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当事者からの意見

ドキュメント内 新潟大学学術リポジトリ (ページ 36-60)

-補助者による情報保障の確立を-

社会福祉法人 日本盲人会連合 会長 竹下義樹

1.視覚障害者にとっての情報保障

 視覚障害者にとって永久の課題は情報保障である。外出時における安全確保といえども,その 本質は情報保障である。なぜならば,歩行時の段差や路面の状況,障害物の有無,自動車等の接 近は,全て情報であって,それらの情報が視覚によって獲得できないからこそ,安全が確保でき ないのである。ましてや,人間としての尊厳を保ち,生活の質を維持・向上させ,自己実現をは かるためには,日々の情報は極めて重要な意味をもち,情報の的確性や充足が生活の質を決定づ け,自己実現の基礎となるのである。とりわけ,文書による情報は,教育にとどまらず,人間の 成長を支え,想像力を身に付けるために重要であることは,今更指摘するまでもないことである。

 「点字」が考案され,録音技術が進歩し,さらには対面朗読を含めたボランティア等の支援が 定着した今日においては,視覚障害者は,職業的選択を広げることができるようになったし,趣 味や教養を通じた豊かな感性を育てることもできるようになった。私事ではあるが,14 歳で失 明した私にとって,点訳書,録音図書,そして対面朗読サービスが得られたからこそ,大学に進 学し,弁護士という職業に就くことができたのであって,そのことは,今日においては,すべて の視覚障害者にとって,共通の条件となっているのである。それだけに,この度の渡辺准教授に よる調査・研究は,現状の問題点を改めて分析し,次代に求められる人的支援を探る上で重要な 意義をもつことになるはずである。

2.現状の課題

 わが国においては,点字に関する文法は確立しているし,点訳者のためのテキストやカリキュ ラムも存在するが,それが全国的に共通したテキストやカリキュラムとして認証され,あるいは 定着しているかが気になるところである。とりわけ,触図については,視覚障害者が位置関係や 全体像を把握する上で有用であるにもかかわらず,盛り込むべき情報の量や表示方法等が未だ統 一されていない。また,触図を使いこなすための訓練もあまり行われていないため,その有用性 が十分には理解されず,触図の普及そのものも拡大していない。

 録音図書の作成においても,文字情報以外の情報をどのように扱うかや,使用されている漢字 の説明の要否等についても,全国的に統一されているとは言えない。

 近年,特に問題となりつつあるのは,代読・代筆サービスである。たとえば,金融機関に出向 いた際の預貯金残高の確認や払戻手続きに必要な書面への署名,賃貸借契約や売買契約等の締結 における代読と代筆等が受けられるか否かによって,日常生活や社会生活に支障を来す事態が発 生しているのである。預貯金の預け入れや払い戻しについては,金融庁の指導を受けて,全国の 金融機関が代筆・代読のシステムを確立しつつあるが,ローン契約,クレジット契約,保険契約

等の重要な契約書作成等については解決の目処は立っていない。郵便物の確認や商品選択の際の カタログの代読ないし申込書の記載等については,代読・代筆するためのサービスを障害者の日 常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律において,地域生活支援事業としての意思疎 通支援事業の中で行うことができるとされているが,未だほとんどの自治体において未実施の状 態である。そのため,視覚障害者のほとんどは,親族による支援が受けられない場合に,極めて 困難な状況に陥るのである。

3.提言

 以上のような視覚障害の特性と情報保障における支援の現状を,渡辺准教授による調査研究の 結果を参考として考えた場合,以下のような取り組みを提案するものである。

(1) 点訳・音訳のテキストやカリキュラムを全国的に統一されたものとして確立し,文部科学省 及び厚生労働省の認証を取り付ける。また,専門性の高い文献等の点訳ないし音訳ができる 専門家を養成し,あるいは短時間で点訳や音訳ができる体制(短い選挙期間中に選挙公報を 点訳ないし音訳する等)を作ることが必要である。そして,それらの者が安定的に点訳や音 訳の業務を継続的に遂行できるシステムを検討することが急務である。

(2) 触図の重要性ないし有用性を関係者間で確認し,記載内容や記載方法,あるいは情報量に関 する研究を行い,点字の文法に準じた規則(約束事)を作成し,これを全国的に統一された ものとする。

(3) 意思疎通支援事業としての代読・代筆が全国的に実施されるためには,意思疎通支援事業を 自立支援給付(個別給付)として位置づけるとともに,代筆者や代読者を養成するためのテ キストやカリキュラムを,これも全国的に統一されたものとして確立する。さらには,権利 義務の得喪にかかわるような契約書等の作成にあたっては,一定の資格を有する者(弁護士,

司法書士,行政書士,社会保険労務士等)による代読・代筆を公的に保障する制度が早急に 検討されるべきである。

参考文献

参考文献は,報告書全体を通じて初出順に番号を振り,初出した章ごとにまとめた。

【第1章】

[1]  日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会(編),高齢者と障害者のための読み書き 支援-「見る資料」が利用できない人への代読・代筆- ,小学館 ,東京 ,2014.

[2]  厚生労働省,障害福祉サービスの内容,

   http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/naiyou.html [3]  厚生労働省,地域生活支援事業,

   http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/

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[4]  本間一夫 ,指と耳で読む ,岩波書店 ,東京 ,1980.

[5]  全国視覚障害者情報提供施設協会 ,点訳のてびき第 3 版 ,全国視覚障害者情報提供施設協 会 ,大阪 ,2002.

[6]  全国視覚障害者情報提供施設協会 ,初めての音訳第 2 版 ,全国視覚障害者情報提供施設協 会 ,大阪 ,2013.

[7]  サピエ図書館 ,https://library.sapie.or.jp

[8]  渡辺哲也,加賀大嗣,山口俊光 ,“ 触図作成サービス・ライブラリの国際調査 ,”ヒューマ ンインタフェースシンポジウム2016,pp.83-86,2016.

[9]  大内進 ,渡辺哲也 ,“ 英国における触図作成機関-その組織と作成手順の概要 ,”視覚障害 その研究と情報 ,No.197,pp.1-10,2004.

【第3章】

[10]  統計局ホームページ ,地域区分 ,http://www.stat.go.jp/data/shugyou/1997/3-1.htm

[11]  厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部(編), 平成 18 年度身体障害児・者実態調査結 果 ,厚生統計協会 ,東京 ,2008.

[12]  厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 ,平成 23 年生活のしづらさなどに関する調査(全 国在宅障害児・者等実態調査),

   http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa.html

【第4章】

[13]  日本盲人会連合 ,視覚障害者の同行援護事業に関する実態把握と課題における調査研究事 業報告書 ,日本盲人会連合 ,東京 ,2014.

   http://nichimou.org/wp-content/uploads/2014/02/doukouengohoukokusyo.pdf

[14]  厚生労働省 ,介護給付費等の支給決定について ,障発 0928 第 1 号 ,2011.

   http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/

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[15]  渡辺哲也 , 山口俊光 , 南谷和範 ,“ 視覚障害者のパソコン・インターネット利用状況調査 2013,”電子情報通信学会技術研究報告 ,Vol.114,No.217,pp.25-30,2014.

[16]  金融庁 ,主要行等向けの総合的な監督指針 ,    http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/

[17]  金融庁 ,中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 ,    http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/chusho/

[18]  金融庁 ,障がい者等に配慮した取組みに関するアンケート調査の結果について(速報値),    http://www.fsa.go.jp/news/27/ginkou/20150722-1.html

【第6章】

[19]  高津区役所保健福祉センター ,ハートリレー第 11 回点訳を通した支え合い・学び合い「点 字サークル芽の字会」,

   http://www.city.kawasaki.jp/takatsu/cmsfiles/contents/0000035/35874/heart-11p3.html [20]  アメディア ,点訳とは?~最新点訳ノウハウ紹介 ,

   http://www.amedia.co.jp/product/pc-soft/support/tenyaku.html [21]  音ボラネット ,音訳を志す方へ ,http://www.onyaku.net

[22]  AMT ワールド ,テキストデータを使ったデイジー図書の製作に役立つ(公共図書館),    http://wp.amtworld.co.jp/blog/user/library

[23]  点字利用と読書に関するアンケート調査委員会 ,点字利用と読書に関するアンケート調査 報告書 ,日本点字図書館 ,東京 ,2014.

   http://www.nittento.or.jp/images/pdf/information/tenji_enquete.pdf

【第7章】

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ドキュメント内 新潟大学学術リポジトリ (ページ 36-60)

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