第一節 不就学の現状と文部科学省の動き
第一章において、現在日本で暮らしている外国人の子どもたちの状況や生活環境、そし て絶えず彼らに付いて回る危険性について言及したが、果たしてその原因はどこにあるの だろうか。この第二章では、彼らの生活を脅かす大きな原因としての日本(=放置する側)
に焦点を当て、主になぜ外国人の子どもの不就学という事態が起こるのか、彼らを受け入 れていく立場としての今後の日本の課題は何か、について考察していく。
まずは、外国人の子どもたちの不就学の現状であるが、今まではビザの種類や入国の経 緯など滞在形態が多様だったため、残念ながら日本国内における外国人の子どもの不就学 に関する全国的な調査はこれまでには行われてはいない。ゆえに不就学者の正確な人数を 特定することは出来ていないのが現状であるが、その数はおそらくかなりの数に及んでい るといえよう。また、最近では一部の自治体などが独自に外国人の子どもの不就学に関す る調査を実施していて、この不就学問題に関心が高まっていることも事実である。ここで は、外国人の子どもと不就学に関するそれぞれの調査から、出来る限りの不就学の子ども の数を推計していきたい。
まず、平成 15 年 8 月に総務省行政評価局が発表した「外国人児童生徒等の教育に関する 行政評価・監視結果に基づく通知 ―公立の義務教育諸学校への受入れ推進を中心として
―」という報告のなかに不就学に関する記述がある。(1)
「我が国に在留する外国人は、近年増加傾向にあり、平成 13 年末で約 178 万 人となっている。このうち、学齢相当の外国人子女についてみると、その
正確な数は不明であるが、法務省の在留外国人統計により推計すると、近 年増加傾向にあり、平成 13 年末で約 10 万 6,000 人となっている。平成 13 年5月1日現在、義務教育諸学校に在籍している者は約6万 8,000 人、ま た、各種学校として認可された外国人学校(ただし、幼稚園、高等学校及 び大学相当課程も含む。)に在籍している者は約2万 6,000 人となっている ことから、これらの学校に在籍していない学齢相当の外国人子女は、相当 数になるとみられる」
(総務省行政評価局、2003)
この報告について考えると、まず学齢相当の外国人子女の数が推計となっているのは法 務省の在留外国人統計から 6 歳〜14 歳の外国籍の子どもの数を算出し、推計しているか らである。(2) そして、義務教育諸学校というのは、日本の学校(国公私立の小・中学 校)を意味している。また報告書にも記されているように、各種学校として認可された外 国人学校の在籍者のなかには、義務教育段階ではない幼稚園段階や大学生なども含まれて いるので、今回の義務教育段階に在籍している子どもたちの数はもっと少ないことには留 意しておきたい。
単純に計算すると、この義務教育諸学校在籍者と各種学校として認可された外国人学校 在籍者を足して全体の数(10 万 6,000 人)から引くと、1 万 2,000 人という数がでてくる。
しかし、この数のなかには、各種学校として認可されていないエスニックの学校に通って いる子どもも含まれているので、1 万 2,000 人という数が直接の不就学者数とは言えない。
そして、さらに注意しなくてはならないのは、この 1 万 2,000 人という数は、法務省の 外国人登録者をもとにしているので、そのなかには超過滞在(オーバーステイ)の子ども はほとんど含まれていないのである。第一章でもふれたように、特にオーバーステイの子 どもは不就学の危険性にさらされているので、実際に不就学状態にある子どもの数は、相 当数存在すると考えることができる。
また、この総務省行政評価局の資料は平成 13 年末当時のものであり、外国人の子ども たちの数は今現在においてはさらに増えているはずである。文部科学省によれば、平成 15 年(2003 年)5 月現在で、日本の学校に在籍している外国人児童生徒数は 7 万 7,000 人となっている。(3)
さきほども、外国人の子どもの不就学に関しては、一部の自治体などが独自に調査を実 施していると述べたが、ここに名古屋のブラジル総領事館による、日本で暮らすブラジル 人の子どもたちの不就学に関する興味深いデータがある。
「日本にいる学齢期のブラジル人 4 万人のうち、公立学校に籍があるのは 1 万 5,000 人。ブラジル人学校に通うのは 8,000 人で、不就学者は 1 万
7,000 人に上る。」
(読売新聞・朝刊、2005 年 6 月 11 日)
ここでも注目すべきは不就学者の数の多さである。このデータによれば、ブラジル人の
子どもたちだけでも不就学状態になっている子どもは、1 万 7,000 人にもなっているので ある。さきほどの資料もふまえてこれらのことを考えると、外国人の子ども全体で見たと きに、不就学状態にある子どもが万単位で存在していると言うことが出来るだろう。日本 において、これだけの数の子どもたちが適切な教育を受けられずに放置されているという こと自体が異常であり、「教育大国であるはずの日本で、なぜそのような問題が?」と不 思議がる欧米研究者も多いという。(4)
全国的な不就学に関する調査は今まで行われてこなかったことはさきほども言及した が、これに関しては今年になって文部科学省において新たな動きがあったことも説明して おかなければならない。文部科学省は今年から来年(2005〜2006 年)にかけて「不就学 外国人児童生徒支援事業」という取り組みを行う。日本で暮らす外国人の子どものなかに 学校に通っていない子どもが多数いることを受けて、今回初めて外国人の子どもの就学状 況と不就学について本格的に調査することを決めたのである。
その目的は、外国人の子どもの教育の中でも大きな課題となっている不就学の問題につ いて、各自治体の実情やニーズに応じて、①就学実態の把握及び不就学の要因分析、②就 学を支援するための取り組みを実施することにあるという。(5) 内容としては、調査の 公募に対して申請してきた外国人が多く定住する 12 地域を対象として、それぞれの地域 に事業の実施を委託するものであり、調査員が外国人登録等を参考にして、家庭に訪問す ることで外国人の子どもの就学状況や不就学の実態を把握するというものである。
なお、今回の調査に参加するのは、太田市(群馬県)、飯田市(長野県)、美濃加茂市(岐 阜県)、掛川市、浜松市、富士市(静岡県)、岡崎市(愛知県)、四日市市(三重県)、大阪 市、豊中市(大阪府)、神戸市、姫路市(兵庫県)の 12 地域となっている。
この文部科学省の調査に関していえば、外国人の子どもの就学状況や不就学の全国的な 調査が、国として初めて行われるということ自体は評価したいが、それにしても実施され るのが随分遅すぎるように思われる。この調査も、不就学になった子どもたちの学力低下 や、非行に走るケースが目立つようになってきたことを受けてのやっとの調査ということ ができるであろう。それだけでも、この問題に関する日本の無関心さや無責任さが浮き彫 りになっている。前にも述べたように、子どもに対する教育というものは、その子どもの 将来をも決めてしまいかねない重要な事柄であるので、このように問題が顕在化してから 行動するのでは遅すぎるのである。
今回の文部科学省の調査は、平成17年度末に中間報告が出されることになっているが、
不就学に関して予想以上の悪い結果がでる可能性も高い。この調査の結果をただ受け止め るのではなく、これから日本は外国人の子どもへの教育についてどう考えて、そしてどの ような支援や対応をしていくべきなのか、を私たち日本人が改めて考える良いきっかけと して捉える必要があるのではないだろうか。
以上のように、外国人の子どもの不就学に関する量的な推計や、調査についての考察を 試みたが、その実態はまだまだ明らかになっていないのが現状である。しかし、外国人の 子どもたちの不就学問題はきわめて深刻であり、今後日本は、早急に解決策を打ち出しそ れをただちに実行していく必要に迫られているのである。そのためにも、私たち日本人が この不就学の現状と実態を把握し、関心をもつことが何よりも求められているはずだ。
第一節では、日本で暮らす外国人の子どもの現代の大きな課題となっている不就学の現 状やそれに対する日本の動きについて述べたが、外国人の子どもの教育と日本の対応につ いて考えていくうえで、その歴史についても考えていく必要がある。次の第二節では、日 本における外国人の子どもの受け入れの歴史について考えていく。