第 5 章 画像計測による微小傷の検出
5.2 画像処理による傷検査
5.2.2 従来方法
実用化されている画像処理による製品検査方法では,製品の「傷」,「割れ」,「しわ」,
「ゴミ」,「汚れ」といった不連続部を「異物」としてみなし,画像中の異物を認識・分 析する「物体認識方法」を適用することにより,製品検査を実現している.そこで,本 節では,画像処理による物体認識方法を述べ,さらにこれらの方法が製品検査に適用さ れた事例について述べる.
画像処理による傷検査方法として,「背景差分法」,「周波数解析を用いた方法」,「機 械学習を用いた方法」が挙げられる.本節では,それぞれの概要および製品検査に適用 された事例について述べる.
背景差分法
背景差分法は最も基本的な物体認識方法である.背景画像を事前に撮影し,この背景 画像と入力画像の各画素間において輝度値の差分を計算し,輝度変化を観察する.この 輝度変化に閾値を設けることで,入力画像上に生じた一定以上の輝度変化を物体の移動 によるものとみなし,物体領域として抽出する(図 5.2)[33][59][60].
図 5.2 背景差分法のコンセプト
図 5.3に背景差分法によるプリントパターン上の欠陥検査システムの事例を挙げる.
通常,背景差分法では背景画像を更新しないため,撮影機器の位置が変動すると背景画 像と現在の入力画像にズレが生じ,前景を正常に抽出できなくなる.これに対応するた め,この事例ではテンプレートマッチングを適用し,微小位置ズレを修正する処理を行 っている[60].
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また,背景差分法では照明変化などの原因により,画面全体の明度が著しく変化する 場合も正常に検査が行われないが,この事例では検査面を暗室化し,照明環境を一定と することで対応している.
図 5.3 プリントパターン上の欠陥検出
周波数解析を用いた方法
図 5.4に周波数解析の概念図を示す.横軸に時間,縦軸に観測量をとった信号を時間 領域の信号と呼ぶ.横軸に周波数,縦軸に観測量をとった信号を周波数領域の信号と呼 ぶ.入力信号として時間領域に存在する任意の信号が与えられたとき,この入力信号を 周波数の異なる複数の基本信号の合成によるものととらえ,入力信号を各周波数ごとの 部分信号に分解してこの強度を分析する手法を一般に周波数解析と呼ぶ.周波数解析を 行うためには時間領域のデータである入力信号を分解し,周波数領域に変換する必要が ある.この代表的な変換手法としてフーリエ変換やウェーブレット変換が挙げられる.
フーリエ変換とこれを高速化した高速フーリエ変換(FFT)は周波数解析でもっとも 広く用いられる変換手法であり,基本信号として正弦波・余弦波を用いる.これに対し てウェーブレット変換では基準となる信号にウェーブレットと呼ばれる信号を用いる.
フーリエ変換は変換過程において時間的な情報が失われてしまう問題を持っている.こ のため,時間領域のある時間におけるデータが周波数空間でどの位置に影響を与えてい るか特定することが難しい.この問題に対する対策として,フーリエ変換を行う範囲を 限定した短時間フーリエ変換やウェーブレット変換が用いられる.
また,二次元画像などの離散データに適用される離散フーリエ変換はフーリエ変換と は異なり,分解する周波数帯域が限定されている.このため,極端な高周波成分や低周 波成分はうまく検出できない場合がある.
Input Image
Background Image
Difference
5.2 画像処理による傷検査
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図 5.4 周波数解析のコンセプト
検査面に存在する明度変化を入力信号としてとらえて,フーリエ変換,ウェーブレッ ト変換などの信号解析手法を適用することで,検査面に存在する輝度分布のパターンを 分析し,表面傷などの異常パターンを検出する研究が行われている.
具体例として,ヘアライン仕上げ面の欠陥検出に際して,フーリエ変換を用いてヘア ライン条痕と欠陥を分離し,欠陥を検出している研究[61]や,カラーディスプレイの欠 陥検出に際してガボールウェーブレットを利用したウェーブレット変換を用いてカラ ーフィルタの膜厚ムラを検出し,ムラを強調表示するシステムの開発[62]が行われてい る.これらの手法は,入力画像に周期的なパターンが認められる時にとくに有効である.
しかし検査面の形状が複雑な場合は,正常パターンの強度に対して傷による信号の強度 が弱くなるため,傷による信号が確認できなくなる.また,時間領域の画像と周波数領 域の画像には,画像全体では対応関係があるものの,画素単位では対応関係が無い.こ のため,検査面が面性状の異なる複数の領域から構成されるとき,領域毎に検査感度を 調整することが難しい.
- 94 - 機械学習を用いた方法
機械学習とは,環境(制御対象)から得られるサンプルデータ集合を分析することで,
データの規則を抽出し,環境に適応していく枠組のことである.学習の指針となるサン プルデータの与えかたの違いから以下の様に分類される.
教師あり学習 ニューラルネット,サポートベクターマシン 教師なし学習 クラスター分析,主成分分析,自己組織化マップ 強化学習 TD学習,Actor-Critic,Q-Learning
教師あり学習では,サンプルデータとして入力データとこれに対応する正しい出力デ ータの組が複数与えられており,入力データと出力データの間に存在する未知の伝達関 数を学習により獲得していく.このとき,あらかじめ与えられる理想的な出力値を「教 師データ」と呼ぶ.これとは逆に,教師なし学習ではサンプルデータとして入力データ のみを与え,教師データは与えない.強化学習では,明示的に教師データが与えられる ことはないが,教師データのかわりに「報酬」というスカラー量が与えられ,これを手 がかりとして学習を進める.強化学習では,試行錯誤のなかで報酬をもっとも多く得ら れるような行動指針「政策」を獲得することを目的としている.
機械学習を用いた製品検査の事例として,はんだの外観検査[63]が報告されている.
これは,はんだの外観検査にニューラルネットを用いることで,不良179個を含む508 個のサンプルについて,不良品認識率100%,良品認識率95.7%という結果を得ている.
この手法は,学習の過程がブラックボックス化してしまうため,過学習による汎化性能 の低下が問題となる.また,結果に解釈をつけることが難しく,検査結果に対して信頼 が得づらい.
図 5.5 ニューラルネットを用いたはんだの外観検査
5.2 画像処理による傷検査