政策的な動向に対応して,日本の大学教育に急速に広まっていった学生参画 型支援プログラムの各種実践に関して,本章では具体的な取組みの傾向を明ら かにすることを目的としている。第 1節では様々な領域かつ多様な方法によ って展開される学生参画型の取組みを,主にピア・サポートと FD活動の観点 から分析を行う。その上で,実践的な見地から学生参画型支援プログラムの概 念規定を行い,学生が参画する実践領域の再類型化を試みる。第 2節では学 生参画型教授学習支援領域の取組みに特化して,その中でも特徴の異なる 4 分野(①修学アドバイザー分野,②SA分野,③TA分野,④チューター分 野)における先進的実践事例の分析を行い,学生が参画するための実践上の特 徴を示す。
第1節 多角化する学生参画型の取組み
(1)ピア・サポートを核とする学生参画
JASSOは学生支援に関するニーズ把握のために全国の国公私立大学・短期
大学・高等専門学校を対象にした「大学等における学生支援の取組状況に関す る調査」をこれまで5回(2008 年度,2010 年度,2013 年度,2015 年度,
2017年度)実施し,これら調査に関する 4つの報告書を発表している(日本 学生支援機構 2010,2011b,2014b,2017b)。先述の通り,本調査では学生 支援の領域に属する項目について網羅的に扱っているが,中でも特に学生参画 型支援プログラムの取組状況調査である「ピア・サポート」の項目に焦点を当 てる。
ピア・サポートは,学生・生徒たちに他者を思い遣ることを学ばせ,その思 い遣りを実践させる手法であり,適切なスーパービジョンのもと学生・生徒自 身が仲間の学生・生徒を援助する取組みとされている(Carr 1981)。主に初 等中等教育段階において「子どもたちの対人関係能力や自己表現能力等,社会 に生きる力がきわめて不足している現状を改善するための学校教育活動の一環 として,教師の指導・援助のもとに,子どもたちの相互の人間関係を豊かにす
るための学習の場を各学校の実態に応じて設定し,そこで得た知識やスキル
(技術)をもとに,仲間を思いやり,支える実践活動」と定義される(中野ら
2008)。一方,高等教育段階においては JASSO が「学生生活上で支援(援
助)を必要としている学生に対し,仲間である学生同士で気軽に相談に応じ,
手助けを行う制度」と位置づけている。前者が学校教育活動の一環として教師 の指導・助言を前提に,生徒同士の相互活動自体が価値を有しているのに対し て,後者は学生によって提供される学生支援サービスに意義を見出している。
支援する側とされる側の双方に教育効果が期待される活動がピア・サポートで あるが,川島(2013)は大学教育におけるピア・サポートが学生支援の有効 な手段であること,学生への教育効果や成長が期待されることに加えて,費用 対効果の高さに対する大学側のモチベーションが反映されていることを示唆し ている。加えて,沖(2009)はピア・サポート・プログラムの長所として,
①支援される側の学生の喜びと成長,②支援する学生の喜びと成長,③教職員 の喜びと業務の改善の 3点を挙げ,特に③のFDの側面にも価値を見出せるこ とを示している。ピア・サポートという形態は,大学教育において学生参画と 親和性が高い取組みであり,この手段を学生参画の意義を強める理論的な基盤 として,様々な領域において学生参画型支援プログラムが展開されている。
実際に JASSOの調査によると,大学における「ピア・サポート等,学生同
士で支援する制度の実施状況」は図 3-1の通りに示すことができ,ここからピ ア・サポートの取組みは年々増加傾向にあることを確認することができる。た だし,「実施している」と回答した大学は国公私立の違いでやや異なる傾向を 示している(表3-1)。調査開始の段階から「実施している」大学の割合が高 かった国立大学では,今や8割以上の大学でピア・サポートの取組みが定着 している。一方,当初はほとんど取組みの実態が確認できなかった公立・私立 大学においても着実に実践が拡大してきている。その意味においては,国立と 私立とでは異なる発展の仕方を遂げているといえよう。
これは活動に参画する学生に対する「プログラム報酬の有無」に関する結果 からも読み取れる。国立大学は無給と有給の割合が 6:4(2010 年度),3:7
(2013 年度),3.5:6.5(2015年度)変化しているのに対し,私立大学はほぼ 5:5の割合で推移している。国立大学が学生参画の取組みを学生のボランタリ ーにもとづくものから,給与を発生させることで活動自体に重みづけする方向
図3-1 大学におけるピア・サポート等の取組み実施状況 1)
出所:日本学生支援機構(2010,2011b,2014b,2017b)より筆者作成。
表3-1 国公私別のピア・サポート等の取組み実施状況
2005年度 2008年度 2010年度 2013年度 2015年度 国立大学 33.3% 45.1% 57.1% 80.0% 83.5%
公立大学 3.2% 17.1% 28.6% 35.1% 34.9%
私立大学 11.0% 18.2% 33.4% 39.3% 46.4%
出所:日本学生支援機構(2010,2011b,2014b,2017b)より筆者作成。
性で実践の拡張を図っているということが読み取れるが,私立大学は両方の方 向性で学生参画の取組みを展開していることがわかる。報酬の有無が活動に参 画する学生に与える影響は様々であり,活動に対する責任感を高めること,学 内の公共性を促進することに報酬は寄与するとされる一方で,無報酬の場合も 活動に参画する学生自身の他者(大学への)貢献性が高まったり,学びが深化 する可能性が高い等といったメリットが挙げられている(Perna 2010)。さ らに小貫(2011)は,学生のマネジメントの観点からもこの点に触れ,報酬 が有ることで恒常的に活動する学生を確保することが可能になり事業計画が立 てやすくなるのに対し,無報酬の場合は学生に他の活動を優先されやすくなる
ことを示している。これらの違いは当然ながら活動内容に左右される側面も小 さくないと考えられるが,学生参画型支援プログラムの量的拡大か質的洗練か の方向性の違いを示唆しているともいえよう。
このように拡大を続けている「ピア・サポート」の学生参画の取組みを,
JASSOの調査ではさらに具体的な支援領域として,①学習サポート,②修学
相談(履修相談等),③就職アドバイス,④学生寮(寄宿舎)内の生活支援
(レジデント・アシスタント等),⑤障害学生支援,⑥留学生支援,⑦学生生 活上の支援(障害学生支援・留学生支援を除く),⑧学生間の仲間づくりに分 類している。調査年度別に全体のプログラム数の中で各領域がどのような割合 にあるのかを示したものが図3-2 である。学習サポートを筆頭に,修学相談,
コミュニティ形成(仲間づくり)といった領域が続いている。ただし,この調 査では各大学は実施しているピア・サポートの取組みを複数の領域に位置づけ て回答することが可能なことから,領域をまたいだプログラムも多数存在して いることが窺える。
図 3-2 ピア・サポートの領域別実施割合 2)
出所:日本学生支援機構(2011b,2014b,2017b)より筆者作成。
日本において,ピア・サポート・プログラムが充実している大学に立命館大 学が挙げられるが3),ここでは①学習支援,②新入生支援,③キャリア支援,
④留学生支援,⑤留学支援,⑥図書館利用支援,⑦情報システム利用支援,⑧ 国際平和ミュージアム支援,⑨広報支援,⑩入試支援,⑪キャンパス案内支 援,⑫各学部独自の取組みの領域で多様な活動が展開されている(沖
2015)。JASSOの調査において示された具体的なプログラム名とともに立命
館大学のプログラムを整理して示したものが表3-2である。ここでの表記も重 複していることから,各領域が重なり合いながらピア・サポートの取組みは展 開されていることがわかるだろう。立命館大学の取組みの特徴は,様々な部局 においてその文脈で必要な業務に「学生の力」を活用している点にある。一方 で,全学的に総合的なシステムとしてピア・サポートが運営されていないこと で,活動に参画する学生の研修の量と質が十分に担保されていない点が大きな 課題とされている(沖 2015)。しかしながら,業務内容によってはそれほど 高度な研修が必要とはいえない取組みがあることも事実である。「学生の力」
を一種の「マンパワー」として位置づけて,大学教育というよりかは大学運営 の側面で学生に参画の機会を設けている場合も多く,その両方の側面において 同じピア・サポート・プログラムという名称で取組みが拡がっていることを理 解しておくべきであろう。
以上から,日本における学生参画型の取組みとしてのピア・サポートは,実 際のところプログラムによって様相の違いを呈している。日本の大学はピア・
サポートの名の下に,学生参画の取組みが独自の方向性で発展を遂げてきてい ると理解できる。日本に見られるピア・サポートの急激な拡大傾向には,①ピ ア・サポートがトレンドとしてではなく,各機関の文化や問題意識,特徴,課 題を踏まえながら戦略的に展開されていること,②ピア・サポートの原義でも ある「学生の問題(problem)を軽減することを支援する」段階から,「学生 の課題(task)の達成を支援する」というより広い領域を指向した取組みが多 くなってきていること,③ピア・サポート自体を大学全体の「包括的な教育活 動」の中に位置づけ,教員・職員・学生が一体となって展開する段階にあるこ との特徴が確認できるという(小貫 2010)。その上で,教職員の適切な介入 や,大学の明示的かつ組織的な支援の必要性について言及しているが,現状は 未だ実践現場における模索が続いている段階である。これらの課題はまさに大