3.研究方法
5. 得られた成果と今後の課題
今回の実践研究の成果を確認するために、生徒に4件 法のアンケートを実施した(3.3 参照)。その結果と考察 を以下に示す。
まず、図8から、生徒が自ら繰り返し対話文を読んで いたことが分かる。対話文にセリフを付け加えるために は「誰のセリフに」「どのセリフに」「どのような内容を」
等を考える過程で何度も繰り返し英文を読み返す必要が あったと考えられる。
図8 生徒のアンケート集計結果1
次に、図9、図 10、図 11 から、生徒が教科書の対話 文を深く読むことにつながったと考えられる。99%の生 徒が「対話文を深く読むことにつながった」、95%の生 徒が「登場人物の気持ちを理解することにつながった」、 95%の生徒が「対話の流れ(展開)について学びがあっ た」と答えている。
中学校英語科1学年の教科書の創造的な活用
図9 生徒のアンケート集計結果2
図 10 生徒のアンケート集計結果3
図 11 生徒のアンケート集計結果4
生徒の自由記述「教科書本文の内容を深く読むことに よって今まで考えた事のなかった登場人物の気持ちを読 み取ることができてよかった」「話の登場人物の経験し てきたことや、その人の情報などを知り、どんな気持 ちなのかを深く考えることができた。『この文章は何を 伝えたいのか』がだんだん分かってきた。」「1文付け足 すのは、ただ付け足すのではなく、登場人物の気持ちも 考えなければいけない。その文章をたくさん読みこん だ。『こんなことを伝えるにはどうしたらいいかな』と か『どんな単語が適切かな』とか考えながら1文を付け 足した。」などから、対話文の原文のセリフを手掛かり
に登場人物の気持ちを考えようとすることで深く読むこ とができるようになってきていると言える。さらに、「た だ本文を読むよりも、付け足していく方が深く読めてよ く理解できるようになれたと思う」「この活動を行って、
登場人物の心情やその対話文の主題(テーマ)について 深く考えること、読み取ることができるようになった。
また、対話の流れから、どこに付け足すのが効果的かな どという難しいことも考えることができたので、より充 実した読解になった。」「決まった文章に何かしら気持ち や表現を考えて文を付け足すというのは難しいことだっ たけれど、英文を読解する力がついたなと感じている」
などからもセリフを付け加える活動が生徒が対話文を深 く読むことにつながっていると言えるだろう。
「英検の文章やテストの本文をはやく理解することが できた」「『これってどういう意味かな?』『このとき○
○はどういう気持ち?』などを考えるようになった」と いう生徒の記述から、普段のリーディングへのよい影響 があったことも分かった。また、「他の人たちがどう考 えたか、自分との相違点等を見つけるのは、より学習に 深みが増したように思う」という感想から、生徒の発想 や意見をグループや全体で共有することで生徒の発想や 視点が広がり、学びが深まっていることも分かった。
次に、論理的思考力の向上に関しては、図 12 から、
92%の生徒が「論理的な思考力を身に付けることにつな がった」と感じていることが分かる。
図 12 生徒のアンケート集計結果5
「文のつながりを意識することができ、普段からして いる1対1の対話でもつなげて話すという部分で生かさ れたと思うので、とても英語力を身に付けられるよい きっかけになったと思う」「つながりのある文にするた めに、接続詞などの使い方が分かった。また、1文を付 け足すときに、文の流れを意識することができた。その 文の流れを意識するために、繰り返し対話文を読み返せ た。」などから、この活動を通して、原文のセリフをよ り詳しく説明したり、対話の流れを理解し、前後のセリ フとつながりがあるようにセリフを付け加えたりするこ とができるようになっていることが窺われる。論理的思
- 94 - 考力が劇的に高まったとは言えないが、中学2、3年生 で身に付けるべき論理的思考力の素地を養うことにつな がったと考えられる。生徒が実際に付け加えたセリフを もとに、以下に3つの例を挙げる。
例1:We love that mountain. It's Japan's symbol.
生徒は、登場人物の主張“We love that mountain.”
に対する理由(日本人が富士山のことを好きな理由)が 欠如していることに気付くことができている。既存のセ リフに対して、It's Japan's symbol. を付け加えること で、日本人が富士山のことを好きな理由をアメリカ人の ブラウンさんに伝えることができている。
例2:Between July and September. We can see very beautiful views in summer. It's fantastic.
生徒は、アメリカ人のブラウンさんが“When can you climb it?”と質問したのは富士山の登山に興味を もっているからだと捉え、それに対する応答が“Between July and September.”だけでは説明が不足している と 考 え て い る。 そ こ で、“We can see very beautiful views in summer. It's fantastic.”というセリフを入れ ることで、富士山を登る魅力をブラウン先生に伝えるこ とができている。
例3:We can't climb it during winter. It's dangerous.
But the view in winter is beautiful.
「アメリカ人のブラウンさんに富士山の魅力を伝える 対話文にする」という目的を踏まえ、生徒は「冬には危 ないから登山できない」という否定的な内容で説明を終 えるのは適切ではないと考えている。“But the view in winter is beautiful.”というセリフを付け加えることで、
対話文全体が富士山の魅力を伝えるという点で一貫して いる。
このように登場人物の気持ちを理解した上で、登場人 物の主張に対する理由や根拠の欠如に気付いてその内容 を付け加えたり、より説得力のある根拠を付け加えたり することができていた。つまり、論理的思考力を働かせ て、登場人物が伝えたいことがより明確に相手に伝わる セリフを考えることができたと思われる。
一方、生徒がセリフを付け加えた後の発表の仕方やそ の共有の仕方に課題が残った。生徒が登場人物の気持ち を深く考えて理解した後の発表なので、登場人物になり きり、表現することが必要である。また、そのセリフの 可否を確認することも必要である。セリフの可否につい て考えたり、伝えたい内容の表現方法を思考して共有し たりすることで、生徒全員にとって学びの機会にできる。
より効果的な方法を検討していくことも今後の課題とし て挙げられる。
6.おわりに
本実践研究では、対話文にセリフを付け加えることに よって生徒が対話文を深く読むことができるようになる のか、論理的思考力の向上にどのような影響を及ぼすの かを検証した。「深く読むとはどういうことか」や「論 理的とはどういうことか」、「育てたい論理的思考力とは どのようなものか」を再認識する上で有意義であったと 思う。また、ワークシートや授業のビデオ等から生徒の 発話を分析・整理したことで、手立ての有効性を明確に できたと思われる。
次年度から、新学習指導要領が完全実施される。平成 20 年度改訂では4領域であったが、今回の改訂で「話 すこと」が「話すこと[やり取り]」と「話すこと[発表]」 の2つに分かれて5領域になり、英語で話すことがます ます重視されてきているが、コミュニケーションを行う 目的や場面、状況等は何なのか、コミュニケーションを 行う相手はどのような文化的背景をもった人なのか、伝 えたいことを表現するためにはどのような論理構成でど の語彙や文法を用いて伝えるべきかなど考え、判断して 表現することが求められる。生徒の思考力・判断力・表 現力等の育成のために、場面や状況に合わせて4技能を 統合した活動、そのための教科書の有効活用を今後も研 究していきたい。
引用文献
文部科学省 (2018)『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)
解説 外国語編』東山書房
金子朝子・松浦伸和 (2017)『平成 29 年度版中学校新学 習指導要領の展開 外国語編』明治図書出版
横山雅彦 (2017)『ロジカル・リーディング 三角ロジッ クで英語がすんなり読める』大和書房
本多敏幸 (2018)『中学校 新学習指導要領 英語の授業 づくり』明治図書出版
田中武夫・田中知聡 (2018)『主体的・対話的で深い学び を実現する!英語授業の発問づくり』明治図書出版 田中武夫・田中知聡 (2009)『英語教師のための発問テク
ニック 英語授業を活性化するリーディング指導』大 修館書店
(2020年8月31日受付)
(2020年9月30日受理)
生徒の資質・能力をどのように育むか
Ⅰ.はじめに
急速な情報通信技術(ICT)の進展やグローバル化な ど,変化の激しい社会を生きる子どもたちに,確かな学 力,豊かな心,健やかな体の調和のとれた「生きる力」
を育成することがますます重要になっている。新しい学 習指導要領においては,各学校が今後,教育課程を通じ て子どもたちにどのような力を育むのかという教育目 標を明確にする必要性を指摘している(1)。また,資質・
能力の要素として,「何を知っているか,何ができるか
(個別の知識・技能)」「知っていること・できることを どう使うか(思考力・判断力・表現力等)」「どのように 社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びに向 かう力,人間性等)」の三つの柱全体を捉え,教育課程 を通じてそれらをいかに育成していくかという観点から 構造的な見直しを行い,教育課程について「何を知って いるか」という知識の内容を体系的に示した計画にとど まらず,「それを使ってどのように社会・世界と関わり,
よりよい人生を送るか」までを視野に入れる必要がある としている(2)。
これからの教育には,社会がどんなに変化し予測困難 な時代になっても,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら 考え,判断して行動し,それぞれに思い描く幸せを実現 するための資質・能力の育成が求められている。そのた
めには,教員自身が,新学習指導要領に示された,「主 体的・対話的で深い学び」の視点による授業改善を行い,
新たな学びを工夫する必要がある。
ここでは,教員の授業改善の意識の高まりが,教員が 自由に意見交換できる場を設けることにつながり,それ が生徒の資質・能力の育成を目指した活動へとつながっ たことを,2017 ~ 19 年度までの 3 年間,筆頭著者が校 長として勤務していた富山県立砺波高校における実践を 踏まえて報告する。