第 3 章 マウス ES 細胞を用いた造血幹細胞取得のための培養プロセス構築に関する諸検討
3.2 中空糸を用いた分化培養の最適化に関する検討
3.2.2 実験結果
培養経過に伴う細胞数変化 酸素分圧に関する検討
培養経過に伴う細胞数変化を Fig. 3.10 に示す。細胞数は培養初期にはほぼ同様の挙動を示 した。一方で、培養後半になると低酸素分圧下では増殖活性が減少しており、増幅率では
controlで約55倍、低酸素分圧条件では約33倍であった。
Fig. 3.10 Changes in the cell number of the differentiating mouse ES in various oxygen conditions. Blue circle: 5% O2 condition, Green circle: Control condition. Data are presented as the means ± S.D.
播種細胞数に関する検討
両培養系における細胞数変化を Fig. 3.11 に示す。いずれも良好な細胞増殖が行われ、細胞
数は7日間で約1×107 cellsに達し、ほぼ中空糸内腔に充満した状態となった。培養初期にお
いては播種細胞数により増殖挙動に差が見られたが、それは中空糸内部体積に対する初期 の播種細胞数の割合が関係しており、細胞組織体が中空糸内腔を満たすにつれ増殖速度が 低下し、その結果培養7日間でどちらも律速段階に達したと推測される。
Fig. 3.11 Changes in the cell number of the differentiating mouse ES in various oxygen conditions.
Green circle: Control condition, Red circle: 2×106 cells. Data are presented as the means ± S.D.
造血幹細胞マーカー発現率 酸素分圧に関する検討
低酸素分圧下における造血幹細胞発現率の変化を Fig. 3.12 に示す。造血幹細胞への分化は 対照群と同様に培養5日目をピークにして、減少へと転じた。しかしながら、そのピーク値 は対照群に対し2分の1程度であった。また5日目のピークの後、減少へと転じた理由と しては、未分化細胞群が造血幹細胞へと分化を始め、5日目に最も造血幹細胞の割合が高く なった後、より成熟した血球系細胞へと分化が進行し、造血幹細胞の割合としては減少して いったためだと考えられる。
第3章 マウスES細胞を用いた造血幹細胞取得のための培養プロセス構築に関する諸検討
Fig. 3.12 Changes in the expression of HSCs of the differentiating mouse ES in various oxygen conditions. Blue bar: 5% O2 condition, Green bar: Control condition. Data are presented as the means ± S.D.
播種細胞数に関する検討
両培養系における発現率の推移を Fig. 3.13 に示す。control である、播種細胞密度 2.0×105
cells/mLの系では、5日目をピークに造血幹細胞の発現率が減少に転じるという従来と同様
の傾向を示した。それに対して、播種細胞密度2.0×106 cells/mLの系では、5日目のピークが 現れなかった。このことから、始めにマウスES細胞を中空糸内部空間に対して高密度で充 填した後培養をしても、造血幹細胞へと分化誘導されないことが明らかとなった。マウス ES細胞から造血幹細胞へと分化させる場合には、初期に増殖を伴って分化させることが重 要であると推測される。
Fig. 3.13 Changes in the expression of HSCs of the differentiating mouse ES in various oxygen conditions. Green bar: Control condition, Red bar: 2×106cells. Data are presented as the means
± S.D.
第3章 マウスES細胞を用いた造血幹細胞取得のための培養プロセス構築に関する諸検討
造血幹細胞の推定収量 酸素分圧に関する検討
酸素分圧変更条件における造血幹細胞獲得数の変化をFig. 3.14に示す。造血幹細胞の数は、
組織体の構成細胞数と造血幹細胞の発現率から算出した。酸素分圧を変更することで、細胞 数が低下するだけでなくその発現率も低下していたため、それに相関する形で、獲得される 造血幹細胞数も推移した。このことから低酸素分圧環境は造血幹細胞の大量取得法として は不向きであることが分かった。
Fig. 3.14 Changes in the production of HSCs of the differentiating mouse ES in various oxygen conditions. Blue bar: 5% O2 condition, Green bar: Control condition. Data are presented as the means ± S.D.
播種細胞数に関する検討
播種細胞数変更条件における造血幹細胞獲得数の推移を Fig. 3.15 に示す。両培養系で収量 のピークが示された2.0×105 cells/mLの系の5日目と2.0×106 cells/mLの系の7日目を比較し たとき、前者の方が約2倍の造血幹細胞を獲得することが出来ることが示された。さらに初 期に固定化したマウスES細胞の数を考慮したとき、2.0×105 cells/mLの系では、培養5日間 で初期マウスES細胞の約3.5倍、2.0×106 cells/mLの系では、培養7日間で約0.2倍の取得 造血幹細胞数となったため、前者の方がより効率的に造血幹細胞の獲得が可能であること が明らかとなった。このことから、高細胞密度条件もまた、造血幹細胞の大量取得法として は不向きであることが分かった。
Fig. 3.15 Changes in production of HSCs in various oxygen conditions. Green bar: Control condition, Red bar: 2×106 cells. Data are presented as the means ± S.D.
第3章 マウスES細胞を用いた造血幹細胞取得のための培養プロセス構築に関する諸検討