタン(副腎障害を増強)
インスリン(インスリン要求量の減少)
酢酸フルドロコルチゾン アムホテリシンB、利尿薬(低K血症の増悪)
グルココルチコイド共通 バルビツール酸誘導体(グルココルチコイドの代謝亢進)
インスリン(インスリン要求量の増加)
経口血糖降下剤(血糖降下作用を減弱)
エリスロマイシン(エリスロマイシンの血中濃度上昇)
シクロスポリン(シクロスポリンの血中濃度上昇)
利尿薬(低K血症の増悪)
メラトニン 小動物では報告なし