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第 3 章 気候資金における適応プログラム

3.4 小括

本章では、ダイレクト・アクセスが「セーフガードを伴う開発」としての適応を達成す るために果たした役割についてセネガルの適応基金のプロジェクトを事例に、CSEのNIE としての適格性および地元コミュニティへの影響について成果と課題を検証した。その結 果、CSEの適格性については、3つの信託基準を満たしているとは言えない現状が明らか になった。C24EcoSolutions (2015)による最終外部報告書でも指摘された通り、プロジ ェクトが実施中に監査が入っていない点、CSEが管理できる予算規模の範囲をはるかに上 回っていた点、プロジェクト実施前の事前調査が不十分であった点など、管理能力が適切 であったとはいえない。それにとどまらず、資金の配分については、特にジョアルでの堤 防建設において1kmを延長しない限り、塩害化による被害を食い止めることができないの にもかかわらず、プロジェクト完了後にはその資金の継続先がないままに完了報告がなさ れている。リュフィスク、サリーの事業については引き継ぎ先が決定し、基金の「触媒機 能」も果たしたのに対して、ジョアルについては、実情を把握しながらも脆弱地域への適 応が行われていなかったのである。

CSEは、本プロジェクトの経験をセネガルのその他の地域さらには他国にまで応用する 可能性について、様々な提言を行っている。しかしながら、他地域への応用を論じる前 に、今回のプロジェクトサイトになおも残されている課題を解決するべきであろう。ま た、予算配分においても、当初の予算から不足が出たプロジェクトサイトに対する補填が 行われず、ジョアルのように事業完了後の引き継ぎ先が未決定のままの場所も確認され た。UNDPが指標している持続可能性や反復可能性の観点からも、課題を残すことになっ た。気候資金としては非常に競争的な状態で資金が潤沢にあることを指摘するドナーもお り、プロジェクトの立案の際に、コミュニティ・ベースの開発やセーフガードの視点に基 づいた資金要請をできるかが課題である。他方で、CSEが執行機関との協調によって多く

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の解決策を実施したのは事実である。グリーン・セネガルは、本プロジェクトの最も大き な成果として、塩害対策として好塩菌の農作物を植えることによって、耕作地の回復に一 定の成果があったことを挙げている。反復可能性の一つの指標でもあるが、今回のプロジ ェクトによって得られた教訓を明文化し、実現していくことが重要である。具体的には、

コミュニティ・ベースの開発委員会の創設により、草の根のコミュニティからの要望によ ってより技術的な支援が得られるようになること、地元のメディアを使った継続的な気候 変動に対する注意喚起を実施すること、地元住民の生活のデータベースの構築などであ る。

ダイレクト・アクセスの利点の一つに、よりボトムアップ型の意思決定が期待できるこ とがあった(Craeynest 2010)。プロジェクトを開始した後、新たに課題が出現する事態に 備えて軌道修正を行いつつ、資金不足の部分には、予算配分を見直すなどの措置がとられ るべきであろう。コミュニティ・ベースの開発の手法がとられることが期待される。さら に、ダイレクト・アクセスが効果的に機能するためには、NIEに求められる三つの基準を 認定した後も、その基準がプログラム実施中、実施後も遵守されているかどうかについて CSOの意見を反映させる場を持つための手続きや、ガイドラインなどによるチェック機能 を持たせることが求められている。

他方、最終外部報告書でも指摘されるようにモニタリング・評価(M&E)の仕組みがプ ロジェクト・レベルまで徹底されなかった点が大きな課題である。ベースラインの設定が 困難であるとはいえ、拙速な事前調査によって資源と時間、人材が適切に使われなかった 可能性が指摘されている。ダイレクト・アクセスが質を高め、他地域での拡大を目指す上 で、モニタリング・評価の仕組みを確立することは今後の重要な課題である。

本プロジェクトの成果により、CSEはGCFのNIEとしても認定された。セネガルでは CSEのほかに金融機関と建設関連会社の二つの機関も加えられた。今後の気候資金をダイ レクト・アクセスで管理するためには、GCFが検討している借款方式にも対応できるよ う、金融や財務、技術における専門家の配備が求められている。「セーフガードを伴う開 発」としての適応とは、社会的な弱者や脆弱な地域に対し、気候変動の悪影響のみならず 貧困削減を目指すものである。このような社会的な弱者のニーズに基づいた持続性のある プロジェクトの立案から実施、継続的な管理を行うことが求められている。

セネガルの事例でも明らかになったように、仮に信託基準やプログラムの管理における 項目が設定されていたとしても、事業の進捗状況によって柔軟に軌道修正することができ

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なければ、設定した基準は形骸化することになる。個別のプロジェクトから地域、国内、

国際的な次元まで統一的な基準を設定することにより、地球規模の適応の推進と進捗確認 を行うことが容易になる。

次章では、適応事業を立案・実施・評価を行うためのモニタリング・評価の枠組みにつ いて、従来型の枠組みに加えて、気候変動の特性を踏まえた手法やアプローチの可能性に ついて論じる。

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