• 検索結果がありません。

子宮頸がん検診の有効性評価と課題

ドキュメント内 Microsoft Word - 子宮頸がんドラフト doc (ページ 40-47)

1)細胞診の有効性評価と歴史的背景

1 有効性評価のエンドポイント

がん検診に限らず、医療サービスの評価するエンドポイントは最終結果を用いることが原則である。

がん検診の有効性評価の指標は死亡率が原則であり、代替指標による評価は二義的な証拠となる。死 亡率をエンドポイントとすることで、がん検診の有効性評価にとって重要な影響を与えるリードタイ ム・バイアスやレングス・バイアスを回避することができることが重要な要因である。診療ガイドラ イン作成に代替指標を用いることは、研究成果を一定の対象集団に適応した場合に誤った結果を導く 可能性があり116、慎重に対応すべきとされている。がん検診だけではなく、診療に関する先行研究で も代替指標の結果と最終指標の結果が異なった事例や、過大・過小評価の可能性があることなどが報 告されている 124-127。従って、本ガイドラインにおいて、代替指標による研究結果も検討するが、最 終的な判断は当該がんの死亡率減少効果に基づく判断を原則とした。

近年、診療ガイドラインの国際的標準化を目指して開発された作成方法であるGRADEでは、ガイ ドライン作成に先立ち、評価指標となりうる健康結果を9段階に順位付けし、さらに① 意思決定の 判断基準となるもの、② 重要なアウトカムが意思決定を左右しない、③ 意思決定には影響しない に3分類したうえで、ガイドラインの判断基準として第1段階の健康結果は判断基準として採用すべ きとしている 128。子宮温存・妊孕性温存が意思決定の判断基準となりうる重要な証拠であり、①に 該当するものと考えられる。しかし、対象年齢が出産年齢に限定的である点を考慮すれば、全年齢を 対象とした死亡率をエンドポイントした評価指標が優先することとなる。

ただし、子宮頸がん検診については、諸外国における研究から子宮頸がん死亡は浸潤がんを代替指 標として用いた場合であっても同様の結果が示されている。従って、子宮頸がん死亡に限らず、浸潤 がん罹患をエンドポイントとした研究であっても、子宮頸がん検診の有効性を示す証拠と考えられる。

IARC ハンドブックでは、子宮頸がん検診については子宮頸がん死亡と並んで浸潤がん罹患をエンド ポイントすることを明記している。また、横断研究などによる相対感度の算出はあくまでも代替指標 にすぎず、新たな検診方法を代替指標のみで評価する方法はないと結論付けている22

また、2007年にEuropean Commissionから公表された子宮頸がん検診の精度管理ガイドラインでは、

子宮頸がん検診の有効性評価の指標としてアウトカムと研究デザインの観点から評価を行うべきとし て、表5の序列を提示している21。すなわち、アウトカムとして最も信頼性が高いのは、子宮頸がん 死亡率減少であり、浸潤がんの罹患減少がこれに続く。CIN2あるいはCIN3の発見率はアウトカムと して信頼性は高いとはいえないという判断が明示されている。研究デザインは、無作為化比較対照試 験が最も信頼性が高く、時系列研究や地域相関研究は、コホート研究・症例対照研究より下位とされて いる。

子宮がんの自然史に関する1950年からの研究に関するOstorのレビューに基づけば、表22に示す

ようにCIN1、CIN2、CIN3から浸潤がんへの進展の可能性が各々1%、5%。12%未満であるのに対し、

各々の消退率は60%、40%、33%である129。こうした研究をもとに、浸潤がんへの進展リスクを考 慮した場合であっても、精度の評価についてもCIN3までを代替指標とすることが適切と考えられて

いる129-131。IARCハンドブックでは、子宮頸がん検診の短期的評価としてCIN3をカット・オフポイ

ントとした感度・特異度を指標とした研究を求めている。液状検体法やHPV検査についてはこの段階 までの研究が報告されている22)。さらに、長期にわたる研究についてIncidence法による絶対感度の測 定と共に、浸潤がん罹患を指標とした研究が必要とされる。HPV検査など新技術の評価では従来法を 比較対照とすることも基本条件としている。こうした状況を踏まえ、このため、ヨーロッパにおける 子宮頸がん検診の精度管理ガイドラインでもCIN2とCIN3を分けて報告することを原則としている

21)

② 子宮頸がん死亡率減少効果

子宮頸がん検診の主たる手法であり、新たな手法との比較対照の基準となる従来法については、前 述のように現在標準とされている無作為化比較対照試験などの評価手法が確立される以前の 1950 年 代に始まり、かつ急速に浸透していった。このため有効性評価として複数の時系列・地域相関研究が 行われていたが1959年から開始されたノルウェーの研究38)や1950~1972年のカナダの研究40)のよう に、当時コホート研究と銘打って行われた研究も多い。本ガイドライン作成にあたってはこれらの研 究を見直し再分類したことから、コホート研究の数が限られたものになった。本ガイドラインでは時 系列研究と分類されるものの、フィンランドなどでは計画的導入に伴う前向き試験として評価されて おり、その効果は最大で80%の死亡率減少効果があると考えられている22)。従って、あえて「検診施 行群対検診未施行群」という形で子宮頸がん死亡をエンドポイントした無作為化比較対照試験を行な うことはもはや必要ないというコンセンサスがある。しかし、これらの背景を本ガイドラインの共通 原則に照らし合わせても、「3-2) 時系列・地域相関研究の問題点」で述べた理由から観察研究である 時系列・地域相関研究を無作為化比較対照試験と同等の証拠のレベルとすることは困難と考えられた。

一方、本ガイドラインで時系列・地域相関研究とした多数の論文は質の高いものを含み、時期や地域 が異なる報告で全て方向性が一致していたことから、コホート研究や症例対照研究による結果にこれ らを勘案し、「死亡率減少効果について極めて高い一致性を認める、質の高い地域相関・時系列研究が 多数行なわれている」を持って証拠のレベルは「2++」とし、推奨レベルは「B」とした。

子宮頸がん検診による死亡率減少効果は極めて高いとは推測されるが、効果の大きさについて、時 系列研究や地域相関研究の結果をもとにだけでは論ずることが困難であること等の理由から、これま で本研究班で他のがん検診ガイドラインとの整合性を取ることを目処として証拠のレベルや推奨グレ ードの判定基準に含めることを避けた。しかしながら、効果の大きさについては今後の推奨グレード 決定の基準の1つとして採用すべきか否か、採用する際にどのような尺度を用いるのか、は検討すべ き課題である。特に、今後検討されるであろう新たな手法の有効性を、従来法のように無作為化比較 対照試験がもはや不可能となった手法との比較で示す際の明確な指針が求められる、という事実を受 け入れることとした。

③ 浸潤がん罹患率減少効果

子宮頸がん検診の有効性の評価には過去においても現在においても子宮頸がん死亡率減少効果とと

もに浸潤がん罹患率減少効果が用いられることがある。婦人科医の間には、浸潤子宮頸がんが予後不 良であり、かつ浸潤がんに対する治療成績の劇的な改善がないことから、CIN3を検出して子宮頸部円 錐切除術や単純子宮全摘術を施行して浸潤がんの罹患率を減少させれば子宮頸がん死亡率減少に結び つくという考え方が広く浸透しており、実際多数の論文が浸潤がん罹患率減少効果の報告を行ってい る。これに対して他のがん種、たとえば卵巣がんでは前がん病変の検出方法がないため検診を施行し ても浸潤がん罹患率を減少させることができない可能性があるため、浸潤がん罹患率減少効果と子宮 頸がん死亡率減少効果とは分離して考えられる。また、浸潤がん罹患率が減少しても致死的でないが んが減少するだけでは死亡率は減少しない(過剰診断バイアス)場合がある。従って、本ガイドライ ンでは「浸潤がん罹患率減少効果も直接証拠として採用する(AF1’に相当)が、証拠のレベルの判 断においてはあくまでも次善の証拠として参考にする、すなわち、子宮頸がん死亡率をエンドポイン トとした研究がある場合にはそれを優先する」という原則に基づきAnalytic Frameworkを作成し、そ れに基づき検討した。その結果、従来法についてはコホート研究、症例対照研究、地域相関・時系列 研究のいずれにおいても子宮頸がん死亡率と浸潤がん罹患率のそれぞれをエンドポイントとした研究 が存在し、各々について死亡率と罹患率の両者を検討したところ、いずれも従来法による検診の有効 性に対する方向性が一致していることが明らかになった。

④ 組織別の解析

子宮頸がん検診の標的がんを組織型別に評価するかという課題については次のように考えられる。

まず子宮頸がんの多くは扁平上皮がんで、一部が腺がんであることからこの検診のターゲットとして 腺がんだけを独立させることは現実的でなく、実際、ほとんどの有効性に関する研究では扁平上皮が んと腺がんの両者を含んだ状態で評価を行なっている。

その中で細胞診による子宮頸がん検診が、子宮頸部腺がんの罹患を減少させるか否かについて検討 した報告がいくつか存在した。Herrero Rらはラテン・アメリカにおける症例対照研究を行ない、細 胞診従来法による検診が扁平上皮がんと腺がんの相対予防効果(relative protection)を報告した(扁 平上皮がん 2.5:95%CI 2.1-3.3、腺がん2.0:95%CI 1.2-3.38)35。Makino Hらによる症例対照研究で は細胞診従来法による検診が扁平上皮がんのオッズ比を有意に低下させる(0.13,95%CI:0.077-0.215)

のに対して腺がんのオッズ比は低下しているものの、有意差はなかった(0.40, 95%CI:0.091-1.753)

37。これらの報告はいずれも腺がんの症例数が少ないという問題点があり、Mitchell Hらはオースト ラリアにおける160人の子宮頸部腺がんを対象とした症例対照研究を行ない、検診間隔が1年の場合 相対予防効果(relative protection)は2.85(95% CI=1.56-5.23)で、65%の浸潤腺がんを減少させる ことができるとしている133。また1993年までの検診では1回もしくは2回にわたり細胞診陰性であ っても細胞診陰性0回の場合と比較して相対予防効果(relative protection)に有意差がなかったのに 対して、1994 年以降では 1 回もしくは 2 回にわたり細胞診陰性であった場合では相対予防効果

(relative protection)がそれぞれ2.97(95% CI:1.60-5.54)、3.06(95% CI:1.39-6.75)と有意に高 くなっていることを示している。筆者らは、1990年代以降前がん病変やadenocarcinoma in situの 認識の向上、細胞採取部位の改善など細胞診の精度管理の向上があったことをその理由にあげつつ、

近年のオーストラリアでの擦過細胞診による検診によって頸部腺がんが減少しているとしている。

このように腺がんに対する子宮頸部擦過細胞診による検診の罹患率減少効果を研究した報告は、報

ドキュメント内 Microsoft Word - 子宮頸がんドラフト doc (ページ 40-47)

関連したドキュメント