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第 3 章 気候資金における適応プログラム

3.2 セネガルの事例

3.2.1 プロジェクトの概要

アフリカの西端に位置するセネガルは、一人当たり国民総所得(GNI)が約1000ドル、

国連開発計画(UNDP)による2014年度の人間開発指数(HDI)は187カ国中155位、世 界銀行によるビジネス環境を表す指標(Doing Business Rank)が189カ国中156位であ り、後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)に含まれる。主要な経済部門は枯渇 性の天然資源に著しく依存しているため、気候変動が人々の暮らしに大きく影響を及ぼし ている。国土面積は約20万㎢、南北700kmにわたる海岸線を有している(図3-2)。

1980年代から深刻な海岸侵食・高波・洪水などの危機に直面し、2100年までに海面は 1m上昇し、55〜86㎢の海岸が海岸侵食現象により消失すると予測されている(Dennis et

al. 1995)。人口約1400万人(世界銀行2014)の約60%は沿岸に居住し、産業の85%も集

中しており、気候変動の悪影響に対して極めて脆弱である。UNFCCCの調査においても、

現在年間1.25〜1.3mずつ海岸線が後退しているとの報告もある(Dram and Sambou

2013)。

海岸侵食は、国家適応計画(National Adaptation Plan for Action: NAPA)においても解決 すべき最優先課題として位置づけられている。NAPAとは、LDCが直面する適応ニーズに 対する方策の優先順位付けおよび実施の機会を提供するものであり、後発途上国基金

(LDCF)を通して2012年までに、セネガルを含む47カ国が策定済みである。セネガル

のNAPA(2006)では、最重要項目の四分野すなわち①アグロフォレストリー、②持続可

能な水利用、③沿岸地域の保護、④注意喚起と教育が示されている。沿岸地域の保護に大 部分の予算を当てていること(表3-2)からも、セネガル政府が重要視していることがわ かる。沿岸地域の保護は、植林活動、防波堤の建設、マングローブ林での植栽をはじめ多

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岐にわたっている。上記のような気候変動の脅威などに対処すべく、従来から世界銀行や UNDPなど多国間援助機関、二国間援助機関および国際NGOが支援を行ってきた。

表3-2 セネガルの国家適応計画(NAPA)

優先

順位 タイトル 予算(米ドル)

1 アグロフォレストリーの実施 11,746,000 2 持続可能な水利用 6,652,000 3 沿岸地域の保護 40,624,000 4 注意喚起と教育 160,000

(出所)UNFCCC NAPA Priority Databaseを基に作成。

図3-2 セネガルの地図

(出所) GFDRR(2012)

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セネガルのNIEとして認定されたCSEは、1986年に設立され、砂漠化防止を目的とし た生態モニタリングセンターとしての役割を担っていた。NIEとしては、金融機関的要素 ではなく、環境モニタリングの技術的な組織としての能力が重視された。執行機関のグリ ーンセネガル(Green Senegal)は、2008年から気候変動適応の事業を本格的に開始し、地 元住民への啓発活動や塩害に強い作物の育成、耕地再生などの取り組みを行ってきた。

NGOのディナミック・ファム(Dymamique Femme)は、女性代表の強力なリーダーシッ プの下、貧困女性グループの生活改善を主な目的として設立された。現在では、2000人に 及ぶ女性が活動している。

プロジェクト「脆弱地域における海岸侵食への適応」は、2011年~2014年に8,619,000 米ドルの贈与資金で実施された。適応基金理事会がCSEをセネガルのNIEとして認定し た2010年から6カ月後のことである。本件は、ダイレクト・アクセスの手法を採用した 適応基金の最初の案件である。NIEとして、CSEが、また執行機関としては、環境省の下 部組織であるDEEC、地元NGOのグリーン・セネガルおよびディナミック・ファムが選 定された。

プロジェクトは、首都のダカールから南へ約50km−110km圏内にある三つの町(リュフ ィスク、サリー、ジョアル)で行われた(図3-3)。海面上昇、高波、海面温度の上昇など 気候変動の悪影響が人々の住環境の変化、観光業への打撃、漁業、農業に甚大な被害をも たらすことから、プロジェクトでは、海岸浸食、水と土壌の塩害、耕作地の消失、マング ローブの破壊と減少そして海洋の多様性の変化(魚、鳥、植物プランクトン)に対応する ために複数の活動を行った。事業の活動は表3-3に要約できる。

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図3-3 プロジェクトサイトの地図

(出所)Adaptation Fund Board(2010)

表3-3 活動内容と主な便益

活動内容

プロジェクトサイト

便益 リュフィスク サリー ジョアル

インフラ 整備

○ 〇 魚の加工場やオーブンの新設により、5000人 の生活改善、間接的に9000人の雇用確保

36 堤防建設

○ 730mの堤防により6000㎡の土地を保護

〇 3.3㎞の防波堤の建設により17haの塩害地の 再生

注意喚起・

訓練

〇 海岸地域の清掃活動

元住民への 適応教育

○ 〇 〇 104回のラジオプログラムによる適応教育、

家庭訪問 生物多様性

の回復

○ 塩害地の植生の回復

(出所)Adaptation Storyに基づき作成。

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