第一節 学校の概要と受け入れ状況
前の第二章では外国人の子どもの就学に関して、教育委員会や学校側の対応の問題点を 明らかにしたが、実際にはこの課題に直面しつつも前向きに取り組んでいる地域(教育委 員会、学校、自治体)も最近少しずつではあるが増えている。
今回の論文のなかでも重要なポイントとなる「外国人の子どもと学校教育」の現状につ いて知るため、外国人の子どもに対する受け入れ態勢や指導への取り組みが他の地域より もすすんでいる義務教育段階(小・中学校)の学校を調査することにした。そこで、外国人 の子どもが他の地域よりも多数在籍していて、日本語教育・多文化共生教育を推進してい る「横浜市立いちょう小学校(横浜市泉区)」において取材を行った。(1)
まず学校の概要であるが、横浜市立いちょう小学校は、かつては田園地帯の広がる農村 地帯であったが、昭和 40 年代にいちょう団地が建設されて急激に人口が増加した。それに ともない昭和 48 年 5 月に開校した。一時期は児童数が 2000 名を越えるほどの大規模校で あったが、現在は 208 名の小規模校となっている。
そして、いちょう小学校は現在、文部科学省の「帰国・外国人生徒とともに進める教育 の国際化推進地域」のセンター校に指定されており、資料によると全校生徒が 208 名なの に対し、外国人児童生徒数は 75 名で全体に占める割合は 36%と非常に高い割合となって いる(2005 年 5 月現在)。国別でみていくと、ベトナム45名・中国19名・ラオス4名・
カンボジア3人・タイ1名・ブラジル1名・フィリピン1名・ペルー1名となり、そのほ かにも外国につながる児童が 28 名在籍している。ということは、外国籍の子どもと外国に つながる子どもを合わせると 75+28=103 となり、これは全児童のおよそ 49%を占める割 合となる。ちなみに、この“外国につながる児童”というのは、日本国籍を持ってはいる ものの、両親が外国人または片親が外国人で血統を外国にさかのぼることができる子ども を意味している。
なぜこんなにも外国人の子ども(とくにアジア系の子ども)の在籍数が多いのかという と、となりにある大和市に平成 10 年まで「インドシナ難民定住促進センター」があったこ とが大きな背景にあるという。センターを出たインドシナ難民の人々が、いちょう小学校 のすぐそばにあるいちょう団地に住むようになり、その人たちの子どもがいちょう小学校 に通学するようになったのである。このいちょう団地は神奈川県内で最大の県営住宅団地 であり、総世帯数 3648 戸のうち外国籍世帯数が 604 戸と全体の 16.5%となっている(2004 年9月現在)。最近では、定住化するようになった難民の人々が外国にいる家族を呼び寄せ
たり、中国残留孤児の人が家族と一緒に帰国してきたり、中南米からやってきた日系人の 人たちがいちょう団地に入居するようになり、結果的に平成元年頃から徐々にその家族で ある子どもたちが学校に増え始めているというのが現状である。校長先生のお話によると、
戦争や政治的な関係で自分の国にいられなくなり日本へ避難してきた人たちがいちょう団 地にはとても多いということだった。
外国人の子どもの受け入れに関しては、第二章でも紹介した「外国人児童生徒入学許可 通知書」を持っていけば基本的には誰でも入学できることになっている。しかし、前にも 説明したとおり、この許可書は外国人登録していないともらうことができないので、不法 就労外国人(オーバーステイ)の子どもたちは就学することはできない。実際、現在のい ちょう小学校にはそのようなオーバーステイの子どもはいないという。横浜市泉区という 場所からしても、オーバーステイの外国人が多く住んでいるということはほとんどないと いう現状なので、この学校では第二章のなかでもふれたような学校に受け入れられないオ ーバーステイの子どもたちの問題は起きてはいないという。
この小学校に在籍しているのは、日本に定住化している外国人の家族の子どもがほとん どなので、日本で生まれ育った子どももかなり多く存在する。彼らは日本語もよく話せる し、社会的には日本が“自分の国”ということができるかもしれない。しかし、日本語は 上手に話せても勉強についていくことができるような(学習言語)レベルではなかったり、
またそれ以外にも生活上のいろいろな問題があるので、そのあたりをうまくカバーできる ような指導が学校では必要なのではないか、というのが共通した先生方の意見だった。
また、日本以外の国で生まれてその国でしばらく育てられて、小学校に入学するくらい の年齢になってから日本にやってきた子どももかなりいる。その子どもたちには当然、基 礎的な日本語の指導をする必要があり、いちょう小学校では、おもに低学年(1〜3 年生)
の子どもで、日本語指導が特に必要と思われる子どもへの日本語教育を、学校に設置され ている「いちょう日本語教室」でとても丁寧に指導している。(この日本語教室での具体的 な日本語教育については第三節で述べる。)
途中で外国からやってくる子どもは、定住者の呼び寄せ家族であることが多い。なので、
両親の仕事の関係や親戚を頼ってある日突然学校にやってきたり、また突然なんの知らせ もなく母国に帰ってしまう生徒も少なくない。背後にさまざまな問題を抱えているケース も多いので、先生方にとっても子ども一人ひとりの状況をことこまかに把握するのがとて も難しいようである。また子ども本人にとっても日本にやって来た当初は、文化や言語の
違いに困惑することも多いが、学校側の受け入れ体制がしっかりしていることもあり、友 達や先生との関わり合いのなかで自然に打ち解けていくようである。日本語の能力に関し ては、最初は全く話せない子どもでも日本語指導や学校生活のなかで生活に必要な日本語 はほぼ 1 年ほどで身につくが、やはり勉強をするうえでの学習言語としての日本語を習得 することが大きな課題であるという。
取材に伺った日の前日にも、生徒の一人が「自分の親戚だから学校に入れてほしい。」と 言って急にある男の子を連れてきたようで、今後の指導内容やカリキュラムの編成など、
先生方もこの日はその男の子の対応に追われてかなりお忙しい様子だった。そばで見てい ると、外国人児童の教育担当の先生は生徒の親御さんともかなりこまめに連絡を取り合っ ていて、その子ども一人ひとりの家庭環境などの情報をつねに把握して、生徒の指導につ なげているということがよくわかった。また、担当の先生だけでなく他の先生方も外国人 児童生徒の情報を一人ひとりとてもよく共有されていて、学校全体で熱心に外国人の子ど もに対する教育に取り組んでいるという姿勢がとてもよく伝わってきた。
第二節 国際教室での指導
神奈川県では、帰国及び外国籍児童生徒が、すみやかに日本の小・中学校の学習および 生活に適応し、さらにその特性を十分に活かせるように、受け入れ指導、適応指導の充実 を図るために平成 4 年度から国際教室を設置している。設置にあたっては、日本語指導が 必要な外国人児童生徒が 5 名以上で原則として担当教諭を1名配置していて、20 名以上で 2 名配置することになっている。横浜市(平成 16 年度)では、小学校 32 校、中学校 16 校、
合計 48 校に国際教室が設置されている。
国際教室の目的は、横浜市教育委員会「国際教室配置校実施要領」によれば以下の通り である。
(1)外国から日本に編入した外国人児童生徒の学校教育への適応を促進すると ともに、外国人児童生徒一人ひとりの個性の維持伸長を図る。
(2)外国人児童生徒に対する教育指導の実践及びそのための研究を推進するこ とにより、その成果を学校教育に反映させる。
(山脇、2005:p.113)
いちょう小学校においても、基本的に外国人児童生徒は日本人生徒と同じクラスに在籍 しているが、外国人児童生徒のために、「国際教室」が設置されている。そこでの指導内容 は下記のようなものである。
① 初期指導
② 基礎の日本語指導
③ 総合的な日本語学習
④ 教科支援学習
⑤ 生活適応指導
⑥ 多文化共生教育(日本文化理解、母国文化理解)
(学校の資料より)
①から③は、おもに日本語がほとんどわからない状態の子どもたちに対する指導となっ ていて、国際教室担当教員が通級指導、入り込み指導、特別指導を行っている。ある程度 日本語が理解できている子どもには④の教科支援学習という、普段の授業ではついていけ なかったところやわからなかったところを放課後などに「国際教室」で補習するという指 導(取り出し授業)を行っている。⑥の多文化共生教育というのは、外国人(英語圏の人