今まで見えなかった座標距離にある点がどんどん見えてくる−→ど れもよく似ている!: 地平線問題
2.15 平坦性問題(長寿命問題)
(a˙ a )
+ K
a2
|{z}
∼a−2
= 8πG
3 ρ= 8π 3Mpl2( ργ
|{z}
∼a−4
+ ρm
|{z}
∼a−3
+ ρΛ
|{z}∼a0
)
現在のダークエネルギー優勢時代はともかくとしてz >0.47ではMDか RMだったのでa↗とともにρよりもK/a2が相対的に大きくなる。
つまりK/a2
ρ ∝a or a2↗
しかし現在Ω= 1.0023+0.0056−0.0054(WMAP7+BAO+H0) でありK
a2 =H2(Ω−1) (1.28)はきわめて小さい。
Rcurv = a(t)
√K =H0−1|Ωtot−1|−1&103H0−1 と曲率半は極めて大きい
これはaの小さかった頃の宇宙から曲率項が非常に小さかったことを意 味する。
Ωtot(t)−1 = 1 8πGρ
3 /K a2 −1
↘0 a↘0
≃ 1
(a(t) aeq
)2(aeq
am
) (a0
am
)2
−1
(2.4)
amは物質優勢(DM)からダークエネルギー優勢(ΛD)になったときの値。
プランク時刻まで断熱膨張でさかのぼると
|Ω(tpl)−1|.10−60 (2.5)
でないと現在のように平坦な宇宙ができない。
Rcurv(tpl)&1030lpl ということであり到底容認できない。
2.16 高温時の対称性の回復と相転移
High temperature symmetry restoration and phase transitons
素粒子の標準理論SU(3)×SU(2)×U(1)では、Higgs場が期待値を 持つことによってSU(2)対称性が破れるとともに、クォーク、レプトン が質量を持つ。
宇宙におけるスカラー場の挙動を調べるため次の実スカラーϕモデルを 考える。
L =−1 2(∂ϕ)2
| {z }−V[ϕ] (2.6)
=gµν∂µϕ∂νϕ|{z}=
RW
−ϕ˙2+ 1 a2(∇ϕ)2
|{z}=
宇宙膨張なければ
−ϕ˙2+ (∇ϕ)2
V[ϕ] =λ
4(ϕ2−µ2 λ)2
=λ 4ϕ4−1
2µ2ϕ2+µ4 4λ 当面宇宙膨張を無視して考える。
運動方程式 δL
δϕ = 0 よりϕ−V′[ϕ]
| {z }= 0 (2.7)
=λϕ3−µ2ϕ
においてϕ をある量子状態|∗⟩(真空とは限らない)での期待値σ≡
⟨∗|ϕ|∗⟩とそのまわりの揺らぎφの和として書く
ϕ=σ+φ ⟨∗|φ|∗⟩= 0 (2.8)
2.16 高温時の対称性の回復と相転移High temperature symmetry restoration and phase transitons 33
すると⟨∗|δL
δϕ|∗⟩= 0は
−σ+µ2σ−λ⟨(σ+φ)3⟩=−σ+µ2σ−λ⟨(σ3+ 3σ2φ+ 3σφ2+φ3)⟩
=−σ−(λσ2−µ2)σ−3λ⟨φ2⟩σ−3⟨φ3⟩
= 0 (2.9)
となる
φ(x, t)は通常の量子場として φ(x, t) =
∫ d3k (2π3/2)
√1 2ωk
[akeikx−iωkt+a†ke−ikx+iωkt]
(2.10) [ak, a†k′]
=δ(k−k′), ωk =√
k2+m2ϕ と展開される。(mϕ; ϕ=σ でのmass)
φ3はoperator 3ヶの積だから最低次では無視する
(例えばcoherent stateではこれは正しくないが今はcoherent成分は 除いてある)
⟨∗|φ2|∗⟩=
∫ d3k (2π)3
1 2ωk
(2⟨∗|a†kak|∗⟩
| {z }
occupation♯
+1) (2.11)
|∗⟩=|0⟩(vacuum)ならoccupation♯は0で、残る項は∞で質量の繰り 込みで吸収できる。
従って|∗⟩=|0⟩のときは⟨φ2⟩も⟨φ3⟩もないのと同じで、質量項はくり こまれたものに置き換えられていると考えればよい。
σ=constとして真空のtranslational invarianceをrespectした解を探 すとσ= 0, ± µ
√λだが、σ= 0は不安定なのでσ=± µ
√λの基底状態 におちつく。
一方初期宇宙のある時期熱平衡状態が成り立っていたことを念頭に有限温 度状態|∗⟩=|β⟩ (β =T−1)を考えると
(相互作用による反応が宇宙膨張より十分速く起こる状態を考えている
ので宇宙膨張の影響は無視してよい)
⟨β|a†kak|β⟩= 1
eβωk−1 (2.12)
となる(ボゾン) T≫mϕでは
⟨β|φ2|β⟩=
∫ d3k (2π)3
1 2ωk
2
eβωk−1 ≃T2
12 (2.13)
になる。つまり(2.9)は
−σ−(λσ2+λ
4T2−µ2)σ=o (2.14) これから分かるようにT > sµ
√λのときはσ=constという解はσ= 0し かない: 有限温度での対称性| {z }
ここではϕ↔−ϕ
の回復
このモデルでは有限温度ではポテンシャルはλ
8T2ϕ2のような補正項が加 わったものと同様である。(T4の項も生じるがϕの挙動には関係ない) 温度の低下とともに⟨ϕ⟩= 0は不安定になり⟨ϕ⟩=σ=± µ
√λにむけて 相転移 が起こる。しかしこの相転移は現在観測できる宇宙全体で一様に おこるわけだはなく相転移時のスカラー場のコヒーレント長(相関距離) を超えたスケールではランダムに起こる。とくにT ≃ 2µ
√λ ≡ Tcでの
宇宙の地平線Hc−1 ∼(8πG 3
π2 30g∗Tc4
)−12
を超えたスケールでは⟨ϕ⟩=
± µ
√λの値をランダムにとることになる ϕ(x, t)は連続的に変化するからϕ= + µ
√λと− µ
√λの点の間にはϕ= 0 の点(V(ϕ= 0) = µ4
4λというポテンシャルエネルギーを持つ)が必ず存在 する。これが位相的欠陥の一種、ドメインウォールである。 高いエネル
2.16 高温時の対称性の回復と相転移High temperature symmetry restoration and phase transitons 35
ギー密度を持っているがトポロジカルに安定である。
このモデルは、相転移後の真空が± µ
√λ という離散的な値を持つのでド メインウォールができる。
複素スカラー場の相転移のように真空がU(1)対称性を持つ場合(相転移 によってU(1)が破れる)には、位相角が一周する周りにストリング(宇 宙ひも)ができる。U(1)対称性が生じる場合には点状の位相的欠陥であ るモノポールができる。
コア
ドメインウォール 面状 離散的対称性の破れΠ0(M)̸=1 過剰生成 ストリング ひも状 U(1)対称性の破れΠ1(M)̸=1 スケール解 モノポール 点状 U(1)対称性が生じるときΠ2(M)̸=1 過剰生成 テクスチャー なし 大域的SU(2)対称性の破れΠ3(M)̸=1 スケール解 ホモトピークラスΠn(M), n= 0:点から、1:円周から、2:球面からMへ
の写像。Mは相転移後の真空多様体。
スケール解:宇宙のエネルギー密度に比例しながら減っていくのでわる さをしない
特に最終的にSU(3)×SU(2)×U(1)にいかねばならない。
大統一理論は必然的にモノポールの生成を予言する。これをうすめるのが インフレーション宇宙論の大きな動機になった。
cf 標準理論のフェルミオン質量生成 ヒッグス場 H =
( h+ h0
)
が期待値を持つことでおこる。
電磁相転移の前は⟨H⟩= 0なので、クォーク、レプトンは質量をもた ない。
V[H] =µ2H+H+λ(H+H)2+ const µ2<0 LHiggs = (
∂µ−ig2Waµ
σa
2 −ig1Bµ)2−V[H]
+ ∑
i,j=e,µ,τ
fijlL¯iHlj+ ∑
i.j=d,s,b
fijDQ¯iHqj
+ ∑
i,j=u,c,t
fijUQ¯iHq˜ j
H˜ = iσ2H∗ L =
( ν e
)
L
· · ·, Q= ( u
d )
L
· · ·, (2.15)
相転移後
⟨h0⟩=
√−M2
4λ ,⟨h†⟩= 0 という値を持つ
注2)初期宇宙に熱的相転移を考えるのは誤りである。
m=f⟨h0⟩, Mw= g2
√2⟨h0⟩, M2= 1
√2
√
g21+g22⟨h2⟩
2.17 インフレーション宇宙論の原理
その他の問題
◦宇宙の大規模構造·階層構造のたねになった密度·曲率ゆらぎの起源
◦そもそもなぜ宇宙は膨張しているのか?
時代的背景(historical background)
1970年代の素粒子の大統一理論が提唱されMGUT= 1015−16GeVとい うプラクスケールMpl= 1.2×1019GeVまであと一歩に迫る理論ができ た。
§3で考えた相転移がゆっくり起こると原点のポテンシャルエネルギー密 度が宇宙を支配するような時代が続く。ρ=V[0] =constとすると
(a˙ a
)2 + K
a2 −8πG
3 ρ=8πG
3 V(0) =Hinf2 (2.16) となりa∝eHinftに漸近する。K
a は指数関数的に小さくなる。すると平 坦性問題が解決する。粒子の地平線もこのとき
2.17 インフレーション宇宙論の原理 37
dH(t) =a(t)
∫ t ti
dt′ a(t′) = 1
HeH(t−ti) (2.17) と指数関数的に増大する。
実際にはρ=constである必要はない。
ρ∝a−n のときa(t)∝tn2 だったが(1.27)よりn= 3(1 +w)であり、
n <2ならアインシュタイン方程式のエネルギー項より曲率項の方が早く 減少するので平坦性問題が解決する。地平線も(2.2)よりa(t)に比例し て拡大
ρtotal=ρinf(t) +ρm(t) +ργ+· · · (2.18)
→ρinf(t)これしかない宇宙
↓このエネルギーを十分なインンフレーションののち
↓放射に転換しなければならない ργ(t): Fiedmann宇宙へ
•インフレーション宇宙論
宇宙が膨張してもエネルギー密度があまり減らない(a−2よりゆっくり)
『物質』ρinf(t)が宇宙を支配して加速的膨張を起こし平坦性、地平線問題 を解決し、その後エントロピー生成によってHot Big Bang Cosmology の初期状態を物理的に実現する。
インフレーション=加速的膨張+再加熱
•インフレーション宇宙における各種スケールの進化 座標スケールr= 2π
k はインフレーション中とその後のフリードマン時代 の2回ハッブルホライズンを横切ることになる。
t′kでスケールkまで見えてくるがそのスケールはインフレーション中の tk以前に『見えていた』ので自分と似ていても不思議ではない。
どれだけインフレーションが続けばよいか簡単な場合に見積もってみる。
インフレーション中、宇宙のエネルギー密度はρinfという一定値をとる ものとする。そして時刻tsからtf までインフレーションが続いたあと、
インフレーションを起こすスカラー場(インフラトンと呼ぼう)のエネル
ギーρinfが全て放射のエネルギーに転化するとする。(実際にはこの再加 熱には有限の時間がかかり、その間にインフラトンのエネルギー密度はう すまってしまう。)
そのときの放射の温度TRは ρinf=ρr= π2
30g∗TR4 ≃60 ( g∗
200 )
TR4 (2.19) で決まる。
その後宇宙はずっと断熱膨張したとすると、エントロピー保存よりg∗T3a3 は一定に保たれる。g∗s0= 3.91, TCMBO= 2.735Kより
インフレーション後宇宙は a0
aR = TR
TCMB ( g∗
3.91 )13
= 3.7 ( g∗
200
)13 TR
TCMB (2.20) だけ膨張したことになる。したがってインフレーションが始まったときの ハッブル長Hinf−1は、現在
L0≡Hinf−1eHinf(tf−ts)a0
aR
= 1.1×1017 ( g∗
200
)−14( Hinf
1013GeV )−1
2
eHinf(tf−ts)GeV−1
= 7.3×10−22 (g∗
200
)−14( Hinf
1013GeV )−1
2eHinf(tf−ts)Mpc (2.21)
までひきのばされている。但しHinf=
(8πGρinf 3
)12
である。
インフレーションが始まった時の宇宙がハッブル長に1程度の非一様性 をもっていたとすると、それが充分ひきのばされ、現在の地平線に10−5 程度のゆらぎしかないようにするためにはL0 &500H0−1 でなければな らないのでインフレーションがeN 続いたとするとNは
N ≡Hinf(tf −ts)>65 +1 2ln
( Hinf
1013GeV
)≡Nmin (2.22)
をみたさなければならないことが分かる。
2.17 インフレーション宇宙論の原理 39
平坦性問題については(1.28)K
a2 =H2(Ω−1)より Ω(t0)−1
Ω(ts)−1 =
(a(ts)Hinf
a0H0 )2
= 1
(L0H0)2 (2.23)
<500−2
|Ω(t0)−1|<4×10−6|Ω(ts)−1| (2.24) でありΩ(ts)が1のオーダーなら現在のΩは少なくとも5桁の精度で1 に等しいことが結論される。
こうして地平、平坦性問題を同時に解決しようとするインフレーション宇 宙論は実質的に実質的に平坦な宇宙を予言する。
インフレーション宇宙論の研究は大きく分けて
1◦ 宇宙進化を無矛盾に記述するρinf(t)と→ργ についての素粒子物 理的研究
2◦ ρinf(t)あるいは正の宇宙項があったとして一般の非一様、非等方宇 宙から出発してインフレーションが起こり宇宙の一様等方化が実現 できるかという一般相対論的研究
3◦ インフレーション時に生成する密度、曲率揺らぎの進化をCMBの 非等方性や大規模構造の観測データと比較する観測的宇宙論の研究 (揺らぎ宇宙論)
2◦については宇宙無毛化仮説というものがあり「正の実効的宇宙項があ れば、一般的な初期条件の下で、その宇宙項の決めるタイムスケールでイ ンフレーションが始まる」ということが主張されている。反例はあるが、
例えば、空間曲率が至るところ負であればこれが成り立つ。
一般に曲率が正であってもあまり大きすぎないこと、初期のハッブル 地平線の数倍程度までのスケールで非一様性が1程度以下にとどまって いることが要請される。
それがみたされれば宇宙はハッブル時間で一様等方化されるので、その後 は背景時空としては平坦まロバートソンウォーカー時空で考えればよい。
2.18 スカラー場のダイナミクス
何がρinf(t)を担うかということが重要だが、最も標準的なのは、ある スカラー場ϕのポテンシャルエネルギー密度V(ϕ)である。これはϕの 値だけで決まり、方向を持たず宇宙が膨張しても薄まらないからである。
スカラー場としては
(i) ゲージ場やクォークレプトンに質量を与えるHiggs場
(ii) 超対称性理論に出てくるフェルミオンのスーパーパートナーのスカ ラー場
(iii) スカラーテンソル理論、高階微分理論、高次元理論、超弦理論等の
一般化された重力理論からスカラーモード(幾何学的意味を持つこ とも)として取り出されたスカラー場
があげられる。最初は一次相転移型のモデルも考えられたがうまくインフ レーションが終わらないので、現在はインフレーション中も場の値が進化 するスローロールモデルのみが考えられている。
作用 S=
∫ d4x√
−gLϕ=
∫ d4x√
−g (−1
2gµν∂µϕ∂νϕ−V[ϕ]
)
(2.25) として、平坦なRW計量の下で場の方程式を書くと、ϕはtのみにより
−ϕ+V′(ϕ) = ϕ¨+ 3Hϕ˙+V′(ϕ) = 0 (2.26) 但しϕ = 1
√−g∂µ(gµν√
−g∂νϕ) (2.27) アインシュタイン方程式(00成分つまりフリードマン方程式)は
(a˙ a
)2
=H2= ρϕ
3MG2, ρϕ= 1 2
ϕ˙2+V(ϕ). (2.28) 但しρϕはエネルギー運動量テンソル
Tµν =− 2
√−g δS
δgµν =∂µϕ∂νϕ−gµν(1
2gαβ∂αϕ∂βϕ+V[ϕ])
(2.29)