ここまでは、日本の女性の管理職等の登用の現状を把握し、米国との比較を通じて日本に おいての女性管理職の登用の進まない要因がいかなるところにあるのかを検討した。
第 4 章では先行研究や既存調査のデータに基づいて、女性管理職の登用が進まない状況 を引き起こしている諸要因の全体像を明らかにする。
先行研究によれば、女性の管理職登用を阻む要因について、「個人的要因」、「社会的要因」、
「組織的要因」に大別して検討されている。同章では、この3つの観点から管理職が進まな い要因を分析する。
第 1 節 個人的要因
「個人的要因」とは、勤続年数が短い、昇進を望まない個人の抱く感情、あるいは個人が 抱える家庭内の役割意識等により、管理職の登用を望まない、あるいは望めない状況に関す る要因である。また、家事の負担が女性において特に大きいなど、家庭内の男女の役割分担 のため、残業が出来ないといった要因も含まれよう。当節ではこの「個人的要因」の詳細に ついて明らかにする。
(1)就業継続の問題
厚生労働省の調査によると、最近では大企業を中心に育児休業制度の取得率が高まって いるが、未だに出産を機会に約 5 割が会社を退職している現状がある。また、労働政策研 究・研修機構(2007)の調査によれば、それは、若年層の非正規拡大によって育児休業制度 が適用されない女性が増えたことにより、まだ多くの女性が出産を契機に退職しているこ とを指摘している。
次に示すグラフは、正規従業員の男女別の平均勤続年数だが、女性の正規従業員は10年
未満が62.5%を占め、男性の46.8%と比較すると格差は大きい。また、男女とも一番長い勤続
年数は5~9年であるが、男性正規従業員は概ねどの勤続年数の分布割合も10%以上であり、
女性正規従業員は10年以上経過すると各勤続年数の分布割合が急に低下する。
このように、日本は長期勤続雇用をベースとした育成のシステムの中で、管理職を登用す るには、勤続年数をとっても女性にとって困難であることがわかる。
図4-1.男女別勤続年数の割合
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2013年)を元に筆者作成
先行研究から、女性が就業継続する要因として次の主な3つが指摘されてきた。①家族 など周囲の環境(経済的な理由など働く必要性が高い、家族の支援があり就業しやす い)、②個人の就業意識(最初から就業継続の意識が強い等)、③就業先における働きがい や働きやすい職場環境である。
また、八代 (1995)は、女性が就業継続する理由として、上司が女性の育成に積極的であ った点を述べている。加えて、上司が女性の育成にある種のリスクを負っている意識を持 っていることを考えると、人事評価制度に部下の育成の評価項目のウエイトを高める必要 性を指摘している。
さらに、中村(1994); 脇坂(1993)らは女性正規従業員の勤続意識は、入社時点で与えら れるものではなく、配属された仕事の内容で入社後に変化する場合があることを明らかに し、女性管理職の育成には、「仕事を通したスクリーニング」が重要であることを強調し ている。以上からも、企業や上司が女性を積極的に育成しようという意識を持ち、その仕 組みづくりを行っていくことが就業継続において、重要な点の1つと考えられる。
(2)見極めの期間の設定
谷口(1998)は、単に就業継続するだけではなく、“この会社に就く”というような、会 社に対しての強い思い入れがあるかどうかも、企業にとっては重要であり、管理職に登用 する前に女性正規従業員に対し、仕事ぶりをみる「ふるいわけの期間」を企業は設けてい たことを明らかにしている。つまり、仕事そのものの実績だけではなく、プライベートよ り仕事を優先する姿勢(残業、転勤、長期継続就業の意思表示など)があるか、男性と対
等に仕事をすることができるかどうかを見極める期間が設けられていることを指摘してい る。また、管理職になっている女性は、女性正規従業員全体の平均年数はもちろん男性正 規従業員の平均年数以上に勤続し、管理職に登用された女性の6割弱が入社当初から長期 継続就業の意思を持っていた。また、独身で子どもを持たない女性管理者が全体の7割弱 を占めるという。加えて、「男性の方が残業することが多い」という環境の中で、女性管 理職は管理職登用前に男性並みあるいはそれ以上に残業している。さらに、女性正規従業 員は、企業が社内の人間関係を重視していると認識しており、企業に女性の中でも希少な 人材とみなされるために、長期にわたり勤続する人々との良好な人間関係を作らなければ ならず、出来る限り付き合いに参加してきたともいう(谷口, 1995)。
また、Kato・Kawaguchi・Owan( 2013)も同様のことを述べており、労働時間の長さと、昇 進確率の関係は男性よりも女性の方が高いとしている。つまり、会社へのコミットメントを 示すため、女性は長時間労働をするということである。
このように、女性は管理職候補として育成してもらうためには男性以上に努力しなけれ ばいけない側面があり、厳しい競争の上に、さらに女性ゆえに“信用”されるための要求に 応えなければいけないことを考えると、管理職までの道のりは困難と言わざるをえない。し かし、現在は、女性活躍推進法の後押しのもとで、ポジティブ・アクションの取り組みを進 めていこうという、社会的な風潮があり、『雇用均等基本調査』厚生労働省(2014)によると 導入している企業は、5,000人以上の規模では82.7%、300~5,000人未満の規模になると7割 程度で取組割合が高い。ただし、30人以下の企業規模では42.8%と取組割合も低下する。ポ ジティブ・アクションについては賛否両論あるが、企業のポジティブ・アクションへの取り 組みを女性へ上乗せされた要求部分を取り除く方策として考えるならば、是認してもいい のかもしれない。
(3)人生のライフイベントによる環境の変化
家庭内での性別役割分業意識、“夫は外で働き、妻は家庭を守るべき”という考えは、
男女ともに低下傾向にあり、内閣府(2016)の調査によれば1979年では8割近くまであった割 合が、女性は約6割、男性は約5割まで低下しているもののまだ多いのが現状である。ま た、『社会生活基本調査』総務省(2011)によると、6才未満の子供を持つ夫の家事・育児 関連に費やす時間(1日当たり)は67分と他の先進国の米国、イギリス、フランス、ドイ ツ、北欧と比較すると約1/3であり、先進国中最低の水準である。また、1日当たりの行動 者率でみると「家事」については、共働きの世帯で約8割、妻が専業主婦の世帯で約9割の 夫が行っておらず、「育児」については妻の就業状態にかかわらず、約7割の夫が行って いない。
一方、男性の育児休業について、男性の約3割が育児休業を取りたいと考えているが30、 実際の取得率は2.65%31 にとどまっている。
また、超高齢社会で問題になる介護・看護者であるが、『労働力調査』総務省(2017)に よると、介護・看護を理由として過去1年以内に離職した者は2016年には9万人となってお り、10年前からずっとほぼ変わらない離職者数である。内訳は女性7万人、男性2万人であ り、女性が8割近くを占める。
このように、女性は男性からの協力が少ない中で、家庭内で育児、介護、家事を行う中 心者となっている。そのため、ライフイベントによる環境の変化により、家庭内での役割 を主にしながら仕事をするスタイルが出来上がってしまい、過重労働になりがちな正規雇 用をそもそも希望しなくなる傾向が想像できる。
というのも、『労働力調査』総務省(2013)によると非正規雇用に就いている理由とし て、女性の25歳~34歳層では、「正規の仕事がないから仕方なく非正規雇用に就いてい る」(20%)と並んで、「都合の良い時間に働きたい」(20%)が一番高い理由となってお り、家庭内での役割が女性に偏重していることが背景として推察される。
一方、35歳以上64歳までの層で最も高い理由は、「家計の補助・学費等を得たいか ら」と「家事・育児・介護等と両立しやすいから」という結果になっており、この調査の 結果から鑑みても、出産後の女性は、家事と両立できるように、自ら非正規雇用の働き方 を選択している可能性が高い。
このように、女性側に家事や育児の負担が大きく、男女の役割意識がまだある中で、女 性を取り巻く環境の影響で管理職になろうという意識が芽生えにくくなっていることが考 えられる。
(4)昇進意欲の問題
女性の多くは管理職を希望しないという先行研究があることから、ここでは、先行研究 やデータを通じて女性の昇進意欲について述べる。
労働政策研究・研修機構(2014)の調査によると、女性の昇進意欲は男性と比較して低 く、大学・大学院卒の男性は「課長相当職以上」への希望が73.4%であることに対し、大 学・大学院卒の女性については20.4%である。また、役付きでなくても良いとする割合 が、大学・大学院卒の男性は15.2%に対し、大学・大学院卒の女性では53.1%と半数を超え ている。昇進を希望しない理由としては、男性は「メリットがないまたは低い」が約半数 を占めており、次いで「責任が重くなる」、「やるべき仕事が増える」など、管理職に昇 進すること自体のデメリットを挙げている。
30三菱 UFJ リサーチ& コンサルティング(株)『仕事と家庭の両立支援に関する実態把握のための調査研究事業報告書』(2016)
31厚生労働省「雇用均等基本調査」 (2015).