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廃校を活用した新産業創出のための施設づくり

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5.   廃校活用コラム

5.5.  廃校を活用した新産業創出のための施設づくり

 

名古屋工業大学  森  政之   

(1)  はじめに

学校施設は、我が国の将来を担うことになる児童生徒が一日の大半を過ごす特別な施 設であるが、その一方、貴重な社会資本でもある。廃校となった学校施設を社会資本と して有効活用していくことは、21世紀が循環型社会として発展していくことを考えれ ば、ごく当然のことである。そこで、廃校後の用途をどうするべきかを検討することが 必要になるが、この検討は、地域ごとの社会的ニーズを踏まえて行われることとなる。

地域において、コミュニティーの核として維持することが最も重要であれば、社会教育 施設や文化施設として広く地域住民を対象として活用されていくであろうし、専門的な 機能を果たす施設、例えば医療施設や福祉施設が地域にとって必要であれば、専門的な サービスを提供する施設として活用されていくであろう。廃校施設が新産業創出のため の施設として活用される場合は、後者のケースに近いと思われる。以下、廃校施設が新 産業創出のための施設として活用される社会的な背景を述べ、続いて、活用のための条 件、学校施設が持つ優位性について実例をもとに検討する。最後に、今後の課題につい てまとめることにする。 

なお、本稿では、 新産業創出のための施設 を 起業家支援を行う施設 と捉えて おり、地元の特産品等を販売、製造する 商業施設 や 加工場施設 として利用され ているものを含めていない。このような、広い意味での 新産業創出 に関する考察は 別途行われるべきと考える。 

 

(2)  社会的背景

近年、国や地方自治体が従来の工業団地とは異なる「サイエンスパーク」や「インキ ュベーション施設1)」(以下、「インキュベーション施設等」という。)を全国のあちこ ちに建設している。この背景には、全国規模の 産業構造の転換 があり、具体的には、

産業のライフサイクルや商品の開発サイクルが短くなり、新しい独創的なアイディアを 持った企業や新産業を次々と興していくことが社会的要請となっている。このため、イ ンキュベーション施設等を建設し、ベンチャー企業等に対し産学官連携で支援を行い、

もって新産業創出を図っているものである。このようなインキュベーション施設等の整 備は、近年特に需要が高まっており、行政にとってプライオリティーの高い課題である が、新たに用地を確保して施設を建設することは困難であることから、条件が満たされ れば、廃校の活用が魅力的なオプションとなる場合があると思われる。 

 

  71 (3)  活用のための条件

インキュベーション施設等を計画するに際しては、いくつかの基本的な条件があると 思われる。一つは、施設に入居するベンチャー企業等を支援する体制が確立されている ことである。また、もう一つは、インキュベーション施設等の周囲に、高等教育機関、

研究機関が存在し、これら機関とベンチャー企業等が頻繁に連絡を取れることである。

この条件を廃校施設の一般的な立地状況に照らし合わせてみると、廃校施設の一般的な 立地状況は、これらインキュベーション施設等の基本的な条件とよく一致することが分 かる。例えば、一般に、学校施設は市街地の中心付近に配置されており、ベンチャー企 業を支援する体制を確立しやすい。具体的には、金融機関や経済団体等の支援機関から のアクセスが比較的良いということである。次に、学校施設は、他の高等教育機関や研 究機関等とともに文教地区を構成していることが多く、これらとの連絡がとりやすいこ とが掲げられる。これらの理由のため、廃校施設が新産業創出のための施設として活用 されているケースが実際にあり、今後も、特に都市部で増加するものと考えるものであ る。 

また、立地条件に加え、整備する主体が新産業創出について明確な方針を持っている ことも基本的な条件として掲げられる。インキュベーション施設等においては、入居す るベンチャー企業の間での切磋琢磨や情報交換も成長を促す要素と考えられており、イ ンキュベーション施設等を計画する場合には、どのような分野の新産業を創出したいの か、という明確な方針がなければならない。例えば、IT分野の新産業創出を目指す場 合もあろうし、バイオ・薬学分野の新産業創出を目指す場合もありうる。明確な方針を 持つためには、地域ごとの産業構造、成長分野の把握と共に、国レベル、自治体レベル の産業政策との整合性を考慮する必要がある。加えて、インキュベーション施設等に入 居するベンチャー企業が国や自治体の支援を得やすくすることも、インキュベーション 施設等の成功の条件である。 

ハード(施設設備)に関しては、インキュベーション施設では、特別な条件は無いと 考えられる。一般的なオフィスとして利用できれば支障はないので、用途変更のための コストは比較的低いと考えられる。しかしながら、先に述べたとおり、入居しているベ ンチャー企業の間の切磋琢磨や情報交換を活発にすることが求められることから、交流 のための空間や、発表会・セミナーのための空間を確保することが必要であろう。 

 

(4)  学校施設の優位性

次に、廃校をインキュベーション施設等として活用する場合の、学校施設の優位性に ついて述べたい。インキュベーション施設等として成功するには、入居するベンチャー 企業等が、金融機関や経済団体等の支援機関からの様々な支援を得やすくなっている必 要があることは既に述べたが、これら直接的な支援に加え、地域社会からの有形無形の 支援・応援が得られることも重要である。地域社会が、新産業創出を求めベンチャー企

業等を支援していくことは、ベンチャー企業等のモラルを高めていくと考えられる。こ の観点から学校施設を眺めると、学校施設が地域社会における「コミュニティの核」で あり、廃校後も引き続き「コミュニティの核」としての存在を求められる場合が多いこ とから、地域社会からの有形無形の支援を得やすいと考えられる2)。このように、廃校 をインキュベーション施設等として活用する場合の優位性は認められる。 

ハード面でも、各教室における日照の良さ、天井の高さ、さらに最近ではインターネ ット接続が可能となっていることから、廃校をインキュベーション施設等として活用す る上での優位性があると考える。例えば、東京都荒川区の西日暮里スタートアップオフ ィス(旧荒川区立道灌山中学校)では、比較的小規模の改修工事で実際に転用が図れて いた(現地調査の結果による)。企業が入居している部屋(転用前は普通教室)を観察 されていただいたが、日当たりがよく、良好なオフィス空間であった。 

 

(5)  今後の課題

今回の「廃校施設の実態及び有効活用状況等調査研究」の集計結果によると、平成4 年から平成13年までの廃校件数は2,125件であったが、そのうち新産業創出のた めの施設として活用されているものは5件のみであった。しかしながら、今後、都市部 で廃校が生じる場合、インキュベーション施設等として活用される事例が増えていくも のと考えられる。 

今後の課題としては、第一に、インキュベーション施設等に入居しているベンチャー 企業等に対する支援をいかに充実させていくか、ということである。起業の初期段階で は、経営面でのアドバイスやトレーニングが必要な場合が多い。産学官一体となって、

このような支援を充実させていくことが施設の評判を上げ、新産業創出につながるもの と思われる。第二の課題としては、地域住民からの有形無形の支援を如何にインキュベ ーション施設等の運営に活かすか、ということである。地域住民は、「コミュニティの 核」としての何らかの役割の継続を期待していると思われるが、期待と支援は一体のも のであり、期待がもてなくなった場合には、支援は得られなくなる。学校施設としての 優位性を維持するためには、運 営において、地域住民の期待を失うことのないよう細心 の注意を払うべきと考える。 

 

1)「インキュベーション」の本来の意味は「卵を孵化させること」であるが、この場合は、「ス タートして間もないベンチャー企業が施設に入居し、早く自立できるよう経営面、資金面の様々な支 援を得ていくこと」を指している 

 

2)「廃校施設の実態及び有効活用状況等調査研究」で行った「廃校リニューアル50選」への応 募全128事例の集計結果によると、廃校施設が、地域住民を主な利用者とする「社会教育施設」(全 体の21%)や地域間の交流を進める「体験交流施設」(同17%)として活用されている事例が多

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