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年目に伐採する予定のため、最終年にプロジェクト便益が急増して いる。通時的変化をみると、いずれの事例においても最終年以外は機会費用の方がプロ

ジェクト便益より大きくなっている。一方、累積結果を比較すると、いずれもプロジェ クト便益および経済的な便益も含んだ森林保全便益よりも機会費用の方が大きい。ただ

し、

Che Can village

では、経済的便益も含んだ森林保全便益が機会費用よりやや大き

くなっている。

全体的には適切な経済的インセンティブが付与されていないと考えられるが、これは 単価が高い作物面積が大きいこと、繁殖しないとする家畜が多く投入されているためプ ロジェクト便益が逓減することが要因であると考えられる。

④プロジェクト便益が徐々に減る

4-13.

機会費用およびプロジェクト便益の投入量

village name 陸稲 トウモロコシ キャッサバ Noodle ウシ ブタ ニワトリ サカナ 植林

ha ha ha ha head head head head ha

Phien Bua 14 16 2 0 0 2 200 19500 10

Na Nghe 3.5 9 9 0 0 4 200 18000 0

Hang Tro B 12 3 24 0 0 12 360 0 0

Na Phat A 25 10 1.5 0 4 0 250 12000 0.6

Muon Muong 2 15 18 25 0 5 0 0 10000 6

通時的にみると、いずれもプロジェクト投入量は大きいにも関わらず、その便益が逓 減していっている。これは、繁殖しないと想定するニワトリ・サカナの頭数減少による プロジェクト便益逓減の影響が、ウシ・ブタの逓増分より大きいためだと考えられる。

累積結果は、

Na Phat A

村以外には、共通の結果がみられた。プロジェクト便益と比 較すると機会費用の方が大きく、経済的な森林便益も含んだ森林保全便益と比較すると 機会費用のほうが小さい。これは家畜飼育による森林便益の増加が影響していると考え

られる。

Na Phat A

村についてみてみると、プロジェクト便益の方が非常に大きくなっ

ている。通時的な結果と併せてみてみると、初期投入量の影響が非常に大きいためであ ると考えられる。

従って、プロジェクト便益にのみ着目した場合は、経済的インセンティブが付与され

ていないと言える。しかし、経済的な森林便益も含めた森林保全インセンティブに着目

した場合には適切な経済インセンティブが付与されていると考えられる。

3

)非経済的な森林便益

聞き取り調査の結果、非経済的な森林便益は確認することができなかった。このよう な森林便益がないために森林減少などが発生している可能性も考えられる。

ベトナムでは森林環境サービス支払い(

PFES

)に関する取組が進んでおり、調査対 象村の一部でも

PFES

の支払いが行われていた(

2/13

村) 。この

PFES

によって、その 支払い対象である水源涵養機能が、経済的な森林便益として地域コミュニティに明確に 認識され森林保全インセンティブを付与していると考えられた。

この

PFES

が経済的な森林便益のなかに占めるその割合は非常に小さい(図

4-12

)。

しかし、それにも関わらず、地域コミュニティによる森林保全インセンティブの付与を していることから、本来は非経済的な森林便益を経済的に評価し「見える化」したイン パクトは非常に大きいと考えられる。そのため、このような非経済的な森林便益に対す る価値づけが非常に重要であるということがわかった。

そのためには、プロジェクト対象エリアにおける非経済的な森林便益の把握とその評

価を行うことが重要であると考えられる。その際、森林信仰などの慣習的に重要な価値

に限らず、森林生態系サービスなども含めて、本来は地域コミュニティによって重要な

森林便益とは認識されていないものについても検討することが求められる。

4

)比較分析結果についての考察

機会費用については、各作物の生産性や単価によって大きく異なることが明らかにな った。しかし、それぞれの作物の栽培サイクルを考慮した土地利用シナリオに基づいて 算出しなければ過剰評価となる可能性があった。例えば、

noodle plant

の場合は、地力 収奪的であるため一つの畑で2〜3年程度しか栽培されない。通時的変化、および、累 積結果によって、比較分析結果が変化する場合があった。

これら機会費用とプロジェクト便益との分析結果は、プロジェクト便益の大きさや継 続性によって大きく異なるということが示唆された。例えば、ウシやブタなど繁殖する 家畜が十分に投入された場合はプロジェクト便益が逓増していたが、ニワトリやサカナ など繁殖しない家畜の場合はその頭数が減少するためプロジェクト便益が逓減してい た。

さらに、経済的な森林便益を含む森林保全インセンティブと機会費用を比較分析した 結果、プロジェクト便益との比較分析とは異なる結果がでる場合があった。しかし、実 際には

PFES

以外の森林便益は「見える化」されていないため、本事業で評価した森 林便益の大きさと地域コミュニティが認識している大きさにギャップがある可能性が ある。これは、実際にプロジェクト地域では森林減少・劣化が発生していることからも 示唆される。

以上より、適切な森林保全インセンティブについて考察する際には、機会費用分析に

用いる土地利用変化シナリオの信頼性、プロジェクト便益の大きさや継続性にかかるデ

ータの信頼性、森林便益の経済的価値への換算手法(見える化)などについて留意する

必要があると考えられた。

5. 考察

現場レベルで実施可能な、実践的かつ有効な情報収集・分析手法を検討するため、比 較分析結果に基づいて、データ収集にかかるコスト(費用・時間など) 、データの信頼 性など分析手法について情報を整理し考察する。

5-1. インドネシア

機会費用分析

潜在的な森林減少・劣化要因であったため、データが存在しなかった。そこで、土地 利用面積についてはコンセッション面積を用い、土地利用純収益に係る便益や費用につ いては先行研究の値を参照し分析した。先行研究の選択にあたっては、本事業の調査対 象地に似た社会経済的背景を有している地域を対象としていることに留意し、本事業の 調査対象地に隣接する東カリマンタン州を対象とした文献を選択した。

データの信頼性について見てみると、土地利用面積については、コンセッション面積 を用いた結果の信頼性に疑問があることがわかった。これは、コンセッション面積全体 がオイルパーム農園に開発されるというわけではなく、地域コミュニティの同意が得ら れた一部のエリアがオイルパーム農園として開墾されるためである。したがって、将来 的にどれくらいの面積がオイルパーム農園に転用されるかは不明であり、データの信頼 性は低いと考えられた。そのため、比較分析にあたっては、複数の土地利用シナリオに 基づいて分析することが望ましいと考えられる。

土地利用純収益の把握については、苗木や肥料などの費用については地域間の違いが 小さいと考えられ信頼性が高いと考えられる。さらに、費用や時間などのデータ収集コ ストも現地調査に比べて低く、非常に効率的に比較分析を行うことができた。

プロジェクト便益

ゴム農園プログラムによるプロジェクト便益分析については、データ収集時点での単 価や使用量に基づいて算出している。しかし、現実には市場の変動が大きく、地域コミ ュニティは市況に応じて収穫量や肥料や除草剤などの使用量を決定していた。そのため、

算出結果と現実の間にある程度の誤差が生じると考えられ、算出結果の信頼性はやや低

くなっていた。分析目的において、算出結果により高い信頼性を求める場合は、市場価

格の変動パターンに基づいて複数の分析シナリオを作成し、プロジェクト便益分析を行

5-2. ベトナム

機会費用分析

土地利用面積に関して、保全林や生産林など行政的な土地区分が地域住民に十分に理 解されておらず、保全林で焼畑農業が行われるなど行政的な土地区分と実際の土地利用 が重ならない事例が見られた。そのため、農業センサスなど既存データはあるものの、

データの信頼性は低いと考えられる。一方、地域コミュニティに対して聞き取り調査に ついても、直近の土地利用面積は把握しているものの、

5

年前、

10

年前の土地利用面 積は曖昧な部分が非常に多くデータの信頼性は低いと考えられた。また、村落境界線が はっきりしていないため、森林面積についても把握することが難しかった。

その対策として、リモートセンシングデータと組み合わせて把握することが考えられ る。地域コミュニティが土地利用分類作業に参加することで、さらに解析結果の信頼性 を高めることができる。ただし、衛星データ購入や解析などの費用を考慮し、プロジェ クトに既存の画像データがある場合にのみ併用するなどの工夫が求められる。

プロジェクト便益

家畜の繁殖率および生存率について、各地域コミュニティへの投入量、その生存数、

出産数について把握し平均値を算出した。しかし、実際にはプロジェクトが開始して2 年程度しか経過しておらず、統計的にデータの信頼性はあまり高くないと考えられる。

そこで、データ収集に関するコストの面からも、先行研究などの既存文献を参照するこ とが望ましいと考えられる。

また、産まれた家畜のうち

3

分の

2

を販売するという想定して、家畜をストックとフ ローに分けて便益を算出したが、実際には畜舎のキャパシティや経済的要因によって柔 軟に販売頭数が変化すると考えられる。そのため、もっともらしい販売頭数の割合をど のように設定するかなど、分析シナリオの作成が今後の課題として挙げられる。

経済的な森林便益

森林便益として、市場価格が明らかな林産物を対象として、薪や住宅建材などの森林 からの調達量や市場価格について聞き取り調査を実施し、その経済的な便益を算出した。

しかし、実際には、地域コミュニティは森林便益の経済的価値を明確に認識していな いため、その主観的な価値と算出結果にずれが発生している可能性がある。森林減少・

劣化が発生していることを考慮すると、森林便益を過剰評価している可能性が示唆され る。

また、森林から補う割合など算出に用いる値について、必要に応じて適宜採集してお

り総消費量が曖昧となっており、データ収集が困難でありその信頼性も低い。したがっ

て、データ収集方法、分析手法について、引き続き検討することが求められる。

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