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完全流産は外科的治療(子宮内容除去術)を行わずに経過を観察する. (C)

(図 1)

II. 完全流産は外科的治療(子宮内容除去術)を行わずに経過を観察する. (C)

▷解 説

1.尿妊娠反応陽性の患者が受診した場合,まず超音波検査で子宮内に胎囊を確認し子宮内妊娠の証明 を行う.特に,性器出血があり胎囊が証明できない場合,不全流産や進行流産と安易に診断することは 異所性妊娠の見逃しにつながり,患者の生命を危険にさらす可能性がある.また,生殖補助医療(ART, Assisted Reproductive Technology)後妊娠を中心に子宮内外同時妊娠の頻度が上昇しているとい う指摘があるので注意を要する1).このような場合,子宮内妊娠流産と異所性妊娠の合併ということも あり得る.否定できたと考えても,実際には異所性妊娠(子宮内外同時妊娠を含む)であることはしば しばあり,異所性妊娠の診断は困難な場合がある (CQ203 参照).

2.胎芽・胎児が確認できない場合,ただ 1 回のみの診察での稽留流産の診断は避ける.最終月経から 計算した妊娠週数に比し妊娠構造物が小さい場合,常に排卵遅れの可能性を考慮し,適切な間隔をあけ て再検討し稽留流産診断の妥当性について検討することが望ましい.正常妊娠を稽留流産と誤診するこ とは避けたい.

3.流産診断後の取り扱い

妊娠 12 週未満稽留流産・不全流産治療法において,本邦では mifepriston, misoprostol 等の薬剤 使用は認められていないため,待機的管理と外科的治療(子宮内容除去術)のいずれかが選択される.

2005 年に発表されたメタアナリシスによれば,外科的治療が待機的管理よりも子宮内容完全排出率 が高い傾向(p=0.09)にあった2)が,子宮内感染,中等量以上の出血,輸血,緊急掻爬術の頻度等には 差がなかった.その後,2006 年 7 月に過去最大規模の RCT が発表された3)4).待機的管理 398 例と 外科的治療 402 例の比較であり,それによれば,いずれの管理法でも最終的には満足できる治療効果

(子宮内容完全排出)が得られ,子宮内感染の発生頻度もともに低値(約 3%)で有意差は全くなかった.

ただし,待機的管理群で有意に子宮内容遺残率が高く,その結果として緊急入院率(49% vs. 8%)や 予定外手術率(外科的治療群では再手術)(44% vs. 5%)が高かった.日常生活復帰までの期間や精神 的ダメージは同等だった.なお,外科的治療では待機的管理の約 1.5 倍の社会的コストを要した.この 研究はその後さらに継続され次の妊娠への影響が検討されたが,流産治療法による次回妊娠率の差はな く,約 80% の女性が流産後 5 年以内に生児を得ることができたという5)

こうした研究をはじめとした様々な研究の結果から,コクランレビューでは 2012 年 3 月の段階で

以下のように結論している6).待機的管理は,結局外科的治療を必要とするような子宮内容遺残や出血,

その結果としての輸血のリスクが高い.感染リスクや心理社会的なダメージは両者で同等である.一方 コストは待機的管理の方が少ない.どちらが明らかに優れた治療法であるかが不明であるとすれば,患 者自身の希望は治療方針の決定に重要な役割を果たす.

以上の一連の結果は,稽留流産・不全流産に対して待機的管理,外科的治療のどちらもとり得る可能 性を示している.ただし,待機的管理は外科的治療に比して胞状奇胎,異所性妊娠などに気づきにくい という懸念がある.また,出血リスク(出血傾向,粘膜下子宮筋腫など)を有している患者は待機的管 理から除外することも考慮する.前述の RCT においては,待機的管理群に割り付けられた患者に対して は 24 時間電話相談体制と 24 時間診察・治療・入院可能体制が設けられた3)4).待機的管理は原則 2 週間を限度とすべきとする意見もある.少なくとも,最終的には経腟超音波検査による子宮内容完全排 出,および臨床的な妊娠終了を確認する必要がある.待機的管理時にはこれらについて患者に説明する.

同様に外科的治療時のリスクに関しても CQ205 を参考に説明する.外科的治療時には正常妊娠を中絶 してしまう危険が内包されているので「流産が不可避との診断」は慎重に行う.

なお,外科的治療を行った場合には,除去された子宮内容の病理学的検査を行うことが望ましい.ま た,待機的管理によって排出された子宮内容についても,可能であれば病理学的検査を行う.

一方,妊娠 12 週未満進行流産の管理方針について高レベルエビデンスはない.専門家の意見として は,不全流産に準ずるというものが多い.

妊娠 12 週未満完全流産管理方針についても高レベルエビデンスはない.専門家の意見としては,外 科的処置を行わずそのまま経過を観察してよいというものが多い.2 週間以内の止血確認,異所性妊娠・

子宮内外同時妊娠の否定,臨床的な妊娠終了の確認が,外科的処置を行わない場合の重要な注意点とな る.

[参考:死産証書発行について]

死産証書は妊娠 12 週以降の死産の際に発行しなければならないと規定されている(昭和 21 年厚生 省令第 42 号「死産の届出に関する規程」).したがって,妊娠 12 週未満流産において死産証書の発行 の必要はない.また,たとえその子宮内容の娩出が妊娠 12 週以降となったとしても,妊娠 12 週未満 に流産(子宮内胎児死亡)と診断していた場合は死産証書は発行しない.

なお,本 CQ&A とは直接関係はないが,死亡した胎児を含む子宮内容が妊娠 12 週以降に娩出され,

かつ妊娠 12 週未満に一度も胎児の死亡が確認されていない場合は,娩出された胎児が妊娠 12 週以降 に相当すると担当医が判断した場合に限り死産証書を発行する.双胎妊娠胎内一児死亡の場合にも同様 とする(CQ704,解説参照)

文 献

1)Ectopic pregnancy. Williams Obstetrics 23rd ed., 238―256. McGraw-Hill Co., 2010(III)

2)Sotiriadis A, et al.: Expectant, medical, or surgical management of first-trimester miscar-riage: a meta-analysis. Obstet Gynecol 2005; 105: 1104―1113 PMID: 15863551(II)

3)Trinder J, et al.: Management of miscarriage: expectant, medical, or surgical? Results of randomised controlled trial(miscarriage treatment(MIST)trial).BMJ 2006; 332: 1235―

1240 PMID: 16707509(I)

4)Petrou S, et al. : Economic evaluation of alternative management methods of first -trimester miscarriage based on results from the MIST trial. BJOG 2006; 113: 879―889 PMID: 16827823(I)

5)Smith LFP, et al.: Incidence of pregnancy after expectant, medical, or surgical manage-ment of spontaneous first trimester miscarriage : long term follow-up of miscarriage treatment(MIST)randomised controlled trial. BMJ 2009; 339: b3817 PMID: 19815581

(I)

6)Nanda K, et al.: Expectant care versus surgical treatment for miscarriage. Cochrane Da-tabase of Systematic Reviews 2012 Mar PMID: 22419288(II)

CQ203 異所性妊娠の取り扱いは?

Answer

1.妊娠反応陽性で以下のいずれかを認める場合,異所性妊娠を疑う. (B)

1)子宮腔内に胎囊構造を確認できない(妊娠 5〜6 週以降)

2)子宮腔外に胎囊様構造物を認める 3)ダグラス窩に貯留液を認める

4)循環血液量減少(貧血,頻脈,低血圧)が疑われる 5)流産手術後,摘出物に絨毛が確認されない

6)急性腹症を示す

2.診断後の治療方針(手術療法,薬物療法,待機療法)は患者全身状態,異所性妊娠部 位,hCG 値,胎児心拍,腫瘤径等を参考に慎重に判断する. (B)

3.卵管妊娠に対する手術療法は症例や施設の状況によって開腹手術あるいは腹腔鏡手 術のいずれかを選択する. (B)

4.薬物療法・待機療法時には,①腹腔内出血による緊急手術,②異所性妊娠存続症,③ 絨毛性疾患,などを念頭に置き経過観察する. (B)

5.卵管温存手術療法,薬物療法および待機療法を選択したときは,hCG 値が非妊時レ ベルになるまでモニターする. (C)

6.生殖補助医療による妊娠の場合は,自然妊娠と比較して子宮内外同時妊娠の頻度が 高いので注意する. (C)

▷解 説

異所性妊娠は全妊娠の 1〜2% 程度の頻度に発症する.異所性妊娠の代表的症状は無月経に続く下腹 痛と性器出血であり,流産との症状の区別はつきづらく,かつては手術時に確定診断がされることも多 かった.現在は高感度妊娠検査薬と高解像度の経腟超音波により,無症状の異所性妊娠が早い段階で診 断されるようになったとされる1)2).異所性妊娠はその着床部位により,卵管妊娠,間質部妊娠,頸管妊 娠,卵巣妊娠,腹腔妊娠などに分類される.また,精査を行っても着床部位が不明で hCG のみ陽性を示 す着床部位不明異所性妊娠も存在する.本ガイドラインで対象として解説している異所性妊娠は,主に 卵管妊娠である.異所性妊娠(卵管妊娠)と診断された場合,治療の原則は手術療法であるが,条件を 満たした場合は保存的手術療法や薬物療法,待機療法も考慮される.早期診断は手術療法を回避し薬物 療法・待機療法の機会上昇に寄与しているとの報告もある3)〜5)

1.妊娠反応陽性だが,子宮腔内に胎囊が確認されない場合,正常妊娠,流産,異所性妊娠の三者の鑑 別が必要となる.三者の可能性があることを患者に伝え,1〜2 週間後に経腟超音波検査を行うことが勧 められる.通常の妊娠診断テスト(妊娠反応)は尿中 hCG が 25IU!L 前後で陽性となるよう調整されて おり妊娠 4 週早期に陽性となる.hCG(尿中および血中)が 1,000〜2,000IU!L 以上の場合は通常,

経腟超音波にて胎囊が子宮腔内に確認ができるが6)7),低頻度ながら正常妊娠であっても hCG2,000 IU!L を超えて胎囊が確認できない場合もある8).そのため,妊娠 4〜5 週における無症状の異所性妊娠

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