慢性心不全で通院中の患者や心不全で入院加療中の患 者には,簡易モニターを用いて積極的にスクリーニング を行うことが推奨される(クラスⅠ,エビデンスレベル
C
).睡眠呼吸障害の疑いがあれば,終夜睡眠ポリグラ フィー(polysomnography
;PSG
)検査を予定する.
OSA
の治療方針は,心不全の有無に関わらずほぼ確 立されている.肥満患者には減量を指導し,飲酒や睡眠 薬の制限などの一般療法を行い,上気道に解剖学的な異 常がある場合には,耳鼻科や口腔外科に相談する.中等 度以上のOSA
を有する患者にはCPAP
治療の適応を考 える.我が国におけるCPAP
の健康保険適用は,PSG
で はAHI
≧20,簡易診断装置ではAHI
≧40である.一方,
CSR-CSA
を合併する場合の治療指針は確立されていない.冠血行再建術や弁膜症手術などの基礎心疾 患に対する治療と心不全の薬物治療の最適化を基本とし
た上で,
CSR-CSA
への直接的な介入を考慮する.心不全の病態が十分に改善した場合,
CSR-CSA
が著明に減 少し,CSR-CSA
優位からOSA
優位のパターンへ変化す ることがまれではないためである.しかし,心全治療を 徹底した後にもCSR-CSA
が残存することが少なくな い.その場合には,各種の陽圧呼吸治療や酸素療法を検 討すべきであるが,治療法の選択や開始基準はいまだ定 まっていない.① 薬物治療,その他
心不全に対する標準的な薬物治療により,合併する睡 眠呼吸障害,特に
CSR-CSA
は減少する.利尿薬の投与 により,肺動脈楔入圧の低下,すなわち肺うっ血の改善 と関連してCSR-CSA
は減少する121).上気道の浮腫が改 善する結果,OSA
を有する拡張不全例のAHI
を改善す ることも報告されている415).ACE
阻害薬は軽~中等度 の心不全患者の睡眠の質を改善させる可能性があり286),β遮断薬(カルベジロール)は,
NYHA
Ⅱ~Ⅲ度の慢 性心不全患者のCSR-CSA
を容量依存的に抑制すること が報告されている289),290).もちろん,これらの標準的治 療薬を十分に投与してもCSR-CSA
を認める場合も多 く,その場合はCSR-CSA
をターゲットとした他の治療 法を検討すべきである423).アセタゾラミドは,利尿作用と代謝性アシドーシス誘 発による呼吸中枢刺激作用を有する.慢性心不全に合併
する
CSR-CSA
に対するアセタゾラミド就寝前投与の効果を検討した二重盲検試験では,プラセボ群に比較して
CSR-CSA
の回数が半減し,睡眠中の動脈血酸素分圧低下度の減少,睡眠の質,日中の眠気が改善している169). 注目される薬物治療であるが,長期的に
CSR-CSA
を抑 制できるかは不明である.低左室機能で左脚ブロックや心室内伝導遅延があり,
CSR-CSA
を伴う患者では,心臓再同期療法(CRT
)に よ りCSR-CSA
が 減 少 す る こ と が 報 告 さ れ て い る168),295)-297).CRT
による左室ポンプ機能の改善は,肺 うっ血,循環時間の延長,交感神経活性亢進による呼吸 化学受容体感受性の亢進を是正することでCSR-CSA
を 減少させると考えられる.CRT
によるCSR-CSA
の減少 が心不全に対するCRT
の有効性へ寄与しているかにつ いては,今後の検討が必要である.② 陽圧呼吸治療
① OSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸治療の効果 心不全患者の
OSA
に対する最も有効な治療法は,心 不全のないOSA
患者と同様にCPAP
である.CPAP
は睡 眠時の上気道の閉塞を防いで無呼吸を改善し,低酸素血 症,睡眠の分断化を是正し,交感神経活性を低下させ る297),424).さらに胸腔内圧の陽圧化により左室の後負荷 軽減と,静脈灌流量の減少による前負荷軽減が得られる ため,OSA
の治療のみならず,心不全自体の治療とし ても効果的である.CPAP
は,OSA
を伴う心不全患者に 対する短期間の検討において,無呼吸と心機能の改善効 果に加え145),425),交感神経活性の低下426),圧受容体反 射の改善427),心室期外収縮の減少428)が認められている.左室拡張機能の改善効果429)もあり,心不全の進展を阻 止する効果が期待できる.
OSA
を伴う収縮障害の心不全患者を対象に,CPAP
の 短期的な効果を示した無作為割付け研究の成績があ る145),242),425).適切な薬物療法下においてもLVEF
が45%以下である
OSA
合併心不全患者に対する1か月間のCPAP
は,収縮期血圧,心拍数の低下,左室収縮末期径 の減少とともにLVEF
を9%増加させ426),3か月間の 表 32 心不全患者における睡眠呼吸障害のスクリーニングクラスⅠ
◦すべての心不全に対する簡易モニターによる睡眠呼吸 障害のスクリーニング(エビデンスレベルC)
クラスⅡa なし クラスⅡb
なし クラスⅢ
なし
CPAP
によりLVEF
の5%増加と夜間の尿中ノルエピネ フィリン排泄の減少を認めている145).一方で,auto CPAP
治療とsham CPAP
に割付けた6週間のクロスオー バー試験では,auto CPAP
治療群の心機能指標やpeak VO
2,6分歩行距離はsham CPAP
群と差を認めていな い242).この研究ではCPAP
の圧調整がなされず,コン プライアンスが低かったことが関係した可能性が指摘さ れている.
OSA
を合併する心不全患者の長期予後に対するCPAP
の効果を検討した成績は少なく,無作為割付け試験は実 施されていない.平均2.9年の観察において,AHI
≧15 でCPAP
未施行の群は,AHI
<15の群に比べて有意に 死亡率が高いが,CPAP
施行群では死亡例を認めていな い24).平均25か月の観察において,OSA
を合併した心 不全患者の予後は,CPAP
のコンプライアンスが高い場 合に有意に改善することが我が国から報告されてい る430).中等症以上のOSA
を合併する心不全患者に対し てはCPAP
を適応すべきであるが,日中の過度の眠気が ない患者への導入やコンプライアンスの維持は必ずしも 容易ではない.治療する意義を十分に説明し,適正圧を 調整(CPAP titration
)してAHI
を少なくすることは,コンプライアンスを維持するために重要である25).軽症 から中等症の
OSA
には口腔内装具の有効性が認められ ているが,心不全患者でも有効かは不明である.CPAP
の忍容性が低い場合は考慮する431).② CSR-CSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸治療
CPAP
がCSR-CSA
の減少に有効な機序は,気道陽圧 により前負荷,後負荷を軽減して心仕事量を軽減し,左 心機能の改善をもたらすことに加え,肺を拡張させて反 射性に交感神経活性を抑制し,CO
2に対する感受性を低 下させる機序や,呼気終末残気量を増加させて低酸素血 症を改善させる機序が想定される.短期間かつ少数例での研究が多いが,
CSR-CSA
優位 のCHF
に対するCPAP
の有効性を示した無作為割付け 研究の成績がある52),323),326),432),433).CPAP
は心不全患者 のCSR-CSA
を消失させ,心機能を改善させ,睡眠の質 を向上させる323),432).僧帽弁逆流の減少やANP
の低下 も報告されている52).しかし,睡眠呼吸障害の改善への 急性効果が得られないCPAP non-responder
が約50%存 在すると考えられている433).
CSR-CSA
を伴う心不全患者の予後に対するCPAP
の 効果を検証する多施設臨床試験,CANPAP
(Canadian Continuous Positive Airway Pressure Trial
)326)が実施され た.平均2年間の観察において,CPAP
群では対照群に 比較して,AHI
の半減,夜間動脈血酸素飽和度の上昇,血中ノルアドレナリン濃度の低下,
LVEF
の上昇,6分 間歩行距離の短期的な改善が得られたが,死亡または心 臓移植率は両群間で有意差を認めず,予後の改善は証明 されなかった.そのため,CSR-CSA
が優位な心不全患 者に対してルーチンにCPAP
で治療することは推奨でき ない.しかし,最近報告されたCANPAP
試験の追加解 析では,CPAP
開始3か月後にAHI
が15未満に改善した 群は,しなかった群より有意に予後の改善が得られてお り,CPAP responder
の予後は良好であることが示されて いる325).CPAP
が他の治療法に比べて安価であることを 考慮すると,CSR-CSA
合併心不全患者にはまず試みて よい治療と考えられる.一方,
CPAP non-responder
への対策として,吸気と呼 気を別々の陽圧に設定して換気を補助する2層性気道陽 圧(bi-level PAP
)がある.吸気陽圧による低呼吸時の 換気補助や強制換気による無呼吸時のバックアップの機 能により,その有効性が報告されているが434),435),逆にCSR-CSA
を増悪させるという報告もある335).さらには 患者の呼吸に同調して陽圧をかけ,患者の換気量により 自動的に適正サポート圧を選択する順応性自動制御換気(
adaptive servo-ventilation
:ASV
)による治療法が開発 され,その有用性が期待されている331),336),339).CSR-CSA
を認める心不全患者に対して酸素吸入,CPAP
,bi-level PAP
,ASV
の一晩の急性効果を比較した報告では,ASV
によるAHI
,覚醒指数,睡眠構造の改善が最も大 きかった331).ASV
で1か月治療した報告では,AHI
は 有意に低下し,客観的眠気指数は有意な改善を認め,BNP
,尿中カテコラミン排泄量も有意に低下してい る336).ASV
群とCPAP
群を無作為割付け6か月間追跡 した結果,ASV
はCPAP
よりも高い忍容性がみられ,AHI
をより低下させ,LVEF
の改善,QOL
指標の改善も 有 意 に 高 い こ と が 報 告 さ れ て い る339). 我 が 国 で もCPAP
,bi-level PAP
でCSR-CSA
の改善が不十分な症例 へのASV
の急性効果が確認され340),さらに最近,ある 程度以上の割合でOSA
も合併するCSR-CSA
患者におい てASV
が心機能,運動耐容能,QOL
を改善することが 報 告 さ れ た337). 心 不 全 患 者 の 多 く に はOSA
とCSR-CSA
が共存しているが,ASV
は両者の割合にかかわら ずAHI
を確実に低下させうることから,その有用性が 期待される.しかしながら