筑摩書房 「精選
国語総合
現代 文編
改訂版 」(平成 18年)
。問 「まだ一人 も海 に とどかないのだ。」 とは どうい うことか。
(考察)
戦 中にい ろんな ものに追 いつ め られ てサイパ ン島の崖 か ら飛 び降 りた女 た ちが、15年の 年月が経 って も誰ひ と りと して海 に届 かない とは、国や名 誉のために海 に飛 び込む とい う 行 き場 を選 んだに も関わ らず 、そ の死 は何 の意 味 も成 さなかった とい う意味が込 め られ て い る。結局 日本 は敗戦 し、女たちの選 んだ死は無意味だつたのである。天皇 を頂点 とした 男 た ちに象徴 され る権力 に逆 らうことができず に、犠牲 になった女たちが太平洋戦争 中に 存在 した事実 を読み取 るこ とがで きる。また、この課題 の発展 として戦後 15年経 って も戦
中 と女性 が何 かの犠牲 にな る とい うこ とが起 こってい るのではないか とい う学習者 の問題 意識 を引き出 したい課題 で ある。
。「崖」 について、多用 され る行替 えや、括弧に くくられた部分の効果 を説明 してみ よ う。
(考察〉
詩 の表現技法 に注 目す る課題 で ある。「崖」の特徴 の一つ として注 目され るのが、( ) で括 られ た一行 の存在 であ り、そ こには語 り手が主張 したい こ とが表現 され てい る。そ こ までは、戦争 中サイパ ン島で起 こつた事実が書かれ ていて、過去 の事実 と15年経 つた今 と を結び付 けているのが括弧で括 られた部分である。「いつ も」 とい う言葉 に表 されているよ うに、過去 も現在 も女 たちは男 た ちの犠牲 にな らなけれ ばな らいない現実 を表現 してい る。
括弧 で括 るこ とに よ り、読み手 に注 目させ る効果 と、声 を大 に してい うこ とができない語 り手 の心の中の声 を示 してい る と解釈 できる。
多用 され る行替 えについて間 う課題 は筑摩書房 にだ け見 られ る課題 で あつた。他 の教科 書会社 では詩 の リズムに注意 して朗読す る課題 が見 られ た。一行 が短 い こ とに よ り、読む
ときの リズムは淡 々 とした ものになるだろ う。簡潔 で無駄 のないま とめ られ た文章か らは、
作者 の主張が はつき りと読 み手 に伝 わ る効果 があるのではないか。最後 の
2行
が 「あの、/女
。」 と行 を替 えて表現 され てい る意 味 を考 えてみ る。 ま とめて 「あの女」 と表現 した と27
きの違い と比較 して考えてみると、行替え していない方の女はサンパ ン島で見 られた女の ことに限定 されて しま うよ うな気がす る。
2行
に分けることで、サイパ ン島の女を含め、過 去か ら現在に至るまでの女性全体を表現には しようとしたのではないだろ うか。この課題か ら、「崖」にみ られ る問題意識が過去か ら現在に続 くものであると学習者は認 識す ることができると考えられ る。
2つ
の課題 を考えることで、過去 を含 めた現在の女性の立場を考 えることが可能である。しか し、「崖」を現在の生徒たちの問題 として考えるには、それぞれの問題 を発展 させて考 える必要がある。今私たちが生きている社会に詩で書かれていることと同 じ状況が存在 し ないか、変化 した ところはないかな ど、学習者の身近なところでこの詩 を考えさせ る必要 があるだろ う。
第
2節
「シジ ミ」三省堂 「新編
国語総合
改訂版」(平成18年)
。次の詩句を手がか りに して、「私」の思いについて考えてみよう。
①夜が明けた ら
/ド
レモ コレモ/ミ
ンナクツテヤル②鬼ババの笑い
③それか ら先は
/う
つす ら口をあけて/寝
るよ りほかに私の夜はなかつた〈考察〉
①まず この言葉は誰の言葉なのかを考えると、これは私の言葉である。そ して、私の言葉 が どうして途 中か らカタカナ表記になつたのかを考えると、鬼ババが言つた言葉 と同 じこ とを 「私」が認識 したか らである。つま り言葉によつて、「私」は鬼ババ と同 じように命あ るものを食べて生きていることを認識 した と読めることができる。
② 自分は鬼ババ と変わ らぬ存在だ と気づいた 「私」は鬼ババの恐ろ しい笑いを嘲笑 したの である。結局は他の命 の恩恵 を受 けなければ生きてい くことができない存在であることを 鬼ババに対 しても自分に対 しても笑つたのではないか と思われ る。
③ この表現か らは、生きるとい うことの意味に気づいて しまった 「私」だが、 どうす るこ ともできない孤独感 を読み取ることができる。寝て朝になれば、いつ もよ うにシジ ミの命 をとつて食べ ることになるのである。
この課題は①②③ を個 々の表現 として読み取るのではな く、ぞれぞれの表現を結びつけ て詩全体か ら読み取れ る 「私」の思いを把握す ることが重要である。
この課題は 「私」の思いに注 目す るものであつたが、「シジミ」や 「鬼ババ」が登場す る意 味も考 えるべきである。
。それぞれの詩の リズム 。ことばの響き 。内容に注意 して読み方を工夫 し、朗読 してみよ 28
つ。
(考察〉
「表札」の学習課題 にも見 られた朗読である。三省堂の教科書学習課題 には定番の課題 の よ うだ。今 日の授業 で詩 の朗読が重要視 され る背景 として、文部科学省 に よる朗読 。暗 唱教材 を充実 が言 われ てい るこ とが挙 げ られ るのではないだ ろ うか。 朗読 。暗唱 の意義 を 次 の よ うに提言 してい る。
「こ とばは、音声面の表徴 として、 リズムやひびきを伴 つて人の感性 に訴 え、言語感覚 を 触発 して一定 の印象 を与 えるものである。朗読や暗唱 は、言語 の意 味の知的分析 がやや も す る と理屈 には しりが ちな読 み か ら読者 を解放 し、言語記号の音声的側 面 に触れ させ るも のである。特 に今 日の情報化社会 において、言語教育は実利実用 の コ ミュニケー シ ョン能 力 の育成 を第一義 とす るものだが (それ が重要 な こ とは言 うまで もないが)、 音声化す るこ とで初 めて知覚 され る言語 の音声的側 面の受容 も軽 く見てはな らない。言語 は、音声的な 印象 をもつて知覚・受容 され るものなのである。」18
言葉 を声 に出 して読む こ とで、黙読 してい るだ けでは伝 わ らない、直感 的 な言葉 の印象 な どを感 じるこ とがで き るで あろ う。 さらに、朗読 してみて感 じた こ とを学習者 同士で論 議 し合 うこ とで、詩 を読 んだ感想 な どを共有 で きるのではないか。言葉 の意 味だけで得 ら れ た詩 の読み にはなか った読み を得 ることができるか も しない。 ただ詩 を朗読す るだけで 終 わつて しまっては もつたい ない。
・印象 に残 つた詩 を一編選 んで、
4百
字程度 で感想 を書いてみ よ う。(考察〉
単元 で取 り上 げ られ た3つの詩か ら、一つ学習者 が気 に入 つた詩や 、印象的な詩 を取 り 上 げて、感想文 を書 く課題 である。「シジ ミ」 を選 んだ生徒 は どの よ うな感想文 を書 くだろ
うか。や は り、それ までの課題 で注 目していた 「私」の思い対す る感想や、表現か らえ ら れ る印象 について書 くだろ うか。授業後の感想文や鑑賞文はそれ までの授業 で扱 われた詩 句 に左右 され るこ とが予想 され る。学習者 に とつての 「シジ ミ論」 を書 くこ とができるよ うに、授業 中の課題設定では、学習者 の読みが固定的な らない よ うに、注意 しなければな らない。
第3節
本章 のま とめ
現在の学習の手引きか ら、出題 され る傾向 として、以下4つの共通点がみ られた。
18文 部科学省ホームページ
教科書の改善・充実に関す る調査研究報告書 (国語
)一
平成18、 19年度文部科学省委嘱事業「教科書の改善・充実に関す る研究事業」― 第1章 4.2.
11の 個別テーマについて
よ り抜粋。
httpソ/www.mext.go.jp/a menu/shotou/1cyoukasho/seido/08073004/002/005。
htm
①表現技法
②作者の心情や思いを問 う
③朗読
④感想文、鑑賞文
それぞれの学習課題の考察で述べた とお り、問題′点が存在す る。詩教材や出版社によつ て、出題内容に多少の違いはあるにしても、全体 として出題傾 向が同 じであるとい うこと は、 どの作品にも当てはめることのできる学習課題が提案 されているとい うことである。
それでは、詩 を表面的に しか読むことのできない課題 になつて しまっているのではないか。
それぞれの作品が持つ持 ち味や特徴によつて、学習課題 を考えてい くべきである。
さらに、詩を学ぶ時代によつても学習課題は変化すべきである。今私たちが生きている 時代 と詩 を結びつけて、今 日の問題 として捉えてい くことで、詩を読む今 日的価値が生ま れ、新 しい詩教材の可能性 を見出す ことができるのである。
全体 として、学習者詩に書かれていることを評価す る課題がみ られなかつた。「表札」の 学習課題でも同 じであつた。詩か ら読み取つた語 り手の主張を弟e呑 みにせず、その主張に 対 して学習者が どう受け止めるかを問 うことで、学習者の中に葛藤が生まれ、本当の意味 で詩を読む価値が生まれて くるだろ う。
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