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学習済みモデルの実用化が商用段階である場合の契約仮想モデル事例(事例②)につい

3.4. モデル事例の検討

3.4.2. 学習済みモデルの実用化が商用段階である場合の契約仮想モデル事例(事例②)につい

3.4.2.1. 事例の概要

事例②として想定するモデルケースは、事例①と類似するが、事例①が研究開発段階であるのに 対し、事例②では、商用段階を前提とする。その詳細は、次のとおりである。

1. 関係当事者 (1) U社

U社は、機械部品のメーカーである。U社は、自社工場内に、多数の工作機械(M1~M)を 設置し、機械部品を製造している。これらの工作機械は、U社が、複数の工作機械メーカー(X1

~X社)から購入し、所有しているものである。

U社は、自社工場における生産性向上を目的として、P社製コントローラー(C1~C)を工 作機械(M1~M)に導入して、P社サービスを利用することを希望している。

(2) P社

P 社は、IoT 対応の工作機械コントローラー「C」を開発・製造し、コントローラー「C」を 用いたサービスを提供するスタートアップ企業である。

2. コントローラー「C」の特性 (1) コントローラー「C」の概要

コントローラー「C」は、工作機械(M1~Mn)にアタッチして使用する制御装置である。① 工作機械の稼働状況データを収集するセンシング機能、②工作機械に一定の設定情報を与えたり、

それを変更したりする制御機能を有する。

(2) コントローラー「C」の汎用性

コントローラー「C」は、工作機械(M1~Mn)について、メーカー(X1~Xn 社)ごと・機 種ごとの仕様の違い、同一機種における個体差を独自の技術により、仮想化・抽象化して吸収す ることができる。そのため、コントローラー「C」は、対応機種に該当する工作機械については、

上記の違いを意識することなく、汎用的に用いることができる。

コントローラー「C」の対応機種である工作機械(M1~Mn)は、U社等が帰属する機械部品 業界において使用されている工作機械のうち、相当な割合を占める。

3. 本サービスの概要

P社が工作機械コントローラー「C」を用いてU 社に提供するサービス(以下、本事例におい て「本サービス」という。)の概要は、次のとおりである。なお、本サービスは、パイロットプラ ント数社のデータを収集し、当該データを基にサービスインしており、複数のユーザ企業(U1~ Un)に対して、基本的に統一仕様により提供されるサービスである。

(i) P社は、ユーザ企業(U社)に対し、本サービスの利用を前提として、工作機械コントローラ

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ー「C」を貸与する。コントローラーの所有権はP社に帰属し、本サービスの利用が終了した 場合には、コントローラーもU社からP社に返還される。

(ii) U社は、P社から貸与されたコントローラー(C1~C)を自社工場内の工作機械(M1~M

にアタッチし、稼働可能な状態を維持する(電源供給等)。

(iii) U社の工場内に設置されたコントローラー(C1~C)は、センシング機能により、各工作機

械(M1~M)の稼働状況(設定情報、稼働環境と機械のパフォーマンス等)をモニタリン グし、そのデータを収集する。

(iv) 工場内のコントローラー(C1~C)どうしは、無線(無線LAN等)で相互に接続されている。

また、コントローラーが収集した稼働状況データは、随時または定期的に、電気通信回線を 介して、コントローラーからP社サーバーに送信される。

(v) P社は、コントローラー(C1~C)から送信されたU社の稼働状況データを、機械学習ツー ル「Y」を用いて分析する。この分析に際しては、U社以外のユーザ企業(U2~Un)の稼働 状況データも用いられる。なお、機械学習ツール「Y」は、オープンソースである。

(vi) P社は、上記(ⅴ)の分析結果を基に、U社の工作機械(M1~M)及びその稼働環境に最適化

された「制御モデル」を作成する。この「制御モデル」は、コントローラー(C1~C)が工 作機械(M1~M)を制御する際に用いるパラメータを含むものであり、いわばコントロー ラーにとっての「レシピ」として機能する。

(vii) P社は、随時または定期的に、上記(ⅵ)の制御モデルをU社のコントローラーに対し、電気通

信回線を介して送信する。コントローラー(C1~C)は、受信した制御モデルを適用して工 作機械(M1~M)を制御する。その結果、U社は、工作機械(M1~M)による生産性を向 上させることが可能となる。

図表3-6は、上記の概要及びデータの流れを図示したものである。

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図表3-6 仮想モデル事例②の概要

4. 各社の視点

(1) U社の視点

① コストの観点

U社としては、本来、競合他社の工場よりも生産性を高めたいというニーズがある。U社が 本サービスと同様のシステムを独自に開発すれば、競合他社よりも高い生産性を得られる可能 性もある。

しかし、U社は、機械部品メーカーであり、AIを用いたシステム開発に関する知見はない。

そのため、独自開発したオンプレミスのシステムにせよ、本サービスのようなクラウド型のサ ービスにせよ、いずれにしても、当該システムの開発ないしは利用に際しては、外注に頼らざ るを得ない。

そして、独自にゼロから当該システムを開発するには、相当な初期投資が必要となり、シス テムのバージョンアップや保守等のメンテナンスコストも必要となる。また、システム開発に 失敗するリスクも少なからず伴う。生産性向上の目的はコスト削減と表裏一体であるが、生産 性向上のために、大きなコストをかけることは、本末転倒となりかねない。

これに対し、本サービスは、多くのユーザ企業で利用されることを前提としているため、開 発・運用コストにおいてスケールメリットがある。また、先行のユーザ企業の実績は、円滑な 導入にも資する。したがって、U社は、本サービスを利用することにより、独自にシステム開 発を行う場合と比べて低リスク、低コストで、生産性の向上を図ることを期待できる。

工作機械M1 工作機械M2 工作機械M3

コントローラー

C1 コントローラーC2 コントローラーC3

機械学習ツールY U社

統合学習用データセット

無線接続 無線接続

C4 C5

入力 出力

U

制御モデル U2ユーザデータ U3ユーザデータ

P社

制御

工作機械メーカーX1 工作機械メーカーX2 工作機械メーカーX3

サービス 提供

学習 U社ユーザーデータ

学習済みモデル Z

入力 出力

C C

パイロットプラント 2社データ

<他の顧客>

<パイロットプラント>

U社学習用データセット

U2 U3

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② 競合他社との競争の観点

U社が帰属する機械部品業界において、本サービスが広く使われるようになれば、生産性で の差別化は難しくなる。むしろ、競合他社の多くが本サービスまたは類似サービスを利用する 中で、こうしたシステムを利用しない場合には、他社に後れを取ることともなりかねない。

つまり、U社にとって、中長期的な視点で見れば、工場における高い生産性は、他社との競 争において強みとなるものではなく、他社との競争に負けないための最低限の施策であるとも いえる。したがって、「U社は、基本的に、生産性以外の点での他社との差別化を考えており、

高度な生産性はコア・コンピタンスではない」という状態を、本事例の前提としている。

③ 情報の共有の観点

U社にとって、自社工場の稼働状況データが、競合他社に使われること自体は、いわば「敵 に塩を送る」ことであり、一般論として、望ましいとはいえない。しかし、他方で、U社自身 も、本サービスにおいて、他社分を含むデータを基にした分析結果を利用することにより、生 産性向上というメリットを享受している。自社データの分析のみでも生産性向上の効果が得ら れる可能性はあるが、一般的に、相当数の元データを分析対象としないと、分析結果の精度は 上がらないと考えられる。つまり、U社にとっても、他社データを、少なくとも間接的に利用 するニーズはある。

したがって、U社が、本サービスによるメリットを享受する前提として、逆に、自社データ が、本サービスのユーザ企業である競合他社にも間接的に利用されることを許容することは、

十分な合理性があると考えられる。そこで、本事例においては、ユーザ企業は、自社が特定さ れた形で、データが公表等されない限りは、(他社への提供を含む)本サービス全体において、

自社データが利用されることを許容しているとの前提に立つ。

データの機密性の観点から換言すれば、稼働状況データは、ユーザ企業にとって、積極的に 開示したい情報ではないが、「高度な機密性を要するノウハウ等」というわけでもないという 前提に立っている。

(2) P社の視点

① 本サービスの前提

本サービスによる機械学習の精度は、多数のデータを分析することにより、向上していくと 考えられる。そのため、P社としては、本サービスのクオリティの向上のために、ユーザ企業 各社(U1~Un)から収集したデータを、収集元のユーザ企業のみでなく、本サービス全体で 活用していくことが必須である。

P社は、ユーザ企業のデータを本サービス全体で活用した上で、改善されたサービスを再提 供するという「フィードバック」をすることにより、「P 社によるデータの利用」について、

ユーザ企業の理解を得られると考えている。

② ユーザ企業への配慮

一方で、P社がユーザ企業のデータを無制限ないしは相当広範に利用すれば、ユーザ企業の 抵抗感が強まり、本サービスの顧客獲得への障害となる。

したがって、契約上、P社が過度に広範に、ユーザ企業のデータを利用できる旨の定めを置