プロ棋士との対戦が難しい状況で、これまで、コン ピュータとトップアマチュアとの対戦を行なってきた が、今回の対戦で、とうとう確実にアマチュアトップ は超えたのではないかという実感を得た。古作さんと 篠田さんは、トップアマチュアであるばかりかコンピ ュータ将棋についても非常に詳しい。あから
1/100との 対戦中、お二人が発話された「これは激指っぽい」と か「コンピュータならこう指してくる」などと相談し ている内容は、かなりの確率で正しかった。このお二
人が、相談しながら人間側に持ち時間のハンディを付 けた状態で対戦し、途中人間側が有望な局面を築きつ つも勝ちきれなかったことは、コンピュータ将棋の底 知れない中終盤能力の高さを見せ付けた対戦だったと 思う。
お二人は事前にコンピュータ(特に
Bonanza)の序盤 の研究を深くされ、自分たちのスタイル(居飛車党)
を大きく崩さない範囲で最も勝ちやすい形を研究され ていた。リハーサルで初手から定跡を外す奇策「3八 銀」も、相居飛車を目指しての選択であった。米長邦 雄会長のような未知の領域に引っ張り込む選択は、コ ンピュータも苦手な局面かも知れないが、人間にとっ ても未知な領域で、力戦形での大局観勝負に相当の自 信がないと取りにくい選択なのかも知れない。コンピ ュータの弱点を突く今回のお二人の選択は興味深く、
人間側にとっては今後の対コンピュータ戦のヒントに なるばかりか、コンピュータ側にとっては、現在のコ ンピュータ将棋の課題を浮き彫りにしているのかも知 れない。
お二人の合議が上手く機能していたかという点は、
この2戦だけで評価することは難しいが、事前の研究 と二人の息のあった対話を聞いている限り、大きな悪 影響があったとは考えにくい。対戦形式のイレギュラ ーさがあったとすれば、大盤の前で観客の前で思考過 程を話しながら手を決めるという環境が、どの程度思 考の妨げになったかという点は、考慮に入れる必要が あるだろう。古作さんは大盤だと「離れてみないと全 体を見渡しにくくなりがちである」という点に言及さ れていた。
合議のメリットとしては、古作さんも自戦記の中で 触れているが、複数の視線による見落としの軽減とい う点が指摘されているが、反面、二人で見ていること によって責任が分散して、第2戦で見られた「5五飛 の見落とし」にもつながった可能性もある。人間合議 が心理面にどのような影響をあたえるのかという点は、
認知科学者として興味を惹かれるテーマである。今後 も研究対象としていきたいと思った。
余談であるが、リベンジマッチとして、この対戦の 後、
11月にゲームプログラミングワークショップの特 別セッションにおいて、お二人+観客合議が、あから
1/100
に対して、同様の条件で対戦するイベント企画を
行った。やはり矢倉の熱戦になったが、これも人間側 は勝ちきれなかった(棋譜は、付録参照) 。
2012
年には、 (引退したとはいえ)元名人の米長邦雄
コンピュータ将棋協会誌 Vol.23(2011)
会長との電王戦が始まったが、もしかすると、これが アマチュアとコンピュータとの最後の公式の場での対 戦になったのかも知れない。それほどまでに、コンピ ュータの強さを見せ付けた対戦であった。
付録:
GPW特別イベントの棋譜
<リベンジ戦:人間合議
VSあから
1/100の棋譜>
日時:
2011年
11月
5日 場所:箱根セミナーハウス
▲先手:古作&篠田
+観戦者による人間合議
△後手:あから1/100
▲7六歩
△8四歩
▲6八銀
△3四歩
▲6六歩
△6二銀 ▲5六歩
△5四歩
▲4八銀
△4二銀
▲5八金右
△3二金
▲7八金
△4一玉
▲6九玉 △5二金
▲7七銀
△3三銀 ▲7九角
△3一角
▲3六歩
△4四歩
▲6七金右 △7四歩
▲6八角
△4三金右
▲7九玉
△6四角
▲3七桂
△3一玉 ▲8八玉
△8五歩
▲3八飛
△2二玉
▲2六歩
△5三銀
▲1六歩
△1四歩
▲5七銀 △7三角
▲4六銀
△2四銀 ▲1八香
△9四歩
▲9八香
△6四角
▲9九玉 △7三桂
▲2五歩
△1三銀
▲8八金
△3三桂
▲7九角
△9五歩 ▲1七香
△8一飛
▲6八角
△4二銀
▲5七角 △4五歩
▲同 桂
△2五桂
▲3五歩
△4四歩
▲3四歩
△4五歩 ▲同 銀
△1七桂成
▲4六角
△同 角
▲同 歩 △8六歩
▲同 歩
△4九角
▲6八飛 △1六成桂
▲7二角
△7一飛 ▲6三角成
△8五歩
▲同 歩
△同 桂
▲4四銀 △同 金
▲6二馬
△3四金
▲7一馬
△8七歩
▲同 金
△7八銀 ▲同 飛
△6七角成
▲7九銀
△7八馬
▲同 銀
△3八飛
▲8二飛
△7八飛成
▲4一角 △8七龍
▲5三馬
△7八金 ▲3二角成
△1二玉
▲2二金
△同 銀
▲同 馬 △同 玉
▲4二飛成
△1三玉 まで
110手で後手の勝ち
<参考:本イベント
Webページ>
http://entcog.c.ooco.jp/entcog/event/event2011 _comvshum.html
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コンピュータ将棋対策としての序盤戦の一考察
篠 田 正 人 ( 奈 良 女 子 大 学 理 学 部 数 学 科 )
i1.はじめに
2011 年 7 月 24 日に電気通信大学エンターテイメ ントと認知科学研究ステーションの特別企画「戦略 的アマトップ合議はコンピュータ将棋に勝てる か?1」に筆者は古作登さん(大阪商業大学アミュー ズメント産業研究所)との人間ペアの一員として参 加させて頂いた。関係者の皆様には大変お世話にな り、この場をお借りしてお礼申し上げたい。24 日の 本番の2局(VS Bonanza、VS あから 1/100)のため の事前準備の内容および対局結果と反省について は古作さんの稿を参照頂くことにして、本稿では人 間のコンピュータ対策として「序盤早々から定跡を 外すこと」に特化した作戦について述べ、その実行 例としてイベント前日に行われたリハーサル対局 を取り上げる。ここからの内容はあくまで作戦の一 例であり、多くの方々(特に私より強い方や私より プログラムを理解している方)が少しでも興味を持 って追試や新戦略を後に続けて下さればうれしく 思う。
2.Bonanza 対策としての序盤戦術:定跡外しの意義 今回の対戦相手は Bonanza およびあから 1/100
(事情によりボンクラーズから変更)ということで、
主に Bonanza6.0 に絞って対策を考えることにした。
人間側にとって、Bonanza は手軽にダウンロードで きて試験対局を何度も行えることが利点である。筆 者は Bonanza とは以前のヴァージョンから何度も試 験対局を行っており、また Bonanza の多くの棋譜(コ ンピュータ将棋選手権や floodgate など)を目にし ているので指し手の傾向は理解しているつもりで ある。もちろん Bonanza の強さも十分に体感してお り、率直に言えば、真っ向からぶつかっては勝率的 に見て(少なくとも筆者では)苦しいと思っている。
そして Bonanza に限らずコンピュータ将棋は年々 さらなる棋力向上が図られているが、最近のコンピ ュータ将棋の強化度は実感としてはわからない。仮 に探索の深さが 18 手から 20 手に延びたとすれば自 己対戦ではかなりの勝率差になると思われるが、人
1 「戦略的アマトップ合議はコンピュータ将棋に勝
間からではその差はほとんど見えない。しかし、思 考時間やマシン環境はやはり強さに大きく影響す るものと思われる:筆者が Bonanza と試験対局をす るとき「1 手 3 秒」と「1 手 10 秒」、あるいは「1 手 10 秒」と「55 分切れ負け」の間に差があること は体感としてわかる。自己対戦で Elo400 点以上強 くなっていれば人間でも指してみて違いがわかる のではないか、と想像する。
今回のイベントの対戦では、コンピュータ将棋側 の持ち時間は 25 分切れたら 10 秒という設定である。
そのため、なんとか序盤で時間を使わせて早めに 10 秒将棋に持ち込むことは人間の勝率を上げる大き な要因であると考えた。そのために、可能な限り早 く定跡形を外して持ち時間を使わせるにはどうす ればよいか、がここからのテーマである。また、定 跡を外すことは時間を使わせるだけでなくコンピ ュータ将棋の序盤のぎこちなさ(不自然な駒組み)
を誘発するため、定跡外し作戦は長い持ち時間の対 戦でも有効に働くかもしれない。
Bonanza はある程度の定跡データが入っており、
序盤で多くの実戦例がある手をこちらが選択すれ ば即座に定跡手を返される。そこで、プロの実戦例 がなく、しかも相手の様々な駒組に対応できてすぐ に不利にならない作戦を初手から考え、試験対局な ど様々なテストを行ってみることにした。ただし今 回の対戦では試験対局のマシン(NPS がおよそ 300K)
はイベント当日の環境と大きく異なるため、あまり Bonanza の指し手は決め打ちできないことにも注意 を払った。多くの対戦機会を通して、どのようなス ペックの相手にも共通して有効な序盤作戦を考え ることも将来の目標としたい。
注:定跡外しの対極にあるコンピュータ将棋対策として、
「詰みの近くまで定跡化されている作戦に誘導し、その 先の最新研究によって勝つ」という策もある。その成功 例として東大将棋部4名の相談将棋 VS あから 1/100
(伊藤毅志、三人寄れば文殊の知恵は本当か?、情報処 理学会報告 GI-26 No.4 所収)を挙げておく。
3.初手スペシャル
将棋の初手は 30 通りある。プロ棋戦での初手は