くは(γk(∞), γ(0))に含まれる.任意のk≥1に対しγk(0), γk(∞)∈[n0, n0+ 1]が成り立つこと から,0<|γk(0)−γk(∞)| ≤1がわかる.
よって lim
n→+∞|γk(0)−γk(∞)|= 0を示せばよい.これを背理法を用いて示す.d >0,(γkp)p≥1
で|γkp(0)−γk(∞)|を満たすものがとれたと仮定する.このとき,ファレイ直線gkp(L)はHの ユークリッド線分
I = (
n0+id
2, n0+ 1 +id 2 )
と交わる.今Lは双曲三角形T の辺で,T は基本領域△の像の有限ユニオンより,無限個の等 長変換g ∈P SL(2,Z)が存在してg(△)はI と交わる.これは△が局所有限であることに矛盾.
よって,([n0;n1, ..., nk])k≥0はxに収束する.
唯一性を示す.xに収束する([n′0;n′1, ..., n′k])k≥0をとる.このとき,
p→lim+∞ϕn′0· · ·ϕn′2p(0) = lim
p→+∞ϕn0· · ·ϕn2p(0) が成り立つ.ここで,
ϕn′0· · ·ϕn′2p(0)∈(n′0, n′0+ 1)かつϕn0· · ·ϕn2p(0)∈(n0, n0+ 1) よりno =n′0がわかる.これより,ϕn′0, ϕn0を除いても差し支えないので
p→lim+∞ψn′1· · ·ϕn′2p(0) = lim
p→+∞ψn1· · ·ϕn′2p(0) が成り立つ.次に, (
1 ([0;n′1, ..., n′2p])
)
p≥1
= ([n′1;n′2, ..., n′2p])p≥1
( 1 ([0;n1, ..., n2p])
)
p≥1
= ([n1;n2, ..., n2p])p≥1
を考えることで,先の議論と同様にしてn′1 = n1がわかる.この議論を続けることで,任意の k≥0に対してnk =n′kが成り立つ.
ディスクをHt+ :={z∈H|Imz≥t}をとかく.∞の固定化群をΓ∞とするとき,定理1.6より t >0で任意のγ ∈Γ−Γ∞に対して
γHt+∩Ht+ =∅
が成り立つような場合を考える.モジュラー曲面S =H/Γは,∞を中心とするホロディスクHt+ による尖点をただ1つだけ持つ.この尖点をπ(Ht+)と表すことにする.
z∈H, x∈H(∞)をとり,(r(s))s≥0を[z, x)の弧長パラメータとする.図13のようにπ([z, x)) が尖点π(Ht+)に向かう条件を考える.このとき,次の性質が成り立つ.
図13
命題 4.3. ([VII, Proposition 1.1.]) 以下は同値.
(i) x∈Lp(Γ).
(ii) T ≥0でπ([r(T), x))⊂π(Ht+)を満たすものが存在する.
Proof.[VII, Proposition 1.1.]の証明に基づいて証明を行う.
(i)⇒(ii)を示す.x=γ(∞)が成り立つと仮定すると,定理2.11より直ちにT ≥0で π([r(T), x))⊂π(Ht+)
を満たすものが存在することがわかる.
(ii)⇒(i)を示す.仮定よりT ≥0でπ([r(T), x))⊂π(Ht+)を満たすものがとれる.このとき,
[r(T), x)⊂ ∪
γ∈Γ−Γ∞
γ(Ht+)
が成り立つ.今,ホロサイクルは互いに交わりを持たないので[r(T), x)はある1つのホロディス ク内に含まれることがわかる.これより,あるγ ∈Γを用いてx=γ(∞)と表せる.
ここからは,x ∈ Lc(Γ)のときに注目する.命題2.6より,x ∈Lc(Γ)ときフックス群の商空 間H/Γ 上の軌道は発散的でない.実はある無理数xに対してH/Γ上の軌道π([z, x))は非有界 となることが知られている.(これはあとで示す.)よって十分大きなt0に対し,非有界な実数列 (sn)n≥1で
π(r(sn))∈π(Ht+0)̸=∅ を満たすものがとれる.
x∈Lc(Γ)を特徴付けるために,ホロディスクの族を考える.(図14)ここで,ホロディスクに
図14
関するtについてE([z, x))を次のように定める.
E([z, x)) :={t∈R|t >0,非有界な実数列(sn)n≥1でπ(r(sn))∈π(Ht)を満たすものが存在する} これは,xに向かう軌道が尖点のどれくらいの深さまでならば無限回出入りできるのかというこ とを,ホロサイクルに関するtで考えている.E([z, x))について,x ∈Lp(Γ) のときは明らかに E([z, x)) =∅が成り立つ.
E([z, x])に関して,次の性質が成り立つ.
命題 4.4. ([VII, Proposition 1.5.]) x∈Lc(Γ)のとき,以下が成り立つ.
• t1>0で任意のx∈Lc(Γ)に対してt1∈E([z, x))を満たすものが存在する.
• x∈Lc(Γ)のとき,E([z, x))の上限はzに依存しない.
Proof.[VII, Proposition 1.5.]の証明に基づいて証明を行う.
x∈Lc(Γ)と仮定する.今Γは幾何的有限で非初等的なので命題2.6より,xによらないコンパ クトなK1⊂Sと,非有界な(sn)n≥1で
π(r(sn))∈K1
を満たすものがとれる.このとき,K1 をコンパクトな K˜1 ⊂ Ht+1 に持ち上げる.このとき,
s′n ≥snで
π(r(s′n))∈π(Ht1) を満たすものがとれる.よってt1∈E([z, x))がわかる.
次にzへの依存について考える.x ∈Lc(Γ)をとる.zと異なる点z′∈ Hをとり,[z′, x)の弧 長パラメータを(r(s))s≥0とする.このとき,任意のε >0に対してT ≥0で
[r′(T), x)∈[z, x)のε近傍
を満たすものがとれる.t∈E([z, x))を固定する.このとき取り方から,(γn)n≥1⊂Γと,非有界 な実数列(sn)n≥1で
γn(r(sn))∈Ht
を満たすものがとれる.この関係は,ブーゼマンコサイクルを用いると B∞(i, γn(r(sn))) =t
と表せる.
ε >0と(s′n)n≥1を
d(r′(s′n), r(sn))≤1
を満たすようにとる.このとき,ブーゼマンコサイクルの性質から
B∞(i, γn(r′(sn))) =B∞(i, γn(r(sn))) +B∞(γn(r(sn)), γn(r′(sn)))
=t+B∞(γn(r(sn)), γn(r′(sn))) とできる.これより,
t−ε≤B∞(i, γn(r′(sn)))≤t+ε が成り立つことから
π(r′(sn))∈π(Ht+−ε)
がわかる.よって,s′′n ≥s′nで
π(r′(s′′n))∈π(Ht−ε) を満たすものがとれる.これより,
t−ε∈E([z′, x))
がわかる.よって,E([z′, x))の上限は少なくともE([z, x))の上限であることがわかる.zとz′ を入れ替えることで題意が示される.
x∈Lc(Γ)に対し,E([z, x))の上限を尖点における軌道π([z, x))の高さといい,h(x)と表す.
h(x)が有限のとき,xを幾何的不良近似(geometrically badly approximated)と呼ぶ.
π([z, x))が有界のとき,xが幾何的不良近似となることはE([z, x))の定義より明らかである.
この逆が成り立つことを示す.
命題 4.5. ([VII, Proposition 2.1.]) 以下は同値.
(i) x∈Lc(Γ)が幾何的不良近似.
(ii) t >0で
π([z, x))∩π(Ht+) =∅ を満たすものが存在する.すなわち,π([z, x))は有界である.
Proof.[VII, Proposition 2.1.]の証明に基づいて証明を行う.
(i) ⇒ (ii)を示す.x ∈ Lc(Γ)で幾何的不良近似のものをとる.このときt > h(x)で,任意の γ∈Γ−Γ∞に対して
γ(Ht+)∩Ht+=∅ を満たすものをとる.h(x)の定義から,T >0で
π([r(T), x))∩π(Ht) =∅
を満たすものがとれる.十分大きなtに対し,ホロサイクルの像π(Ht)はS を2つの連結成分に 分ける.このとき,π([r(T), x))はS−π(Ht+)のほうに含まれることがわかる.今,π([z, r(T))) はコンパクトなのでt′≥tで
π([z, x))∩π(Ht+′) =∅ を満たすものがとれる.
(ii)⇒ (i)を示す.仮定よりt >0で
π([z, x))∩π(Ht+) =∅
を満たすものがとれる.x∈Lc(Γ)よりt′ >0と,非有界な実数列(sn)n≥1で π(r(sn))∈π(Ht)
を満たすものがとれる.これよりt > t′がわかるので,xは幾何的不良近似である.