はじめに
本章では、外国におけるヘビーメタルと社会の関わりについて検討する。特に、ヘ ビーメタルが日本以外の海外において、社会の中でどのような立場をとり、そしてそ れがどのように受け止められているのかについて分析する。
アメリカやイギリスでは、80年代にヘビーメタルは大きな成功を収めた。それゆえ 流行が終わった 90 年代以降も、音楽ジャンルとしての形態を大きく変えずに現在ま で存続している。とくに 90 年代には、アメリカにおいてパンクやヒップホップなど 様々な音楽と影響し合い、ラップメタル、デスメタル、ニューメタルなど多くのサブ ジャンルが登場した。2000 年代に入っても Metallica やSlayerといったヘビーメタ ルバンドがグラミー賞を受賞するなど、音楽シーンにおいて一定の支持を得られるジ ャンルとなっている。また 2010 年代の現在もヘビーメタルのアルバムが、ビルボー
ドTOP200の10位以内に入ることは珍しくない。
しかし同時に、これらの国ではヘビーメタルは、しばしば社会的な批判にさらされ てきた。それは多くのヘビーメタルバンドが、政治や宗教、社会、イデオロギーに関 する自身の主張を明らかにしているためである。このことは、これらの国においてヘ ビーメタルの社会での認知度が高く、強い影響力を持っていることを示している。受 容の様相には、各国ごとに微妙な差異があるが、この特徴は世界的に概ね共通してい る。日本と同様に80年代以後にヘビーメタルが広まったノルウェーやインドネシア、
インド、イスラエルなどにおいても共通した特徴が見られる。
本章では、音楽ビジネスの世界的な中心地であるアメリカでの事例を中心にしなが ら、イギリス、ノルウェー、ブラジル、インドネシア、インド、イスラエルなどの国々 におけるヘビーメタル受容の特徴を明らかにしていく。
6-1 ではアメリカにおいてヘビーメタルバンドが社会の中でどのような立場をとっ ているのかについて、バンドの表現とファンの関係、社会状況との関係から見ていく。
6-2ではヘビーメタルに対する社会的な反発について述べる。1980年代のアメリカで
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起こった動きを中心にして、それがどのような性質を持っていたのかを明らかにする。
6-3ではアメリカ以外の国々、ヘビーメタル発祥の地であるイギリスや、80年代以後 にヘビーメタルが広まったノルウェー、ブラジル、インドネシア、インド、イスラエ ルといった国々の事例を見ていく。これらの国々において、ヘビーメタルがどのよう な立場をとり、どのように受容されているのかについて特徴、共通点を明らかにする。
最後に本章の内容について簡単にまとめる。
6-1.アメリカにおけるヘビーメタルと社会との関係
6-1 では、音楽ビジネスの中心地であるアメリカにおけるヘビーメタルと社会の関 係について説明していきたい。
アメリカでは、1980年代の大流行以来、ヘビーメタルが高い人気を維持し続けてい る。とくに 80 年代中期以降は、ヘビーメタルの音楽ジャンルとしての新たなトレン ドはアメリカから発信されてきたと言っていい。80 年代に爆発的な人気を獲得した
Van Halen、Ratt、Mötley Crüe、PoisonなどのLA メタル・グラムメタルや、ハー
ドコアパンクに影響された Metallica、Slayerなどのスラッシュメタルもアメリカか ら登場した。さらに 90 年代以降は、様々な音楽ジャンルとのクロスオーヴァーが加 速し、Pantera、Machine Headなどのモダンへヴィネス、Nine Inch Nails、Marilyn
Manson らインダストリアルメタルや、ラップメタル、デスメタル、ニューメタルな
ど多くのサブジャンルが登場した。2000年代に入っても Metallica やSlayerといっ たヘビーメタルバンドがグラミー賞を受賞するなど、音楽シーンにおいて高い支持を 得られるジャンルとなっている。
そのため、アメリカではヘビーメタルは社会において広く認知されており、影響力 も大きい。したがってこれまで様々な反発が起こってきた。なぜなのだろうか。確か に Titus Hjelm、Keith Kahn-Harris、Mark LeVine ら に よ る heavy metal CONTROVERSIES AND COUNTERCULTURES (2008) に は 、「Metal bands explore themes such as sexual excess, the occult, death, violence and mutilation.
They revel in myths that explore humanity’s darker side, and in stories of human
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evil and degradation. Metal music has tested the boundaries of music, volume and sound itself. Metal fans and bands have thrown themselves into excess of all kinds
(中略)A genre that incessantly explores the dark side of humanity will always already be provocative to some sections of society, particularly in more conservative religious cultures. Whether scene members like it or not, metal will frequently become positioned as counterculture simply by existing(メタルバンド は、性的不節制、オカルト、死、暴力、障害といったテーマを探究する。彼らは人間 の闇の部分を追い求めるような作り話や、悪魔や堕落した人間の物語の中にふける。
メタルの音楽は、音楽、音量、サウンドそれ自体の境界線を試している。メタルファ ンやバンドは、あらゆる不摂生行為に自身を投げ入れるのだ。(中略)絶え間なく、人 間のダークサイドを追求するようなジャンルは、いつも社会のいくつかの層、特に保 守的で信心深い文化を刺激するだろう。シーンのメンバーが好もうとそうでなかろう と、メタルは頻繁に、単に存在することでカウンターカルチャーとしての地位を獲得 するだろう).」268とある。だが理由はそれだけではない。それは多くのバンドが、政 治や宗教、イデオロギーといった社会における大きな問題に対し、自身の立場や主張、
意識を明らかにするためである。
代表的なものとして、Rage Against the Machineの例があげられる。Rage Against
the Machine は、1991 年にザック・デ・ラ•ロッチャ(ヴォーカル)、トム・モレロ
(ギター)、ティム・コマーフォード(ベース)、ブラッド・ウィルク(ドラム)の 4 人によってカリフォルニア州ロサンゼルスで結成された。ヘビーメタルにヒップホッ プ由来のラップするヴォーカルを融合させたサウンドが特徴である。また左翼的で革 新的な政治思想にもとづく、反戦や反資本主義のメッセージを歌っていることで知ら れている。彼らのデビューアルバム『Rage Against the Machine』には、アメリカの 傀儡政権であった南ベトナム政権の仏教徒差別に抗議し焼身自殺をした僧侶ティッ ク・クアン・ドックの写真が使われている。ギタリストのトム・モレロは、学生時代 から、左派の立場で社会運動にかかわっており、バンド結成以前はハーバード大学で 政治学を専攻し、卒業後は民主党の上院議員アラン・クランストンの秘書として働い
268 Hjelm・Kahn-Haris・LeVine (2008, p.10)。邦訳は筆者による。
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ていた。その背景には両親からの影響があるようで、彼の父親はケニアの社会運動組 織マウマウ団の一員でありケニア初の国連代表となったンゲセ・ンジョロゲで、母親 も公民権運動や検閲反対運動の運動家であった。またヴォーカルのザック・デ・ラ・
ロッチャも、母親が反戦活動家であり、父親は政治色の強い壁画家として知られてい る。
例えば彼らの楽曲「Take the Power Back」ではアメリカの教育への批判が歌われ ている。以下は歌詞の一部である。
In the right light, study become insight(正当にいえば、学問は洞察力だ)
But the system that dissed us(だが俺達を利用したい既成社会は)
Teaches us to read and write(読み書きを教えようとする)
So-called facts are fraud(いわゆる真実と呼ばれるものはまやかしだ)
They want us to allege and pledge(奴らは俺達に誓約させ)
And bow down to their God(奴らの神に従わせたいのさ)
Lost the culture, the culture lost(教養を失い、文化は消滅し)
Spun our minds and through time(心は疲れきり、時間の経過と共に)
Ignorance has taken over(無知が支配した)
We gotta take power back(俺達は力を取り戻さなければ)
Bam, here’s the plan(どうだ、これが俺の計画だ)269
この中で彼らはアメリカの教育が、子供を国に従順で思考力を持たないような存在 にしていると批判している。また「Sleep Now in the Fire」という楽曲ではアメリカ の資本主義を批判している。以下は同曲の歌詞である。
The world is my expense(世界が俺の必要経費)
The cost of my desire(俺の欲望の代償)
Jesus blessed me with its future(イエスはその未来を以て俺を祝福した)
269 RAGE AGAINST THE MACHINE (1993)。
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And I protect it with fire(そして俺は炎を以てその未来を守る)
So raise your fists and march around
(ゆえにその拳をかざせ そして周囲を行進しろ)
Don’t dare take what you need(必要なものをあえて奪うような真似はするな)
I’ll jail and bury those committed(関わった者達はみな投獄し葬る)
And smother the rest in greed(残りの者達も欲望の中で窒息させる)
Crawl with me into tomorrow(はいずりながら俺とともに明日へと入り込むのだ)
Or I’ll drag you to your grave(さもなくばお前を自分の墓へと引きずっていくぞ)
I’m deep inside your children(俺はお前達の子供たちの奥底に潜み)
They’ll betray you in my name (子供達は俺の名においてお前達を裏切るだろう)
Sleep now in the fire(炎の中で眠るがいい)
The lie is my expense(嘘は俺の必要経費)
The scope of my desire(俺の欲望の領域)
The party blessed me with its future(集団はその未来を以て俺を祝福した)
And I protect it with fire(ゆえに俺は炎を以てそれを守る)
I am the nina the pinta the santa maria
(俺はニーニャ号、ピンタ号、サンタ・マリア号)
The noose and the rapist(首つりの輪でレイピスト)
And the fields overseer(大地の監査官)
The agents of orange(エージェントオレンジだ)
The priests of Hiroshima(広島の司祭たち)
The cost of my desire(俺の欲望の代償)
Sleep now in the fire(炎の中で眠るがいい)
For it’s the end of history(その歴史が終わる時のために)
It’s caged and frozen still(檻にいれられ未だ凍りついたまま)