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第 4 章 評価実験

4.3 実験 3 :電気刺激強度と重量知覚変化量の関係

4.3.1 実験3:実験目的と内容

これまでの実験結果からEMSが重量知覚に影響を与えることが明らかになったため,電 気刺激の強度を変えることによって重量知覚の変化量がどのように変化するかを調査した.

図4.8 発揮力計測の風景

仮説通りであるならば,上腕二頭筋では刺激強度に比例して,筋肉を意識的に収縮させる 割合が小さくなるため,重量知覚の変化量が大きくなると考えられる.前腕に位置する筋 肉では,刺激強度に比例して感覚の鈍りが大きくなると考えられるため,重量知覚の変化 量も大きくなる可能性がある.

刺激強度の変化幅を統一するために,本実験ではEMSによって生じる運動の力量を10 [g]刻みのデジタルスケールで計測し,発揮力を被験者間で揃えた.発揮力で統一した理由 は,電圧や電流値では被験者の筋肉量や皮膚状態などによって生起される運動が大きく変 化するためである.刺激箇所は上腕二頭筋と発揮力の計測が容易な浅指屈筋とした.各筋 肉を刺激した際に被験者がどの程度の力を発揮できるか調査するために,被験者が痛みを

表4.6 上腕二頭筋を刺激した際の発揮力

被験者 平均発揮力[g] 標準誤差 電圧値[V] 電流値[mA]

A 420.0 4.7 65 31

B 500.0 9.4 75 32

C 370.0 26.2 45 34

D 860.0 61.8 55 28

E 236.7 7.2 50 29

F 453.3 40.1 65 29

G 2053.3 212.1 60 22

訴えない範囲で電圧を5 [V]刻みで最大化して,3回発揮力を計測した.発揮力の計測風 景を図4.8に,計測結果を表4.6,表4.7に示す.この実験結果から上腕二頭筋では,発揮 力が200±20 [g]となる電流値を高刺激,100±20 [g]となる電流値を中刺激,20 [g]以下と なる最大電流値を低刺激とした.浅指屈筋では,発揮力が300±20 [g]となる電流値を高刺 激,150±20 [g]となる電流値を中刺激,20 [g]以下となる最大電流値を低刺激とした.以 上の6条件について,4.1節の手順で3回ずつ試行を行った.1回目の試行ではデジタルス ケールで発揮力を計測して各刺激強度に対応した電流値を被験者ごとに決定し,2, 3回目 の試行はその電流値で実験を行った.疲労の影響を考慮し,1日に各条件を1試行ずつ行 い,被験者が筋肉痛など疲労を訴えた場合は日を改めて実験を行った.

4.3.2 実験3:実験結果と考察

実験3の結果を被験者ごとにまとめたグラフを図4.9,図4.10に示す.上腕二頭筋,浅 指屈筋での重量知覚の変化量について一要因分散分析を行った.

上腕二頭筋においては被験者A,被験者C,被験者Eと全被験者の平均に有意差が見ら れた(被験者A:[F(2, 6)=7.43, p<.05],被験者C:[F(2, 6)=7.13, p<.05],被験者E:[F(2, 6)=10.50, p<.05],全被験者の平均:[F(2, 60)=9.91, p<.01]).そこで,それぞれについ

てTukey法による多重検定を行ったところ,被験者A,被験者E,全被験者の平均は低刺

激条件と高刺激条件間に有意差が見られ(被験者A,被験者E:p<.05,全被験者の平均:

p<.05),被験者Cは中刺激条件と高刺激条件巻間に有意差が見られ(p<.05),被験者Eは 低刺激条件と中刺激条件巻間に有意差が見られた(p<.05).

浅指屈筋においては被験者Aと全被験者の平均に有意差が見られた (被験者A:[F(2, 6)=6.50, p<.05],全被験者の平均:[F(2, 60)=4.93, p<.05]).そこで,それぞれについて

表4.7 浅指屈筋を刺激した際の発揮力

被験者 平均発揮力[g] 標準誤差 電圧値[V] 電流値[mA]

A 543.3 22.3 60 30

B 483.3 22.3 65 32

C 520.0 8.2 50 37

D 1246.7 84.9 45 26

E 296.7 40.1 40 20

F 613.3 50.4 40 25

G 2030.0 131.2 60 27

図4.9 上腕二頭筋への刺激強度変更による影響

図4.10 浅指屈筋への刺激強度変更による影響

Tukey法による多重検定を行ったところ,被験者A,全被験者の平均は低刺激条件と高刺

激条件間に有意差が見られた(被験者A:p<.05,全被験者の平均:p<.05).

検定の結果,上腕二頭筋と浅指屈筋ともに刺激強度に比例して重量知覚の変化量が大き くなる傾向があることが明らかになった.仮説通り,上腕二頭筋では刺激強度が変わるこ とで筋肉を意識的に収縮させる割合も変化したことが影響しており,浅指屈筋では感覚の

図 4.11 実験風景

鈍り度合いが変化したことが影響していると考えられる.この結果から,電気的筋肉刺激 を用いた重量知覚制御では,刺激強度を変えることで重量知覚の変化量を制御できること が示唆された.

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