6. 高齢者を取り巻く経済環境の変化
6.1. 年齢階級別の年間収入・月間消費支出・実物資産額・金融資産額の推移
はじめに、年間収入・消費支出・実物資産・金融資産の各側面について、
1994
年から2014
年までの20
年間の推移を確認したい。データは、総務省統計局「全国消費実態調査」の2
人以上世帯(全世帯)の公表値を用いる。図
11
は、年間収入の推移について示している。横軸は世帯主の年齢であるが、50
代で年 収がピークを迎え、その後は減少するのはこの20
年間共通している。しかし、2000
年代以 降はそれ以前に比べ40
代以降の年間収入が大きく低下している。加えて、時間経過ととも にその傾向がより顕著になっている。1994
年と2014
年を比較すると、50
代・60代・70代 以上の各年齢層でそれぞれ実に140
万円・100万円・88万円の減収となっている。この数 値は名目値であるが、実質値に直しても大きな減少であることは変わらない。こうした大きな収入の減少の中で消費支出も縮小している。
1
か月間の消費支出額の推移 を示した図12
を確認すると、各年齢層で消費支出額が減少したことがわかる。特に、40
代 と50
代の落ち込みが顕著で20
年間で5
万円以上減少している。60
代・70
代以上において も2
万円程度減少している。29
図
11
年間収入の推移(2人以上、全世帯)出所:総務省統計局「全国消費実態調査」
図
12
消費支出の推移(2人以上、全世帯)注:数値は
1
か月間の支出出所:総務省統計局「全国消費実態調査」
さらに、資産形成にも大きな変化が見られる。実物資産の推移を示した図
13
を見ると、この
20
年間で実物資産の保有額が大きく減少していることがわかる。年齢層が上がるにつ れてその減少幅は拡大している。特に、70歳以上の保有額は、20年間で4,600
万円ほど減30
少した。バブルの影響を考慮して直近
10
年間に限って見ても1,000
万円以上減少している。他方で、金融資産は実物資産とは全く異なる推移を見せている。図
14
はその推移を示し ているが、40
代までは金融資産の保有額は減少したものの、50代以降は以前とほとんど変 わらない。ただし、この20
年間は同一年齢層内でも金融資産格差が拡大している(Kitaoand Yamada 2019)という点には留意が必要である。
図
13
実物資産の推移(2人以上、全世帯)出所:総務省統計局「全国消費実態調査」
図
14
金融資産の推移(2人以上、全世帯)出所:総務省統計局「全国消費実態調査」
31
6.2. 退職金制度の有無/退職金・企業年金額の推移
退職給付の有無も老後の蓄えへの不安を大きく左右すると考えられる。企業における退 職給付制度の整備状況について確認してみよう。図
15
は、退職給付(一時金・年金)の制 度がない企業の割合を企業規模別に示したものであるが、これを見ると2013
年まで全体的 に増加傾向にあったことがわかる。2018 年には1000
人以上の大企業以外はやや減少して いるが、2008年より高い水準に留まっていることがわかる。制度のない企業が増えた背景 には、適格退職年金の廃止や、厚生年金基金の縮小によって、退職年金制度を持つ企業が減 少したことがある。図16
は支給あるいは支給が確定した退職給付の平均額を示しているが、これもこの
20
年で500
万円以上減少している。図
15
退職給付(一時金・年金)制度がない企業の割合(企業規模別)出所:厚生労働省「就労条件基本調査」
32
図
16
退職給付額の推移(大卒・定年退職)注
1:大卒(管理・事務・技術職)で勤続 20
年以上かつ年齢45
歳以上の定年退職者に対する給付額。注
2:退職一時金制度のみの場合は退職一時金額、退職年金制度のみの場合は年金現価額、退職一時金制度
と退職年金制度併用の場合は退職一時金額と年金現価額の合計。
出所:厚生労働省「就労条件基本調査」
ドキュメント内
日本の高齢者の就業行動・引退行動:パネルデータを用いた属性要因・政策効果の実証分析
(ページ 31-35)