第4章 化学強化層の形成にB 2 O 3 含有量が与える影響
4.2 実験手順
本研究における基本ガラス組成は、第2章における ALBS ガラスと同じ 13Na2O-5K2O-7MgO-
12B2O3-15Al2O3-48SiO2である。このガラスからB2O3含有量を、2 mol%刻みで0~16 mol%まで変
化させた(表 4-1参照)。B2O3は、基本ガラス組成中の SiO2を部分的に置き換えて行った。表 4-1
において、前章と同様に試験片名称中の数字は、B2O3の含有量(mol%)を示し、例えば、B12は、
12 mol%のB2O3を含むことを示す。試験片の準備方法、物性の測定は前章までと同様に行った。
72
表 4-1 各ガラスの分析組成(mol%)
Name Na2O K2O MgO B2O3 Al2O3 SiO2
B0 12.7 4.5 6.6 0.0 16.0 60.1
B2 12.8 4.5 6.6 2.1 16.0 57.9
B4 13.2 4.6 6.1 4.2 15.9 55.8
B6 13.2 4.6 6.0 6.1 15.9 54.0
B8 13.3 4.7 6.1 8.0 16.0 51.9
B10 13.3 4.6 6.1 9.9 15.9 50.0
B12 13.1 4.5 6.2 11.4 16.0 48.4
B14 13.3 4.4 6.1 13.3 16.1 46.6
B16 13.1 4.3 6.1 15.0 16.1 45.1
Experimental
error ±1 ±1 ±1 ±1 ±1 ±2
表 4-2 各ガラスの物理的及び機械的性質
Name Tg (˚C)
r Density (g/cm3)
No Number of oxygen per volume (/nm3)
E Young's
modulus (GPa)
Poisson's
ratio G Shear modulus
(GPa) K Bulk modulus
(GPa) Crack formation probability at 1.96 N in water
(%) Hv Vickers hardness (GPa)
D̃
Inter-diffusion coefficient
(cm2/s)
DOL* (m)
CS (MPa)
B0 691 2.47 42.2 75.8 0.221 31.0 45.3 0.0 5.68 2.01×10-09 -
-B2 654 2.46 42.5 74.2 0.224 30.3 44.8 4.0 5.64 4.31×10-10 116 (±15) 820
B4 602 2.45 42.8 72.0 0.231 29.3 44.6 7.5 5.58 3.01×10-10 69 (±10) 712
B6 580 2.45 43.0 70.3 0.232 28.5 43.7 3.8 5.46 1.55×10-10 51(±5) 734
B8 563 2.44 43.0 68.8 0.238 27.8 43.8 17.5 5.31 7.21×10-11 46(±4) 776
B10 569 2.43 43.2 67.6 0.241 27.2 43.5 62.5 5.23 9.51×10-11 47(±4) 757
B12 547 2.42 43.4 66.5 0.245 26.7 43.5 83.8 5.15 4.55×10-11 37(±3) 793
B14 545 2.41 43.5 65.2 0.247 26.2 42.9 80.0 5.09 5.05×10-11 35(±3) 733
B16 544 2.40 43.7 64.1 0.251 25.6 43.0 86.3 4.89 3.25×10-11 31(±3) 732
Experimental
error ±1 ±0.01 ±0.01 ±0.3 ±0.001 ±0.3 ±1 ±7 ±0.3 ±100
* Values in parentheses are uncertainties.
ガラス試験片はKNO3溶融塩に浸漬し、処理温度(Tg×0.83)Kでイオン交換を実施した。処理温
度の定数0.83は、基本組成のガラス(B12、Tg = 547°C)を683 K(410°C)で処理した第2章の条件を
73
基準として決定した。ガラスをそれぞれの処理温度より30 K低い温度で予熱し、次いでKNO3溶融
塩浴中に浸漬した。溶融塩中で8 時間イオン交換をした後、ガラスを室温に冷却し、ガラスの表面
上の残留塩を水ですすいだ。CSおよびDOLを表面応力計(Orihara、FSM-60)で測定した。
イオン交換の挙動を拡散係数などでより詳細に評価するために、電子プローブマイクロアナライ
ザー(EPMA)を用いた線分析によるカリウムイオンの濃度分布(プロファイル)の測定も行った。各
線分析は、ガラス表面に対して垂直方向になるように実施された。応力計で使用した試験片の作
製方法と同様にイオン交換を行った各ガラス試験片をエポキシ樹脂中に埋め込み、次いで一晩真
空で脱気しながら硬化させた。試験片の角部分での二方向からの拡散の影響を排除するために、
各試験片を45 μmのダイヤモンド固定砥粒のパッドで研削し、表面から少なくとも2 mmは除去し
た。次いで、30 μmのダイヤモンド固定砥粒パッド、15 μmのダイヤモンド固定砥粒パッド、7 μmの
ダイヤモンド遊離砥粒、4 μm のダイヤモンド遊離砥粒の順に研磨を行い、最後に酸化セリウムの
遊離砥粒で研磨を行い鏡面に仕上げた。なお、固定砥粒と酸化セリウムには水、遊離砥粒には潤
滑剤(メタダイ液)を使用し、湿式で研磨を行った。
研磨した試験片を超音波洗浄機で洗浄し真空乾燥機で乾燥した後、約25 nmの膜厚の金を蒸
着装置(Sanyu Electron、SC−701AT)を用いてコーティングした。断面におけるカリウムイオンの分布
を確認するために、約1 μmのビームスポットサイズを有するEPMA (Shimadzu, EPMA−1720)によ
って線分析を実施した。成分の測定は波長分散型X線分光法(WDS)を用いた。電子ビームの加
速電圧は15 kV、電流は50 nAである。これらの測定において、測定距離は100~300 μmで、測
74
定ピッチは0.2μm、積算時間は0.9 sとした。カリウムの特性X線強度を、設定されたプローブ電流
を用いて各ステップで収集した。実際の測定時の画面を図 4-1に示す。線分析の方向はガラス内
部から外側(樹脂)に行い、ガラスが欠けていない場所を選び測定を行った。
図 4-1 線分析測定時の画面(左側がガラス、右側が樹脂)
測定したX線強度のプロファイルから拡散係数を求めた。二つの異なるカチオン(ここではNa+と
K+)の単純なイオン交換において、相互拡散係数 D̃ は、ネルンスト−プランクの式と拡散方程式及
び電荷のつり合いから次式によって与えられる63)。
(4-1)
ここで、DNaおよびDKは、それぞれ Na+およびK+イオンの自己拡散係数である。CNaおよびCK
は、それぞれNa+およびK+イオンのモル分率である。
(4-2)
75
t は拡散 時間 、x はガ ラス 表面 からの距離 、CK,t は 時間 t にお ける K の濃 度である 。
erfc(complementary error function、相補誤差関数)とはガウス(正規)分布を計算するための特殊
関数であり、拡散現象が正規分布になることからフィッティングに用いられる。相互拡散係数は
EPMAにより得られたカリウムの濃度プロファイルを本式に当てはめることによって計算される。