第 2 章 炎症性刺激に対する反応性 に及ぼす反復寒冷ストレスの影響
第 2 節 シクロホスファミド誘起膀胱炎・膀胱痛への 反復寒冷ストレスの影響 . 27
II. 実験 結果
マウスにシクロホスファミド 400 mg/kgの腹腔内投与することにより投与3時間 半から4時間後に膀胱痛様侵害受容行動および、また尿道口から肛門付近の皮膚表面 における関連痛覚過敏が認められ (Fig. 9A, B) 、膀胱相対湿重量が増加していた
(Fig. 9C) 。しかし、これらの反応の程度に非ストレスマウスとRCストレスマウスで
差は見られなかった (Fig. 9A, B, C) 。
マクロファージ/ミクログリア阻害薬ミノサイクリンは、30 mg/kgの腹腔内投与に より、非ストレスマウスおよびRCストレスマウスにおけるシクロホスファミド誘起 侵害受容反応および関連痛覚過敏を有意に抑制した (Fig. 9A, B) 。一方、ミノサイク リンは、膀胱湿重量増加には影響しなかった (Fig. 9C) 。
8. 使用薬物および投与スケジュール
9. 統計処理
1. 高用量シクロホスファミドにより誘起される膀胱炎・膀胱痛へのマクロファージ の関与とRCストレスの影響
30
Fig. 9 Effect of minocycline (Mino), a macrophage/microglia inhibitor, on the bladder pain-like nociceptive behavior, referred hyperalgesia and increased bladder weight after systemic administration of CPA at 400 mg/kg in unstressed (US) and RC-stressed mice. Minocycline at 30 mg/kg was administered i.p. twice 1 h and 24 h before i.p. administration of CPA at 400 mg/kg. Data show the mean ± SEM for 7-9 unstressed or 4-5 RC-stressed mice. *P<0.05, **P<0.01 vs. Vehicle (V) + V; †P<0.05, ††P<0.01 vs. V + CPA.
0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
0 5 10 15 20 25 30 (A)
Number ofnociceptive behavior for 30min
0 5 10 15 20
0 5 10 15 20
Nociceptive score
V CPA 400 V
Mino
V
V V
Mino
V
US RC
CPA 400
(i.p.) (i.p.) (mg/kg) 0.008 g
Filament
0.07 g Filament
0.4 g Filament
1.0 g Filament US
V V
Mino
V CPA
400 (i.p.)
(i.p.) (mg/kg) V
V
Mino
V CPA
400 V
V
Mino
V CPA
400 V
V
Mino
V CPA
400
RC
V V
Mino
V CPA
400 (i.p.) (i.p.) (mg/kg) V
V
Mino
V CPA
400 V
V
Mino
V CPA
400 V
V
Mino
V CPA
400
Nociceptive score
(B)
Bladder weight / body weight (mg/g) (C)
V CPA 400 V
Mino
V
V V
Mino
V CPA
400 (i.p.) (i.p.) (mg/kg)
US RC
**
†
**
†
** **
**
**
** **
*
* *
†† ††
†
†
†
**
31
シクロホスファミドの用量を 200 mg/kg に下げて腹腔内投与し、誘起される膀胱 炎・膀胱痛に及ぼすRCストレスの影響を調べた。その結果、RCストレスマウスで は、低用量シクロホスファミド誘起侵害受容反応、関連痛覚過敏、および膀胱湿重量 が、非ストレスマウスに比べて、有意に減少していた (Fig. 10) 。
Fig. 10 Effect of RC stress on the bladder pain-like nociceptive behavior, referred hyperalgesia and increased bladder weight caused by a low dose, 200 mg/kg, of CPA in mice. CPA at 200 mg/kg was administered i.p. to unstressed (US) and RC-stressed mice. Data show the mean ± SEM for 5-6 mice. *P<0.05, **P<0.01 vs. US treated with vehicle (V). †P<0.05, ††P<0.01 vs. US treated with CPA.
(i.p.) (mg/kg) 0
5 10 15
20 **
†
*
V
US RC
CPA 200
US RC Bladder weight / body weight (mg/g)
(A)
Number ofnociceptive behavior for 30min
Nociceptive score
0.008 g Filament
0.07 g Filament
0 5 10 15 20
0.4 g Filament
1.0 g Filament (C)
(B)
V
US RC US RC
0 0.4 0.8 1.2
1.6 **
††
V
US RC
CPA 200
US RC
(i.p.) (mg/kg) CPA
200 (i.p.) (mg/kg)
V
US RC
CPA 200
US RC
V
US RC
CPA 200
US RC
V
US RC
CPA 200
US RC
2. 低用量シクロホスファミドにより誘起される膀胱炎・膀胱痛に及ぼすRCストレ スの影響
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RC ストレスによるシクロホスファミド誘起膀胱痛および膀胱炎症状の低下にマク ロファージの機能変化が関与する可能性を検討するため、腹腔マクロファージを採取 し、LPS刺激後による炎症性サイトカインTNF-αおよびIL-1βの遊離量を調べた。そ の結果、RC ストレスマウスの腹腔マクロファージでは、LPS 刺激により分泌される
TNF-αおよびIL-1β量が、非ストレスマウスに比べて有意に低下していた (Fig. 11) 。
Fig. 11 LPS-induced production of TNF-α and IL-1β in peritoneal macrophages isolated from unstressed (US) and RC-stressed mice. Peritoneal macrophages were stimulated with LPS at 0.01 , 0.03 , 0.1 , 0.3 or 1 µg/ml or vehicle (V) for 24 h. Data show mean ± SEM for 4-13 (TNF-α) or 4 (IL-1β). *P<0.05 vs US.
III. 考察
本節において、マクロファージ/ミクログリア阻害薬であるミノサイクリンはシクロ ホスファミド誘起膀胱相対湿重量に影響を与えることなく、膀胱痛と関連痛覚過敏を 阻止したことから、本モデルにおける膀胱痛の発現にはマクロファージが重要な役割 を果たすことが明らかとなった。これは、本モデルの膀胱組織でマクロファージの集 積が認められたとの報告75)と一致する。またRCストレスマウスの腹腔マクロファー ジでは、LPS刺激に対するTNF-αおよびIL-1βの分泌反応が低下していたことより、
RC ストレスマウスでは、マクロファージ機能の低下が原因で、シクロホスファミド 0
40 80 120 160 200
LPS 1 µg/mL
IL-1β
* 0
100 200 300 400
V
US RC
LPS (µg/mL) TNF-α
*
*
TNF-α (ng/mL) IL-1β (ng/mL)
0.01
US RC
0.03
US RC
0.1
US RC
0.3
US RC
1
US RC US RC
3. 腹腔マクロファージ機能に対するRCストレスの影響
33
により誘起される膀胱痛が、非ストレスマウスほど起こらなかった可能性が示唆され た。今回、ミノサイクリンが、シクロホスファミドにより誘起される膀胱痛を抑制し た一方、湿重量増加を抑制しなかったことは、マクロファージなどから分泌されるhigh
mobility group box 1 (HMGB1) やその標的分子である終末糖化産物受容体 (RAGE) が、
同モデルの膀胱痛に関与するが、炎症症状には関与しないとの報告73)と一致する。一 方、RC ストレスによって膀胱痛や膀胱炎症が軽減していたことは、間質性膀胱炎の 患者の膀胱痛がストレスによって増悪するとの臨床報告74)と矛盾する。このRCスト レスマウスにおいてマクロファージ機能の低下が見られたことより、このマウスは易 感染状態にある可能性が考えられ、感染性膀胱炎はむしろ促進される可能性もある。
以上、本節の結果から、RCストレスマウスでは、シクロホスファミド誘起膀胱炎・
膀胱痛が、非ストレスマウスよりも軽度であることが判明し、この膀胱痛の減弱には マクロファージの機能低下が関与する可能性が示唆された。
34
総括
本研究では、ヒトにおいて慢性ストレスにより生じる体調変化や関連する疾患を探 るため、1週間のRC ストレスを負荷したマウスが、新たな急性ストレスや炎症性刺 激に対してどの様な反応を示すかについて検討した。
第1章では急性拘束ストレスによって誘発される体温上昇に対するRCストレスの 影響について検討した。始めに、1 時間の急性拘束ストレスにより誘発される体温上 昇を調べたところ、RC ストレスマウスでは非ストレスマウスに比べて、体温上昇反 応が有意に亢進していた。そこで、この変化に熱産生組織である褐色脂肪組織に発現 するアドレナリンβ3受容体が関与するかを選択的拮抗薬であるSR59230Aを用いて検 討した。その結果、RC ストレスマウスにおける拘束ストレス誘発体温上昇の亢進は
SR59230A により有意に抑制された。さらに、褐色脂肪組織重量および褐色脂肪組織
のマーカーであるuncoupling protein-1のタンパク発現量を調べたところ、どちらにも わずかな増加傾向が認められた。一方、RC ストレスマウスでは非ストレスマウスと 比較して拘束ストレスによるコルチコステロン分泌も増加していることが明らかとな った。そこで、グルココルチコイド受容体拮抗薬であるミフェプリストンの効果を検 討したところ、RC ストレスマウスにおける拘束ストレス誘発体温上昇反応の亢進へ の影響は認められなかった。また抗不安薬ジアゼパムもRCストレスマウスにおける 体温上昇反応亢進に影響しなかった。これらの知見より、RC ストレスマウスにおけ る拘束ストレス誘発体温上昇の亢進には、褐色脂肪組織に発現するアドレナリンβ3受 容体の活性上昇が関与し、副腎皮質ホルモンや不安状態の関与は否定的であることが 示唆された。
第2章、第1節では、マウスの深部体温を、テレメトリーシステムを用いて無麻酔、
無拘束で測定し、LPS誘起発熱反応に対するRCストレスの影響を検討した。始めに、
RCストレス負荷最終日の深部体温を確認したところ、RCストレスマウスの低温環境 にある夜間の深部体温は非ストレスマウスと比較して有意に低下しており、活動量も 低下傾向にあった。次にLPSを腹腔内投与したところRCストレスマウスは10-30分
後および70-140分後をピークとする2峰性の発熱反応が認められ、これは非ストレス
マウスと比較して有意に増加していた。このRCストレスによるLPS誘起発熱反応の
35
増強はCOX 阻害薬ジクロフェナクにより抑制された。しかし、肺および視床下部の
COX-2タンパク発現量は、RCストレスおよびLPS投与により変化しなかった。また、
RCストレスマウスおよび非ストレスマウスともにLPS投与により90および150分後 に血清コルチコステロン濃度上昇が認められたが、それに対するRCストレスの影響 は明確ではなかった。これらの知見から、RCストレスは、LPS刺激によってCOX依 存性に産生されたプロスタグランジンによる発熱反応を増強することが明らかとなっ た。RCストレスマウスは致死量のLPSに対して抵抗性を示すことが報告されており、
RCストレスによる発熱反応の増強がこのLPS耐性獲得に寄与している可能性が考え られる。
第2章、第2節では、ヒトの間質性膀胱炎に似た症状を示すシクロホスファミド誘 起マウス膀胱炎モデルを用いて、RC ストレスが膀胱炎症および膀胱痛に与える影響 を検討した。RCおよび非ストレスマウスの腹腔内にシクロホスファミドを大量 (400
mg/kg) 投与すると3時間半から4時間後に膀胱痛様行動、関連痛覚過敏および膀胱湿
重量増加が認められ、これらの症状の程度に両群間で差は認められなかった。マクロ ファージ/ミクログリア阻害薬ミノサイクリンは、RC および非ストレス群どちらにお いても膀胱湿重量増加に影響することなく、膀胱痛様行動および関連痛覚過敏を強く 抑制した。次に、低用量 (200 mg/kg) のシクロホスファミドを投与したところ、膀胱 痛様行動、膀胱関連痛覚過敏および膀胱湿重量増加は、RC ストレスマウスにおける 方が非ストレスマウスに比較して軽微であった。最後に、腹腔マクロファージにおい てLPS刺激によるTNF-αおよびIL-1βの分泌量を測定したところ、RCストレスマウ スのマクロファージでは、非ストレスマウスに比べて、これらサイトカイン分泌量が 低下していた。このことより、RC ストレスマウスでは、マクロファージの機能の低 下が原因で、シクロホスファミドにより誘起される膀胱痛が非ストレスマウスと比較 して軽微であった可能性が示唆された。しかし、マクロファージ機能の低下は感染に 対する防御能低下に繋がる危険性を秘めており、今後感染性膀胱炎に及ぼすRCスト レスの影響についても調べる必要がある。
以上より、RCストレスマウスではアドレナリンβ3受容体が関与する急性拘束スト レス誘起体温上昇反応と、内因性プロスタグランジンに依存するLPS誘起発熱反応が 上昇していることが明らかとなった。一方、RC ストレスによりマクロファージ機能