使用したオールの校正結果を図A4−3に示す。それぞれの オールA,Bの歪出力には違いがあるが,荷重30kgまでは直 線で示された。実験にはAを左舷(8番),Bを右舷(7番)
オールとして用いた。
2)出力波形から平均漕力への換算
上記のオールを使用して漕艇した出力波形の例を各大学の 7・8番クルーについて,基本,全員およびダッシュ漕の順に 図A4−4に示す。但し,YGについては連絡の手違いから同 様の実験は実施できなかったので除く。
図の縦方向はそれぞれの校正値を,横方向は時間軸(秒)
を示した。波形はクルーの漕艇の一連動作(オールをローロ ックから船首側に突き出して先端のブレードで水を掴み,一 気に引いて最後に水から引上げ,再び同じブレード面で水を 掴むために引き上げと同時に外(海)側の腕の手首を利かし,
ブレードを反転しながら素早く返して突き出す。)と対応し て示され,ブレードが水を掴む瞬間から立ち上がり,水中の ブレードが水面に対し略垂直になった時点(シートのほぼ真 横)で最大荷重が示され,その後最後の引き上げによるもう 一つの山が示されたあと水面上に出て(0に戻る),返しの 時間経過後,再び初めの掴みに移行する。
以上の波形について,開始から20秒間(但しダッシュ漕の み30秒間)の波形面積(ここでは掃海面積と名づける)をデ ジタイザー(OSCON Gradimate A4-10)を使用して測定した。
この値に校正値を掛け,所要時間で割って平均漕力(オール が空中にある時間も含めた常時出力されている力とする)を 算定した。このうち各大学1〜12番クルーの基本漕の漕力を 各大学別に表A4−1および図A4−5に示す。但し,YGについ ては,予備実験の係留時におけるものを参考までに示した。
これによると各大学の基本漕の平均値は,8.49〜11.57kgf の範囲にあり,最大値はME6番の14.10kgf,最小値はHS9番 の5.73kgfであった。各大学の標準偏差は1.06〜1.61kgfで平均
図
A4−3 計測用オールの校正結果Result of the calibration for the oar used the experiment.
図
A4−4 漕力実験における出力波形(各大学7・8番の例)Output of analogeous data of the oar under rowing for the experiment (Sample is No.7and No.8's crew for each college or university).
図
A4−2 オールの校正法Calibration method of oar with strain gages for a cutter.
値の9.6〜19.0%に当たり,クルー漕力の整合という観点から は,整合度の良い大学で10%程度,悪い大学で20%程度,平 均で14%であった。
なお今回の実験においては,各大学クルーが日頃の練習に より身につけてきたそれぞれのピッチやクルー配置をそのま ま使用し,また一定の実験器材および実験器材の調整兼実験 記録員1名を乗船させて行ったこともあり,各大学とも一定 のピッチに揃えて漕艇させることや艇のトリムには特別の考 慮は払わなかった。
3)基本漕,全員漕,ダッシュ漕の比較とレース結果 次に各大学別7・8番による基本漕,全員漕およびダッシュ 漕の比較について表A4−2に示した。但しYGについては前 述と同様である。
各大学の7・8番全員漕の平均は7.37〜11.51kgfの範囲にあ り,基本漕に対する比率は77.2〜110.6%である。基本漕と比 較して全員漕で力を発揮したチーム(整合性が上昇したと考 えられる)と本来の基本漕の漕力も発揮できなかったチーム とに分かれるが,全体を平均すると基本漕の約95%の漕力と なった。
また各大学の7・8番ダッシュ漕についてみると,平均は 8.08〜10.24kgfの範囲にあり,基本漕に対しての比率は86.0
〜111.0%である。HSの約10%の上昇を除けば,概ね基本漕 の漕力の90%がそのままダッシュ漕に反映されると考えられる。
レースでは全員漕および一部ダッシュ漕の漕法が展開され ることが多いが,身についた普段の漕艇術を示す基本漕のレ ベルアップが全体の漕力を引き上げる要素と考えられる。ま たこれと並行して両漕法のレース内の組み立てについては,
基本漕が十分発揮できるようなチーム内における力の整合性
(チームワークとユニフォーミティ)が必要と考えられる。
一方,ダッシュ漕の出力波形について一部大学で顕著なノ コギリ型の波形が出現している。このダッシュ漕においては,
最初の掴みと同時に尻上げと称する腰掛け(スフォート)か
表
A4−1 各大学別基本漕の平均漕力(kgf/s) の比較Comparison of mean pulling force from No. 1 to No.12crew for each college or university.
表
A4−2 各大学別7・8番による基本,全員およびダッシュ (Dash)漕の平均漕力(kgf/s) の比較Comparison of three kinds of mean pulling force(basic pulling with two men sitting on the No.7th and No.8th sheets with powerful rowing, the whole pulling with 12 crewmen with powerful rowing and the dash pulling with 12crewmen rowing with hypothesis of the most powerful rowing) recorded a pair of the No.7th and No.8th crewmen for each college or university.
図
A4−5 基本漕力の算定結果(各大学1〜12番クルーおよ び平均値)Result of standardized average rowing force of No. 1 to No.12crews for each college or university.
*:予備実験の係留時実験のものを使用
下線部分( )内は2年生のものでレースでは除く。
ら腰をずらして漕艇する際に,一時水中のオールで体重を支 持するためにブレードを水中深く投入することが多い。すな わち,波形の著しい落ち込みの部分は,このダッシュ漕にお けるオールが「切れ込み」状態になっており,この間は水を 前方に掻く動作(艇尾に向かって座っているので,この場合 艇尾側への水の掻き出し)が為されておらず,推力には貢献 していないことが考えられる。よってこの波形が出る漕ぎ方 は,一時的に大きなピーク値は存在するが,掃海面積が小さ いものとなり,平均漕力からみると小さく見積もられ,力の 割には大きなロスを伴う漕ぎ方と見做せる。
またこの波形が顕著に見られる大学においては基本漕ある いは全員漕にその兆しが表われることが多く,これらの漕法 がその大学の特徴にもなっている。しかし過大荷重を一気に かけ,その後漕力が著しく落ち込む本漕法は,前述したよう に平均漕力が小さいことで艇速に対する寄与は低いと考え る。次に,これらの漕力とレース結果の対応について考察す る。表A4−3は,その対応を見たものである。表A4−1で示 された各大学別の基本漕の平均値を基準とし,これに表 A4−2で示した各大学7・8番の全員漕,ダッシュ漕への換算 率(彼等の漕力をチームの代表値とし,全体もほぼ同様な比 率と仮定した)を掛けて,それぞれ実際の漕力(実漕力)と して示した。但しKGについてはレースでは12番を欠いて1 欠で臨んだため彼の漕力を除いた値を12(人)で割って平均 値として示してある。
この表から,基本漕の平均値では大きい順にME,NS,
KG,YG,HGおよびHSとなる。この値に全員漕換算率を掛 けた実漕力Aについては同様に大きい順にYG,ME,KG,
HG,NSおよびHSとなった。更にダッシュ漕換算率を掛けた 実漕力Bについては,ME,YG,NS,HS,KGおよびHGと なった。ところで実際のレース結果は表の最下端の項に示し たタイムと速力(凪のほぼ同一状態で行った予選2レースに
よる)および順位となった。この結果から1位のYGについ ては,実験が同じ基準のものでないので同様な比較はできな いが,参考に示したものを使用するといずれの換算結果も上 位を占めた。2,3位のNSおよびHSは,ダッシュ漕換算率 に優れ,ダッシュ漕換算率1位のMEを除けば,YGに続いて いる。4〜6位のHG,MEおよびKGは全員漕換算率に優れ ていた。このうち漕力の点でレース1位のYGと遜色がなか ったMEについては,クルーに女子が4名入っており基礎実 験では直接反映されなかった要素の一つでもあるレースを漕 ぎ切るスタミナ(持久力)の有無の点が問題として考えられ る。同様にKGについては,規定人員不足の1欠で漕がざる を得なかったことが,基本漕力の換算率のみで単純に評価で きなかった点として上げられる。
4)端艇の抵抗A23)と艇速および有効馬力
次にタイムについてみると,1000m往復,計2000mのタイ ムは696〜791秒であった。いずれも回頭に要する時間を15秒,
また往復であるので潮流による影響もないものと仮定する と,実際の速力は5.01〜5.71ktとなる。図A4−6は,艇の重量 約2000kgf(3名乗艇)のカッターの曳航による抵抗試験結 果を示したものであるが,上記の対応速力に対する全抵抗値 は27.0〜35.7kgfとなる。実際のレースでは,艇重量は約 2700kgf程度と考えられるが,この全抵抗値は33.0〜43.6kgf の範囲A1)と見做せる。これはFn(フルード数)の0.274〜
0.312に相当し,造波抵抗に関するHornのZ理論A24)からみる と,前述の全抵抗から導き出される全抵抗係数値では,抵抗 の山(hump;艇速5.2kt)から抵抗の谷(hollow;艇速6.0kt)
に至る大略範囲内のものである。従って,抵抗の山に当たる 5.2kt前後で漕いだチームは力漕の結果が中々タイムに反映 されないのに比較して,6.0ktに近いチームは全抵抗係数値 的見地からすると比較的余裕をもって力漕の成果を発揮でき たことが考えられる。
表
A4−3 7・8番の漕力換算率からみた各大学基本漕の平均漕力(kgf/s) の比較とレース結果
Comparison of mean basic pulling force converted into the whole pulling and dash pulling force of the No.7th and No.8th crewmen and result of 2000m race-time for each college or university.
図
A4−6 曳航によるカッターの抵抗試験結果Total resistance for a cutter under 2000kgf from towing test.