イギ リスで は,環 境 情 報 の 積 極 的 開 示 を 促 す90/313/EEC指 令 の 制 定 を 受 け,そ れ と ほ ぼ 同様 の 規 定 を 設 け た1992年 環 境 情 報 規 則 が 制 定 され た 。 これ らの 制 度 に は多 くの 欠 点 が 指 摘 され て は いた が,「情 報 提 供 」制 度 で あ る公 的 登 録 簿 と共 に,公 的 機 関 の 保 有 す る 「環 境 に関 す る情 報 へ の ア クセ ス権 」 の 促 進 に大 き く寄 与 す る こ と とな る。 そ して さ ら に,オ ー フ ス条 約
㈹EnvironmentalInformationRegulations2004,reg.17(1).
G6DFreedomofInformationAct2000,s.62(1).
の 締 結,2003/4/EC指 令 や イギ リス国 内 に お け る2000年 情 報 公 開 法 の 制 定 な ど,環 境 情 報 を 積 極 的 に市 民 に対 して 開 示 す る た めの 制 度 が 整 え られ て い く。 そ して,最 終 的 に これ らの 制 度 を 基 礎 に,従 前 の 制 度 に存 在 した多 くの 欠 点 を 補 完 した2004年 環 境 情 報 規 則 が 制 定 され たの で あ る。
第1節2004年 環 境 情 報 規 則 の 特 徴
2004年 環 境 情 報 規 則 の 制 定 に よ る環 境 情 報 開 示 制 度 の 改 革 を 具 体 的 に見 て み る と以 下 の よ うな 点 を 指 摘 す る こ とが で き る。 第1に,2004年 規 則 は 1992年 規 則 に比 べ て 情 報 開 示 請 求 の 対 象 とな る 「公 的 機 関 」 の 定 義 を 拡 大 して お り,公 的 責 任 を 有 した民 間 企 業 な ど も その 範 囲 内 に含 めて い る。 第 2に,「 環 境 情 報 」 の定 義 に関 して も,1992年 規 則 よ り も広 く,さ ら に詳 細 に規 定 して お り,経 済 分 析 に関 す る情 報 や,人 間 の 健 康 に関 す る情 報 な ど も環 境 情 報 規 則 に基 づ く開 示 請 求 の 対 象 とな って い る。 第3に,公 的 機 関 が 情 報 開 示 を 拒 否 す る こ とが で き る例 外 規 定 につ いて は,1992年 規 則 よ り も不 開 示 の 可 能 性 を減 少 させ る た め,「 個 人 デ ー タ」 を 含 む 情 報 を 除 い て,「 公 益 判 断 」 を公 的 機 関 に課 して い る。 さ らに,2004年 規 則 は,1992 年 規 則 の 規 定 だ け で は な くオ ー フ ス条 約 や2003/4/EC指 令 と比 べ て も, 公 的 機 関 が 情 報 を 開 示 す る まで の 期 限 を 短 縮 した り,ま た,公 的 機 関 が 自
ら積 極 的 か つ 能 動 的 に環 境 情 報 を 市 民 に提 供 す る よ う義 務 付 け た り して い る。 そ して さ らに,2004年 規 則 は,公 的 機 関 に よ る不 開 示 決 定 に不 服 が あ る開 示 請 求 者 に対 して,情 報 コ ミ ッシ ョナ ーや 情 報 審 判 所 と い っ た裁 判 所 以 外 の 審 査 機 関 を 設 け る こ と に よ り,よ り安 価 で 迅 速 な 救 済 を 可 能 とす る よ うな 制 度 を 構 築 して い る。 ま た,情 報 コ ミ ッシ ョナ ー は環 境 情 報 開 示 に つ い て 数 多 くの 指 針 を 出 して お り,市 民 に よ る 積 極 的 か つ 適 切 な 開示 請 求,及 び公 的 機 関 に よ る適 正 な 処 理 を 導 こ う と して い る。
学 説 も こ の よ う な2004年 規 則 の 制 定 を 支 持 して い る。StuartBell&
DonaldMcGillivrayは 「同 規 則 は,情 報,特 に環 境 に関 す る情 報 へ の 広 い ア クセ スが も た らす で あ ろ う利 点 … … を 反 映 した もの で あ る。 この よ う な 制 度 の 基 本 的 な 特 徴 の1つ と して,… … あ らゆ る者 が そ れ につ いて 「利 益 』 を 有 して い る と い う こ とを 挙 げ る こ とが で き る。 … … こ こで 言 う利 益 と は,全 て の 者 が 自分 自身 の た め に,あ る い は将 来 世 代 の た め に持 つ 普 遍 的 な もの で あ る」Gl沙と述 べ て お り,2004年 規 則 に よ る広 い 環 境 情 報 開 示 が 現 在 そ して 将 来 世 代 に向 け た全 て の 市 民 に対 す る利 益 とな る とす る。
この よ う に,イ ギ リスで は,1992年 規 則 を 大 幅 に修 正 した2004年 規 則 に よ って,市 民 が 公 的 機 関 の 保 有 す る環 境1青報 へ 広 くア クセ スす る こ とが で き る よ う にな っ た。 つ ま り,市 民 は,様 々な 汚 染 規 制 に関 す る個 別 法 が 従 来 か ら導 入 して い た公 的 登 録 簿 の よ うな 公 的 機 関 に よ る能 動 的 な 「情 報 提 供 」 制 度 を 通 じて 環 境1青報 を 入 手 す るだ けで な く,こ れ らの 制 度 で は入 手 す る こ との で きな い情 報 につ いて,2004年 規 則 に基 づ き開 示 請 求 を す る こ とが 可 能 にな っ たの で あ る。20世 紀 中頃 まで 公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 の 公 開 に消 極 的 で あ っ た イギ リス に お いて,「情 報 開示 」制 度 で あ る2004年 規 則 は,公 的 登 録 簿 な どの 「情 報 提 供 」 制 度 と共 に,環 境 保 護 の た めの 市 民 に よ る環 境1青報 へ の ア クセ ス につ いて 劇 的 な 変 化 を もた ら した と言 う こ とが で き る。
さ らに,2004年 規 則 につ いて は,2000年 法 との 比 較 か ら い くつ か の 特 徴 を 導 き 出す こ とが 可 能 で あ る。 第1に,2000年 法 は除 外 情 報 につ いて,多
くの 場 合,一 一定 の 要 素 を 「害 す る又 は害 す る お それ の あ る情 報 」 を 不 開 示 とす る こ とが で き る 旨を 定 めて い るの に対 して,2004年 規 則 は,あ る一 定 要 素 に 「悪 影 響 を 与 え る」 場 合 に不 開 示 とす る こ とが で き る 旨を 定 めて い
働StuartBell&DonaldMcGillivray,EnvironmentalLaw,6thed., (OxfordUniversityPress,2006)p.319.
る。 これ につ いて は,情 報 審 判 所 も,2004年 規 則 の 下 で の 不 開 示 の 基 準 は 2000年 法 の 基 準 と比 較 す る と,そ の 要 件 が 「よ り満 た し に くい も の で あ る」㈹ と述 べ て お り,2004年 規 則 の 下 で 開 示 請 求 さ れ た情 報 が 不 開示 と さ れ る可 能 性 は2000年 法 の 場 合 と比 べ て 実 質 的 に抑 制 され て い る と言 う こ と が で き る。
第2に,2004年 規 則 は,公 的 機 関 に よ る不 開 示 決 定 につ いて,「 個 人 デ ー タ」 を根 拠 とす る不 開 示 を 除 く全 て の 場 合 に 「公 益 判 断 」 を 義 務 付 けて い る。 た とえ,開 示 請 求 が,2004年 規 則 の 定 め る例 外 規 定 に該 当 して い た と して も,公 的 機 関 は 「不 開 示 の 公 益 性 が 開 示 の 公 益 性 を 上 回 る」 こ とを 証 明 す る こ とが で きな けれ ば,情 報 を 不 開 示 とす る こ とが で きな い。 一一方, 2000年 法 は 「絶 対 的 除 外 情 報 」 の 規 定 を 置 いて お り,公 的 機 関 は開 示 請 求
され た情 報 が この よ うな性 質 の もの に該 当 す る と判 断 した 場 合 に は,「 公 益 判 断 」 を 行 わ ず に不 開 示 とす る こ とが で き る。 この 点 か らも,2004年 規 則 が 市 民 に対 す る情 報 開 示 を 可 能 な 限 り促 進 しよ う と して い る点 を 導 き 出 す こ とが で き る。
第3に,2004年 規 則 に基 づ いて 「公 益 判 断 」 を 行 う場 合,「 公 的機 関 は, 開 示 を推 定 す る こ と とす る」 と い う 「開 示 推 定 原 則 」 に従 わ な けれ ばな ら な い。 これ に よ って 開 示 の 公 益 性 と不 開 示 の 公 益 性 が 同等 の もの で あ る場 合,公 的 機 関 は 当該 情 報 の 開 示 を 行 う こ と とな る。 この 原 則 は2000年 法 に は置 か れ て お らず,2004年 規 則 特 有 の もの で あ る。 こ こか らも,2004年 規 則 が,公 的 機 関 に よ る広 い環 境 情 報 開 示 を 導 き 出 そ う と して い る こ とが 分 か る。
この よ う に,イ ギ リスで は,公 的 機 関 に よ る 「情 報 開 示 」 制 度 と して の 2000年 情 報 公 開 法 と並 行 して,環 境 情 報 の 開 示 に特 化 した2004年 環 境 情 報
働EA/2006/0065,29June2007.,para.28.
規 則 を 制 定 す る こ と に よ り,公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 を よ り広 く市 民 に開 示 しよ う と して い る。 この こ と は イギ リス にお いて 環 境 情 報 の 公 開 が いか に重 要 視 され て い るか の あ らわ れ で あ り,さ ら に これ は環 境 保 護 を 目 的 とす る市 民 参 加 の 充 実 に もつ な が る と考 え られ る。
第2節 わ が 国 との 比 較
わ が 国 に も公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 に ア クセ スす るた めの 手 段 の1 つ と して,市 民 か らの 開 示 請 求 に よ る法 律 や 条 例 に基 づ いた 「情 報 開 示 」 制 度 が 存 在 して い る。 わ が 国 で は,以 前 か ら地 方 公 共 団 体 の 保 有 す る情 報 の 開 示 制 度 につ いて は,地 方 公 共 団 体 の 制 定 す る条 例 や 要 綱 に定 め られ て お り,市 民 は これ らに基 づ いて 情 報 の 開 示 請 求 を 行 った 上 で 当 該 情 報 を 入 手 して い た。 さ らに国 レベ ル で は,1999年5月 に情 報 公 開 法 が 制 定 され, 現 在 で は,情 報 を 保 有 して い る国 の 行 政 機 関 に対 して 同法 の 下 で の 開 示 請 求 を 行 う こ と に よ って 市 民 は これ らの 情 報 を 入 手 す る こ とが で き るの で あ る。 これ らの 制 度 は イギ リスの よ う に 「環 境 情 報 」 の 開 示 に特 化 した もの で はな いが,「環 境 情 報 」を 入 手 した い と考 え る市 民 も これ らの 制 度 を 用 い る こ と とな る。 な お,情 報 公 開 法2条 に よ る と,同 法 に基 づ く情 報 公 開 の 対 象 とな る 「行 政 文 書 」 とは,「 行 政 機 関 の 職 員 が職 務 上 作 成 し,又 は 取 得 した文 書,図 画 及 び電 磁 的 記 録 で あ って,当 該 行 政 機 関 の 職 員 が 組 織 的 に用 い る もの と して,当 該 行 政 機 関 が 保 有 して い る」もの で あ る とさ れ る。
さ らに 同法 に よ る と,何 人 に も行 政 機 関 の 保 有 す る行 政 文 書 の 開 示 を 請 求 す る権 利 が 認 め られ,情 報 を 入 手 しよ う と考 え る市 民 は,行 政 機 関 の 長 に 対 して 情 報 の 開 示 を 請 求 す る こ とが で き,こ れ に対 して 行 政 機 関 の 長 はそ れ が 不 開 示 事 由 に 当 た らな い限 り当該 文 書 を 開 示 しな けれ ばな らな い。 情 報 公 開 法 は不 開 示 事 由 と して,同 法5条 にお い て,「① 個 人 に関 す る情 報 」,
「② 法 人 等 に 関 す る情 報 」,「③ 国 の安 全 に 関す る情 報 」,「④ 公 共 の 安 全 等 に
関 す る情 報 」,「⑤ 審 議,検 討 ま た は協 議 に関 す る情 報 」,「⑥ 事 務 ま た は事 業 に 関す る情 報」 を 挙 げて お り㈹,さ らに 同 法7条 は,こ れ らの規 定 に該 当 して も,公 益 上 の 必 要 性 が あれ ば,行 政 機 関 の 長 は情 報 を 開 示 す る こ と が で き る 旨 を 規 定 す る ㈹。
㈱ 不 開 示 情 報 につ い て の詳 細 は,宇 賀 克 也 『新 ・情 報 公 開法 の逐 条 解 説[第4 版]」(有 斐 閣,2008年)46‑88頁 等 参 照 。
㈹ 開 示 請 求 され た情 報 が 不 開示 事 由 に該 当す る か否 か に つ い て争 わ れ た 判 例 に つ い て,詳 し くは,磯 野 弥 生 「日本 に お け る情 報 公 開法 ・環 境 情 報 の 公 開 」 環 境 研 究135号(2004年)63‑64頁,黒 川 哲 志 『環 境 行 政 の 法 理 と手 法 」(成 文 堂, 2004年)94‑98頁 等 参 照 。 な お,環 境 情 報 の 公 開 に関 して 特 に問 題 とな るの は, 開 示 請 求 され た 情 報 が 「法 人 等 に 関す る情 報 」 に該 当 す るか ど うか で あ る。 「法 人 等 に関 す る情 報 」 と は,「公 にす る こ と に よ り,当 該 法 人 等 又 は当 該 個 人 の 権 利,競 争 上 の地 位 そ の他 正 当 な利 益 を害 す る お そ れ が あ る」情 報 の こ とを 言 う。
しか し,開 示 請 求 され た情 報 が 「法 人 等 に 関 す る情 報 」 に該 当 す れ ば 全 て 不 開 示 と され るわ けで は な く,情 報 公 開 法5条2項 は,「人 の生 命,健 康,生 活 又 は 財 産 を 保 護 す る た め,公 にす る こ とが必 要 で あ る と認 め られ る情 報 」 に関 して は開 示 を義 務 づ けて い る。 な お近 年 の環 境 情 報 公 開 に 関 す る判 例 は,情 報 公 開 法 につ い て も,地 方 公 共 団 体 の 情 報 公 開 条 例 につ い て も,「法 人 等 に 関 す る情 報 」を 広 く認 め る傾 向 に あ る。 例 え ば,1997年 改 正 前 の 廃 棄 物 処 理 法 に基 づ く廃 棄 物 処 理 場 設 置 許 可 申請 書 の公 開 に 関 して争 わ れ た 事 案(津 地 判 平9・6・19判 例 集 未 登 載)に お い て,裁 判 所 は,情 報 公 開条 例 が 不 開 示事 由 に 該 当 す る と定 め て い る 「開 示 す る こ と に よ り,当 該 法 人 又 は 当該 個 人 等 の競 争 上 の 地 位 そ の 他 正 当 な 利 益 を 害 す る と認 め られ る」 情 報 に つ い て 限定 的 に と らえ た 上 で,同 条 例 の定 め る不 開 示 事 由 の 適 用 除 外 条 項 に つ い て,「 当該 事 業 の 及 ぼす 社 会 的 影 響 等 を考 慮 し,な お 当該 情 報 を 開示 す べ き公 益 性 が あ る場 合 に は,こ れ を 開 示 す る もの 」 と し,「こ こ にい う公 益 性 は… … 具 体 的 に は事 業 者 の 利 益 との 比 較 衡 量 に よ って 判 断 され るべ き もの と解 す る」 と述 べ て お り,さ らに,情 報 を 開 示 す べ き公 益 性 の 判 断 に 当 た って は,産 業 廃 棄 物 処 理 業 の 社 会 的 特 質 を 強 調 し,「 産 業 廃 棄 物 処 理 事 業 の運 営 態 様 如 何 が 周 辺 住 民 等 の健 康 そ の 他 の生 活 上 の 利 益 に直 接 影 響 を及 ぼす 危 険 性 が あ る こ とは軽 視 す る こ とが で き ず,産 業 廃 棄 物 処 理 業 の対 象 と な る廃 棄 物 の種 類 ・量 や処 理 方 法等 運 営 に 関 す る情 報 はで き る 限 り 開示 す る こ とが 要 請 され て い る もの で あ る」 と判 示 す る(曽 和 俊 文
「産 業 廃 棄 物 処 理 行 政 と情 報 公 開」 ジ ュ リス ト1120号(1997年)61頁 参 照)。 廃 棄 物 処 理 と情 報 公 開 につ い て は,他 に も,下 井 康 史 「産 業廃 棄 物 行 政 と情 報 公 開 」 いん だ す と17巻2号(2002年)11‑12頁 等 参 照 。