-幼稚園の保護者の「保育参加」における協同的な学び-
本章では,ある幼稚園における保護者の「保育参加」に焦点を当て,保護者と保育者に よる協同的な学びと,コミュニティの変容を明らかにした。
第1節 保護者の「保育参加」
近年,保育施設における保護者の「保育参加」は,子育て支援策の一環として保護者の 育児不安の解消や,保育者との信頼関係の構築の観点から着目され,取り入れる施設や地 方自治体が主導する取り組みが報告されている(埼玉県,2012;品川区,20131)。「保育 参加」の特徴として,第一に,「保育参観」と比べて保護者の保育への関与が高いこと,第 二に,日常の保育に保護者が参加する取り組みであること,第三に,保護者への直接的な 教育や指導ではない,などの点が挙げられる。
「保育参加」を行う目的は,品川区(2013)の実践では,保護者と保育者に関して,次 のように捉えられている。保護者にとっては,集団での子どもたちの相互行為を目にする ことが少ない今日において,自児以外の大勢の子どもとふれあうことで,育児に対する視 野を広げることができる。保育者は,保育内容を保護者にわかりやすく説明することで,
自らの保育をふり返るとともに,技量を磨く機会になる。そして,子どもにとっては,様々 な人々と関わることで,生活がより豊かになる(駒坂,2010)。「保育参加」として実施さ れる内容は,施設により異なり,保護者が日常の保育を体験する方法のほかにも,誕生会 に施設を訪れて誕生月の子どもたちを祝ったり,子どもたちと共に料理体験をするなどの,
多様な方法が用いられている2。「保育参加」を行う時間も様々であるが,幼稚園では4,
5時間程度であり,保育所では保護者が8時間過ごしてもよい施設もある。多くの施設で は「保育参加」は,一家庭が年に一回程度参加できるよう実施されている。
74 第2節 B幼稚園の概要
本研究の対象である国立のB幼稚園(以下,B園と表す)は,幼小中一貫教育を行う大 学の研究附属校園の一部である。園児定員数は160名(年少:20名,年中:35名のクラ スが2クラス,年長:35名のクラスが2クラス)である。B園の歴史は古く,1913年に 女子師範学校の附属幼稚園として設立された。全園児は,卒園すると同敷地内にある小学 校へと入学する。運動会や遠足等の行事は,幼小中の学校園合同で行われることも多く,
日常的に異校種間の交流が図られている。B園の属する学校園では,幼小中一貫教育の特 色を生かし,全校種の連携のもとで子どもの育ちを支えていくことが目指されている。教 育理念・目標の共有は元より,カリキュラムについても,3歳児から小学校2年生までの 長期的な観点から検討された,幼小連携カリキュラムが開発されている。年中児と中学校 2年生,年長児と小学校4年生の組み合わせで交流も行われている。
PTA組織についても,全校種合同による組織編成がされている。PTAが主催する諸活動 ならびにサークル活動には,全校種の保護者が所属し,連携や協力の体制が構築されてい る。B 園に入園した保護者は,最長で 12年の期間にわたり,B 学校園保護者会と関わる ことになる。幼稚園独自の保護者活動では,園環境の整備として除草・清掃作業,飼育動 物の飼育当番(夏休み中)などがある。園と家庭との連携は重視されており,各学年にお いて家庭との連携について目標が記された期案が作成されている。とりわけ,保護者に対 して,一人ひとりの状況に応じて連携を図ること,子どもの成長を大人までの長期的な見 通しを持って捉え,粘り強く子どもに関わる喜びや自覚を抱いてもらうことが重視されて いる。
B 園は,約10 年前に保護者の「保育参加」を開始した。B 園の「保育参加」は,年に 一度行われ,園児一人につき一保護者が参加する。「保育参加」は,各週の決められた曜日 に実施され,毎回各クラスに 2~5 名の保護者が参加している。それぞれの保護者が都合 のよい日を調整して,全ての保護者が参加できるよう日程が組まれる。B園では「保育参 加」のねらいを,保護者が「子どもたちに実際に関わりながら,遊びの大切さを理解し,
幼児期の健やかな成長や,それを支える大人たちのありかたなどについて考えていく3」契 機となることとしている。
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第3節 B幼稚園の保護者の「保育参加」の研究方法
B 園の保護者の「保育参加」の研究は,以下の方法を用いた。まず,201X年9 月に実 施された4回の「保育参加」の観察を行った。観察方法は,自然観察法を用い,ビデオカ メラ,デジタルカメラ,筆記により記録した。観察時間は,午前8時30分から午後1時 40分であり,観察時間の合計は,20時間40分であった。観察対象は,年少,年中,年長 児クラスの幼児,保育者,「保育参加」に加わった保護者であった。自由遊びの場面では,
全園児が園庭を中心に遊ぶことから,全体の保育の様子を観察した。昼食時を含む各クラ スの活動時間には,年少1回,年中 2 回,年長1回の観察を行った。観察により,全 12 事例を収集した。
次に,「保育参加」を経験した保護者に対する質問紙調査と,保育者に対する質問紙調査 を実施した。保護者を対象とした質問紙調査は,全ての保護者が「保育参加」を終える201X 年 10 月に,幼稚園に質問紙の配布と回収を依頼して調査を行った。自宅で記入した後,
封筒に入れてもらい回収した。保護者を対象とした質問紙調査は,有効回収率は 89.4%
(114部配布,102部回収)であった。保護者に対する質問紙調査では,「保育参加」に参 加した目的,感想,印象に残った場面,戸惑った場面,子どもの様子などを明らかにする ことを目的とした。保育者を対象とした質問紙調査は,201X+1年3月に調査を行った。
有効回収率は100%(6部配布,回収)であった。保育者に対する質問紙調査では,「保育 参加」において子どもや保護者に配慮している点,保育者にとっての「保育参加」の意義 などについて明らかにすることを目的とした。調査対象の保護者,保育者の属性は,表5-1 の通りである。
最後に,B園副園長に対する半構造化インタビュー調査を行った。インタビュー時間は,
1時間10分であった。インタビュー内容は,IC レコーダーにより記録した後,文章化し た。,B園副園長に対するインタビュー調査は,B園の「保育参加」の意図や,副園長の見 かた,保護者支援に関する実践や思いを明らかにすることを目的として行った。
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表5-1 質問紙調査を実施した保護者,保育者の基本属性
保護者
子どものクラス 年少24名 年中36名 年長42名 入園児のクラス 年少71名 年中30名 無回答1名 第何子であるか 第一子36名 第二子50名 第三子16名
「保育参加」をした保護者 母親86% 父親7% 無回答7%
「保育参加」への参加回数 1回24% 2回28% 3回22% 4回26%
保育者
年齢 20代1名 30代3名 40代1名 50代1名 性別 女性5名 男性1名
幼稚園への総勤務年数 2年,9年(小学校13年),16年,18年,11年,29年 各1名
倉 庫 シャボン玉作り
図5-1 B幼稚園園庭の環境
色水を作る机
大型遊具
大型遊具
大型遊具 出
入 口
飼育動物 砂
場 大型遊具
洗い場
77 第4節 保護者の参加の過程と協同的な学び
本節では,B園の「保育参加」における,保護者の参加の過程と,保護者と保育者の協 同的な学びをロゴフの「導かれた参加」,「徒弟制」,「参加による専有」の3つの概念を用 いて明らかにした。
第1項 限られた参加の場としての「保育参加」
1.参加の構造
B園では,通常保護者は子どもの送迎を済ませた後,園に留まることなく速やかに帰宅 するように注意されている。親子が子どもの降登園後も園に留まり,子ども同士で遊んだ り,保護者同士で交流することは,子どもたちの生活の切り替えに影響すると捉えられて いるためである。併せて,保育時間外に生じた子どものトラブルやケガに対し,誰が責任 の主体となるのかといった問題も関わってくる。
保護者の参加の場は,保育においても限定されている。B園における保護者の参加は「保 育参加」のほか,園行事,保護者会活動,サークル活動などに限られている。その理由は,
幼稚園には保護者や家庭生活とは切り離された,保育者と子どもたちの集団による保育と 生活の営みがあり,それ自体が子どもにとって教育的価値があると考えられているためで ある(B園副園長のインタビューより)。しかし,園行事,保護者会活動,個別の相談支援 などの,園が設定した活動に対する保護者の参加については,保護者支援の側面もあるこ とから,歓迎され奨励されている。
B園副園長は,このような設定について,次のように述べている。
B 園副園長:保護者の「保育参加」を始めて,10年以上になる。「保育参加」は定着して いるけれど,保護者が色んな場面で保育に入ってくると,子どもだけでできることにまで 手を出して,子どもが挑戦できないかなと思う。お母さんたちには,「保育参加」や保護者 会のサークル活動などの場面で,しっかり子どもたちを見てもらいたい。だけど,園に入 ったら,子どもたちの世界。そういうメリハリをつけて,そうでない場面では,帰ろうね と言っている。子どもたちだけでやってもらう。
でも,あんまりそうすると,今度はお母さんたちが,「指示待ち症候群」になってしまう。
判断するポイントは,提供しないといけないと思うけど,どう言ったらいいのかは課題。
言ってもわかってもらえない時もある。
(インタビュー 2014年10月)
上記の発言にもあるように,B園副園長は「園は,子どもたちの世界」であり,その環 境に教育的価値があると捉えていた。副園長は,それを保護者にどのように伝え,理解し