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第4章 広告表示義務の政策効果に関する実証分析

4.3 実証分析の結果と考察

4.3.3 実証分析結果のまとめ

めて小さい割合である(有意水準5%)。なお、メジャー7以外のマンションは、レベル5 の予測について統計上有意な結果は得られなかった。

これらの結果から、広告表示義務はランクを上げる効果があり、高品質住宅(ランク4)

を増加させる効果と低品質住宅(ランク2)を減らす効果の両方あることが分かった。

また、表 13 の増加率でみると、高品質住宅(ランク4)の増加率はメジャー7とそれ以 外でともに約5割と特に変わらなかったが、低品質住宅(ランク2)の減少率は、メジャー 7以外の約3割減に対して、メジャー7では約6割減と減少率が大きかった。これは、メジ ャー7の方が、ブランドの毀損を恐れて低品質評価を避けるインセンティブが大きいこと が理由として考えられるのではないか。

なお、広告表示義務導入ケースでも、ランク5の割合は小さいが、これは設計者へのヒア リングでも指摘されたとおり、コストが高いためと思われる。

4.3.3 実証分析結果のまとめ

今回のモデルにおいては、環境性能に大きな影響を与えるであろう物件の規模、建築主 特性、地域性、年次、その他政策変数等をコントロールした上で、広告表示義務導入の効 果について、統計的に有意に検証することができた。

最後に、実証分析の結果を踏まえ、第3章で理論的に導きだされた3つの仮説の検証結 果についてまとめる。

まず、実証分析1及び実証分析2の両方において、広告表示義務があるマンションの方 が環境性能が高い傾向があることが実証された。特に環境性能がもともと高いメジャー7 ではその違いが顕著で、BEE 値が平均的に 0.26 高い(1.25 倍)傾向があり、逆淘汰が緩 和されていることが確認された。このことから、仮説①「新築分譲マンション市場におい ては環境性能に関して逆淘汰が発生している」については支持されたと考えられる。

CASBEE ランクの分析では、ランク4(高品質)の割合は、広告表示義務がある場合に、

それがない場合と比べてメジャー7以外において5割増(11.0%→16.7%)、メジャー7 においても5割増(34.0%→51.2%)という結果となったことから、仮説②「多段階評価 の広告表示義務は高品質住宅の供給を増加させる」も支持された。

また、実証分析2において、ランク2(低品質)の割合は、広告表示義務がある場合 に、それがない場合と比べてメジャー7以外において4割減(30.1%→21.6%)、メジャ ー7において6割減(9.4%→3.6%)という結果となったことから、仮説③「③多段階評 価の広告表示義務は低品質住宅の供給を減少させる」も支持された。

なお、ランクを被説明変数とする実証分析2では、メジャー7以外もメジャー7も共 に、大きくランクを向上させる効果が認められた一方で、BEE 値(平均値 1.181、標準偏 差 0.405)を被説明変数とする実証分析1では、BEE 値の向上効果は、メジャー7では 0.26 であるのに対して、メジャー7以外では 0.078 と小さい値になった。メジャー7以外 については、ランクを意識して BEE 値を上げてはいるものの、BEE 値(環境効率)自体の 向上効果としては限定的なものとなっている可能性があり、ランクの BEE 値要件(ランク 3は BEE 値 1.0 以上、ランク4は BEE 値 1.5 以上等)の設定が政策上重要な課題であるこ とを示唆している。

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表 10 実証分析2の推計結果 (分析2―①全物件)

被説明変数:CASBEE ランク

説明変数 係数 標準誤差

広告表示義務導入ダミー 0.215 *** (0.080)

広告表示義務導入*メジャー7 0.436 *** (0.106)

容積率緩和ダミー 0.340 ** (0.152)

メジャー7ダミー 0.362 *** (0.068)

地方政府等ダミー 0.697 *** (0.084)

個人建築主ダミー -0.931 *** (0.111)

ln(延床面積(㎡)) 1.100 *** (0.075)

京都市ダミー -0.789 *** (0.115)

神戸市ダミー -0.627 *** (0.104)

名古屋市ダミー -0.419 *** (0.114)

横浜市ダミー -0.308 *** (0.116)

柏市ダミー -0.348 * (0.208)

川崎市ダミー -0.034 (0.138)

千葉市ダミー -0.126 (0.178)

ln(行政区平均新築分譲マンション坪単価(円/坪)) 1.244 *** (0.424) ln(行政区平均地価(円/坪) ) -0.399 *** (0.127) ln(行政区平均新築分譲マンション戸当たり床面積(㎡/戸)) 2.563 *** (0.566) ln(行政区分譲マンション新築戸数(戸)) 0.146 * (0.076)

2005 年度ダミー 0.054 (0.153)

2006 年度ダミー 0.019 (0.149)

2007 年度ダミー -0.235 (0.148)

2008 年度ダミー 0.044 (0.153)

2009 年度ダミー 0.309 * (0.163)

2010 年度ダミー 0.287 * (0.147)

2011 年度ダミー 0.312 ** (0.148)

2012 年度ダミー 0.323 ** (0.148)

2013 年度ダミー 0.268 * (0.147)

2014 年度ダミー 0.176 (0.150)

2015 年度ダミー 0.198 (0.154)

2016 年度ダミー 0.105 (0.165)

/cut1 6.218 (1.403)

/cut2 8.843 (1.400)

/cut3 10.566 (1.403)

/cut4 12.713 (1.411)

観測数 3,434

Log likelihood -3105.9

LR chi2 1182.77

Prob > chi2 0.000

Pseudo R2 0.160

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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表 11 実証分析2の推計結果(分析2―②、分析2―③)

被説明変数:CASBEE ランク

説明変数

メジャー7以外株式会社 メジャー7

係数 標準誤差 係数 標準誤差

広告表示義務導入ダミー 0.265 *** (0.093) 0.478 ** (0.190) 容積率緩和ダミー 0.353 (0.224) 0.418 * (0.244) ln(延床面積(㎡)) 1.186 *** (0.095) 0.786 *** (0.161) 京都市ダミー -0.858 *** (0.150) -0.753 ** (0.292) 神戸市ダミー -0.551 *** (0.142) -0.894 *** (0.207) 名古屋市ダミー -0.346 ** (0.150) -0.403 (0.266) 横浜市ダミー -0.302 * (0.155) -0.149 (0.237) 柏市ダミー -0.517 * (0.280) 0.595 (0.606) 川崎市ダミー 0.031 (0.179) -0.042 (0.298) 千葉市ダミー -0.147 (0.220) 0.229 (0.437) ln(行政区平均新築分譲マンション坪単価(円/坪)) 2.023 *** (0.510) 0.268 (1.126) ln(行政区平均地価(円/坪)) -0.555 *** (0.153) 0.019 (0.366) ln(行政区平均新築分譲マンション戸当たり床面積

(㎡/戸)) 2.205 *** (0.696) 6.437 *** (1.610) ln(行政区分譲マンション新築戸数(戸)) 0.057 (0.093) 0.300 (0.203) 2005 年度ダミー -0.025 (0.213) 0.533 (0.324) 2006 年度ダミー 0.076 (0.209) 0.316 (0.325) 2007 年度ダミー -0.254 (0.209) 0.229 (0.301) 2008 年度ダミー 0.025 (0.212) 0.232 (0.339) 2009 年度ダミー 0.433 * (0.232) 0.282 (0.331) 2010 年度ダミー 0.340 (0.210) 0.493 * (0.292) 2011 年度ダミー 0.337 (0.208) 0.785 *** (0.294) 2012 年度ダミー 0.371 * (0.210) 0.916 *** (0.295) 2013 年度ダミー 0.307 (0.208) 0.743 ** (0.294) 2014 年度ダミー 0.186 (0.211) 0.766 ** (0.309) 2015 年度ダミー 0.220 (0.214) 0.558 * (0.316) 2016 年度ダミー -0.037 (0.227) 0.978 *** (0.356) /cut1 6.466 (1.722) 15.603 (4.289) /cut2 9.092 (1.719) 17.317 (4.295) /cut3 10.841 (1.723) 19.447 (4.312) /cut4 13.302 (1.742)

観測数 2,327 634

Log likelihood -2076.8 -573.5 LR chi2 590.77 226.42 Prob > chi2 0.000 0.000

Pseudo R2 0.125 0.165

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

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表 12 順序プロビットモデルによるランクの予測値の分布(%)

ランク メジャー7以外株式会社 メジャー7

表示義務なし 表示義務あり 表示義務なし 表示義務あり

1 0.08% * 0.03%

2 30.1% *** 21.6% *** 9.4% *** 3.64% ***

3 58.9% *** 61.6% *** 56.0% *** 43.1% ***

4 11.0% *** 16.7% *** 34.0% *** 51.2% ***

5 0.01% 0.03% 0.57% ** 2.02% **

観測数 2,327 634

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す

表 13 広告表示義務がある場合とない場合で比較した各ランクの割合の増加率(※)

メジャー7以外株式会社 メジャー7

ランク1 (0.39倍) ―

ランク2 0.72倍 0.39倍

ランク3 1.05倍 0.77倍

ランク4 1.53倍 1.51倍

ランク5 (2.74倍) 3.52倍

※括弧の数字は推計結果(表 12)が統計上有意でないもの

図4 順序プロビットモデルによるランクの予測値の分布(%)

0.082% 0.032% 0% 0%

30.1%

21.6%

9.4% 3.6%

58.9%

61.6%

56.0%

43.1%

11.0%

16.7%

34.0%

51.2%

0.011% 0.031% 0.57% 2.0%

1 2 3 4 5

メジャー7以外の株式会社 メジャー7

ランク3

表示義務なし 表示義務あり

ランク3

ランク4が 5割増

表示義務なし 表示義務あり

ランク4

ランク5

ランク1

ランク2

ランク3 ランク4

ランク5

ランク1

ランク2

ランク2が 3割減

ランク4が 5割増

ランク2が 6割減

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