多重情報ハイディング画像の伝達中における安全のための条件をプライバシー保護の観点から次の 目標を設定する.
(1) 秘匿画像は改ざんされても耐えられる画像とする.
(2) 秘匿文書は改ざんを受けたら壊れやすい文書とする.
(3) 二重情報ハイディング画像の画質を高くする.
この設定を可能にする方法として,ビットプレーン転置を新規考案として提案する.その理由は3つ ある.1 つは,ビットプレーン転置それ自体が安全対策になるからである.第三者は伝達中の多重ハイ ディング画像からビットプレーン転置に関する情報を知り得ることはほぼ不可能で,ビットプレーンを 転置前に戻すことはできないからである.第2は,ビットプレーン転置による効果として改ざん範囲を 集約化できることである.そして,第3は情報ハイディング画像の画質を向上できる効果である.以降 に,第2と第3の理由を概説的に述べる.
5.1 改ざん範囲の集約化
この論文においては,ビットプレーンを次のように転置する.ビットプレーン(D-1)をビットプレー ン0に移し替える.ビットプレーン0はその1つ上のビットプレーン1に,ビットプレーン1はビット プレーン2に,と順に1つ上のビットプレーンに移し替える.最後にビットプレーン(D-2)をビットプ レーン(D-1)に移し替える.この様子を図 5.1に示す.以上でビットプレーン転置は完了する.なお,
ビットプレーンを転置すると,画素値𝑛𝐷−1× 2𝐷−1+ ⋯ + 𝑛1× 21+ 𝑛0× 20 は 𝑛𝐷−2× 2𝐷−1+ ⋯ + 𝑛0× 21+ 𝑛𝐷−1× 20 に変化する.ただし,𝑛𝑘 (𝑘 = 0,1, ⋯ , 𝐷 − 1) は転置前ビットプレーン𝑘における値「0」
か「1」を表す.
図5.1 ビットプレーンの転置方法
2 D-1
2 D-2
2 1
2 0
ビ ッ ト プ レ ー ン 転 置 に よ っ て 量 子 化 特 性 は 図 5.2 の(a)か ら(b)に 変 わ る . 左 側 の 画 素 値 が { 1, 2, 3, ⋯ , 2𝐷−1− 1 }から{ 2, 4, 6, ⋯ , 2𝐷− 2 }の偶数値に変わり,右側の画素値{ 2𝐷−1, 2𝐷−1+ 1, 2𝐷−1+ 2, ⋯ , 2𝐷− 1 }は{ 1, 3, 5, ⋯ , 2𝐷− 1 }の奇数値に変わる.縦軸の画素値の順番が交互の順番に変わる.
したがって,ビットプレーン転置前の量子化特性を逆演算したグラフと,ビットプレーン転置後の量 子化特性を逆演算したグラフも異なる.その違いをグラフで表したのが図5.3 (a),(b)である.展開係数
𝑎の絶対値が大きい部分が図5.3(a)では2ヵ所あるが,(b)では1ヵ所に集約する.このことを改ざん範囲
の集約化とここでは呼ぶことにする.
(a)ビットプレーン転置前 (b)ビットプレーン転置後
図5.2 ビットプレーン転置前後の量子化特性
(a)ビットプレーン転置前 (b)ビットプレーン転置後
図5.3 ビットプレーン転置前後の量子化特性の逆演算グラフ qa
-U -V V U a
1 3 2
2D-1 2D-1+1
2D-1
4 2D-1-1
2D-12+2D-1+3
0
-U -V V U a
qa
奇数値 偶数値
2 1
2D-1 2D-2
5 3 0 6
4
a U
U
0 2D-1 2D-1 qa
a U
U
0 2D-1 2D-1 qa
5.2 情報ハイディング画像の高画質化
ビット数 D の画素空間に量子化された画像は D 枚のビットプレーンに分解できる.以降,ビットプ レーン上の数値が1である点の個数をそのビットプレーンの度数と定める.この度数を用いて情報ハイ ディング画像の画質について考察する.ただし,ビット数DをD=5と設定する.その理由は節6.3 (5)に 示す.
考察に用いる画像は起伏の激しい画像とする.ここでは256×256個の擬似乱数系列を行列256行256 列に配列したカラー画像を選ぶ.これを表5.1 (a)に示す.この画像を別の擬似乱数系列で構築した正規 直交関数系を用いて展開し量子化した画像が表5.1 (b)である.この画像はビットプレーンを転置する前 の量子化画像である.ビットプレーンを転置した後の転置後量子化画像が表5.1 (c)である.
ビットプレーン転置前後におけるビットプレーン0~7の度数をそれぞれ表5.1 (d),(e)に示す.併せ て,色ごとの分散を(f),(g)に示し,色ごとの平均を(h),(i)に示す.
ビットプレーン転置後の平均値は転置前のそれとほぼ等しいが,転置後の分散(表 5.1 (g))は転置前の
それ(表 5.1 (f))よりも小さい数値である.この数値の違いが情報ハイディング画像の画質差となって現
れる.すなわち,ビットプレーンの並び方の違いが画質差となって現れるのである.その具体例を節 7.3(2)で述べる.
表5.1 ビットプレーンの度数分布と分散
ビットプレーン転置前 ビットプレーン転置後
擬似乱数系列 を配列した
画像
(a)
正規直交関数 系で展開した
量子化画像
(b) (c)
ビットプレー ンの度数分布
(d) (e)
分散 (57,57,57) (f)
(6,6,6) (g) 平均 (14,15,14)
(h)
(14,14,14) (i)
ここで,ビットプレーン転置前のビットプレーン3の度数が最小になる理由を,図5.4に示す画素数
256×256 の擬似乱数系列の単色画像を用いて述べる.この画像の展開係数の度数分布が図 5.5である.
ビット数はD=5とし,量子化係数は節3.5(2)の図3.2に従うとする.図5.5の横軸数値8,9,10,11,
24,25,26は量子化係数の開始位置を示す.たとえば量子化係数が8になる区間は[8, 9)である.赤色の 実線,破線はそれぞれ基準0の位置,標準偏差±73.55の位置を示す.ビットプレーン3の度数は量子化 係数が区間8~15と区間24~31の総合計度数である.したがって,図5.5のように区間[8,9)が負側の標 準偏差の位置を含むか,あるいはそれより負側領域に位置する場合には,ビットプレーン3の度数が他 のビットプレーンの度数より少なくなり,最小になる.
なお,表5.1(d)のビットプレーン 0の度数がほぼ50%(RGB平均÷(256×256))である理由は量子化係
数が偶数奇数のうち奇数になる割合と等しいからである.またビットプレーン4の度数がほぼ50% (RGB 平均÷(256×256))である理由は量子化係数が0~31のうち16~31になる割合と等しいからである.
図5.4 単色画像 図5.5 展開係数度数分布
0
0
0
32726
24756
39434
34148
32442 0
0
0
32941
24585
39744
34096
32945 0
0
0
32830
24694
39615
34020
32680 0 10000 20000 30000 40000 50000
ビットプレーン7
ビットプレーン6
ビットプレーン5
ビットプレーン4
ビットプレーン3
ビットプレーン2
ビットプレーン1
ビットプレーン0
0
0
0
24756
39434
34148
32442
32726 0
0
0
24585
39744
34096
32945
32941 0
0
0
24694
39615
34020
32680
32830 0 10000 20000 30000 40000 50000
ビットプレーン7
ビットプレーン6
ビットプレーン5
ビットプレーン4
ビットプレーン3
ビットプレーン2
ビットプレーン1
ビットプレーン0