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ドキュメント内 小・中学生の学校ストレスの日中比較研究 (ページ 44-74)

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Fig6−1友人選択に関わる3要因の重要性の発達的変化    Epstein説に基づき作成

 小学校高学年では同年齢要因の重要性が最も高くなる。しかしその後は,

子どもの興味・関心が分化し,その興味・関心のもとに集まる,年齢を超え た集団の中で友人を選ぶようになり,同年齢要因の重要性は低下していく。

類似性(内面的)の重要度は初めは単調に増加するが,中学生になった頃を ピークに以後漸減傾向を示す。このことについて,幼児期は好きな遊びが同 じだというような表面的な特徴に基づいて友人選択を行なうが,年齢が増す とともに内面的な特徴が分かるようになり,性格や態度の類似性を求め始め る。さらに友人間のストレスや葛藤に対して上手に対処できるようになると 類似性のない友人との問にも類似性をつくり出すことができるよう1 なる。

また自分とは異なった個性を友人に求め,お互いにその個性を尊重すること ができるようになるとEpstein(1989)は指摘している。

 また,本格的なギャング・エイジはほぽ小学4年生ぐらいから始まり,5

〜6年生でピークに達成し,中学に入ると生徒たちの関心は自分の内面に向 けられ,少数の親密な友人を求めるようになり,ギャング集団は次第に解体

していくことが多い(小林,1968)。ギャング・エイジの時期になると子ど       42

もたちは家庭生活における興味がしだいに減じ,同年輩の友人と生活するこ とを好み,仲問と一緒に行動することが楽しく,ひとりぼっちで仲間はずれ にされることが何よりも大きな悲しみとなってくる(岩川・杉村・本多・前 田,2000)。行動の枠組みと言う観点から見ていくと,幼児期の子どもの行 動の枠組みは大人からの影響を強く受けていたが,学童期に入って友人の持 っ行動の枠組みにその力を譲っていくと考えられる。この時期の行動は未熟 であるが,子どもたちは,これらギャング集団の中での諸活動を通じて基本 的な社会的知識,技能,感情,態度を学習していく。つまり,このような活 動は児童の社会性の発達にはきわめて重要な経験活動である(高野,1969)。

 中学(思春期)に入ると,性を含んだ新たな自分に出会うためには,同じ ような発達段階にある友人からの評価の方が重要になってくる。まず同性の 友人との間で,自分と他者との相互のコミュニケーションを切実に求めるよ うになる。友人たちとの一体感の中に安心して安らげる自分を見出したいの である。発達上多少の個人差があっても,自分も友人と同じような大人の途 上にあるという漢然とした安心感を求めているのであろう(本田,2000)。

 まだ,現代の青年期における友人関係の特徴について,NHK世論調査

(1986)によると,「相手のプライドも傷つけたくないし,自分のプライド も傷つけられたくない(若者全体83。0%)」,「相手のプライバシーにも深入

りしたくないし,自分も深入りされたくない(若者全体78.9%)」,「相手の 話が面白くなくても,熱心に聞くようにしている(若者全体78.2%)」,「対 立しそうな話題は避けるようにしている(若者全体56.6%)」などの現代青 年の意識が紹介されている。

 松元(1997)は,「現代青年の交友関係の大きな特徴は,友人関係に深入 りせず,表面上は素直で調子が良く,人当たりが良いが,人と深くかかわる ことによって自分を失う不安が強く,強い連帯感を持ったり強い友情と絆を 持つことが出来ない」と述べ,小此木(1984)は「真剣に議論したり,難し い話をすることを避け,明るく気軽に話せて,お互いに傷っけあうことがな いような,距離を置いた関係」とまとめている。

 っまり集団での協調や一体感を重視する日本文化の中で,子どもたちは中       43

学に入るとギャング・エイジ時代の外的環境の影響より内的・同一性を求め るようになることが友人づくりにも影響している。そして,類似性(内面的)

は中学になったころピークに達する。さらに,学年が上がるにつれて友人関 係は落ち着いてくることやソーシャルスキルが高くなっていくことを考え ると,友人関係を代表とする対人関係的不安は学年が上がるにつれて,低く なっていくということが言える。

 中学校に入ると部活動が増え,趣味の合う・話の合う生徒らの活動が増え ることも考え併せると,中学校に入ってからの友人関係の方が小学校時代よ

りも落ち着くということが言える(Fig1・2)。

 以上の原因による相互作用で,日本の児童・生徒の友人不安得点は小学5 年生から中学3年生の発達段階において,だんだん減っていくと考えられる

(Fig1−2)。

 一方,内モンゴルの場合,小学校から中学校に入学する時期,児童・生徒 は家族と地元から離れて町の中学校の寮に入り,家族から離れ離れの自立的 な学校生活を送るのが一般的である。そのため,クラスメンバーや寮のメン バーがほとんど知らない生徒からなり,大体8人で1つの部屋に3年間一緒 に生活しながら中学校生活を送ることになる。その中で,寮メンバー,いわ ゆる友人とのつながりが大きくなって,トラブルや不快なことが起こるのは 目常茶飯事である。そのため,友人不安得点が小学6年生より一気に高くな ることが十分考えられる(Fig1・2)。

 Epsteinと小林によると,中学生時代に,友人づくりの場面で,生徒の類 似性(内面性)はピークに達し,少数の親密な友人を求めるようになって,

目本人生徒の友人不安が低くなる。ところが,人とのコミュニケーションで は,はっきりとした態度を取るのがモンゴル族では一般的である。だからこ そ,内的緊張と情動的な敏感性を発達の課題とする思春期の生徒は,友人を 代表する対人関係に不安を感じやすく,傷つきやすい。ストレスフルな状態 に陥りやすくもなる。言い換えると小学生よりも中学生の方の友人や相手の ことを気にし,無視されるか,何かを言われるか,トラブルがあった時にど うするかなど内的緊張が高まり,情動的に敏感になり,友人不安得点が高く       44

なることが考えられる。

 以上の要因の相互作用の影響で内モンゴルの生徒の友人不安が中学校段 階で高くなると考えられる。

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3.テスト不安因子の考察

 テスト不安は1950年以降盛んに研究されてきた。

 テスト不安は小学校入学,就学期を通じて評価されるという経験に対する 子どもの反応として引き起こされるといわれている(Hill,1972;S&rason,

et al.,1960)。Sarasonらはテスト不安を幼児期の両親との相互作用によ って発達した性格特徴であり,学童期を通じて次第に恒常化していくと考え

た。

 児童のテスト不安は学年を関数として直線的に増大しているという事実 に注目したHill(1966)やSarason(1964)は,テスト不安は小学生時代 を通して,成功と失敗経験を重ねる中で次第に強く学習されていくと考えた。

 荒木の一連のテスト不安調査(1978,1980,1983)では3〜4年生をピ ークとする山型曲線を示している。このことに関しては,さらに文化交差的 な研究が望まれる。

 ところで,荒木(1979)は,山型ピーク曲線を次のように説明している。

 ①テスト不安は学習される。テストの失敗経験や結果に対する罪経験の結   果,不安が学習される。発達とともに学習課題が難しくなり,学習の個   人差も生じ,テストに対する恐怖や不安が増大する。

 ②テストを多く経験したり,競争場面に立たされたりする機会が増えるに   つれて,テストに対する慣れが発達していく(不安への抵抗力)。これ   はテスト不安の学習より遅れて発達し,その強度は不安強度より低い。

 ③自我関与の高い課題を与えられると,不安が増大するという事実から,

  不安の気づきは自己意識の成長と関連している。小学校3・4年は自己   中心的な段階から客観的自己への移行期であり,自己の成績に敏感とな   る。その結果を以下に示す。この時期に不安が生じやすくなる。また中   学2・3年頃も自我の確立期,受験期であるという点で,自己の能力や   成績への関心が高まり,不安が高揚しやすい。

 そこで,①のテスト不安と③の自己意識に伴う不安の和から,②の不安に 対する抵抗力を差し引いた残りが,実際のテスト不安の量であり,小学3・

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4年生ごろと中学生頃にテスト不安量のピークが来ると考えられると述べて

いる。

 本研究では,中学1年生の得点が小学6年生より高くなっている(Fig1−3)。

小学校から中学校に進学ことにより,児童・生徒の学習内容の量や難易度が 増し,発達上の自我の確立期に関わる自己の能力にも関与してくるため,中 学生のテスト不安得点は小学生より高くなると考えられる。本研究の結果は 先行研究(荒木,1979)を支持するものと言える。

 ところで,内モンゴルの児童・生徒のテスト不安得点は目本の児童・生徒

より高い(Fig1・3,Fig1・3−1,)。この結果も先行研究(孫,松原;1991)を支

持するものである。男子女子ともに内モンゴルの児童・生徒のテスト不安が 目本の方より高い(Fig5・1,Fig5−2)。学校で行なっている学業達成とテス ト評価を非常に重視する親の考え方が影響していると考えられる。現在目本 以上に学力偏重,学歴重視であると言える中国内モンゴルでは,学校や家族 が,児童・生徒に最も注目し,強調されるのはテストで評価させる成績であ る。テスト評価が良ければ,親や教師をはじめ大人からの評価が得られ,学 級内でも級友から認められることが多い。さらに,地域社会からも認められ るようになり,良い学校・重点学校に進学することの可能性が高くなると言 われる。内モンゴルでは,親も子どもも学校へ高い期待を寄せており,地域 も,学校で行なう評価へ信頼を寄せており,児童・生徒のテストヘの不安を 高くさせることが考えられる。目本児童・生徒のテスト不安得点が内モンゴ ルより低いのは,学校側の児童・生徒への学業評価やテストの得点より自分 で問題を発見し,自分で問題を解決できるような児童・生徒の生きるカの育 成を重視していることによるものだと考えられる。塾通いが盛んな日本にお いては,子どもたちは昼に学校へ通い,夜は塾に行くのが一般的である。親 と子どもにとって,両方とも学習の場であり,従来の学校のみによる教育シ ステムから転換してきている。また,それによって学校への期待が低くなり,

塾でも勉強できるという考えが強くなってきている。それに対して,内モン ゴルでは,塾は社会的に十分には根づいていない。そのため,親と子どもの 学校への期待が高くなると言える。

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ドキュメント内 小・中学生の学校ストレスの日中比較研究 (ページ 44-74)

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