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実証研究編

ドキュメント内 はじめに (ページ 102-178)

6 章 創作プロセスとプランの役割はどのようなものなの か?―映画撮影のフィールド研究

本章では、これまでに説明してきたとおり、創作プロセスと創作プロセスにおけるプランの役 割を明らかにすることを目的とする。対象とする創作活動は映画制作、なかでも映画の撮影であ る。

■6.1 フィールドの概要

■■6.1.1 フィールドワークの概要

東京都内の四年制大学の芸術学部で映画制作を専攻している大学生の活動を対象としたフィ ールドワークを行なった。フィールドエントリーは2003年4月であり、2005年3月まで二年 度についてフィールドワークを行なった。学生は2003年度は3年生、2004年度は4年生であ った。学生は監督、撮影、録音を専門とするコースにそれぞれ在籍しており、講義や実習を通じ て機材の使い方を含めた映画制作の専門的なノウハウを学んでいる。

筆者はおもに映画が制作されていくプロセスに関心をもって参与観察を行なった。制作チーム のミーティングや映画撮影の現場、編集といった活動を観察させてもらったほか、先生方のご協 力のもと、映画制作に関する講義や機材使用の実習にも参加させてもらった。そのほか、学生と 一緒に食事や飲み会に行くなど、様々な活動にも参加させてもらった。

■■6.1.2 映画撮影の参与観察の概要

本章で取り上げたのは2004年の夏に行われた卒業制作における撮影活動である。卒業制作で は監督、撮影、録音を担当するメンバー各 1 名を中心として制作チームを形成する。制作チー ムは、監督を中心とした演出部、撮影(カメラマン)を中心とした撮影部(照明を含む)、録音 を中心とした録音部といった役割分担があり、各部2名から 4名程度、合わせると制作チーム は10名を越えるメンバーになる。撮影には映画に出演する俳優も参加する。

筆者は主として2つの制作チームの撮影、合計18日に同行し、参与観察を行なった。撮影は

東京都、埼玉県を中心に行なわれた。現場では、荷物を運ぶなど筆者にもできる手伝いをしなが ら観察を行なった。観察時は、撮影現場における創作のプロセス、メンバーのやりとりに焦点を あてた。観察したことはメモ帳に書き留めた。以降、メモ帳に書き留めたことをフィールドメモ と呼ぶ。また、可能な範囲でビデオカメラで創作活動を記録した。以降、ビデオカメラによる記 録のことをビデオデータと呼ぶ。フィールドメモには、活動が展開するきっかけとなったやりと りや気になったできごとを書き留めたほか、後にフィールドノーツを作成する際に想起のきっか けとなることを書き留めた。こうした記述に加えて、記述した時間も適宜記入した。これは、想 起のきっかけとするためであるのと同時に、その後、進行中の活動を分析するにあたり、現場で 観察したこととビデオデータを対応づけるためであった。

■■6.1.3 フィールドノーツの作成

フィールドノーツの作成にあたっては、Emerson, Fretz, & Shaw(1995)、Jordan & Henderson

(1995)、佐藤(2002)の方法を援用した。

まず、参与観察から数日以内にフィールドノーツを作成した。フィールドノーツは、現場で書 き留めたフィールドメモを参照し、現場のできごとを想起したことを書き加えて作成した。具体 的には、現場で起こったできごとの関与者、やりとり、できごとが起こった時間等を記載した。

そのほかに、注目したできごとにコメントを書き加えた31

つぎに、参与観察からあまり日数が経過しないうちに、フィールドノーツの記述とビデオデー タに示される時間を対応づける作業を行なった32。これはフィールドノーツを参照し、気になっ た時点のビデオデータをすぐに見つけられるようにするためである。この作業では、ビデオデー タを見ながら、必要に応じてフィールドノーツに記述を加えた。

31 フィールドノーツにはフィールドに直接関連する記述以外のことも書き込まれる。Emerson, et al.

1995)はフィールドノーツを清書する段階におけるフィールドに関する記述以外の書き込みをつぎのよ うにまとめている。フィールドでのできごとに対するフィールドワーカーの印象や清書しているときに疑 問や関心を寄せたことをコメントすることを「わきゼリフ」、フィールドの記述とは別にまとまった考察を 行なうことを「注釈」、重要と思われることについて総括的な考察を行なうことを「同時進行的覚え書き」

としている。筆者もフィールドノーツの作成にあたってこうした作業を行なった。

32 この作業はJordan & Henderson(1995)のいう目次ログ(content logs)作りの一部にあたる。彼ら は、ビデオデータを見ながら、おおまかなできごとを書き留めていくことをもって目次ログ作りとしてい る。

■■6.1.4 分析手続き

「どのように創作活動が展開するのか」さらに「プランはどのような役割をもつのか」という リサーチ・クエスチョンを明らかにするために、創作活動の展開およびプランの役割に焦点をあ てて、1)フィールドノーツを繰り返して読み直し、2)ビデオデータを見なおす作業を行なっ た。

ビデオデータを見なおすことで、進行中の活動をより詳細に理解することができる。そこで、

録画状態がよい(音声が聞き取りやすく、メンバーのやりとりが見えやすい)ビデオデータを中 心に、くりかえし見なおした。ビデオデータを見ながら、エピソードの記述を書き加えたり、必 要に応じてメンバーの相互行為を書き起こすことで、トランスクリプトを作成した33。トランス クリプトの作成にあたっては、相互行為分析の視点(西阪,1997)を参考に、観察可能な行為 に注目した。相互行為の当事者に観察可能なことは、第三者(分析者)にも観察可能である。そ のため、相互行為に示される当事者の志向性に注目した34

そのほか、ビデオデータを見ながら、エピソードの特徴や相互行為の特徴について考えたこと を書き加えていった35

なお、「プランの役割」については、創作対象であるショットを指し示す脚本と絵コンテとい うプランに注目し、それらがどのように利用されているかに注目した(脚本と絵コンテ、および ショットの詳細については 6.1.8 で詳述する)。本論ではプランを相互行為論的な視点からとら える。つまり、プランを具体的に利用している場面が注目すべき対象となる。プランの利用に該 当することとして、まずは、シナリオや絵コンテを手に取って参照している場面が挙げられる。

つぎに、その時点で直接には参照していないものの、会話のなかで「脚本では○○だった」「絵 コンテとちがう」といったようにプランへの言及がみられた場合、プランの利用にあてはまると いえる。

以上の作業を経たフィールドノーツを対象として、創作プロセスの特徴を整理し、ボトムアッ

33 ビデオデータを書き起こす際には、「焦点」と「水準」について検討を要する。焦点は、すでに述べて いるとおり創作活動の特徴であった。書き起こしの水準は、会話分析のように、息継ぎ、会話や行為の微 細なタイミングが理解できる水準ではなく、会話の内容や行為の流れが理解できる水準をもちいた。

34 本章のリサーチ・クエスチョンを明らかにするためには、書き起こしの作業は必ずしも必要でない。た だし、ビデオデータに観察できるできごとを、文字に書き起こすことで、現象の理解が深まることもある。

35 この作業はEmerson, et al.(1995)の言う「理論的覚え書き」「統合的覚え書き」に相当する。

プにまとめあげる作業を行なった。並行して、ビデオデータの見なおしとエピソードや相互行為 の書き起こしの作業も継続して行なった。こうして、創作プロセスを適切に理解するための枠組 みを整理していった。この作業を通じて、創作プロセスを理解する枠組みが徐々に洗練されると ともに、一方では反駁され再考を促される、ということが繰り返された。こうした分析方法は、

データに根ざしたところからボトムアップに概念を練り上げていき、概念が一定の収束(理論的 飽和)に至るまでデータの収集と分析作業を行なうグラウンデッド・セオリー(Glaser & Strauss, 1967)を援用したものである。

分析作業を通じて、創作活動のプロセスの特徴と創作活動におけるプランの役割の特徴がまと められた。本章の各研究(研究1から4)では、創作活動の特徴やプランの役割を理解する枠組 みを説明するにあたり、典型的なエピソードや相互行為を事例として提示し、解釈を加えること で、例証していく。

■■6.1.5 映画撮影という活動の概要

創作活動のプロセスの特徴とプランの役割を説明するのに先立ち、映画の制作プロセスにおけ る撮影とプランの位置づけ(6.1.6)、撮影の概要(6.1.7)、撮影現場におけるプランの位置づけ

(6.1.8)を説明する。

■■6.1.6 映画制作という活動とプランの位置づけ

映画作品の制作過程は、プリプロダクション→プロダクション(撮影)→ポストプロダクショ ンの三段階にわけられる。本章では「撮影」を対象とする。

撮影の前の段階であるプリプロダクションでは、作品の構想が練られ、撮影に向けた準備がな される。重要な作業として、脚本(シナリオ)と絵コンテの作成を挙げることができる。脚本は、

作品のストーリーに相当するものを文章で表現したものである。『映画の授業』(高橋,2004)

から例を挙げて説明を行なおう。行番号は筆者が加えた。

1 ○人喰い沼(夕刻)

2 沼の面は血のように赤く染まっている。

3 立花「誰だ、あんたは?」

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