考 察
2 幼児の「つまずき」場面における教師の関わり 幼児期の情動調整の在り方として,幼児が自身の置か
れている状況と自身の感情との間で葛藤し,その中で自 律的に情動を調整しようとする姿が見出された。では自 律的であるということは大人による援助を必要としない のだろうか。自律的に情動を調整しようとする子どもに 特徴的な大人の関わり方があるのではないだろうか。そ
Table 3 幼児の「つまずき」の原因及び情動の表出の仕方についての教師の語り(全53インタビュー)
教師の語り 教師の語りの 下位カテゴリー
語りが見られた
インタビュー数 教師の語りの例
幼児の情動 の表出の 仕方
幼児が自身の情動を直接的
に表出することについて 16
「『置いてやろうね(片づけようね)。』と(みゆきが持っていた棒を)
受け取った瞬間(みゆきの涙が出てきた)。『私が大事なものをな んで置かなくちゃいけないの?』という気持ちで泣いたのだろう。」
(12月13日みゆき,教師Ⅱの語り)
幼児が間接的で複雑な情動
の表し方をしている 21
「(積木を触っている様子に)思い入れが入ってないな,何かあっ たな,と思っていた。プンって(怒っていると)いうより今日は 沈んでいた。いつもと違うぞと。」(11月1日すすむ,教師Ⅱの語り)
上記のどちらとも言えな い,または幼児の情動の表 出について言及がない
16
「私なしでも関われると(思ったので),(例えば)とおるだったり。
(中略)とおるがチューリップの水やりをしてたので,とおるに頼 んだ。(でも見てるだけで自分は取っていなかった)取れないのは 体調が悪いのも。」(11月29日まもる,教師Ⅱの語り)
幼児のつま ずきの原因
他者との関係によって対象 児の「つまずき」が起きて いる
19
「(かえでとなつこの間に)何があったんだろうなーと(考えてい た)。(かえでが)一人で砂場にいたから。なつこちゃんも一人で いたし。(かえでの)絵も心が入っていなかったから。」(1月10日 かえで・なつこ,教師Ⅰの語り)
対象児の「つまずき」が他 者の視線を感じ,気にする ことによって起きている
12
(午後あすかと走っている様子を見ても)きゃーっとはじけたいん だなあ,と(本当ははじけたいのにできないのだと思った)。(中略)
本当は子どもらしくはっちゃけたい。一斉の時にいい表情をして いる。鬼ごっこの時。きちんとしているから,きちんとしてない と(と思っていそう)」(10月25日まお,教師Ⅱの語り)
その他の原因(幼児の体調 等)について言及,又は原 因について言及がない
22
「朝起きてすぐに来ちゃって。まだ眠たいのと体調の悪さと。気分 の問題かなーっと。絵を描いて落ち着いて。25分描いてた。」(11 月22日えみ,教師Ⅰの語り)
注.( )は記録をフィールドノートに起こす際に観察者が補った部分。
こで次に本研究の目的である幼児の情動調整プロセスを 支える教師の関わりの特徴へと議論を進める。
2 1.観察記録から見出された教師の関わり 幼児の
「つまずき」場面における教師の関わりには様々なもの があった。対象エピソードの焦点化の過程1において,
幼児の「つまずき場面」において,教師がとっている行 動の種類を見た結果,その多くは幼児を共感的に温かく 受けとめる行動(1565行動)であった(Table 1)。幼児 を共感的に温かく受けとめる行動とは例えば,「あやか ちゃん,今ふざけて転んだと思ったんだって。」(2月1 日しょうた)のように幼児の気持ちを代弁する行動,ま た「ゆうちゃんどうする? お外行く?」(12月20日 ゆうた)のように幼児の気持ちや意志を尋ねる行動,ま た「優しいねー。しょうたくんの貼ってあげるんだ。」(1 月10日りく)のように幼児を褒める行動等である。教 師は幼児の不安や悲しみを受けとめ,それを言葉にした り,確認したり,褒めたり,また時には気持ちが変わる ようにする等,共感的に温かく受けとめる行動を多くし ていた。一方で本研究の観察記録からは,教師がどの ような時でもそのような幼児を肯定的にそして幼児が情 動を立て直すまでのプロセスの全てに関わるようにして いるわけではないことが見えてきた。
2 2.観察記録から見出された教師の突き放す行動 幼 児のつまずき場面における教師の関わりの中には,必ず しも幼児を肯定的したり,幼児が情動を立て直すまでの プロセスの全てに関わったりするような,いわゆる共感 的で温かいだけではない,時に幼児の行動を否定したり,
幼児の要求などを突き放すような行動(82エピソード 中199行動)があった(Table 1)。例えば 他児の頭を スコップで叩いた男児に「そう? じゃあ,先生がりく くんの頭スコップで叩いたらどう?」と言い幼児の頭を 叩く真似をする。(6月15日りく) のような関わりで ある。本研究ではこのような教師の行動を,幼児のこと を共感的に温く受けとめる行動とは区別して,幼児を突 き放す行動として注目した。重要なことは,ここで挙げ た行動は幼児に伝えたい教師のメッセージが容易に推測 されることである。例えば上記のりくの例の教師の行動 は,善悪の伝達,危険で許されない行動,等を伝えるた めに教師がしている行動だと考えられるだろう。しかし,
本研究の観察エピソードの中の教師の幼児を突き放す行 動の中には上述のような明確なメッセージを推測しにく いような行動があった。それは例えば帰りの集まりで,
あやかの隣に座りたかったかいとが,来るのが遅かった ために隣に座ることができず,泣いて訴えた場面(9月 6日かいと)の教師のかいとに対する「じゃあ,今日は ずっと泣いてなさい。」というような行動である(後の
Table 4に詳細)。教師は本当にかいとに対してずっと泣
いていなさいと考えたのではないだろう。教師のこれら
の行動は,言葉通りのメッセージではないところに行動 の目的があることが推測されるのである。
そこで,本研究では教師の行動のメッセージが一見理 解しにくい行動についてその行動の機能を明らかにする ために,佐竹(2001)を参考に,教師の行動の機能的分 析を実施した。佐竹(2001)は子どもの問題行動がもつ 機能や意味を明らかにするために,子どもの問題行動の 前後に起きている現象から,そこに情動の働きを見るこ とで,子どもの行動を説明することを試みた。本研究に おいても同様に教師の行動のメッセージが一見理解しに くい行動について,その前後におきた幼児の情動的な変 化に注目することで,教師の行動の働きを明らかにする ことを試みた。
2 .観察記録から見出された教師の「突き放す行動」
の機能的分析 2-2のかいとに対する教師の「じゃあ,
今日はずっと泣いてなさい。」の行動のように,教師の 行動のメッセージが一見理解しにくい行動,すなわち本 来の行動や言葉が意味することとは異なることにその行 動の目的があると推測される教師の突き放す行動は全エ ピソード中14エピソードあった(以下,本来の行動や 言葉が意味することとは異なることにその行動の目的が あると推測される教師の突き放す行動を「突き放す行 動」と「 」を付けて示す)。この14エピソードに関し て,佐竹(2001)の機能的分析を参考に教師の行動の機 能的分析を行った。具体的には,Table 4のように,時 系列に教師と幼児のやりとりを追い,実際に観察された 行動とそれぞれの行動を文脈から「幼児の情動状態の解 釈」「教師の行動の解釈」に分けて記し,幼児の情動的 な変化とそこに関わる教師の行動の解釈を行った。
例えばTable 4は,9月6日かいとのエピソードであ
るが,「じゃあ,今日はずっと泣いてなさい。」という教 師の「突き放す行動」の前後でどのような幼児の情動的 な変化が起きていたのかを見た。すると教師のこの行動 の直後に泣いていたかいとが泣きやむ,ということが起 きていたことが分かる。そこで教師の「突き放す行動」は,
かいとの座りたいという情動から切り替えるきっかけを 与える働きがあったことが推測されるのである。そこで 同様に14のエピソードのプロセスをTable 4の方法で分 析し,それぞれのエピソードの中で教師の「突き放す行 動」が幼児にもたらした結果を見ていった(Table 5)。
その結果,幼児の心境として深刻な場面では,教師の
「突き放す行動」の直後に,混乱が落ち着く,情動の出 し方が変わる,悲しみや悔しさが助長される,といった ことが幼児に起きていたことが分かった。
混乱の落ち着きをもたらす場合とは,例えばTable 4 のかいとの場合で,教師の「突き放す行動」がかいとの どうしてもその席に座りたいという気持ちを断ち切るよ うな働きをしているようなことである。また情動の出し